上 下
7 / 41
第1章 最強最悪PKチームの異世界転生

【第7話】 安い勧誘

しおりを挟む
 「なぁ、あんた、俺達の仲間にならないか?」
 「……」
 「仲間を殺したことならもういい。過ぎたことは俺も水に流そう。
 俺がボスに紹介をすれば、頭の座も夢じゃない。
 金には困らないし、この業界では強い奴が全てだ。
 あんたもその力を振るう場所を探しているんじゃないのか?」
 「っ!?」
 「……」
 だがその話を聞いて最も驚き、事の重大さを理解したのはキングでも盗賊団でもない。
 宿場村オーウェン、村長オーウェンだった。
 盗賊団を蹴散らした救世主の美青年が、盗賊団に勧誘されている。しかも否定も賛同もしない辺り、まんざらでもなさそう。
 そのように、オーウェンはオーウェンで勘違いをした。しかし、これは全くの見当違いでもなかった。
 キングはこの村を救う気もなければ、滅ぼす気もない。
 今の彼の立ち位置は、傍観しているだけの中立者か只の破壊者というのが相応しかった。
 それも長話に突き合わされ、気が立っている。足先で床をタップする間隔は、どんどん短くなっていく。

 (まずい、まずいぞ…!
 この美青年が奴等の仲間になれば、いよいよワシらは太刀打ちできなくなる…!
 どころか、騎士団もギルドも止められないかもしれん。
 せっかく、貯めていたへそくりをはたいて秘密裏にギルドに依頼をしてきたというのに…っ!
 これでは)

 これでは、村民が鏖殺される日も近い。
 盗賊に襲われて生活の種を奪われるだけに留まらず、命まで取られて千年以上続いた村が滅びる。
 家屋が倒壊して誰一人いなくなった村を想像して、村長は心臓がぎゅっと収縮するのを感じた。決して、老衰や持病によるものではない。

 (それだけは、それだけはいかん。
 たとえワシの命が無くなろうと、それだけは阻止しなくては)

 宿場村オーウェンの村長オーウェン。
 彼はこの日、一世一代の賭けに出た。
 「旅人どの!
 後生じゃ!
 どうか、こ奴等を倒してくれ!」
 「は、はぁ…!?
 こいつ…!
 殺されてぇのか!」
 突然生気を取り戻し暴れはじめた人質に、ファングは慌てる。
 一度立ち向かって返り討ちにされ、先ほどまでしょぼくれていた老人が、まるで勇気ある若者のように腕の中で抵抗している。
 経験上、こうした人間は武器を見てもひるまない。
 動揺した盗賊団の様子に、村長は一筋の光明を見出した。
 キングはキングで、何か面白い展開になってきたと腕を組んで観客気分で見守る。
 「ワシはどうなっても良い!
 だが村は!この村はワシらの大事な故郷なんじゃ!」
 「黙れ!」
 「ぐうぇっ!息がぁ…!」
 「…故郷ね、生憎俺には故郷なんてものはねぇな」
 実践で鍛え上げた腕で細くしわがれた首を締めあげられ、村長はあっさりと閉口する。
 それでもなお涙を浮かべた瞳で何かを訴えられたキングは、非情な返しをする。
 キングにとって故郷とは、自分の帰るべき場所でも温かみのある帰りたくなる場所でもない。
 逃れたくなるような現実の一部だった。
 返答を聞いて生気が消えうせ、俯く村長。
 ファングはほっとしたように笑い、続く言葉を聞いて耳を疑った。
 「だが、故郷から逃れられない奴の気持ちはわかるぜ。
 何もかも全部、ぶっ壊したくなるような気持ちだ!」
 とん、と何かが刺さる音がした。
 ファングの拘束が緩み、自由になった村長が顔を上げて音のする方を見る。
 両脇に立っていた盗賊の頭に、小刀が突き刺さっていた。
 昔、極東から来たギルドの人間が村に止まった際に見せたクナイという刀の形状に似ている。
 だが、硬い頭蓋骨に根本まで埋まったそれの全体像を把握することはできなかった。見上げると、ファングの頭にも同じものが刺さっている。
 ファングが辛うじて死なずに済んだのは、彼が持つアイテム“千年岩の欠片”の効果だった。着用者は即死攻撃を受けてもHPが必ず一になって残る。
 そんな伝説級のアイテムをあっさりとファングに渡したボスは、見た目に合わず慎重な人間だった。

 『本当に良いんですか?
 こんな神話に出てくるような高級品を、俺に渡してしまって』
 『いいのさ、危険な仕事もあるだろうし。
 僕にとってその程度のアイテムは惜しくもないからね。
 その代わり、ちゃんと働いてくれよ?』
 『まぁ、程々にやりますよ。
 逆らったら今度はあんたに殺されそうですし』
 『…もし手に負えない敵と遭遇した時は、すぐに僕のもとに来て報告をするんだ。
 いいね?』

 「な、何故…」
 「何故?逆に聞きてぇな。
 何でこの俺が、キングが、自分より弱い奴に従うと思ったんだぁ?」
 「な、舐ぁめるなぁ!!!」
 頭から倒れていく部下に、ようやくファングは自分の過ちを理解した。
 最初から答えは決まっていたのだ。
 彼は自分の思うように動き、殺したいときに殺したいものを殺す。
 野生で育ったモンスターが飼いならせないように、自由を奪おうとするものは問答無用で敵となる。
 ある日やってきて力だけで盗賊団を乗っ取った、ボスと同じ人間だ。
 もはや人質に意味はない。老人を突き飛ばして剣を振り上げると、隠し武器を放った丸腰のキングに襲い掛かる。 

 逃げる選択肢はなかった。

 「…あぁ、思い出した。
 お前ら、序盤のストーリーで出てくる雑魚キャラか」
 真正面から斬りかかった相手の声が、後ろから聞こえてきた。
 ファングは胸に違和感を覚えて見下ろす。心臓のある位置から、刃物が飛び出していた。
 キングが後ろから正確に急所を捕らえた刃を引き抜くと、支えを失った盗賊は胸から噴水のように血を吹き出しながら倒れ込む。
 突き飛ばされた村長が、息をのむ。
 「ひぃい…!?」

 『パッパカパーン!』

 ミッションが達成されたことにより、場に不釣り合いなファンファーレが鳴る。
 唯一生き残った村長は、助かったことを喜ぶ暇もなかった。
 自分を見下ろす強者と目も合わせず、自分は盗賊たちと同じ目に合わないよう、身体を低くして頭を地面につける。下半身を自分の体液で濡らしながら、うつぶせになって手をついて震える。
 それがキングたちの世界では「土下座」と呼ばれる服従を意味するものだと、彼は知らない。
 ましてや少ない報酬に苦虫を噛み潰したような顔をしたキングが、その姿を見て気をよくして、老い先短い命が救われたことも。
 「おい、村長とか言ったな。
 命は保障する、お前が知っていることを全て教えろ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

強かに生きよ

キシマニア
大衆娯楽
スカッとする小話集 注意 こちらは全てフィクションです。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...