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第2章 目立ちすぎる王都潜入
【第16話】 冒険者組合
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「そのダンスパーティーに乗じて、少女の姉君を救うでござる」
「いいねぇ、倒しがいのありそうな悪役じゃねぇか」
「…お主の方がよっぽど悪役でござるがな。
しかしまさかそのキングが盗賊を一網打尽にして村を助けるとは、どういう風の吹き回しでござるか?」
「別に、ただの気まぐれだ」
「またまた、流行りのダークヒーローでござるな?」
「うるせぇ、ちゃかすな」
アーサー王国城下外、大通り沿いにある冒険者組合。
キングとサカナはエントランスに置かれた丸机を囲んで座っていた。
冒険者組合は木造三階建ての洋館で、一階に受付と休憩室、依頼が貼られた掲示板がある。
サカナに言われて登録の手続きをして説明を聞き終えたキングは、ようやくずっと気になっていたことに触れた。
「…で、何でお前はそんな格好をしているんだ?」
キングは村にいたときの燕尾服から、服を着替えるように言われていた。
今は黒のタンクトップのボディスーツと、分厚い革のベルトにバックルやチャックがごてごてとついた、パラシュートパンツを履いている。
踏み抜き防止の鉄板がついた厚底のタクティカルブーツといい、鍛えられた筋肉が露わになった上半身と戦闘服の下半身といい、どれも黒一色で統一されてさながら傭兵のようだ。
そしてサカナはといえば、頭から二本の金角が生えた天色の大鎧甲冑を着ていた。
「この国には冒険者が多いと聞いたでござる。
拙者たちは部外者。
よって、それに近いミリタリーシリーズのコスチュームが最適だということでござる」
「お前だけ甲冑なわけだが?」
「拙者は元々、日本の妖怪種族になりたかったのでござる」
「あぁ、ゲーム初期は西洋モンスターしかいなかったから…ってそんなことはどうでもいい」
和風なコスチュームで上がっていた気分が落ちたサカナは、ミニチュアサイズのティーカップに入った紅茶を飲み干す。
ゲームでは定期的に開催されるイベントの度、種族ごとにデザインが異なる新しいコスチュームが配布されたり購入できるようになったりする。
どれもイベント限定ミッションへの高い効果が付随しているため、三人とも欠かさず購入していた。
とはいえキングとフォマは性格的に服装に興味がないので、機能的な面で購入をしている。
唯一、サカナだけがコレクションとして収集をしていた。
「しかし、改めて…見れば見るほど良いデザインでござる。
ちなみにこのコスチュームは要塞都市・ミネルヴァの崩壊イベントに桜田氏がデザインしたのもので、甲冑は国宝の鎧を元にデザインしたものでござるよ。
まさに冒険に行くにはうってつけの戦闘服でござる」
「……で、だとしても浮きまくってるわけだが?」
オタク魂に火が点いて喋りが止まらないサカナ。
キングはブラックコーヒーを飲み終えて空になったカップから視線を移して、不満をもらした。
さすが大都市唯一の冒険者組合だけあって、中は来た時から込み合っていた。
老若男女問わず、みな革靴に鎖帷子を着込んだ革服、腰には刀剣と似たような恰好をしている冒険者だ。
そこに時代も文化も違う男が二人現れれば、目立つのはもはや必然だ。
依頼を受けに来た者も、依頼を終えた者も、通りかがる人は全員キングとサカナを見て足を止めた。
「拙者がイケメンすぎるせいで申し訳ないでござる」
「馬鹿いえブス」
「嫉妬は醜いでござるよ」
だが、サカナの冗談はあながち間違いではなかった。
「話しにくいから」と兜を取り変身ポーションでツギハギを消したサカナと目つきの鋭いキングは、種類は違うがこの世界では美男子の顔つきだった。
さらにキャラクリエイトの仕様で、熟練の冒険者以上に肥大した筋肉と無駄のない身体を持っている。
それこそ自然界では決して生まれることのない、まるで空想上の見た目と言える域だ。
それを偶々見てしまった冒険者は、人生で一度あるかないかの光景に目を奪われる。
小さな声であっても、入り口から二階まであちらこちらで「イケメンだ…」「かっけぇ…」と少なくない感嘆が上がっている。
「うるせぇ、そもそも何で冒険者組合に来る必要があった?
いつの間にかフォマはいなくなるし、ハルトも村に残ってんだろ」
「キングは意外と人を見ているのでござるな」
「ほっとけ、職業病だ」
「冒険者組合に登録したのは、村長の依頼を受けるためでござるよ」
そう言って、サカナが手に握っていた紙を開いて見せる。
まだ新しい羊皮紙に書かれた文字には、大きく「盗賊討伐依頼」と書かれていた。
難易度は最低ランクのEから数えて二番目のDとあり、報酬は金貨二枚。
突発ミッションで盗賊を倒したときの報酬の半分もない金額に、キングは鼻で笑った。
「随分安いな」
「Dランクでは高い方でござるよ。
この世界でも危険な仕事は高給取りらしいでござるな」
「何だよ、金目当てか」
「正確には、この世界の通貨がどんなものか見たかったのでござる。
そこで村長から推薦を受けて、後からではあるが冒険者として依頼をこなしたということにしたのでござる。
冒険者組合も、冒険者の手柄にしてくれた方が何かと都合が良いでござろう?」
冒険者組合は、冒険者という荒くれものたちの管理を任されている独立機関である。
国家の支配を受けない彼らは依頼人からの依頼料によって運営されており、潤沢な資金により喧嘩に自信のあるものから武道を修めたものまで冒険者として受け入れるという。
中でも経験と実力の高さを認められたAランク冒険者はいつの時代も憧れの的であり、収入も高いらしい。
それだけに冒険者組合の信頼は高く、もしも依頼が遂行できなかった場合は依頼料を返金することになっている。
だが、冒険者組合の弱点はそこにある。
例えばもしも力のある者が冒険者組合に属せず依頼をこなしたとなれば、それは冒険者組合のメンツと将来に関わってくるのだ。
だからサカナは、向こうから接触される前に先手を打った。
「ははは、相変わらず腹黒いな」
「手続きは終わったでござるが、あとは…」
ドガンッ!
と爆発のような音と共に、冒険者組合の扉が開かれた。
サカナはキングの奥にそのまま視線をやり、キングは足を組んだまま頭をひっくり返して入口へ目を向ける。
そこには、フォマが立っていた。
ただしいつもの魔法使いの服装ではなく、肩から腕にかけた部分と下半身のワンピースが松葉色の襟付きのドッキングワンピースを着用していた。
上半身のシャツと胸元に垂れさがるタイは黒く、華奢な腰には太い革のベルトが巻かれ銀色の鎖がぶら下がっている。
ショートブーツはキングと同じミリタリーブーツだが、スカートの間から見える生足はなまめかしく周囲から視線を集めている。
そして、扉を蹴り開けたことで半径一メートル圏内には人がいなかった。
頭は動かさず大きな鴨の羽色の瞳に映る魔力だけでキングとサカナを発見したフォマは、つかつかと音を鳴らして近寄ると乱暴に空いた椅子に座った。
沈黙が流れる。
大きなため息をして、フォマは口を開いた。
「駄目でした」
「いいねぇ、倒しがいのありそうな悪役じゃねぇか」
「…お主の方がよっぽど悪役でござるがな。
しかしまさかそのキングが盗賊を一網打尽にして村を助けるとは、どういう風の吹き回しでござるか?」
「別に、ただの気まぐれだ」
「またまた、流行りのダークヒーローでござるな?」
「うるせぇ、ちゃかすな」
アーサー王国城下外、大通り沿いにある冒険者組合。
キングとサカナはエントランスに置かれた丸机を囲んで座っていた。
冒険者組合は木造三階建ての洋館で、一階に受付と休憩室、依頼が貼られた掲示板がある。
サカナに言われて登録の手続きをして説明を聞き終えたキングは、ようやくずっと気になっていたことに触れた。
「…で、何でお前はそんな格好をしているんだ?」
キングは村にいたときの燕尾服から、服を着替えるように言われていた。
今は黒のタンクトップのボディスーツと、分厚い革のベルトにバックルやチャックがごてごてとついた、パラシュートパンツを履いている。
踏み抜き防止の鉄板がついた厚底のタクティカルブーツといい、鍛えられた筋肉が露わになった上半身と戦闘服の下半身といい、どれも黒一色で統一されてさながら傭兵のようだ。
そしてサカナはといえば、頭から二本の金角が生えた天色の大鎧甲冑を着ていた。
「この国には冒険者が多いと聞いたでござる。
拙者たちは部外者。
よって、それに近いミリタリーシリーズのコスチュームが最適だということでござる」
「お前だけ甲冑なわけだが?」
「拙者は元々、日本の妖怪種族になりたかったのでござる」
「あぁ、ゲーム初期は西洋モンスターしかいなかったから…ってそんなことはどうでもいい」
和風なコスチュームで上がっていた気分が落ちたサカナは、ミニチュアサイズのティーカップに入った紅茶を飲み干す。
ゲームでは定期的に開催されるイベントの度、種族ごとにデザインが異なる新しいコスチュームが配布されたり購入できるようになったりする。
どれもイベント限定ミッションへの高い効果が付随しているため、三人とも欠かさず購入していた。
とはいえキングとフォマは性格的に服装に興味がないので、機能的な面で購入をしている。
唯一、サカナだけがコレクションとして収集をしていた。
「しかし、改めて…見れば見るほど良いデザインでござる。
ちなみにこのコスチュームは要塞都市・ミネルヴァの崩壊イベントに桜田氏がデザインしたのもので、甲冑は国宝の鎧を元にデザインしたものでござるよ。
まさに冒険に行くにはうってつけの戦闘服でござる」
「……で、だとしても浮きまくってるわけだが?」
オタク魂に火が点いて喋りが止まらないサカナ。
キングはブラックコーヒーを飲み終えて空になったカップから視線を移して、不満をもらした。
さすが大都市唯一の冒険者組合だけあって、中は来た時から込み合っていた。
老若男女問わず、みな革靴に鎖帷子を着込んだ革服、腰には刀剣と似たような恰好をしている冒険者だ。
そこに時代も文化も違う男が二人現れれば、目立つのはもはや必然だ。
依頼を受けに来た者も、依頼を終えた者も、通りかがる人は全員キングとサカナを見て足を止めた。
「拙者がイケメンすぎるせいで申し訳ないでござる」
「馬鹿いえブス」
「嫉妬は醜いでござるよ」
だが、サカナの冗談はあながち間違いではなかった。
「話しにくいから」と兜を取り変身ポーションでツギハギを消したサカナと目つきの鋭いキングは、種類は違うがこの世界では美男子の顔つきだった。
さらにキャラクリエイトの仕様で、熟練の冒険者以上に肥大した筋肉と無駄のない身体を持っている。
それこそ自然界では決して生まれることのない、まるで空想上の見た目と言える域だ。
それを偶々見てしまった冒険者は、人生で一度あるかないかの光景に目を奪われる。
小さな声であっても、入り口から二階まであちらこちらで「イケメンだ…」「かっけぇ…」と少なくない感嘆が上がっている。
「うるせぇ、そもそも何で冒険者組合に来る必要があった?
いつの間にかフォマはいなくなるし、ハルトも村に残ってんだろ」
「キングは意外と人を見ているのでござるな」
「ほっとけ、職業病だ」
「冒険者組合に登録したのは、村長の依頼を受けるためでござるよ」
そう言って、サカナが手に握っていた紙を開いて見せる。
まだ新しい羊皮紙に書かれた文字には、大きく「盗賊討伐依頼」と書かれていた。
難易度は最低ランクのEから数えて二番目のDとあり、報酬は金貨二枚。
突発ミッションで盗賊を倒したときの報酬の半分もない金額に、キングは鼻で笑った。
「随分安いな」
「Dランクでは高い方でござるよ。
この世界でも危険な仕事は高給取りらしいでござるな」
「何だよ、金目当てか」
「正確には、この世界の通貨がどんなものか見たかったのでござる。
そこで村長から推薦を受けて、後からではあるが冒険者として依頼をこなしたということにしたのでござる。
冒険者組合も、冒険者の手柄にしてくれた方が何かと都合が良いでござろう?」
冒険者組合は、冒険者という荒くれものたちの管理を任されている独立機関である。
国家の支配を受けない彼らは依頼人からの依頼料によって運営されており、潤沢な資金により喧嘩に自信のあるものから武道を修めたものまで冒険者として受け入れるという。
中でも経験と実力の高さを認められたAランク冒険者はいつの時代も憧れの的であり、収入も高いらしい。
それだけに冒険者組合の信頼は高く、もしも依頼が遂行できなかった場合は依頼料を返金することになっている。
だが、冒険者組合の弱点はそこにある。
例えばもしも力のある者が冒険者組合に属せず依頼をこなしたとなれば、それは冒険者組合のメンツと将来に関わってくるのだ。
だからサカナは、向こうから接触される前に先手を打った。
「ははは、相変わらず腹黒いな」
「手続きは終わったでござるが、あとは…」
ドガンッ!
と爆発のような音と共に、冒険者組合の扉が開かれた。
サカナはキングの奥にそのまま視線をやり、キングは足を組んだまま頭をひっくり返して入口へ目を向ける。
そこには、フォマが立っていた。
ただしいつもの魔法使いの服装ではなく、肩から腕にかけた部分と下半身のワンピースが松葉色の襟付きのドッキングワンピースを着用していた。
上半身のシャツと胸元に垂れさがるタイは黒く、華奢な腰には太い革のベルトが巻かれ銀色の鎖がぶら下がっている。
ショートブーツはキングと同じミリタリーブーツだが、スカートの間から見える生足はなまめかしく周囲から視線を集めている。
そして、扉を蹴り開けたことで半径一メートル圏内には人がいなかった。
頭は動かさず大きな鴨の羽色の瞳に映る魔力だけでキングとサカナを発見したフォマは、つかつかと音を鳴らして近寄ると乱暴に空いた椅子に座った。
沈黙が流れる。
大きなため息をして、フォマは口を開いた。
「駄目でした」
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