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第一章
二つの愛の間で 3
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その日も、谷垣は律儀に店にやってきた。アレンの前のカウンターに座り、アレンをチラチラ見ながら静かに酒を飲んでいる。
23時を過ぎた頃、店に新しい客が2人入ってきた。1人はスーツを着た知的な雰囲気の中年の日本人男性。もう1人は肩までのソバージュヘアに、がっしりした体つきのロックンローラー風な外国人だ。アレンはその外国人に見覚えがあった。
「げっ…マ、マーティンっ!」
アレンは、昔馴染みの友人の顔を思い出し、自分の今の姿を見られるのが恥ずかしくて奥に隠れようとしたが、時すでに遅し。
「アレン?お前、アレンだろ?」
マーティンに呼ばれて、アレンは観念して向き直った。
マーティンはピューッと口笛を吹きながら、「綺麗だなあ。お前、いったい何歳なんだ?化け物か?」と爆笑した。
「それが久しぶりに会う友達への第一声かよ…。何飲む?」
アレンは渋々、グラスに氷を入れながらマーティンに尋ねた。
マーティンはかつてアレンとバンドを組んでいた仲間で、ドラマーを務めていた。バンドは解散したものの、マーティンは今や世界的に活躍するドラマーとなり、有名アーティストのツアーに参加している。今回も、アメリカの人気女性シンガーのツアーに同行して日本に来ていた。光輝とは友人で、日本の音楽雑誌『ドラムマガジン』の編集長・高橋に案内されて、この店に初めてやってきたのだ。
「光輝の店がオカマバーだってのは知ってたけど、まさかお前が働いてるとはなあ。傑作だぜ、アレン」
マーティンはまだ笑いをこらえきれずにニヤニヤしている。
アレンは苦虫を噛み潰したような顔をして、乱暴にジントニックをマーティンの前に置いた。とはいえ、久しぶりの再会はやはり嬉しかった。
隣に座っていた谷垣は、目をぱちくりさせていた。
「レンカをいじめるんじゃないよ。この谷垣さんはレンカに惚れてるんだから」
光輝ママが横から口を挟んだ。
マーティンが谷垣に向き直って言う。
「そうなのか?アンタ、悪いことは言わねぇからコイツはやめとけ。コイツ、外見だけなら天使かもしれないが、中身はライオンみたいに凶暴で、腕っぷしも俺より強いんだぜ。性格は超絶ワガママで、それに家事も何もできねぇし」
「あなたは…レンカさんと友達なんですか?」
「そうだ、昔からの友人だよ。ニューヨークで一緒に暮らしてたんだ。あいつに振り回されっぱなしでな。それはそうとレンカって名乗ってんのかよ…ププッ」
マーティンはアレンの源氏名を聞いてまた吹き出した。
アレンはマーティンを睨み、「後で覚えてろよ」と心の中で毒づいた。
「俺…レンカさんになら振り回されてもいいです!ていうか、振り回されたいです!」
谷垣の熱っぽい真剣な発言に、周りは一瞬静まり返った。
はぁ、とため息をついてマーティンがアレンに言う。
「レンカよ…お前どうしてこういう純情な青年をダメにしちまうんだ?ところでディーンはどうしてる?」
「別に俺は何もしてねえよ!ディーンとは今、一緒に暮らしてる。アキラも一緒だ」
「そうか。それならディーンもようやく長年の想いが報われたってことだな」
「はぁ?それどういう意味だ?」
「いや、なんでもないよ。こっちの話さ」
楽しい時間はあっという間に過ぎ、閉店時間が近づくと、客たちも徐々に帰り始めた。
マーティンと高橋編集長も立ち上がり、いとまを告げた。
「じゃあな。俺は明日ニューヨークに帰る。お前もニューヨークに来いよ」
「ああ、そうだな…チャンの墓参りもしないとな。今日は会えて嬉しかったよ」
「ディーンにもよろしくな」
23時を過ぎた頃、店に新しい客が2人入ってきた。1人はスーツを着た知的な雰囲気の中年の日本人男性。もう1人は肩までのソバージュヘアに、がっしりした体つきのロックンローラー風な外国人だ。アレンはその外国人に見覚えがあった。
「げっ…マ、マーティンっ!」
アレンは、昔馴染みの友人の顔を思い出し、自分の今の姿を見られるのが恥ずかしくて奥に隠れようとしたが、時すでに遅し。
「アレン?お前、アレンだろ?」
マーティンに呼ばれて、アレンは観念して向き直った。
マーティンはピューッと口笛を吹きながら、「綺麗だなあ。お前、いったい何歳なんだ?化け物か?」と爆笑した。
「それが久しぶりに会う友達への第一声かよ…。何飲む?」
アレンは渋々、グラスに氷を入れながらマーティンに尋ねた。
マーティンはかつてアレンとバンドを組んでいた仲間で、ドラマーを務めていた。バンドは解散したものの、マーティンは今や世界的に活躍するドラマーとなり、有名アーティストのツアーに参加している。今回も、アメリカの人気女性シンガーのツアーに同行して日本に来ていた。光輝とは友人で、日本の音楽雑誌『ドラムマガジン』の編集長・高橋に案内されて、この店に初めてやってきたのだ。
「光輝の店がオカマバーだってのは知ってたけど、まさかお前が働いてるとはなあ。傑作だぜ、アレン」
マーティンはまだ笑いをこらえきれずにニヤニヤしている。
アレンは苦虫を噛み潰したような顔をして、乱暴にジントニックをマーティンの前に置いた。とはいえ、久しぶりの再会はやはり嬉しかった。
隣に座っていた谷垣は、目をぱちくりさせていた。
「レンカをいじめるんじゃないよ。この谷垣さんはレンカに惚れてるんだから」
光輝ママが横から口を挟んだ。
マーティンが谷垣に向き直って言う。
「そうなのか?アンタ、悪いことは言わねぇからコイツはやめとけ。コイツ、外見だけなら天使かもしれないが、中身はライオンみたいに凶暴で、腕っぷしも俺より強いんだぜ。性格は超絶ワガママで、それに家事も何もできねぇし」
「あなたは…レンカさんと友達なんですか?」
「そうだ、昔からの友人だよ。ニューヨークで一緒に暮らしてたんだ。あいつに振り回されっぱなしでな。それはそうとレンカって名乗ってんのかよ…ププッ」
マーティンはアレンの源氏名を聞いてまた吹き出した。
アレンはマーティンを睨み、「後で覚えてろよ」と心の中で毒づいた。
「俺…レンカさんになら振り回されてもいいです!ていうか、振り回されたいです!」
谷垣の熱っぽい真剣な発言に、周りは一瞬静まり返った。
はぁ、とため息をついてマーティンがアレンに言う。
「レンカよ…お前どうしてこういう純情な青年をダメにしちまうんだ?ところでディーンはどうしてる?」
「別に俺は何もしてねえよ!ディーンとは今、一緒に暮らしてる。アキラも一緒だ」
「そうか。それならディーンもようやく長年の想いが報われたってことだな」
「はぁ?それどういう意味だ?」
「いや、なんでもないよ。こっちの話さ」
楽しい時間はあっという間に過ぎ、閉店時間が近づくと、客たちも徐々に帰り始めた。
マーティンと高橋編集長も立ち上がり、いとまを告げた。
「じゃあな。俺は明日ニューヨークに帰る。お前もニューヨークに来いよ」
「ああ、そうだな…チャンの墓参りもしないとな。今日は会えて嬉しかったよ」
「ディーンにもよろしくな」
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