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第一章
二つの愛の間で 5
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次の日、アレンが目を覚ましたのは、すでに11時を過ぎていた。あくびをしながらキッチンに向かうと、ディーンがコーヒー豆を挽いているところだった。
「おはよう」
「おはよう、アレン」
そういえば、昔ニューヨークで暮らしていた頃、チャンがよくこうして豆を挽いてくれたな…とアレンはふと思い出した。ディーンは挽きたての豆を丁寧にドリップし、アレンの前にカップを置いた。漂ってくる香りが心地よく鼻腔をくすぐる。
コーヒーを一口飲んで、アレンはディーンに尋ねた。
「今日は…アキラはいないの?」
「今日はサッカーの練習だ」
「そうか…」
久しぶりにディーンと二人きりの時間だな、とアレンは思った。
「なあ…もしよかったら、今日どこかに出かけないか?」
「え?ああ、いい天気だし、出かけるのも悪くないな」
「アレン、日本に来てからほとんど出かけたりしてないだろ?俺のお気に入りの場所があるんだ」
街はクリスマスが近づいて賑やかさを増していた。2人は吉祥寺の喧騒を抜け、井の頭公園へと向かった。日曜日の公園には、ギターを弾き語りする若者や、手作りアクセサリーを売る人々、子供を連れた若い夫婦などが集まっていた。
池を眺められるベンチに座ったアレンが、感心したように言った。
「東京にもセントラルパークみたいな大きな公園があるんだな。気持ちいいな、ここ」
「春になると桜がきれいなんだよ。春になったらまた来よう」
「春か…。その時、俺はまだ日本にいるかな…」
「え?アメリカに帰るつもりなのか?」
ディーンは少し不安そうに聞いた。
「うん…。俺がいると、お前、結婚とかできないだろ?」
「はぁ?」
ディーンは困惑して大きな声を出した。
「お前の学校に、すごくお前のこと好きそうな女の子がいるじゃないか。お前もその子と一緒になった方がいいんじゃないかって…アキラにとっても、お前にとっても、その方が…」
アレンはディーンの顔を見ないまま一気に話した。なぜか胸が苦しかった。
「アレン…俺はその子に興味ないし、結婚するつもりもないんだよ」
ディーンはため息をついて言った。
(アレンは何もわかってない…俺が好きなのは、ずっとお前なのに…)
「そうなのか?もしかしてタイプじゃないとか?そういえば、お前はブロンドの子が好きだったよな!昔よく遊んだクラブでいつもブロンドの子を選んでたよな」
アレンは笑いながら言ったが、ディーンは苦い表情を浮かべて沈黙した。
(あの頃、ブロンドの子を選んだのはお前に似てる子を選んでたからだ…お前だと思って抱いてたんだよ…。アレンって名前を呼んで、平手打ちされたこともあったな…)
「そういえば、昨日店にマ…」
アレンはマーティンのことを言いかけて、慌てて口をつぐんだ。マーティンの話をすれば、光輝の店で女装して働いていることがバレてしまう…。
「マ?」
ディーンは不審げにアレンを見つめた。
「マ…マ…マルーン5!なんとマルーン5のメンバーが入ってきてさ~っ、店がすごい騒ぎになったんだよ!ホラ今ちょうど来日してるだろっ!」
アレンは冷や汗をかきながら、なんとか言い訳をした。
「そうなのか?それはすごいな!」
ディーンは驚いた顔をしたが、急に真剣な顔つきになり言った。
「なぁ…俺はお前がここにいてくれて嬉しいんだ。だから、俺のために出て行くなんて言うなよ。それに…何か悩んでることがあったら、何でも俺に相談してくれ」
「ありがとう、ディーン。俺もお前には感謝してるよ。お前がそばにいると、なんだか安心するんだ」
アレンはディーンに向き直り、微笑んだ。その笑顔を見たディーンの胸は締めつけられた。
(クソッ…そばにいるだけでいい、なんて綺麗事だ…俺は、本当はずっとアレンと深い関係になりたいくせに…)
冬の季節にもかかわらず、空には太陽が出ていて、昼間はぽかぽかと暖かかった。ディーンが左肩に急に重みを感じ、隣を見ると、アレンがいつの間にか眠りに落ちてディーンにもたれかかっていた。アレンの寝顔は、まるで子どものように無防備だった。ディーンは思わず微笑み、そっとアレンの肩を抱き寄せた。
「おはよう」
「おはよう、アレン」
そういえば、昔ニューヨークで暮らしていた頃、チャンがよくこうして豆を挽いてくれたな…とアレンはふと思い出した。ディーンは挽きたての豆を丁寧にドリップし、アレンの前にカップを置いた。漂ってくる香りが心地よく鼻腔をくすぐる。
コーヒーを一口飲んで、アレンはディーンに尋ねた。
「今日は…アキラはいないの?」
「今日はサッカーの練習だ」
「そうか…」
久しぶりにディーンと二人きりの時間だな、とアレンは思った。
「なあ…もしよかったら、今日どこかに出かけないか?」
「え?ああ、いい天気だし、出かけるのも悪くないな」
「アレン、日本に来てからほとんど出かけたりしてないだろ?俺のお気に入りの場所があるんだ」
街はクリスマスが近づいて賑やかさを増していた。2人は吉祥寺の喧騒を抜け、井の頭公園へと向かった。日曜日の公園には、ギターを弾き語りする若者や、手作りアクセサリーを売る人々、子供を連れた若い夫婦などが集まっていた。
池を眺められるベンチに座ったアレンが、感心したように言った。
「東京にもセントラルパークみたいな大きな公園があるんだな。気持ちいいな、ここ」
「春になると桜がきれいなんだよ。春になったらまた来よう」
「春か…。その時、俺はまだ日本にいるかな…」
「え?アメリカに帰るつもりなのか?」
ディーンは少し不安そうに聞いた。
「うん…。俺がいると、お前、結婚とかできないだろ?」
「はぁ?」
ディーンは困惑して大きな声を出した。
「お前の学校に、すごくお前のこと好きそうな女の子がいるじゃないか。お前もその子と一緒になった方がいいんじゃないかって…アキラにとっても、お前にとっても、その方が…」
アレンはディーンの顔を見ないまま一気に話した。なぜか胸が苦しかった。
「アレン…俺はその子に興味ないし、結婚するつもりもないんだよ」
ディーンはため息をついて言った。
(アレンは何もわかってない…俺が好きなのは、ずっとお前なのに…)
「そうなのか?もしかしてタイプじゃないとか?そういえば、お前はブロンドの子が好きだったよな!昔よく遊んだクラブでいつもブロンドの子を選んでたよな」
アレンは笑いながら言ったが、ディーンは苦い表情を浮かべて沈黙した。
(あの頃、ブロンドの子を選んだのはお前に似てる子を選んでたからだ…お前だと思って抱いてたんだよ…。アレンって名前を呼んで、平手打ちされたこともあったな…)
「そういえば、昨日店にマ…」
アレンはマーティンのことを言いかけて、慌てて口をつぐんだ。マーティンの話をすれば、光輝の店で女装して働いていることがバレてしまう…。
「マ?」
ディーンは不審げにアレンを見つめた。
「マ…マ…マルーン5!なんとマルーン5のメンバーが入ってきてさ~っ、店がすごい騒ぎになったんだよ!ホラ今ちょうど来日してるだろっ!」
アレンは冷や汗をかきながら、なんとか言い訳をした。
「そうなのか?それはすごいな!」
ディーンは驚いた顔をしたが、急に真剣な顔つきになり言った。
「なぁ…俺はお前がここにいてくれて嬉しいんだ。だから、俺のために出て行くなんて言うなよ。それに…何か悩んでることがあったら、何でも俺に相談してくれ」
「ありがとう、ディーン。俺もお前には感謝してるよ。お前がそばにいると、なんだか安心するんだ」
アレンはディーンに向き直り、微笑んだ。その笑顔を見たディーンの胸は締めつけられた。
(クソッ…そばにいるだけでいい、なんて綺麗事だ…俺は、本当はずっとアレンと深い関係になりたいくせに…)
冬の季節にもかかわらず、空には太陽が出ていて、昼間はぽかぽかと暖かかった。ディーンが左肩に急に重みを感じ、隣を見ると、アレンがいつの間にか眠りに落ちてディーンにもたれかかっていた。アレンの寝顔は、まるで子どものように無防備だった。ディーンは思わず微笑み、そっとアレンの肩を抱き寄せた。
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