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8.初めての召喚【完】
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「爺様、大丈夫?」
「もう、駄目だな。儂はもう長くない」
「弱気にならないで、爺様。もっと長生きして、僕に魔術を教えてよ」
「そうは言っても、人間には命には限界がある。それに老いもある。不完全でどうしようもない生き物だ。儂も所詮はその領域から出られぬ半端ものだったようだ」
「爺様!」
「だが、お前はまだ若い。未来がある」
「依知(えち)よ。よく聞け」
「人は老いる。だが人外は老いぬ。つまりは美しさを常に保てる。儂は婆さんと結ばれた。だが、それが原因で別れた。だが、後悔はしていない。あれらにはそれだけの価値があった」
「故に依知よ。儂の秘術を継げ。人生は短い。それは未来あるとはいえ、お前も同じだ」
「あぁ、最後にもう一発、あの子とやりたかったなぁ」
「ーー爺様?」
「爺様ぁあああー」
ーー
「また、あの夢か」
爺様の最後の言葉は彼らしいと言えばそうだが、実に惨めだと思った。
家族への感謝でもなく、
自身の所業への後悔でもなく、
僕への言葉でもなく。
誰かも分からぬ淫魔との思い出とは。
僕は起き上がり時計を確認する。
7時20分。
休みとしては早く起きてしまったようだ。
恋人もいない、
友達もいない、
趣味もない。
それでいて、特に悩みもない僕としては、暇であるというのはあまりよろしくなかった。
いや、暇の潰し方が分からない、というのがある意味の悩みかもしれないな。
ーーというわけで、せっかく懐かしの爺様の夢を見たので、爺様の思い出に浸ることにした。
具体的な行為としては、爺様の遺品に触れること。
遺品、と言っても僕に分与されたのは大したものではない。
古びた写真(爺様と小さい頃の僕の2ショット)と、よく分からないシミで一杯の本。
後者については、見た目が汚いから触りたくない、ということと、幼少時の僕では使用されている感じが難解過ぎて読むことができない。その2点からずっと放置していた。
けれど、そんな僕も最早30歳。
追記しておくと童貞である。
精力お化けだった爺様の遺伝子が入ってるとは思えない、草食系の僕である。
別段、女性が嫌いとか、怖いとかそういう訳ではない。
ただ、きっかけと動機が然程なかった、というだけだ。
僕も人間だ、適齢期の女性が裸で転がっていて、そして僕をベットに誘ってくるというのならば、そのまま童貞にさよならを言うことだろう。
自分の操に、別段愛着がある訳ではないから。
だが、この現代社会において、そんなことは起こり得ない。
起こったらそれは何かの罠か陰謀、はたまた何かの企画に違いない。
逆に怪しく勘繰って、その誘いすらも拒否するかもしれない。
そう思いつつ、僕は汚れた本を指で摘み上げる。
表紙は剥がれていて、何の本か分からない。
ぺらぺらとページをめくり、たまたま止まった部分に視点を落とす。
強引に、単語だけでも意味を解釈しようと読み上げる。
漢字にカタカナや平仮名、そしてアルファベット、様々な単語が意味不明な順序で羅列してある。
「えーっと『えちえち』……『マジカライズ』……『サークル』……ん?最後の文字はーー『H』?」
最後の『H』を発音した時だった。
急に本がピンク色に発光し始める。
僕の手を離れ、部屋の中央へと移動。
ばさばさと激しい風と光を室内で巻き起こしそしてーー
「……久しぶりの呼び出しね、まだ生きてるとは人間の需要って、存外長いのね」
黒い長い髪に、
胸部を強調するためか、胸元がぱっくり開いた蠱惑的な衣装。
ピンクをベース
双丘の間が、僕の視点を某サイクロン掃除機の如く吸引する。
日に焼けたような、南国の女性を思わせる健康的な少し黒い肌。
「って、あれ?あの爺さんじゃないの?」
「まぁいいや。あんた、男だよね?」
ぐいっと彼女は僕の元へとにじり寄る。
返事をしない僕に、呆れたような素振りをしつつ、彼女は僕の下半身にーー正確に言えば股間に手を伸ばした。
「ちゃんと付いてるじゃん。何?童貞?」
これが、僕の初めての召喚だった。
そして、振り返れば僕の残りの人生を根底から変えてしまう、瞬間だった。
「もう、駄目だな。儂はもう長くない」
「弱気にならないで、爺様。もっと長生きして、僕に魔術を教えてよ」
「そうは言っても、人間には命には限界がある。それに老いもある。不完全でどうしようもない生き物だ。儂も所詮はその領域から出られぬ半端ものだったようだ」
「爺様!」
「だが、お前はまだ若い。未来がある」
「依知(えち)よ。よく聞け」
「人は老いる。だが人外は老いぬ。つまりは美しさを常に保てる。儂は婆さんと結ばれた。だが、それが原因で別れた。だが、後悔はしていない。あれらにはそれだけの価値があった」
「故に依知よ。儂の秘術を継げ。人生は短い。それは未来あるとはいえ、お前も同じだ」
「あぁ、最後にもう一発、あの子とやりたかったなぁ」
「ーー爺様?」
「爺様ぁあああー」
ーー
「また、あの夢か」
爺様の最後の言葉は彼らしいと言えばそうだが、実に惨めだと思った。
家族への感謝でもなく、
自身の所業への後悔でもなく、
僕への言葉でもなく。
誰かも分からぬ淫魔との思い出とは。
僕は起き上がり時計を確認する。
7時20分。
休みとしては早く起きてしまったようだ。
恋人もいない、
友達もいない、
趣味もない。
それでいて、特に悩みもない僕としては、暇であるというのはあまりよろしくなかった。
いや、暇の潰し方が分からない、というのがある意味の悩みかもしれないな。
ーーというわけで、せっかく懐かしの爺様の夢を見たので、爺様の思い出に浸ることにした。
具体的な行為としては、爺様の遺品に触れること。
遺品、と言っても僕に分与されたのは大したものではない。
古びた写真(爺様と小さい頃の僕の2ショット)と、よく分からないシミで一杯の本。
後者については、見た目が汚いから触りたくない、ということと、幼少時の僕では使用されている感じが難解過ぎて読むことができない。その2点からずっと放置していた。
けれど、そんな僕も最早30歳。
追記しておくと童貞である。
精力お化けだった爺様の遺伝子が入ってるとは思えない、草食系の僕である。
別段、女性が嫌いとか、怖いとかそういう訳ではない。
ただ、きっかけと動機が然程なかった、というだけだ。
僕も人間だ、適齢期の女性が裸で転がっていて、そして僕をベットに誘ってくるというのならば、そのまま童貞にさよならを言うことだろう。
自分の操に、別段愛着がある訳ではないから。
だが、この現代社会において、そんなことは起こり得ない。
起こったらそれは何かの罠か陰謀、はたまた何かの企画に違いない。
逆に怪しく勘繰って、その誘いすらも拒否するかもしれない。
そう思いつつ、僕は汚れた本を指で摘み上げる。
表紙は剥がれていて、何の本か分からない。
ぺらぺらとページをめくり、たまたま止まった部分に視点を落とす。
強引に、単語だけでも意味を解釈しようと読み上げる。
漢字にカタカナや平仮名、そしてアルファベット、様々な単語が意味不明な順序で羅列してある。
「えーっと『えちえち』……『マジカライズ』……『サークル』……ん?最後の文字はーー『H』?」
最後の『H』を発音した時だった。
急に本がピンク色に発光し始める。
僕の手を離れ、部屋の中央へと移動。
ばさばさと激しい風と光を室内で巻き起こしそしてーー
「……久しぶりの呼び出しね、まだ生きてるとは人間の需要って、存外長いのね」
黒い長い髪に、
胸部を強調するためか、胸元がぱっくり開いた蠱惑的な衣装。
ピンクをベース
双丘の間が、僕の視点を某サイクロン掃除機の如く吸引する。
日に焼けたような、南国の女性を思わせる健康的な少し黒い肌。
「って、あれ?あの爺さんじゃないの?」
「まぁいいや。あんた、男だよね?」
ぐいっと彼女は僕の元へとにじり寄る。
返事をしない僕に、呆れたような素振りをしつつ、彼女は僕の下半身にーー正確に言えば股間に手を伸ばした。
「ちゃんと付いてるじゃん。何?童貞?」
これが、僕の初めての召喚だった。
そして、振り返れば僕の残りの人生を根底から変えてしまう、瞬間だった。
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