虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと

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いきなり見ず知らずの他人が乗り込んで大丈夫か、とも思ったが大丈夫であった。
先ほどの台詞に嘘はないようだ。
流石は第一王子、悪名は轟いていようと表立って逆らうものはおらず、と言った感じ。
すんなりとイデア様が棲まう屋敷へと辿りつくことができた。

記憶とは異なる場所、複雑な状況だから色々あるのかもしれない。
例えば、暗殺対策とか。
隣の男の、イデア様の暗殺を企てるのが初めて、という意味にも取れる発言。
それを真実と思うのは愚かだ。
きっと、何度か試したに違いない。
カストリア様相手ほどではないにしろ、手を変え品を変え挑戦したに違いない。
そして、今生きているということは、その全てが失敗したと言うこと。
となれば、今回の計画もうまくいく保証はまるでないのかもしれない。

敷地から、屋敷を眺める。
簡素で、あまり華美ではない。
私も見るのははじめての場所。
生活するという機能のみに特化した、と言えば聞こえはいいが、それ以外の機能を削ぎ落とした印象。
来客を想定していない。
権威を誇示していない。

幸か不幸か、窓から彼女の顔がみえている。
少し虚ろな表情。
無機質な人形のようにどこか遠くを見つめている。
動かず、ただぼんやりしている。

「今日も体調がいいみたいだな。昔はだいたい寝室にこもっていたのだがな。基本、食べて寝てるだけの女、いてもいなくてもあいつ以外には影響を与えんさ」

無論、食費含め管理費は膨大にかかるが、とアンドレアル様は付け加える。

「さあ、挨拶くらいしていくといい。義理の姉になる相手だ」

「え、中に入るのですか?」

浅慮、としか思えない。
今までまるで会ってなかった私が急に、それも単独で会いにいくのは違和感があるだろう。
何か勘付かれるのではないか、と不安がよぎる。

「あいつの呪い地味た美貌は女でさえも当てられるからな。ここまで距離が離れていれば、それも問題ないだろうが。一度会ったとは聞いているが、油断はできん。カストリアと一緒で余裕がない時に初対面、では心もとないだろう」

彼なりの配慮だった。

「それに、あいつはカストリアのこと以外、いちいち覚えていないさ」

と、私の肩を押した。
私は促されるままに、屋敷のドアに手をかけた。
扉が閉まる。
私の隣には、誰もいなくなった。
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