虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと

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また自室に篭り、泣く。
声を出さず、涙だけ流して。
時間がない。
時間がない。

どうすればいい?
何をすれば良い?

もっと早く動けば良かった。
あの時こうしておけば。
あの時仕込んでおけば。

過去の自分の不真面目さを嘆く。
過去の自分の愚かさを嘆く。
他人事にして。
今の自分は悪くない、あの時の私が悪かったと。
自己防衛、正当化。

だけど、彼女だって頑張っていたはずだ。
その時に取れる最善手を取り続けたはずだ。
私は、怠けてなどいない。

その結果がこれならば、それは最早どうしようもない。

だが、言い訳をしたところでお父様は許さない。
いや、言い訳すら聞いてくれないーー否、言い訳をすることすら許さないだろう。
これまでお父様の娘として、努力してきたのに。
それが一度の失敗で全て無になる。
だが、それも望んだこと、頼まれてやったことではない。
あのお方と結ばれるため、
チャンスが手に入るならと。
自ら望んだ選択。
荊の道であることは理解していた。
失敗すればどうなるかも分かっていた。
なのに、
なのに。
いざ期限が迫るとどうしてここまで恐ろしきなるのか。
覚悟が揺らぐ。
決意が霞む。

次のチャンスはない。
ならば、あの契約を交わすしか。
悪魔との契約を。

私はペンを手に取る。
震える手、
文字が震える。

何度も書き直し、
何度も躊躇ってぐしゃぐしゃにする。

そして、一枚が仕上がる。
悪魔への手紙が。

ーー 

アンドレアル様へ

先日は会食にお招きいただき、ありがとうございます。
次回の機会があれば、是非ご一緒させて頂ければと思います。

その時に話題に上がった、あの件について。
私も微力ながらご協力できればと思います。

本件について、恐縮ですが再度対面でのご相談をさせていただきたく。
お返事、お待ちしております。

リトア=エーテルザット

ーー

これも、捨ててしまおうかと思った。
だが、私に時間はない。
次のチャンスもない。

ならば、すがるしかない。
この逆転の一手に。

最後に。
最後に笑えればいい。
この物語が終わるその時に、笑えていればいいのだ。
エンドマークがつくまでは、どれだけの不幸だって耐えてみせる。

勝って、
奪って、
生き残る。

「ーー血は争えない。私もお父様の娘、ということでしょうか」

薄く、笑った。

私は決意を胸に、手紙に封をした。
そしてエクレアとは別の従者を呼び出し、かの王子に手渡すように頼んだ。

自分を守るために、
自分の願いを叶えるために。
大事な人を犠牲にする決心をした。
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