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階段を登る、
彼女が待つ部屋へと足を進める。
軋む階段、高鳴る胸。
これは不安かただの殺意か、或いは好奇心か。
少し古びた、それでいて丁寧な細工が施された扉を開ける。
久方ぶりの対面。
カストリア様のお話では数えるのも疲れる程、聞き飽きた名前。
憎き恋敵。
それが、のんびりと椅子に座っている。
不思議そうに私を見つめながら。
私はつい、敵意を込めた目で睨む、睨んでしまう。
一瞬で気を持ち直し、顔を作る。
媚びた顔を、諂う顔を。
彼女は美しい。
こうして直接会うと理解できる。
長い銀色の髪、
すらりと長い肢体に合わせられた形の良い胸、
白い肌。
眠たそうな目に添えられた長い睫毛。
かつて会った時よりも、美に磨きがかかっている。
高貴さ、
儚さ。
壊れそう。
ーーっと、何を悠長に脳内で描写しているんだ、私は。
品評会をしている場合ではないと言うのに。
しかし、
しかし、会っておいて良かった。
初見では彼女の磨かれた美貌に、躊躇いが生まれたことだろう。
覚悟を持って臨んでいる、あるいは殺す殺すと宣言し続けているアンドレアル様が近くにいた状況が良かったのかもしれない。
人を殺すのではなく、
物を壊す。
そう言う感覚に移行できる。
やることは一緒でも、結果が同じでも、罪悪感が変わる。
できる。
私ならやれる。
これは、美しいだけだ。
何の戦闘能力も所持していない。
素手でも、倒してしまいそう。
どころか、座っている椅子を転ばすだけで。
今、この瞬間にでも殺せてしまいそう。
「お久しぶりです。イデア様」
「……申し訳ありません。どなたでしょうか」
私のことを覚えていなかった。
当然と言えば当然だ。
一度しか会ったことはないし、それもほんの短い時間だけ。
覚えている方がおかしい。
ーーというより、あの時、この方は目を開けていなかった。
この蒼い瞳に見覚えはない。
なんという自意識過剰。
だけど、ぐさりと心を抉られる気持ち。
恋敵として毎晩毎夜、怨み妬んでいた相手が、本当に私のことを知らないという事実に。
その事実を受け入れ難いと思っている自分に。
ひどく悲しみを感じる。
彼女が待つ部屋へと足を進める。
軋む階段、高鳴る胸。
これは不安かただの殺意か、或いは好奇心か。
少し古びた、それでいて丁寧な細工が施された扉を開ける。
久方ぶりの対面。
カストリア様のお話では数えるのも疲れる程、聞き飽きた名前。
憎き恋敵。
それが、のんびりと椅子に座っている。
不思議そうに私を見つめながら。
私はつい、敵意を込めた目で睨む、睨んでしまう。
一瞬で気を持ち直し、顔を作る。
媚びた顔を、諂う顔を。
彼女は美しい。
こうして直接会うと理解できる。
長い銀色の髪、
すらりと長い肢体に合わせられた形の良い胸、
白い肌。
眠たそうな目に添えられた長い睫毛。
かつて会った時よりも、美に磨きがかかっている。
高貴さ、
儚さ。
壊れそう。
ーーっと、何を悠長に脳内で描写しているんだ、私は。
品評会をしている場合ではないと言うのに。
しかし、
しかし、会っておいて良かった。
初見では彼女の磨かれた美貌に、躊躇いが生まれたことだろう。
覚悟を持って臨んでいる、あるいは殺す殺すと宣言し続けているアンドレアル様が近くにいた状況が良かったのかもしれない。
人を殺すのではなく、
物を壊す。
そう言う感覚に移行できる。
やることは一緒でも、結果が同じでも、罪悪感が変わる。
できる。
私ならやれる。
これは、美しいだけだ。
何の戦闘能力も所持していない。
素手でも、倒してしまいそう。
どころか、座っている椅子を転ばすだけで。
今、この瞬間にでも殺せてしまいそう。
「お久しぶりです。イデア様」
「……申し訳ありません。どなたでしょうか」
私のことを覚えていなかった。
当然と言えば当然だ。
一度しか会ったことはないし、それもほんの短い時間だけ。
覚えている方がおかしい。
ーーというより、あの時、この方は目を開けていなかった。
この蒼い瞳に見覚えはない。
なんという自意識過剰。
だけど、ぐさりと心を抉られる気持ち。
恋敵として毎晩毎夜、怨み妬んでいた相手が、本当に私のことを知らないという事実に。
その事実を受け入れ難いと思っている自分に。
ひどく悲しみを感じる。
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