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44.幕間
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終わってみれば、その使命は一瞬だった。
殺害対象を狙う仲間、手にした剣で刺し殺さんと構えるその予備動作。
一歩引いて背後へ、無防備な背中を切り裂き、致命傷を与える。
しっかり命を奪う必要はない。
ただ、動けなくするだけでいい。
ただ、叫べなくするだけでいい。
ただーー死んでしまっても、それもいい。
申し訳ないとは思うけど、大義の前には仕方がない。
だが、あの男は確実に命を絶つ。
念入りに、蘇ることのないように。
万が一がないように。
しっかりととどめをさす。
命乞いは聞かないーーいや、それ以前にさせない。
ただ、殺す。
ただ、命を奪う。
それ以上を望んではいけない。
欲を出してはいけない。
確定事項。
別に何かへの謝罪の言葉が聞きたいわけではないし、
最後にきちんと後悔して欲しいわけでもない。
ただ、ちゃんと死んで欲しい。
この世からアンドレアル=リンドブルムという存在が跡形もなく消えて欲しい。
それだけ。
首を切り裂き、裏切りの剣を胸に突き刺す。
何か最後の言葉を言っていた気がする。
声が出なくなるその瞬間まで、何かを言っていた気がする。
だけど、届かない。
この耳には届かないのだ、あんたの言葉はもう。
使命を全うし、亡骸見る。
突き立てられた剣が、墓標に見えた。
あんたにお似合いだよ、と思った。
仲間を裏切るのは気が引けた。
仲間を手にかけるのはもっと。
だけど、
しかし、
でもーー
私が……いや、『僕』がやらないと、あの男は止まらない。
どこまでも、どこまでも突き進む。
周りの犠牲などお構いないしに。
自身の愉悦、野心のために突き進む。
だから、
だからこそ。
誰かがやらないといけない、
誰もやりたくない汚れ役を。
でなければ、悲劇は繰り返される。
何度も、何度も、何度も。
チャンスはそう簡単ぬ転がって来ない。
いける、と思ったタイミングで行くしかない。
そのための心の準備、
そのための物理的準備。
いつ、如何なるときにそれが転がって来ても、拾い上げられるように準備してきた。
爪を研いできた。
ずっと、ずっと、ずっとずっと前から。
あなたには、それが足りなかった。
ただの覚悟、それも上っ面だけの。
行き当たりばったりで行動するから、あなたはだめなのです。
僕は、気を失っている彼女を見つつ思った。
そして、そのまま馬を去った。
まだ、僕にはやることがあるからだ。
捕まる訳にはいかない。
殺害対象を狙う仲間、手にした剣で刺し殺さんと構えるその予備動作。
一歩引いて背後へ、無防備な背中を切り裂き、致命傷を与える。
しっかり命を奪う必要はない。
ただ、動けなくするだけでいい。
ただ、叫べなくするだけでいい。
ただーー死んでしまっても、それもいい。
申し訳ないとは思うけど、大義の前には仕方がない。
だが、あの男は確実に命を絶つ。
念入りに、蘇ることのないように。
万が一がないように。
しっかりととどめをさす。
命乞いは聞かないーーいや、それ以前にさせない。
ただ、殺す。
ただ、命を奪う。
それ以上を望んではいけない。
欲を出してはいけない。
確定事項。
別に何かへの謝罪の言葉が聞きたいわけではないし、
最後にきちんと後悔して欲しいわけでもない。
ただ、ちゃんと死んで欲しい。
この世からアンドレアル=リンドブルムという存在が跡形もなく消えて欲しい。
それだけ。
首を切り裂き、裏切りの剣を胸に突き刺す。
何か最後の言葉を言っていた気がする。
声が出なくなるその瞬間まで、何かを言っていた気がする。
だけど、届かない。
この耳には届かないのだ、あんたの言葉はもう。
使命を全うし、亡骸見る。
突き立てられた剣が、墓標に見えた。
あんたにお似合いだよ、と思った。
仲間を裏切るのは気が引けた。
仲間を手にかけるのはもっと。
だけど、
しかし、
でもーー
私が……いや、『僕』がやらないと、あの男は止まらない。
どこまでも、どこまでも突き進む。
周りの犠牲などお構いないしに。
自身の愉悦、野心のために突き進む。
だから、
だからこそ。
誰かがやらないといけない、
誰もやりたくない汚れ役を。
でなければ、悲劇は繰り返される。
何度も、何度も、何度も。
チャンスはそう簡単ぬ転がって来ない。
いける、と思ったタイミングで行くしかない。
そのための心の準備、
そのための物理的準備。
いつ、如何なるときにそれが転がって来ても、拾い上げられるように準備してきた。
爪を研いできた。
ずっと、ずっと、ずっとずっと前から。
あなたには、それが足りなかった。
ただの覚悟、それも上っ面だけの。
行き当たりばったりで行動するから、あなたはだめなのです。
僕は、気を失っている彼女を見つつ思った。
そして、そのまま馬を去った。
まだ、僕にはやることがあるからだ。
捕まる訳にはいかない。
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