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第1章 最強最悪PKチームの異世界転生
【第7話】 安い勧誘
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「なぁ、あんた、俺達の仲間にならないか?」
「……」
「仲間を殺したことならもういい。過ぎたことは俺も水に流そう。
俺がボスに紹介をすれば、頭の座も夢じゃない。
金には困らないし、この業界では強い奴が全てだ。
あんたもその力を振るう場所を探しているんじゃないのか?」
「っ!?」
「……」
だがその話を聞いて最も驚き、事の重大さを理解したのはキングでも盗賊団でもない。
宿場村オーウェン、村長オーウェンだった。
盗賊団を蹴散らした救世主の美青年が、盗賊団に勧誘されている。しかも否定も賛同もしない辺り、まんざらでもなさそう。
そのように、オーウェンはオーウェンで勘違いをした。しかし、これは全くの見当違いでもなかった。
キングはこの村を救う気もなければ、滅ぼす気もない。
今の彼の立ち位置は、傍観しているだけの中立者か只の破壊者というのが相応しかった。
それも長話に突き合わされ、気が立っている。足先で床をタップする間隔は、どんどん短くなっていく。
(まずい、まずいぞ…!
この美青年が奴等の仲間になれば、いよいよワシらは太刀打ちできなくなる…!
どころか、騎士団もギルドも止められないかもしれん。
せっかく、貯めていたへそくりをはたいて秘密裏にギルドに依頼をしてきたというのに…っ!
これでは)
これでは、村民が鏖殺される日も近い。
盗賊に襲われて生活の種を奪われるだけに留まらず、命まで取られて千年以上続いた村が滅びる。
家屋が倒壊して誰一人いなくなった村を想像して、村長は心臓がぎゅっと収縮するのを感じた。決して、老衰や持病によるものではない。
(それだけは、それだけはいかん。
たとえワシの命が無くなろうと、それだけは阻止しなくては)
宿場村オーウェンの村長オーウェン。
彼はこの日、一世一代の賭けに出た。
「旅人どの!
後生じゃ!
どうか、こ奴等を倒してくれ!」
「は、はぁ…!?
こいつ…!
殺されてぇのか!」
突然生気を取り戻し暴れはじめた人質に、ファングは慌てる。
一度立ち向かって返り討ちにされ、先ほどまでしょぼくれていた老人が、まるで勇気ある若者のように腕の中で抵抗している。
経験上、こうした人間は武器を見てもひるまない。
動揺した盗賊団の様子に、村長は一筋の光明を見出した。
キングはキングで、何か面白い展開になってきたと腕を組んで観客気分で見守る。
「ワシはどうなっても良い!
だが村は!この村はワシらの大事な故郷なんじゃ!」
「黙れ!」
「ぐうぇっ!息がぁ…!」
「…故郷ね、生憎俺には故郷なんてものはねぇな」
実践で鍛え上げた腕で細くしわがれた首を締めあげられ、村長はあっさりと閉口する。
それでもなお涙を浮かべた瞳で何かを訴えられたキングは、非情な返しをする。
キングにとって故郷とは、自分の帰るべき場所でも温かみのある帰りたくなる場所でもない。
逃れたくなるような現実の一部だった。
返答を聞いて生気が消えうせ、俯く村長。
ファングはほっとしたように笑い、続く言葉を聞いて耳を疑った。
「だが、故郷から逃れられない奴の気持ちはわかるぜ。
何もかも全部、ぶっ壊したくなるような気持ちだ!」
とん、と何かが刺さる音がした。
ファングの拘束が緩み、自由になった村長が顔を上げて音のする方を見る。
両脇に立っていた盗賊の頭に、小刀が突き刺さっていた。
昔、極東から来たギルドの人間が村に止まった際に見せたクナイという刀の形状に似ている。
だが、硬い頭蓋骨に根本まで埋まったそれの全体像を把握することはできなかった。見上げると、ファングの頭にも同じものが刺さっている。
ファングが辛うじて死なずに済んだのは、彼が持つアイテム“千年岩の欠片”の効果だった。着用者は即死攻撃を受けてもHPが必ず一になって残る。
そんな伝説級のアイテムをあっさりとファングに渡したボスは、見た目に合わず慎重な人間だった。
『本当に良いんですか?
こんな神話に出てくるような高級品を、俺に渡してしまって』
『いいのさ、危険な仕事もあるだろうし。
僕にとってその程度のアイテムは惜しくもないからね。
その代わり、ちゃんと働いてくれよ?』
『まぁ、程々にやりますよ。
逆らったら今度はあんたに殺されそうですし』
『…もし手に負えない敵と遭遇した時は、すぐに僕のもとに来て報告をするんだ。
いいね?』
「な、何故…」
「何故?逆に聞きてぇな。
何でこの俺が、キングが、自分より弱い奴に従うと思ったんだぁ?」
「な、舐ぁめるなぁ!!!」
頭から倒れていく部下に、ようやくファングは自分の過ちを理解した。
最初から答えは決まっていたのだ。
彼は自分の思うように動き、殺したいときに殺したいものを殺す。
野生で育ったモンスターが飼いならせないように、自由を奪おうとするものは問答無用で敵となる。
ある日やってきて力だけで盗賊団を乗っ取った、ボスと同じ人間だ。
もはや人質に意味はない。老人を突き飛ばして剣を振り上げると、隠し武器を放った丸腰のキングに襲い掛かる。
逃げる選択肢はなかった。
「…あぁ、思い出した。
お前ら、序盤のストーリーで出てくる雑魚キャラか」
真正面から斬りかかった相手の声が、後ろから聞こえてきた。
ファングは胸に違和感を覚えて見下ろす。心臓のある位置から、刃物が飛び出していた。
キングが後ろから正確に急所を捕らえた刃を引き抜くと、支えを失った盗賊は胸から噴水のように血を吹き出しながら倒れ込む。
突き飛ばされた村長が、息をのむ。
「ひぃい…!?」
『パッパカパーン!』
ミッションが達成されたことにより、場に不釣り合いなファンファーレが鳴る。
唯一生き残った村長は、助かったことを喜ぶ暇もなかった。
自分を見下ろす強者と目も合わせず、自分は盗賊たちと同じ目に合わないよう、身体を低くして頭を地面につける。下半身を自分の体液で濡らしながら、うつぶせになって手をついて震える。
それがキングたちの世界では「土下座」と呼ばれる服従を意味するものだと、彼は知らない。
ましてや少ない報酬に苦虫を噛み潰したような顔をしたキングが、その姿を見て気をよくして、老い先短い命が救われたことも。
「おい、村長とか言ったな。
命は保障する、お前が知っていることを全て教えろ」
「……」
「仲間を殺したことならもういい。過ぎたことは俺も水に流そう。
俺がボスに紹介をすれば、頭の座も夢じゃない。
金には困らないし、この業界では強い奴が全てだ。
あんたもその力を振るう場所を探しているんじゃないのか?」
「っ!?」
「……」
だがその話を聞いて最も驚き、事の重大さを理解したのはキングでも盗賊団でもない。
宿場村オーウェン、村長オーウェンだった。
盗賊団を蹴散らした救世主の美青年が、盗賊団に勧誘されている。しかも否定も賛同もしない辺り、まんざらでもなさそう。
そのように、オーウェンはオーウェンで勘違いをした。しかし、これは全くの見当違いでもなかった。
キングはこの村を救う気もなければ、滅ぼす気もない。
今の彼の立ち位置は、傍観しているだけの中立者か只の破壊者というのが相応しかった。
それも長話に突き合わされ、気が立っている。足先で床をタップする間隔は、どんどん短くなっていく。
(まずい、まずいぞ…!
この美青年が奴等の仲間になれば、いよいよワシらは太刀打ちできなくなる…!
どころか、騎士団もギルドも止められないかもしれん。
せっかく、貯めていたへそくりをはたいて秘密裏にギルドに依頼をしてきたというのに…っ!
これでは)
これでは、村民が鏖殺される日も近い。
盗賊に襲われて生活の種を奪われるだけに留まらず、命まで取られて千年以上続いた村が滅びる。
家屋が倒壊して誰一人いなくなった村を想像して、村長は心臓がぎゅっと収縮するのを感じた。決して、老衰や持病によるものではない。
(それだけは、それだけはいかん。
たとえワシの命が無くなろうと、それだけは阻止しなくては)
宿場村オーウェンの村長オーウェン。
彼はこの日、一世一代の賭けに出た。
「旅人どの!
後生じゃ!
どうか、こ奴等を倒してくれ!」
「は、はぁ…!?
こいつ…!
殺されてぇのか!」
突然生気を取り戻し暴れはじめた人質に、ファングは慌てる。
一度立ち向かって返り討ちにされ、先ほどまでしょぼくれていた老人が、まるで勇気ある若者のように腕の中で抵抗している。
経験上、こうした人間は武器を見てもひるまない。
動揺した盗賊団の様子に、村長は一筋の光明を見出した。
キングはキングで、何か面白い展開になってきたと腕を組んで観客気分で見守る。
「ワシはどうなっても良い!
だが村は!この村はワシらの大事な故郷なんじゃ!」
「黙れ!」
「ぐうぇっ!息がぁ…!」
「…故郷ね、生憎俺には故郷なんてものはねぇな」
実践で鍛え上げた腕で細くしわがれた首を締めあげられ、村長はあっさりと閉口する。
それでもなお涙を浮かべた瞳で何かを訴えられたキングは、非情な返しをする。
キングにとって故郷とは、自分の帰るべき場所でも温かみのある帰りたくなる場所でもない。
逃れたくなるような現実の一部だった。
返答を聞いて生気が消えうせ、俯く村長。
ファングはほっとしたように笑い、続く言葉を聞いて耳を疑った。
「だが、故郷から逃れられない奴の気持ちはわかるぜ。
何もかも全部、ぶっ壊したくなるような気持ちだ!」
とん、と何かが刺さる音がした。
ファングの拘束が緩み、自由になった村長が顔を上げて音のする方を見る。
両脇に立っていた盗賊の頭に、小刀が突き刺さっていた。
昔、極東から来たギルドの人間が村に止まった際に見せたクナイという刀の形状に似ている。
だが、硬い頭蓋骨に根本まで埋まったそれの全体像を把握することはできなかった。見上げると、ファングの頭にも同じものが刺さっている。
ファングが辛うじて死なずに済んだのは、彼が持つアイテム“千年岩の欠片”の効果だった。着用者は即死攻撃を受けてもHPが必ず一になって残る。
そんな伝説級のアイテムをあっさりとファングに渡したボスは、見た目に合わず慎重な人間だった。
『本当に良いんですか?
こんな神話に出てくるような高級品を、俺に渡してしまって』
『いいのさ、危険な仕事もあるだろうし。
僕にとってその程度のアイテムは惜しくもないからね。
その代わり、ちゃんと働いてくれよ?』
『まぁ、程々にやりますよ。
逆らったら今度はあんたに殺されそうですし』
『…もし手に負えない敵と遭遇した時は、すぐに僕のもとに来て報告をするんだ。
いいね?』
「な、何故…」
「何故?逆に聞きてぇな。
何でこの俺が、キングが、自分より弱い奴に従うと思ったんだぁ?」
「な、舐ぁめるなぁ!!!」
頭から倒れていく部下に、ようやくファングは自分の過ちを理解した。
最初から答えは決まっていたのだ。
彼は自分の思うように動き、殺したいときに殺したいものを殺す。
野生で育ったモンスターが飼いならせないように、自由を奪おうとするものは問答無用で敵となる。
ある日やってきて力だけで盗賊団を乗っ取った、ボスと同じ人間だ。
もはや人質に意味はない。老人を突き飛ばして剣を振り上げると、隠し武器を放った丸腰のキングに襲い掛かる。
逃げる選択肢はなかった。
「…あぁ、思い出した。
お前ら、序盤のストーリーで出てくる雑魚キャラか」
真正面から斬りかかった相手の声が、後ろから聞こえてきた。
ファングは胸に違和感を覚えて見下ろす。心臓のある位置から、刃物が飛び出していた。
キングが後ろから正確に急所を捕らえた刃を引き抜くと、支えを失った盗賊は胸から噴水のように血を吹き出しながら倒れ込む。
突き飛ばされた村長が、息をのむ。
「ひぃい…!?」
『パッパカパーン!』
ミッションが達成されたことにより、場に不釣り合いなファンファーレが鳴る。
唯一生き残った村長は、助かったことを喜ぶ暇もなかった。
自分を見下ろす強者と目も合わせず、自分は盗賊たちと同じ目に合わないよう、身体を低くして頭を地面につける。下半身を自分の体液で濡らしながら、うつぶせになって手をついて震える。
それがキングたちの世界では「土下座」と呼ばれる服従を意味するものだと、彼は知らない。
ましてや少ない報酬に苦虫を噛み潰したような顔をしたキングが、その姿を見て気をよくして、老い先短い命が救われたことも。
「おい、村長とか言ったな。
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