不器用なおじさん達の恋の歌

LUNA

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第一章

すれ違う心、交わる想い 2

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真理恵の周りにはこれまで、ギラギラしている一方でどこか冷めていたりする同世代の男性ばかりで、どうしても心から好きになれなかった。けれどディーンは違った。優しくて穏やかで、知的で、何よりも大人だった。彼のことをもっと知りたい、そんな気持ちが日増しに強くなっていった。

しかし、ある日ディーン宛に中学校の先生を名乗る人から電話がかかってきた。ディーンは電話を受け取ると、急に顔色を変えて慌てて帰り支度を始めた。

「真理恵ちゃん、ごめん。息子が学校で怪我をしたって連絡があったから、今すぐ迎えに行かないといけなくて。」
「えっ、そうなんですか!わかりました。」
ディーンが急ぎ足で去っていく背中を見送りながら、真理恵は動揺していた。
(息子さんがいるんだ…奥さんは?いないのかな…)

翌日、真理恵は勇気を出して聞いてみた。
「息子さん、大丈夫でしたか?」
「ああ、ありがとう。幸い、そんなに大きな怪我じゃなくて。学校にも一人で行けるみたいだから大丈夫だよ。」
「それなら良かったです…あの、坂本先生って…息子さんと奥様と一緒に住んでいらっしゃるんですか?」
「ああ…実は、妻は7年前に病気で亡くなってね。今は中学生の息子と、アメリカから来た幼なじみと三人で暮らしているんだ。」
「そうなんですか…」
「まぁ、息子はほとんど一人で育ててきた感じだけど、しっかりしてるよ。むしろ、もう一人の同居人のほうが手がかかる。俺と同い年なんだけど、子供みたいな奴でね。」
ディーンは楽しそうに笑った。

真理恵は複雑な思いを抱えていた。自分がこれまで接してきた男性たちは、真理恵の童顔や愛らしい外見に惹かれ、すぐにチヤホヤしてくるのが常だった。だが、ディーンは違う。真理恵がどれだけ積極的に接しても、彼の態度は変わらなかった。そのことが、真理恵には悔しくてたまらなかった。
(坂本先生を振り向かせたい…)

その一心で、真理恵は得意のお菓子を作り、ディーンに渡した。ディーンは喜んで受け取ってくれたが、その後、彼は「同居人」と呼ぶ外国人男性と共にお菓子を持って外出してしまった。
彼と一緒に食べたのだろうか。真理恵の胸には、言いようのない複雑な感情が広がった。

確かに、受付の女の子たちが言っていたように、ディーンがその同居人を見つめる目には、何か特別なものがあるように感じられた。


今日は朝から雨が降り続けていた。窓ガラスを叩く雨粒が、外の景色をぼんやりと曇らせている。天気予報では、夜にかけてさらに激しい雨になると言っていた。
レッスンが終わり、休憩に入ったディーンが席に戻ってくるタイミングを見計らい、真理恵は声をかけた。
「坂本先生、今日の仕事の後、少しお時間ありますか? ピアノ講師の久保田先生が来週退職されるので、送別会を開こうと思っているんです。ここではちょっと相談しづらいので…よかったら食事しながら話しませんか?」
「ああ、いいよ。今日は同居人も仕事で遅いし、息子は友達の家に泊まりに行くって言ってたから、夕飯を作らなくて済むんだ。」
「よかったです!じゃあ、近くに新しくできたタイ料理のお店に行きませんか?」
「いいね。行こう。」
ディーンはそう言って、爽やかに笑った。その笑顔を見た瞬間、真理恵の胸はぎゅっと締め付けられた。
(この人は誰に対してもこんな笑顔を見せる。でも…あの人に向けた笑顔は、全然違っていた…)
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