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あのお方の中での優先順位。
それは分かりきっていた。
イデア様が一番で、それ以外は基本どうでもいい。
だからこそ、あの人を亡き者にする必要があった。
死んでしまえば、その優先順位は意味を持たなくなるから。
けど、殺し損なえば、その憎しみの矛先は大変なことになる。

「王子の言う通りだ!」

「殺せ殺せ!」

私じゃない。
私ではないはずだ。
イデア様については、やりかねないとは思う。
アンドレアル様については状況次第。
ーーだけれど、
あのお方に対して私が直接傷つけるというのは、
どうしても想像ができない。
突発的に、衝動的に。
暴力を振り下ろす、というのは。
きっと、どこかで迷いが生じるはずだ。
きっと、どこかで躊躇いが生じるはずだ。
その隙を、
その機会を。
あのお方が逃すとも思えない。
イデア様諸共、華麗に救うだろう。
私如きが相手であれば。
数多くの偶然、想定外の事態が、
重ね重ね、束ね束ねされない限りにおいては。
よっぽどあのお方は無敵であるはずなのだから。

「議長、早く決断を!」

「不敬者に正義の鉄槌を!」

記憶もない、
明確な証拠もない。
あるのは、状況からの推測とあのお方のお言葉のみ。
顔も知らない侵入者がいるのだ、本来であれば、その者を疑うのが自然だろうに。
でも、それこそ証拠がないのだ。
覆すだけの証拠を、私は持ち合わせていないのだ。
バラバラの記憶の糸を辿っても、何も出てこなかったし。
そもそも部屋に軟禁状態であり、打てる手はないに等しかった。
できたのは、覚悟を決めることくらい。
それくらいだったのだ。

「議長、ご決断を。この者に死罪を与える宣言を」

あのお方が、促す。
長い白髭の議長が、こくりと頷く。

「この者、リトア=エーテルザットについて、王族殺傷の疑義あり。それについて疑いようもない」

淡々と、言葉を紡ぐ。
それに伴い、周囲の声が静まる。
聞きたい言葉は聞く、愚かさの極地。
それは平民も貴族も同一なのだろう。

「よって、被害者でもあり、我が国の第二王子でもあるカストリア=リンドブルム様の申し出通り、リトア=エーテルザット、この者を」

告げる。
告げられる。
時間が、ゆっくりに感じられる。

「死罪とーー」

私は、あのお方を見ていた。
あのお方は、私を見ていなかった。

「させないよっ!」

言い切る直前、私の耳元で誰かの声。
加えることの、爆発音。

「この子を死罪になんか、させない。友達は、私が守る」

耳覚えるのある、誰かの声。
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