不器用なおじさん達の恋の歌

LUNA

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第一章

恋歌が響く夜 1

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ディーンとアキラがそれぞれ仕事と学校に出かけていくと、アレンは家に一人残された。

ディーンが淹れてくれたコーヒーを飲み、トーストを一口食べたアレンは、ふと「今日は何をしよう…」と考えた。

3か月前、服役を終えて出所したアレンとディーン。アメリカに帰ると言ったアレンに、日本で一緒に暮らさないかと誘ったのはディーンだった。ディーンは、出所したら義理の息子であるアキラと暮らす約束をしており、アレンは「アキラがいいなら…」と応じた。アキラはすぐに快諾し、ディーンは喜んでアレンを迎え入れた。しかし、アレンは日本語がほとんどわからない上に、家事もできず、仕事もない状態だった。

「これじゃ、まるで俺はディーンのヒモじゃないか…」
アレンはため息をつく。
「ディーンは『何も心配しなくていい』って言ってくれるけど…」

アレンはずっとバンドをやってきて、歌うことしかできない。自分の無力さと、ディーンに頼っている状況に苛立ちを感じていた。それでも、ディーンとアキラとの生活には、これまで感じたことのない穏やかな気持ちがあった。
「この気持ちは何だろう。すごく温かい…」

朝食の皿を片付けると、せめて掃除くらいはしようとルンバのスイッチを入れた。しかし、しばらくするとエラーのアナウンスが鳴った。床を見ると、ディーンのスマホが落ちていたのだ。
「スマホ忘れてる…」
アレンはそれを拾い、ディーンの職場まで届けに行くことにした。

ディーンの職場は、家から歩いて15分ほどのところにある、下北沢駅前の音楽学校だ。以前その前を通ったとき、ディーンがここで働き始めたと言っていたので、アレンも場所は把握していた。

ガラス張りの建物の中を覗くと、ディーンが若くてきれいな女性と楽しそうに談笑しているのが目に入った。女性はディーンに気があるのか、プレゼントらしき紙袋を渡し、ディーンも笑顔でそれを受け取っていた。アレンはその光景を見て、なぜかイラッとしたが、その理由はよくわからなかった。

とにかくスマホを届けようと、アレンは意を決して自動ドアを通り、中に入った。日本語が話せないアレンは、受付の女の子に英語で用件を伝えた。すぐにディーンが呼ばれ、彼は驚いた様子でアレンを見た。

「アレン…!わざわざ届けてくれたのか?ありがとう!」

「ああ…ないと困るだろうと思って。じゃあな」

そう言って帰ろうとするアレンをディーンは呼び止めた。

「ま、待って!俺、この後レッスン入ってなくてちょっと時間あるから、ちょっと散歩でもしないか?」
「…別にいいけど…」

ディーンは先程の女の子に、ちょっと出てくる、みたいなことを言って軽く手を振ってアレンと一緒に外に出た。

「だいぶ寒くなってきたなー」
「もう11月だからな」
外に出ると冷たい風が吹き荒んでいた。
クシュンっ。
アレンはくしゃみをした。
するとディーンが自分の上着をサッと脱いでアレンにかけてきた。
「おい、いいよ。お前半袖だろ?風邪ひいちゃうよ」
「俺は大丈夫。学校の中は暖かいしさ」

5分ほど歩いて小さな公園に入ると、ディーンは自動販売機で暖かいコーヒーを2つ買ってベンチに腰掛けた。
「あ、そうそう」
ディーンは紙袋からマフィンを取り出すと、コーヒーと一緒にアレンに渡した。
「はい、さっきスタッフの女の子がくれたんだ。手作りみたい」
アレンは手渡されたマフィンを眺めた。
マフィンはアイシングで綺麗にコーティングされ、アラザンやチョコスプレーがかかって見た目も可愛い出来栄えだ。
時間をかけて一生懸命作ったのがわかる。
「…いいのか?あの女の子はお前のために頑張って作ったんだろ」
「もちろん俺の分もあるからさ!家族と食べてくださいってさ」
(家族…家族か…。俺たちは家族なのか?)

アレンはディーンとあの若くて可愛い料理上手な女の子と、アキラが一緒に食卓を囲んでいるところを想像した。
ディーンにとってもアキラにとっても、ああいう女の子が家庭を支えてくれるのが一番なんだよな…。
俺がいることでディーンは結婚もできないしな…。それにしてもディーンは好きな子がいるのかな…。
「おーい、アレン。どうした?ボーっとして」
「あ、ああ…ちょっと考えごとして…」
ディーンはアレンの顔を優しい目で眺めてから、そろそろ行かなくちゃ、と言った。
「なぁ、ディーン。俺、仕事探そうと思ってるんだ…お前に負担かけちゃうの悪いし…アキラにもお金かかるだろ」
ディーンは笑って、
「大丈夫だよ。アレンは何も心配しないで好きなようにしなよ。」
と言った。

ディーンを見送ったアレンは複雑な気持ちだった。
俺の好きなように、とはなんなのだ?


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