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「ーーよしっ」

鏡にうつる自分を確認しつつ、気合を入れる。
決戦の時、とは言い過ぎかもしれない。
だけれど、大事な初陣であることには変わらない。
別に死ぬこともないし、傷つくことすらない戦い。
あくまで、肉体的にという意味で。
実際には精神的にどうなるか分からない。
嫉妬の炎で怒り狂うか、それともーー

イデア様とカストリア様の三人で会うことになった。
不意な、急なお願いだったのにもかかわらず、その場はすぐに整えられた。
それが今日なのである。
イデア様はあの調子だから、特段予定は入っていないだろうけれど、あのお方は違う。
公務もあれば、他の婚約者とも会わなくてはいけない。
すぐに調整できるはずはないのだ、普通ならば。

「お嬢様」

こんこん、とノックと共にエクレアが私を呼ぶ。
入るように促すと、不安げ眼差し。

「大丈夫ですか。……その、イデア様とお会いになられても」

既に会っていることを、彼女は知らない。
何をどう気にしているのかは知らないが、私は軽くいなす。

「大丈夫。むしろあの人とはもっと早く、会うべきだったわ。どのくらい、あのお方が心酔さっれているのか、この目で確かめないと」

平気で嘘をつく。
いや、半分くらいは本当かもしれないけれど。
確かに、あのお方と一緒に会ったことはないのだ。
目の前で、いちゃいちゃされたら、流石にどうにかなるかもしれない。
椅子を蹴り倒し、そのまま顔面を踏みつけ、首を捩じ切るかもしれない。
ーーもちろん、嘘である。
そんなことはしないし、できない。
私の細腕でできるのは、せいぜい先の二つくらいだ。
命を奪うなら、文明の力を、知恵の力を使わなければならない。

「……御当主様のことなら、私にお任せを。もう少し、もう少しであれば時間を稼いでみせます」

「お父様のことは関係ありません。それに、いくら貴女でも無理なことを口にするものではないわ」

「それはーーでも、お嬢様、危険な道を進むのはお止めください。自分を痛めつけるのは、おやめください」

エクレアは言う。
目に涙を浮かべて。
これから、好きな人に会いに行くのに。
好きな人と、その好きな人に会いに行くだけなのに。

まるで、死地に向かうのを止めようとする雰囲気。
これじゃあ、本当に私が何かしでかしてしまうみたい。
絶対ない、と断言することはできないけど。

「大丈夫、大丈夫だから。心配しないで」

「大丈夫じゃない人はいつだってそう言います。お嬢様の方こそ、無理なことは、できないことを口にしないでください」

私は、
彼女の静止を振り切り、
振り解き、
出発した。


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