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「カストリアーーと、どなたでしょう?」
あの時と同じように、おっとりとした口調。
だが、少し声に明るさがある。
カストリア様の影響だろうか。
そして予想通り、彼女は私のことを覚えていない。
ついこの間の話なのに。
あの男が言うように、カストリア様以外のことは覚えないらしい。
あながち、あの男本人も本当に忘れられているのかもしれない。
「この子はリトア、『友達』だよ」
婚約者、ともその候補とも言われない。
わかっていたけど、寂しい。
友達という響きが、胸を締め付ける。
「カストリアの、お友達、なんですね」
イデア様は優しく微笑む。
あの時は見せなかった笑顔。
恋人がいるからこそ、見られる表情。
私は、この方と友達にならなくてはいけない。
友達が恋敵になる話はよく聞く。
だが、逆はどうだろう。
好敵手、となりうるだろうか。
ここまで立場の差がはっきりしていて、
力関係がはっきりしていて、
同じ男を好きになっていて、
うまくいくだろうか。
だけど、やるという他選択肢はない。
退路は既に絶たれた。
進むしかない。
「……初めまして。リトア=エーテルザットです」
「イデア=リンドブルム……です。よろしく」
やはり覚えていない。
カストリア様以外は覚えない、というのも本当らしい。
となると、友達になる難易度は跳ね上がる。
だって覚えてもらえないのだから。
次会った時には、私の記憶は再び消え失せているかもしれない。
何度も何度もリセットされる。
記憶と忘却の繰り返し。
私はその『初めまして』に耐えられるだろうか。
それ以前に、制限時間は待ってくれないだろう。
ならば、やり方を変えるとしよう。
友達になる、ではなく、
友達に見えればいい。
周りにそう認識させればいい。
そうさせた上で、外に連れ出す。
目的はそこなのだ。
この箱庭的空間から、人の目がある外へ行く。
それも自然に、当然のように。
だけど、そんな私の思考とはまるで関係なく。
気づくとカストリア様が私の隣から消えていた。
イデア様の隣に、すぐ近くに移動していた。
「……んっ」
「ーーイデア、人前でそれは良くないよ」
そして、
そしてーー
「……でも、我慢……できない、から」
「ーーんんぅ」
唇を重ねる二人がいた。
なんだ、これ。
訳が分からない。
何を見ているのか、
何を見せられているのか。
従者の進言は聞くべきだったのかもしれない。
自身の頬を、何かがつたう。
あぁ、あああ、
あああーー
心の叫び。
「……んぐぅ、ぐうう、ぐぐう」
声を噛み殺す。
音が漏れる。
だめだ、だめだ、だめだ。
ぶちぶちと、何かが切れていく。
あの時と同じように、おっとりとした口調。
だが、少し声に明るさがある。
カストリア様の影響だろうか。
そして予想通り、彼女は私のことを覚えていない。
ついこの間の話なのに。
あの男が言うように、カストリア様以外のことは覚えないらしい。
あながち、あの男本人も本当に忘れられているのかもしれない。
「この子はリトア、『友達』だよ」
婚約者、ともその候補とも言われない。
わかっていたけど、寂しい。
友達という響きが、胸を締め付ける。
「カストリアの、お友達、なんですね」
イデア様は優しく微笑む。
あの時は見せなかった笑顔。
恋人がいるからこそ、見られる表情。
私は、この方と友達にならなくてはいけない。
友達が恋敵になる話はよく聞く。
だが、逆はどうだろう。
好敵手、となりうるだろうか。
ここまで立場の差がはっきりしていて、
力関係がはっきりしていて、
同じ男を好きになっていて、
うまくいくだろうか。
だけど、やるという他選択肢はない。
退路は既に絶たれた。
進むしかない。
「……初めまして。リトア=エーテルザットです」
「イデア=リンドブルム……です。よろしく」
やはり覚えていない。
カストリア様以外は覚えない、というのも本当らしい。
となると、友達になる難易度は跳ね上がる。
だって覚えてもらえないのだから。
次会った時には、私の記憶は再び消え失せているかもしれない。
何度も何度もリセットされる。
記憶と忘却の繰り返し。
私はその『初めまして』に耐えられるだろうか。
それ以前に、制限時間は待ってくれないだろう。
ならば、やり方を変えるとしよう。
友達になる、ではなく、
友達に見えればいい。
周りにそう認識させればいい。
そうさせた上で、外に連れ出す。
目的はそこなのだ。
この箱庭的空間から、人の目がある外へ行く。
それも自然に、当然のように。
だけど、そんな私の思考とはまるで関係なく。
気づくとカストリア様が私の隣から消えていた。
イデア様の隣に、すぐ近くに移動していた。
「……んっ」
「ーーイデア、人前でそれは良くないよ」
そして、
そしてーー
「……でも、我慢……できない、から」
「ーーんんぅ」
唇を重ねる二人がいた。
なんだ、これ。
訳が分からない。
何を見ているのか、
何を見せられているのか。
従者の進言は聞くべきだったのかもしれない。
自身の頬を、何かがつたう。
あぁ、あああ、
あああーー
心の叫び。
「……んぐぅ、ぐうう、ぐぐう」
声を噛み殺す。
音が漏れる。
だめだ、だめだ、だめだ。
ぶちぶちと、何かが切れていく。
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