不器用なおじさん達の恋の歌

第一章

二つの愛の間で 6

谷垣と連絡先を交換してからというもの、毎日メールが届くようになった。谷垣は親切にも、英語の後に日本語でメールを送ってくれるため、アレンは少しずつ日本語を覚えられるようになってきた。

「『I love you』って日本語でなんて言うか知ってる？」
「わからない」
「『すき』って言うんだ。もっと丁寧に言うと『あいしてる』だよ」
「すき」
「あいしてる」

アレンは苦労しながら、日本語でその短いフレーズを打ち込んだ。彼にとっては、これが限界だった。

「アレン、風呂入ってきなよ」
先に風呂から上がったディーンが声をかけた。
「ああ、ありがとう」
アレンはスマホをテーブルの上に置き、風呂場へと向かった。

ディーンは髪をタオルでゴシゴシ拭きながら椅子に座ったが、テーブルの上に置かれたアレンのスマホが振動するのが目に入った。つい画面を何気なく見てしまい、そこにはアレンが送った『すき』と『あいしてる』というメッセージが表示されていた。その後に続く「よくできました」という笑顔の絵文字付きの返信を見て、ディーンは激しく動揺した。

（すき…あいしてる？まさか…アレンに日本人で好きな人がいるのか？もしかして、新しい職場の誰かか…？）

ディーンは立ち上がり、部屋の中をそわそわと行ったり来たりし始めた。

（ああ…気になる。単刀直入に聞いたほうがいいのか？でも、どうやって聞く？『好きな人いるの？』とかか？でも、それでアレンが顔を赤らめて『そうなんだ』なんて言ったら、俺はどうすればいい？）

混乱するディーンは、思わず壁に頭を打ちつけた。

「ねえ…さっきからパパ、何してるの？」

いつの間にかリビングにいたアキラが、不思議そうにディーンを見つめていた。中年男が立ち上がってうろうろし、挙句に壁に頭を打ちつける様子は、誰が見ても怪しい。

「あ、ああ、アキラ、いたのか。な、なんでもない…」

ディーンはぎこちない笑顔を浮かべながら、慌てて寝室へと引きこもった。