迷館の主

aika

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第1章 届いた手紙

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 僕は走っていた。あの高校一年の夏の日までは…

 ―――――――――――――――

「橋本ー!!」
 校庭のそばをぼんやり眺めながら歩いていると、勢いよくキャップ帽を片手に大きく振り僕の名前を校庭に響き渡るほどの声で呼んでくる。思わず声の方に目を向ける。
 そこに居たのはクラスメイトで、昔仲の良かった陸上部の坂野だった。
 「少し後輩の様子見てくれないか?」
 陸上部の坂野が僕の方に走ってきて話しかけて来る。
「ごめん、もう陸上部に行くのはちょっと…。それに今日は用事があって帰らないといけないんだ。ごめんな。」
 僕は、少し戸惑い引きつった笑顔で坂野に言った。
「そうかごめんな急に、橋本もまた暇な時があれば来てくれな。いくら陸上部辞めたからって、見るのも止めることないんだからな。じゃっまた月曜日!」
 そういつもと変わらない笑顔で返してくる坂野に少し苛立ちと黒い感情が湧いてくる。しかし、そんな感情を見せまいと慌てて笑顔を作り、何も無かったかのように明るく返事を返す。
「大丈夫だよ。ありがとう!」
 坂野は僕に手を挙げて「じゃ!!」と言った後に校庭に勢いよく走って、陸上部の中に戻って行った。
 用事なんて嘘だ。坂野のことだから絶対何を言っても強引に陸上部に引っ張って行かれるに決まっている。もし、ただ戻りたくないと言ったところで聞きやしない。何か口実を作らないといけない。それにもう僕は坂野の様に、風をきって走ることは出来ないんだから。

 校庭の夏の青く澄んだ空を見上げると苦い記憶を思い出す。
 去年の夏のことだった。その日は暑く雲ひとつない快晴だった。とても晴れている空に浮かぶ太陽が攻撃してきていると思えるほど光がジリジリと痛かった。肌が小麦色になるほど焼かれた僕の肌がまさに夏を象徴するようだった。そんな暑い真夏の日、少し早く部活が終わり学校の帰り道でのことだった。夏の大会前ということもあり僕は張り切り過ぎていたのかもしれない。
 まだ走り足りなくて、帰り道を走って帰ろうと思った。5分ほど走り始めて、いつも通る十字路の交差点に着いき、信号が青に変わるのを待っている時だった。「危ない」と言う低い男の人の声が最後。僕に向かって車が勢いよく突撃してきた。
 目覚めた時、僕は病院のベットの上だった。飲酒運転の車だったらしい。幸い命は助かった。だけど車にひかれた時は意識不明の重体で、一時期は危ない状態だったとか。生きたいと俺が強く思ったからか、運が良かったのか。奇跡的に助かった。しかし、僕の足はもう走る事の出来ない状態になっていた。病院の先生は(車にぶつかる時に無意識の内に足でガードしていたらしく一番足にダメージがいってしまっている。)と言われた。
 少ししてリハビリを続けて、歩く事は出来るようになった。だが、走る事は体力的にも精神的にももうダメだと母と医者の先生に言わた。そう言われても僕は諦めきれず、無茶なリハビリをし続けた。しかし、このままリハビリを続ければ倒れてしまうとドクターストップがかかり俺はもう走ることが出来ない足になってしまった。
 生きていても、走ることを失ったら意味ないじゃないか。そう思った。それはもうまさに僕にとって、絶望と言わざるおえない状況だった。
 それから一年たった今は、学校に来れるようにはなったものの陸上部は退部し、今は帰宅部だ。走れない生活になった僕の心の中には、ポッカリと穴が開いる。そして事故にあい、走れないと知ったあの日から(走りたい)と言う気持ちが俺の中で悲鳴を上げさまよっている。

 そんなことを思い出していと、家に着いていた。ポストを覗くとチラシと手紙が入っていた。チラシには
 過去へ行きたい人募集中
「今が変わってしまったとしてもあなたはを開けますか?」
 扉を開けたいのなら迷館へ
 おまちしております。
                                            迷館の主人より
 と書かれていた。なんというか、胡散臭いチラシだ。宗教や何かを売り受ける為のチラシか。
 とりあえずそのチラシを無視して家に入った。扉を開け「ただいま」と言ったが返事は帰ってこない。まだ誰も帰って来てないのだろう。少し寂しさを覚えながらも階段をあがり自分の部屋に向かった。
 僕は手元を見て少しため息を着く。さっきの手紙を僕は気になり持って来てしまったからだ。宛名が書いていなかったから余計に気になってしまったのだ。勉強机の椅子に座り、恐る恐る手紙を開けた。そこには、驚くことに僕の名前が書かれていた。
 ……………………………………………
 橋本 透様
  この度は、迷館の館に来てくださりありがとうございます。
 今の生活はどうでしょうか。
 結意義に過ごされていますでしょうか。あなたのされた選択を私は間違っているとは思いません。
 走ることだけがあなたにとっての人生では無いのですから。

 お話は変わりますが今、迷館の館では過去の扉が、閉じてしまっています。透様がこの意味がわかりしだい透様は目覚めるでしょう。
 もしも、お気づき事がございましたらご来店下さい。
 お待ちしております。
                                           迷館の主人より

 と書かれていた。僕宛ての手紙だった。どういうことだ。「過去の扉が閉じた」とか「鍵を持って」だとか僕はそんなとこ行ったことなんてないし、鍵なんて知らない。それに「走ることだけが人生じゃない」だなんて、なんで僕のことを知ってるんだ。どういうことなんだ。
ちょっと待てよ。この迷館の主人って、たしかあのさっきポストに一緒に入ってた胡散臭いチラシだよな…。
「お待ちしております。」か、行ってみるしかないよなぁ。さっきのチラシには確か地図が書かれていた。もはや来いと言っているようだな。
少しため息を吐いて、制服から私服に着替えた。そして、鞄を取り出しチラシと手紙を持って迷館の館へと出かけた。

 地図の場所は余り遠くはなかった。電車で10分ほど揺られた後、20分ほど歩いたところにある公園に着いた。公園に入り、小道の奥をずーと進んで行くと少し霧深くなり始めた。そこから更に、3分ほど歩いて行くと、古い館と黒い門が見えて来た。レンガ出できた洋風の大きな館だった。館の前にある黒い門には「迷館の館 」と書いてありその下には小さく「ただいま営業中」と看板がかかっていた。
チラシの館だ。僕はその門を開け中に入った。奥に進むとステンドグラスがついた緑色の扉があり開けるとチリンチリンと扉の上に着いていたベルが綺麗な音を鳴らした。中に足を踏み入るとほんのり紅茶とケーキの甘い匂いがした。館の中はまさに西洋の館と言った感じで床は赤いカーペット、アンティーク調の机や椅子が置いてありその横に階段がある。
 僕は少し緊張しながら
「こんにちは~。あの誰かいませんか?」
 と少し大きい声で人を呼ぶ。ソワソワしながら待っていると、急ぎ足で階段から二十代位のゴスロリ服を着た若い女の人と黒猫が一匹降りてきた。僕は少し驚いた。黒い服に白のレースのゴスロリ服を着ていたこともそうだが、女の人の髪は水色に白が混じったような色で、瞳は赤かったからだ。
「いらっしゃいませ。ごめんなさいね、直ぐに出られなくて、」
 と優しく挨拶してくれる。俺は少し戸惑った。声をかけてくれたその人はとても優しく綺麗な人だったから。少し緊張しながらも返事した。
「えっと大丈夫です。すみません。実は、家のポストを見たらこの手紙があって、中身を見たら…」
 と僕が届いた手紙を差し出す。女の人は察したように少し鋭い目つきになった。だけどその目つきは一瞬で消え去り少し悲しそうに笑顔で
「そっか。手紙が……。良ければお茶していかない?」
 と階段の方を指さし女の人言った。僕は何かわからずに頷いた。
「え、はい。」
 なぜかこの人には警戒心というものが生まれなくとても落ち着いた気持ちでいられた。俺は女の人について行き階段で二階に上がるり大きな扉の部屋に案内された。その部屋の扉をくぐると、大きなステンドグラスの窓があり、壁際には暖炉があってドアがいくつもあった。そして、部屋の真ん中にある机の上には、ケーキとお茶が三つ並べられていた。
「この椅子に座って、よかったらケーキとお茶もどうぞ。お茶は入れたばかりなの。お口に合うと嬉しいわ。」
 と女の人は笑顔で三つの椅子のうちの一つをを少し机から引き出しながら言った。僕はその椅子に少し緊張しながら座った。女の人は僕の前の椅子に座り猫は机の上にぴょんと乗って居眠りをする。女の人はそれを見てクスクスと笑った後に
「えっと、そうね。まず自己紹介が先ね。私はこの迷館の主人で西園寺 未過子さいおんじ みかこと言います。この黒猫が家族の黒羽くろばです。お客様の名前を伺ってもよろしいですか?」
 西園寺さんは優しく微笑みながら僕に問いかけてくれた。
「僕の名前は橋本 透はしもと とおるです。手紙を知ってるような、でもよく分からないことが書かれていてたのでここに来ました。」
 西園寺さんは頷き
「そっか、じゃあ早速だけどその手紙のことについて話しましょうか。」
 僕は「お願いします。」と少し頭を下げた。西園寺さんは少し躊躇ってから話し始めた。
「まずは、この店のことについて話した方がいいかなも知れないわね。先にこのお店の説明をしてもいいかしら?」
 西園寺さんは俺の目を見て問いかけるようにいう、俺は「 はい、お願いします。」と言い頷く。俺はこの先信じられないような言葉を聞いてもどんなことでも受け入れなければならいない気がする。なんとなく、西園寺さんのすこし不安げな顔を見てそう思った。俺は西園寺さんの方を真剣に見た。西園寺さんは深呼吸をした後に
「このお店は、過去と未来の扉を取り扱う店なの。過去と未来の自分のことを変えるため、知るためのお店。まぁそれだけじゃなくて悩みとかの相談にも乗ったりするんだけどね。」
そう笑顔で紅茶を飲んでまた話し出す。
「このお話を聞いて、私を詐欺師だとかバカにしてるって言い出す人もいるけど、あなたは信じますか?」
 僕は不思議と西園寺さんの話を、言葉を理解し信用できた。確かに不思議な話だと思ったし信じられないことだけど、何故だか西園寺さんの言った過去と未来の扉と言うのが頭の中にすっと、入って来た。
「信じます。西園寺さんは嘘をついてないと、そう思います。」
けれど頭の中が少しピリピリと痛い。何故だろう。けれど自分の中で何となくだけど意味が理解できる。怖いぐらい西園寺さんの言葉が受け入れられた。
「まぁ、お店のこんな説明だけじゃ意味不明だよね。それに不思議すぎて信じられないでしょう、ごめんなさいね。」
 少し苦笑いしながらそうゆう西園寺さんに僕は首を振りながら
「そんなことないです。まぁ、ちゃんと理解するには少し時間がかかりそうですが…。あっ、すみません。話の続きをお願いします。」
 僕は嘘をついた本当は少しだけだけど理解出来ている。西園寺さんが言う言葉が頭の中を刺激して頭が少し痛い。でもそのことは何故か口にしてはいけないような気がした。
 しかし西園寺さんは僕の嘘を見破っているように少し心配そうな顔をする。でもそれを取り繕うように、また笑いながら「そうね。話の続きをしましょうか。」と話を始める。
「えっとそれから…橋本透くん、君に届いた手紙を見たいんだけど良いかな?」
僕は、軽く頷き差し出すと西園寺さんは少し真剣な表情で受け取って封筒を開け中身を見た。
「えっと、その手紙が何かあるんですか?」
僕が不思議そうな顔をしていると西園寺が少し困ったように話し始める。
「んーとね。まず、過去と未来を変えることが出来る。それを取り扱うことが出来るお店だって説明したよね。」
「は、はい。」
西園寺さんは、悩みながら僕にわかりやすいように言葉を選んで話し始めてくれる。
「まず、橋本くんはパラレルワールドて分かる?」
「パラレルワールドですか?」
なんとなく、聞いたことはある。
確か、自分のいる時間を分岐したように様々な世界線があることだった気がする。
「えっと、何となくは知ってます。」
西園寺さんは笑顔で頷き話し始める。
「パラレルワールドて、並行世界とか複数存在する今いる現実とは別に存在する仮想的世界のとこなんだけど。」
「えっとつまり?」
少し頭がこんがらがってくる。
そこに西園寺さんがパネルを持ってきて説明を始めた。
「これを見てほしいのだけど、」
「はい。」
そのパネルにはパラレルワールドに関する説明の図が書かれていた。


「これが、パラレルワールドよ!」
僕は、西園寺さんが自信満々に出てきた図解に思わずポカンとしてしまった。
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