不器用なおじさん達の恋の歌

第一章

揺れるクリスマスイブ 3

数分後、カウンターの一番奥、アレンの前にはディーン、その隣には谷垣が座り、気まずい空気が漂っていた。
ディーンは珍しくむっつりとした顔で腕を組み、明らかに怒っていた。
「お前にここで働くって言ったら反対されるからって光輝に言われて黙ってたんだよ…」
アレンは焦りながら、ディーンに経緯を説明した。
「反対に決まってるだろ！こんな店で女装して働いたら、どんな客に絡まれるかわからないだろ！お前はガードが甘すぎる！」
ディーンが怒りを込めて言うと、谷垣がディーンを睨んで口を挟んだ。
「ちょっと…貴方はレンカさんの何なんですか？レンカさんが好きなように働くのを止める権利があるんですか？」
「なんだお前？俺はアレンの幼なじみで、7歳の時から知ってるんだ。今は一緒に暮らしてるし、アイツを一番よくわかっていて、一番近くにいるのは俺なんだよ」
「でも恋人じゃない。貴方はただの『幼なじみ』ですよね？僕はレンカさんとメールしてるし、出勤前に二人でデートだってしてるんですよ」
「なんだと…」
ディーンはショックで言葉が続かなかった。
（まさか、あの『好きだ』『愛してる』って言ってたメールの相手はコイツか？！）
二人の会話は日本語だったため、アレンには内容が理解できなかったが、二人の険悪な雰囲気はしっかりと感じ取っていた。

「ディーン、ちょっと…外で話さないか」
アレンはディーンに声をかけ、ヒカルママに軽く目配せをしてカウンターの中から出ると、ディーンと一緒に階段を上がった。
「寒っ！」
店の外に出た瞬間、アレンは声をあげた。外ではちらほらと雪が降り始めていた。キャミソールワンピースのままでは、寒さを感じるのも当然だった。
ディーンは何も言わず、着ていたノースフェイスのダウンコートを脱ぎ、アレンにかけた。
「…ありがとう」
アレンがそう言うと、ディーンは改めてアレンの姿をじっと見つめ、顔を赤らめた。
アレンは金髪をアップにまとめ、メイクもしていた。黒のセクシーなワンピースが、色白の肌をより一層引き立てていた。街を歩けば、誰もが振り返るほどの美しさだった。
「全く…こんな格好してたら、普通の男がほっとくわけないだろ？お前が強いのは知ってるけど…縛られでもしたらどうしようもない。男は皆狼だってことを、もう少し自覚してくれよ」
「お前も狼なのか？」
「えっ…」
「男は皆狼って、お前もだろ？お前も俺をどうにかしたいとか、思ったりするのか？」
「そ、それは…」
アレンの問いに、ディーンは言葉に詰まった。

「お前は違うよな」
アレンはため息をつき、ディーンを見つめた。
「ジュンも言ってたけど、お前は俺の恋人でもなければ、父親でもない。家族ですらない。それなのに、どうしてそんなに干渉してくるんだ？俺がどう生きようと、俺の自由だろ」
「…アレン…」
ディーンはその言葉にショックを隠せなかった。
「俺は…お前をずっと大事な…家族以上の存在だと思ってた。お前は違ったのか…」
アレンは無言で俯いた。
「もしかして、あの男が好きなのか？店にいたやつ…」
「はぁ？」
「俺にはお前の恋愛に口出しする資格はないからな…じゃあ、俺はもう帰るよ…」
「おい！あいつとはそんな関係じゃ…」
アレンが叫んだが、ディーンはすでに背中を向けて歩き始めていた。
「やっぱり俺は、チャンの代わりにはなれないんだな…」
ディーンが小さくつぶやいた。

「おい、それどういう意味だよ…俺には、お前が何を考えてるのか全然わかんねえ…」
その場に取り残されたアレンは、ディーンがかけてくれたダウンコートを抱きしめながら、やりきれない気持ちで店の階段を降りた。

「レンカ、ディーンはどうした？」
店に戻ると、待ちかねた様子でヒカルママが聞いてきた。
「うん…帰るって…」
「悪かったな、あいつに内緒にしろって言ったのは俺だからな。俺にも責任があるよな」
「大丈夫…」
「まぁ、今日はクリスマスイブだ。レンカも暗い顔しないで、飲もう！仕切り直しだ」
そう言って、ヒカルママはアレンの肩を叩き、シャンパンのボトルを開けてグラスに注いだ。