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ペコット=バルバシリア。
バルバシリア家の1人娘。
栗色のさらさらとした髪を持つ、少女のようなあどけない外見。
彼女は私の友達だ、それも同い年の。
天真爛漫、いつも笑顔。
謀略渦巻く上流社会の人間としては、あり得ない程の無垢さ。
見た目だけでなく、内面も幼い。
それでいて、時々良い助言をしてくれる。
馬鹿なのか賢いのか。
紙一重でそのギリギリを歩く女。
そして、私と同じく、あのお方の婚約者の一人。
本来は敵対者、寵愛を独り占めするために蹴落とし合う間柄。
だけれど、そうはならなかった。
序列としては私と彼女はともに下位。
はじめに選ばれた人たちとは扱いが違う。
会える回数も少なければ、時間も短い。
加えて、この子は私ほどあのお方が好きではない。
外面のステータスが高いな、くらいにしか思っていない。
恋もしていなければ、愛してもいない。
私のように、あのお方と会える時間を待ち遠しく思っているわけでもなく。
ただの仕事としてやっている。
ちょっぴり楽しい仕事として。
ーーだが、敵対しない、仲良くしていられる一番の理由は、なにより彼女が他者と争うことを良しとしない性格である、と言うことだろう。
平和主義者。
人に優しい。
全員ができるだけ幸せになれるような選択をする。
不幸になる人ができるだけ少ない選択をする。
御伽噺の聖女のような。
純粋で、正しくて、真面目でーーそれでいてどこか抜けていて親しみやすい。
そう言う子なのだ。
私と違って。
「ペコットは元気そうだね」
「うん、元気元気!私が元気じゃないとこ、見たことある?」
「それはたしかにーーないと思う」
「そっちはいつも難しい顔をしてること、多いけどね。ーーまあ、綺麗だから許すけどね」
言いつつ、ペコットはひらりとこちらに回る。
にこにこと笑いながら。
軽やかなステップ。
淡い良い香りがする。
「ペコットとは違うんだよ」
「またまたー、意地悪なこと言わないで」
言いつつ、彼女は私を羽交い締めにする。
地味に力が強い子なので、少し痛い。
ーーいや、本来に痛い。
え、うそ、
え、あ、あーーなにこれ、なにこれ。
みしみし言ってる、みしみしって!
不味い、まずいって、これ以上やられたら、わたしのからだがっ、
「ーーはい、お終い」
そう言って、彼女は私を解放した。
痛みがふっと消え、落ち着いて呼吸ができる。
体のパーツはどこも取れていない。
五体満足、稼働も問題なし。
「これでちょっとは頭のもやが取れたかな?」
彼女なりに気を利かせてくれたらしい。
もっと穏やかな方法があればいいのだけれど。
物理に訴えかけるところも、令嬢感のかけらもない。
それが逆に親しみやすい、良さでもあるのだろうけど。
「嫌なこと、は今そこにはないからね。物理的な痛みは、今この瞬間だけにある。人間、記憶や想いなんて、そんな見えないものよりも、今ここにある驚異の方が優先度が高い。だから、こうしてやれば、そんなどうでもいいことは頭から吹き飛んじゃうんだよ」
力こぶを作りつつ、彼女は言った。
彼女らしからぬ長台詞。
この子は本当に行動が読めない。
けどーー
「ーーあんたがくれた痛みも、目には見えないけどね」
「それもそっか。ごめん、私少し馬鹿だからさ」
と彼女は笑う。
つられて私も笑った。
バルバシリア家の1人娘。
栗色のさらさらとした髪を持つ、少女のようなあどけない外見。
彼女は私の友達だ、それも同い年の。
天真爛漫、いつも笑顔。
謀略渦巻く上流社会の人間としては、あり得ない程の無垢さ。
見た目だけでなく、内面も幼い。
それでいて、時々良い助言をしてくれる。
馬鹿なのか賢いのか。
紙一重でそのギリギリを歩く女。
そして、私と同じく、あのお方の婚約者の一人。
本来は敵対者、寵愛を独り占めするために蹴落とし合う間柄。
だけれど、そうはならなかった。
序列としては私と彼女はともに下位。
はじめに選ばれた人たちとは扱いが違う。
会える回数も少なければ、時間も短い。
加えて、この子は私ほどあのお方が好きではない。
外面のステータスが高いな、くらいにしか思っていない。
恋もしていなければ、愛してもいない。
私のように、あのお方と会える時間を待ち遠しく思っているわけでもなく。
ただの仕事としてやっている。
ちょっぴり楽しい仕事として。
ーーだが、敵対しない、仲良くしていられる一番の理由は、なにより彼女が他者と争うことを良しとしない性格である、と言うことだろう。
平和主義者。
人に優しい。
全員ができるだけ幸せになれるような選択をする。
不幸になる人ができるだけ少ない選択をする。
御伽噺の聖女のような。
純粋で、正しくて、真面目でーーそれでいてどこか抜けていて親しみやすい。
そう言う子なのだ。
私と違って。
「ペコットは元気そうだね」
「うん、元気元気!私が元気じゃないとこ、見たことある?」
「それはたしかにーーないと思う」
「そっちはいつも難しい顔をしてること、多いけどね。ーーまあ、綺麗だから許すけどね」
言いつつ、ペコットはひらりとこちらに回る。
にこにこと笑いながら。
軽やかなステップ。
淡い良い香りがする。
「ペコットとは違うんだよ」
「またまたー、意地悪なこと言わないで」
言いつつ、彼女は私を羽交い締めにする。
地味に力が強い子なので、少し痛い。
ーーいや、本来に痛い。
え、うそ、
え、あ、あーーなにこれ、なにこれ。
みしみし言ってる、みしみしって!
不味い、まずいって、これ以上やられたら、わたしのからだがっ、
「ーーはい、お終い」
そう言って、彼女は私を解放した。
痛みがふっと消え、落ち着いて呼吸ができる。
体のパーツはどこも取れていない。
五体満足、稼働も問題なし。
「これでちょっとは頭のもやが取れたかな?」
彼女なりに気を利かせてくれたらしい。
もっと穏やかな方法があればいいのだけれど。
物理に訴えかけるところも、令嬢感のかけらもない。
それが逆に親しみやすい、良さでもあるのだろうけど。
「嫌なこと、は今そこにはないからね。物理的な痛みは、今この瞬間だけにある。人間、記憶や想いなんて、そんな見えないものよりも、今ここにある驚異の方が優先度が高い。だから、こうしてやれば、そんなどうでもいいことは頭から吹き飛んじゃうんだよ」
力こぶを作りつつ、彼女は言った。
彼女らしからぬ長台詞。
この子は本当に行動が読めない。
けどーー
「ーーあんたがくれた痛みも、目には見えないけどね」
「それもそっか。ごめん、私少し馬鹿だからさ」
と彼女は笑う。
つられて私も笑った。
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