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私の新しい人生の始まりーーそう息巻いたところで、状況は何も変わらない。
出来ることも特にない。
手当てされた傷口の鈍い痛みと、解放された毒薬の異臭に耐えることくらい。
あとは……ただ待つことくらいだろう。
来るか分からない、どんな形かも分からない、逃げ出せる機会を。

ーー

待てども待てども、
状況は変わり映えしなかった。
あれから、どれくらい時間が流れただろう。
食べて寝ての繰り返し。
怠け者の生活。
身なりも随分ぼろぼろになっている。
エクレアに小言を言われてしまうな、と苦笑する。
いや、彼女はもうエーテルザット家の令嬢なのだ。小言など言わないか。
ただの小娘の怠慢と吐き捨てるかもしれないな。
まあ、彼女の性格を考えれば、これも違うのだろうけど。

世間から、世界から切り離された部屋。
外界の情報がまるで入ってこない。
食事係の人に話かけても無視を決め込まれる。
困ったものだ。
終わりが分からない生活、というのは不安になる。

ーー

「お時間です。こちらへ」

あれから幾らかも日々を積み重ねた後、
顔を隠した兵士が、私の前に現れた。
それも複数人。
当然のように武装しており、いつでも私を斬り伏せることが出来そう。

手は縛られ、足には枷が嵌められたまま。
私は促されるままに部屋を出る。
壁の不自然な染みに怪訝そうな顔をしたが、特段問い詰められることはなく。
私は彼らに連れられる。

「あのーーこれからどこへ」

「法廷です」

成る程、と私は思った。
先の期間はそのための準備期間、ということなのだろう。
だとすると、もう待っている場合ではないのかもしれない。
ある程度の段階で、行動を起こすしかない。
ーーまあ、武装兵士に囲まれている今は、流石にそのタイミングではないけれど。

「貴方はこれから裁かれるのです」

兵士は言う。
無感情な風に。

「王族殺傷、斬首は免れません」

兵士は言う。
事務的な口調で。

「せめて、公爵家令嬢に相応しい態度で」

と兵士は言った。
私の扱いは、世間的にはまだ変わっていないらしい。
だけれど、私の中ではその身分はとうに捨てたもの。
正しくは剥奪されたものだが。
故に、
故に。
大人しく斬られる首は、私の体についていない。
分かりきった結果であろうと、足掻いて見せよう。
だって、私は私。
それ以外のラベルは、何も貼られていないのだから。
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