50 / 69
50.
しおりを挟む
あのお方の中での優先順位。
それは分かりきっていた。
イデア様が一番で、それ以外は基本どうでもいい。
だからこそ、あの人を亡き者にする必要があった。
死んでしまえば、その優先順位は意味を持たなくなるから。
けど、殺し損なえば、その憎しみの矛先は大変なことになる。
「王子の言う通りだ!」
「殺せ殺せ!」
私じゃない。
私ではないはずだ。
イデア様については、やりかねないとは思う。
アンドレアル様については状況次第。
ーーだけれど、
あのお方に対して私が直接傷つけるというのは、
どうしても想像ができない。
突発的に、衝動的に。
暴力を振り下ろす、というのは。
きっと、どこかで迷いが生じるはずだ。
きっと、どこかで躊躇いが生じるはずだ。
その隙を、
その機会を。
あのお方が逃すとも思えない。
イデア様諸共、華麗に救うだろう。
私如きが相手であれば。
数多くの偶然、想定外の事態が、
重ね重ね、束ね束ねされない限りにおいては。
よっぽどあのお方は無敵であるはずなのだから。
「議長、早く決断を!」
「不敬者に正義の鉄槌を!」
記憶もない、
明確な証拠もない。
あるのは、状況からの推測とあのお方のお言葉のみ。
顔も知らない侵入者がいるのだ、本来であれば、その者を疑うのが自然だろうに。
でも、それこそ証拠がないのだ。
覆すだけの証拠を、私は持ち合わせていないのだ。
バラバラの記憶の糸を辿っても、何も出てこなかったし。
そもそも部屋に軟禁状態であり、打てる手はないに等しかった。
できたのは、覚悟を決めることくらい。
それくらいだったのだ。
「議長、ご決断を。この者に死罪を与える宣言を」
あのお方が、促す。
長い白髭の議長が、こくりと頷く。
「この者、リトア=エーテルザットについて、王族殺傷の疑義あり。それについて疑いようもない」
淡々と、言葉を紡ぐ。
それに伴い、周囲の声が静まる。
聞きたい言葉は聞く、愚かさの極地。
それは平民も貴族も同一なのだろう。
「よって、被害者でもあり、我が国の第二王子でもあるカストリア=リンドブルム様の申し出通り、リトア=エーテルザット、この者を」
告げる。
告げられる。
時間が、ゆっくりに感じられる。
「死罪とーー」
私は、あのお方を見ていた。
あのお方は、私を見ていなかった。
「させないよっ!」
言い切る直前、私の耳元で誰かの声。
加えることの、爆発音。
「この子を死罪になんか、させない。友達は、私が守る」
耳覚えるのある、誰かの声。
それは分かりきっていた。
イデア様が一番で、それ以外は基本どうでもいい。
だからこそ、あの人を亡き者にする必要があった。
死んでしまえば、その優先順位は意味を持たなくなるから。
けど、殺し損なえば、その憎しみの矛先は大変なことになる。
「王子の言う通りだ!」
「殺せ殺せ!」
私じゃない。
私ではないはずだ。
イデア様については、やりかねないとは思う。
アンドレアル様については状況次第。
ーーだけれど、
あのお方に対して私が直接傷つけるというのは、
どうしても想像ができない。
突発的に、衝動的に。
暴力を振り下ろす、というのは。
きっと、どこかで迷いが生じるはずだ。
きっと、どこかで躊躇いが生じるはずだ。
その隙を、
その機会を。
あのお方が逃すとも思えない。
イデア様諸共、華麗に救うだろう。
私如きが相手であれば。
数多くの偶然、想定外の事態が、
重ね重ね、束ね束ねされない限りにおいては。
よっぽどあのお方は無敵であるはずなのだから。
「議長、早く決断を!」
「不敬者に正義の鉄槌を!」
記憶もない、
明確な証拠もない。
あるのは、状況からの推測とあのお方のお言葉のみ。
顔も知らない侵入者がいるのだ、本来であれば、その者を疑うのが自然だろうに。
でも、それこそ証拠がないのだ。
覆すだけの証拠を、私は持ち合わせていないのだ。
バラバラの記憶の糸を辿っても、何も出てこなかったし。
そもそも部屋に軟禁状態であり、打てる手はないに等しかった。
できたのは、覚悟を決めることくらい。
それくらいだったのだ。
「議長、ご決断を。この者に死罪を与える宣言を」
あのお方が、促す。
長い白髭の議長が、こくりと頷く。
「この者、リトア=エーテルザットについて、王族殺傷の疑義あり。それについて疑いようもない」
淡々と、言葉を紡ぐ。
それに伴い、周囲の声が静まる。
聞きたい言葉は聞く、愚かさの極地。
それは平民も貴族も同一なのだろう。
「よって、被害者でもあり、我が国の第二王子でもあるカストリア=リンドブルム様の申し出通り、リトア=エーテルザット、この者を」
告げる。
告げられる。
時間が、ゆっくりに感じられる。
「死罪とーー」
私は、あのお方を見ていた。
あのお方は、私を見ていなかった。
「させないよっ!」
言い切る直前、私の耳元で誰かの声。
加えることの、爆発音。
「この子を死罪になんか、させない。友達は、私が守る」
耳覚えるのある、誰かの声。
0
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。
梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。
ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。
え?イザックの婚約者って私でした。よね…?
二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。
ええ、バッキバキに。
もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる