虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと

文字の大きさ
上 下
16 / 69

16.

しおりを挟む
「どうせ、またあの王子様絡みでしょ。のめり込み過ぎなんだよ」

ペコットは苦笑気味に言う。

「好きな気持ちは分かるけど、現実を見ようよ。私たち以外にあと10人、婚約者がいるんだよ。それだけでも十分難しいのに、あの人には別に好きな人がいるじゃない」

その言葉に、私は少しむっとした。
分かり切っていることを、改めて言われるのは好きじゃない。
私にとって好ましくないことなら、尚更。

「ペコットはあのお方がそこまで好きじゃないから、そんなことが言えるんだよ」

「そうだよ。流石だね、よく分かってるじゃん!」

バシバシと背中を叩く。
先と変わらず力が強い。

「だって、自分で決めた相手じゃないんだよ。婚約者です、って言われてすぐ好きになれるわけないじゃん。ーーたしかに、綺麗な顔してるなーとかは思ったよ。でも、それだけ。この人とずっと一緒にいたい、だなんて思わない」

と彼女は続ける。
私のことを慰めるように。
私の好きな相手を、軽んじてる。

「だから、私は応援するよ。私は好きでもない相手と結婚しないで済むし、君はそれで幸せになるし。ついでに、王子様の恋のキューピッド的なポジションになれる。これなら王子と結婚しなくとも、私の家も安泰だ」

うんうん、と頷く彼女。
どこまで本気で言っているか分からない。
愚者と賢者は紙一重。

それに、
彼女にその気はなくとも、
あのお方が万が一、
何かの誤りでペコットに惚れたりしたら、私はーー

「大丈夫だよ、王子様は君みたいに惚れっぽくないって。ほら、これだけ婚約者抱えても、イデア様に夢中なんだから。きっと一途だよ、君と一緒で。病的なくらいにね」

そうだ、
私はずっと見ていた。
遠くからあのお方のことを眺めていた。
私にチャンスが回ってくるのかと。
そわそわしながら待っていた。
私にとって嬉しいが起こることを期待して。

でも、あのお方ーーカストリア様には私とこの子を含め12人の婚約者がいる。
この時代の常識を問えば、あり得ない数である。
特に、表向きならば。
二人三人ならまだ分かる。
万が一に備えてのバックアップ、保険をかけておくという目的であれば。

だが、12人という数はそのレベルを遥かに超えている。
ーーそもそも、目的が違うのだから当然かもしれないが。
万が一に備える、ではなく。
万が一を起こそうとしている。

国王様は良かれと思って、この12人をかき集めたのだ。
自慢の息子が惚れるに相応しい女性を。
姉弟の禁断の愛を超える、そんな万が一を。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

処理中です...