9 / 12
【第9話】鹿威の武器
しおりを挟む
北虎と瓜坊が離れたところで、沙流のキックで試合が再開する。
ボールは一角と斎条の間に落ちようとしていた。
ベンチで球磨が息を吐いて、ようやく力を抜いた。何かあったら止めに入ろうとしていたのであろうが、ここからではグラウンドの細かい様子や会話まではわからない。
「何やら、瓜坊が北虎と話していたようだな」
「球磨は気にしすぎだよ、そうそう簡単に殴り合いなんてないって。私達の代じゃあるまいし」
「…鰐口と野干なら、流血沙汰だ」
「ははは、入部したての時のことかな?それとも、全国大会直前のときのことかな?」
「あれは酷かったな、だが一番は先月の…あ」
「先月?何それ、私は知らないけど」
「……」
「キャプテン、後で話をしようか」
「……はい」
「そうこうしているうちに、試合が始まっちゃったじゃないか。
まぁ、別にノリに乗った青チームが優勢なのは変わらないけれど…」
鬼山と球磨が黙り込む。この日初めてのことだった。
鹿威が飛んだ。一角と斎条が取るよりも速く高く、仲間の狒々島の左肩に右手を乗せて真っすぐ上に飛ぶ。誰ともなく、
「…たっか」
と零す。
数分前、作戦を提案したのは鹿威の方だった。
「狒々島さ、相談があるんだけど」
「相談?」
「次のキック、沙流先輩は多分こっちに蹴ってくると思うんだ」
「それって、俺が…鰐口先輩に狙われてるから?」
「それもあると思うけど、本来沙流先輩は安全志向タイプだと思うんだ。
さっきのは猪爪先輩に頼まれて瓜坊に渡したからで、沙流先輩の意志じゃないと思う。
ほら、一瞬だけど瓜坊が猪爪先輩を抜いただろ?」
「うん」
「瓜坊と北虎は、先輩たちを抜いてトライをできる力がある。
沙流先輩からしたら、そんな奴らにボールを渡して前半みたいに流れに乗られるのは防ぎたいはずなんだ。
だから、来るとしたら俺たちの方。
でも、象蔵は前半で一角先輩と斎条先輩をぶっ飛ばしている。猿曳先輩に渡ったら瓜坊たちに繋がる。
つまり、次は赤チームの中でも俺と狒々島の間らへんに来るはず」
「……なるほど」
(同じフォワードの鹿威が、現状でも出来ることを模索している。怖がっている場合じゃないぞ、俺)
圧倒的な力を持つ先輩たちに怯えていた狒々島の思考が、クリアになっていく。
「それで、どうするの?何が策があるんでしょ?」
「あぁ、バックスがボールに触れない状況を打破したい。
こっからは、俺たちの仕事だ」
「…フォワードがボールを取って、バックスに繋ぐってことか」
「そのために、背中を貸してくれ。
大丈夫、この中だったら俺が一番高いところに手が届く」
「はは…頼りになるよ」
(まさか、文字通り背中を貸すとは思わなかったけど)
地面に着く前に、ボールを敵から奪う。単純な理屈だが、それを妨害する者はいない。
狒々島ですら、鹿威にこれだけの跳躍力があることを知らなかった。
地面に着くまで一角と斎条がタックルしてくることはない。鹿威は上空から周囲をぐるっと観察すると、取ったボールを後方へ回した。
「一鷹!」
「おうよ!」
一鷹がボールを持って前進する。鹿威はそれをサポートするために追う。
鬼山が指をパチンと鳴らした。
「そうか、瓜坊と鹿威は同じ中学だったっけ」
「それがどうしたのか?」
「瓜坊が何故あれほどのステップを身に着けられたのか、疑問だったんだ。
出身中学にはラグビー部がないようだし、ラグビーチームにも所属していない。
でも、答えはすぐそこにあったんだ。鹿威だよ」
「鹿威のあのリーチに対応するためのステップということか。
確かに、手足の長さや身長の有利はそう簡単に覆せない。
だが、ステップなら『相手にタックルもされない、スピードも力も関係ない』と」
「んふふ、お互いが強力な味方でもあると同時に敵でもある。まさにライバルと言うやつだね」
一鷹が斎条に捕まり、そこに狒々島が助けに入った。鹿威が一鷹からボールを受け取って猿曳に繋ぐと、猿曳の前には沙流と大狼が出る。猿曳の前には複数の選択肢あった。
(二人を抜くか、止められるまで前進するか、どうしようかな。
でも、万が一二人を抜いてしまうと俺がトライする流れになる。かといって、手を抜くと後輩たちの戦意を削ぐ…おまけに)
「全く、アピールが激しいなぁ。うちのウリボウと子猫ちゃんは」
猿曳の後方からは、「俺に渡せ」「僕にください」という無言の催促が矢のように飛んでくる。
一人は鬼気とした表情で、一人は餌を待つ忠犬のような表情で。
考えている間に、大狼が止めに向かう。
「ったく、監督も酷い人だ。
ほぉらお前ら!お望み通りボールだぞ!」
「っ!」
受け取ったのは、瓜坊だ。猪爪の顔がパッと明るくなる。
「来たな瓜坊!今度こそ…!?」
瓜坊は鹿威が作ったチャンスを受け取ると、一目散に斜めへ走り出した。
弧を描くように走る理由は明らかだ。正面には猪爪がいる。猪爪を避けて豹堂の元へ行くつもりだ。しかしそれを見て、猪爪の口から
「はぁ?」
嫌悪が漏れ出る。
大狼が猿曳にタックルした状態のまま、ビクッと反応する。感情を素直に表現する猪爪だが、怒りを露にするのは珍しい。それも、期待の裏返しからか今の瓜坊のプレーには心底失望したようだった。
せっかくのタイマンのチャンス、もう一度熱い戦いをする機会を逃げられたのだから。
「見損なったぜ…お前」
猪爪は、瓜坊を先回りするようにグラウンドを横切って追いかける。後ろからでもタックルを決めることは出来る。豹堂がプレッシャーを与えている間に、瓜坊へ飛び掛かった。
ラインの外へと押し出すタックル、豹堂がこぼれ球を拾ってもボールが外に出ても構わない。とにかく全力でタックルして、この鬱憤を晴らすことしか頭になかった。
「うぐぅ!」
タックルを食らった瓜坊のうめき声と共に、猪爪はボールがラインの内側へ投げられるのを見た。これなら、豹堂が拾ってくれると思いながら。
それがパスだとは、考えもしなかった。
「ふふっ」
「何笑ってやがる…?」
猪爪はそこで、瓜坊が何故ここまで走ってきたのかという疑問が浮かぶ。
ひょっとして瓜坊が避けたのは猪爪ではなく、後ろにいた沙流ではないかと。
青チームは各自が守るべき陣地を決めてカバーし合うスタンスだ。
もしあのままステップで猪爪を抜いても、瓜坊は沙流か豹堂にタックルされる可能性があった。ましてや猪爪を完全に抜くことができなければ、また服の裾だけでも猪爪は瓜坊を止める。
猿曳はトライができないので、パスをするなら北虎だ。それは前回と同じ流れであり、青チームが予想しやすい選択肢だった。
(またこの違和感だ、瓜坊が同じ轍を踏むとは思えない)
だがもしも、パスをしたとき猪爪も沙流も目の前にいなかったら?
北虎の相手が一人だけだったら?
猛虎の俊足に勝てる者はいない。
「北虎…!」
だから、瓜坊は豹堂の陣地へ走って沙流の手が届かない場所へ来た。そして、怒り狂った猪爪をラインの外側まで連れ出した。
全ては、北虎のコースを作るために。
「よく見てろって、そういうことかよチビ!」
(こんな乱暴なオフザボール、本当に取らせる気があんのかよ!)
北虎は瓜坊と互い違いになる形で、ボールに手を伸ばす。
回転がかかって不規則な動きをする速いボールだ。取ると言った手前落とすわけにはいかない。
だが、北虎の手が触れた瞬間にボールが弾かれる。さらに運悪く、ボールは前に飛び出た。
沙流の口角が上がり竜崎が笛を持つ。
「ノックオンだ、へたくそめ」
「ぐっ!」
『次は本気で投げる。
北虎、必ず取ってくれるんだよね?』
ボールが前に落ちる、今から手を伸ばしても間に合わない。
故に北虎は、
「俺を!舐めるんじゃっ!ねぇよ!」
ボールをさらに前へ蹴飛ばした。
「…え?」
沙流以外の青チームも、赤チームですら忘れていた。一鷹が自慢げに微笑む。
「さすが、元サッカー部のエース」
ラグビーでボールを前に進める手段は2つ。ボールを持って走るか、足で蹴るか。
そして、キックをするためにボールを前に落とすのは反則行為ではない。
「ちっ、素人のくせに運だけはいいやつだ…!」
沙流と豹堂、猪爪が急いで追う。
一度足を止めた沙流や瓜坊の機転で抜かれた豹堂を置いて、北虎はボールをさらに前へ前へ蹴り出して追う。ほぼ最高速度を維持して進む猛虎に追いつける者はいない。
その姿はラグビーというより、サッカーをしているかのようだった。
ゴールライン、最後に両手でボールを地面につける。北虎の脚がようやく止まった。
「やった!やったぁ!」
「っし…おい見たかチビィ!」
「うん、ちゃんと見てたよ!ナイス北虎!」
「え?お、おう…」
瓜坊は、能力を誇示してこようとする北虎に自ら駆け寄った。狂暴な北虎に近寄る物好きは他にいない。自分から近寄った北虎すらそれは予期していなかったようで、素っ頓狂な声が出る。
勇敢なウリボウは怖いもの知らずにも、両手を上げてハイタッチを求める。
「ははは!いぇーい!」
「はしゃぐな!ハイタッチなんかするかボケェ!」
「ね?ね?今度はちゃんと本気で投げたでしょ?」
「あぁ!?だから何だ!」
「次も全力で投げるよ、期待してるからね」
背中に乗ろうとする瓜坊を、腕を振るって振り落とす北虎。落とされた瓜坊は、兎のように跳ねながら北虎にまとわりつく。
怖がるでも尊敬するでもなく、不思議な距離感と感覚に北虎は首を傾げた。
鹿威と狒々島は、またいつ二人の雰囲気が悪くなるかもしれないと、ヒヤヒヤしながらやり取りを眺めていた。
依然として北虎の口は悪いが、瓜坊に悪意を持っているわけではなさそうだ。
つっけんどんな態度は、初めて見る生物に戸惑う猫に近いものがある。
「あの北虎がペースを乱されている…瓜坊のコミュ力は凄いな」
「瓜坊の純粋さに、どう接したら良いかわからないんだろ」
「でも、バックスってあぁいうさっぱりした性格の人多いよね。
勝ち負けの拘りが強くて、なおかつテンションが高いというか」
「あぁ、言われてみれば。フォワードより社交的だよね」
「……あ、うん。そういうこと」
狒々島は、後半一度も発言していない象蔵に目をやる。相変わらず、空を見上げてボーっとしている。
これはあくまで入部テスト。入部するかもわからない相手とそこまで交流を深める必要がないというのも、至極当然の感情だ。
ただでさえ象蔵はスポーツ推薦者で、入部は確約されているようなものだ。一方で、瓜坊や鹿威はそうではない。
「さぁ、もう一戦だ」
残り時間は少ない。一鷹がコンバージョンキックを入れる。
鬼山はこの試合が最後のプレーになると考え、顔を上げてふいに小さく笑いをこらえる。
「…もう誰を取るか決めたんじゃないの?」
「そのつもりだったが、試合を見ないと選手に失礼だと思ってな」
「ふふん、失礼か」
「あぁ、7人制ラグビーはただでさえ試合展開が速い。
後半の最終局番になれば、体力もほとんど残っていない。頭も回らない。
1年生がほぼ気力で勝負しているのに、試合に出ていない俺がそれを見ないわけにはいかないと思ってな」
「いいねぇ、キャプテンらしいことを言うようになったじゃないか。
さぁ、これ以上乗ってきた赤チームとこれ以上得点させる気はない青チーム。
最後に得点するのは誰かな?」
狒々島から猿曳にパスが回る。だが、瓜坊を警戒した沙流と猪爪がウィング方向へのパス経路を塞ぎにかかる。
猿曳はできるだけ前進してから、後方の一鷹にボールを回した。
「小鳥ちゃん!」
「…一鷹です」
(相変わらずやりにくいな、この人は。というか、昔からそうだ)
一鷹と北虎、猿曳は同じ中学校出身だ。そして、一鷹は猿曳のラグビー部の後輩でもある。
一鷹はこの先輩の軽薄で意志が曖昧なところが苦手だった。スクラムハーフの猿曳は相手がフォワードでもバックスでも当たり前のように話しかけ、要望を出し、相手を操ってしまう。今もそうだ。
「いつまで自分の武器を隠す気?さっさといつものやってよ」
「…言われなくても」
(こうやって、良いように使われるから嫌なんだ。本当、苦手だなぁ)
ボールを手から離す。だがパスではない。ボールは真下にゆっくりと落ちていき、地面に触れて跳ねる。
利き脚を後ろに下げるように持ち上げる。
一鷹がやろうとしていることを理解した沙流が、叫んだ。
「誰かそいつを止めろ!」
「もう遅いっすよ」
一鷹がボールを蹴り飛ばした。
ボールは一鷹の正面に立つラグビーゴールへと吸い込まれていく。そのままポールの間と間を抜けて芝生に落ちた。
トライでもコンバージョンキックでもない、ラグビーのもう一つの得点方法。
直接ゴールをするドロップゴールだ。
「…ふぅ、」
そこで、試合終了のホイッスルが鳴り響く。
「ありがとうございました!」
24対42で青チームが勝利する。
試合が終わっても、赤チームと青チームの顔はお互いに暗かった。
猿曳について走り出しそうとした狒々島は、瓜坊を見てぎょっとする。瓜坊が両手で涙を拭いながら、目を真っ赤に腫らしていたからだ。
「…ぐすっ」
「え!?瓜坊泣いてるの!?」
「泣いでないっ!」
「どんだけ負けず嫌いなんだお前は…」
「笑うなよぉ!鹿威ぃ!」
「ほらほら、一年坊主ども!さっさとダウンに行くよ!」
ダウンが終わると、鬼山が赤チームを集めて前に出た。
1年生の顔を一人一人見れば、泣いている者もいれば疲れが顔に出ている者、余裕そうな者と様々だ。
個々の性格とプレイスタイルがありありと出た今回の試合結果に、鬼山は満足げに笑った。
「とりあえず、入部テストお疲れ様でした。
予想以上に高レベルの試合が見ることが出来、嬉しく思います」
「……」
「ラグビーは試合が終わればノーサイド、つまり試合結果に関わらず敵味方共に交流をするんですが。
我々はこれから審査があるので、先輩たちとの交流は後日入部テストの合格者で別の機会を用意します。
合否は後日直接伝えに…」
「なぁ、審査ってのはどうやんだ?まさか、ここまでやって決まってないわけないよな」
鬼山の話を遮った北虎を、竜崎が蛇のように睨みつけた。しかし、質問の内容までは非常識ではない。他にも何人かがソワソワと身体を動かしており、説明を聞きたがっているようだ。
「…そうだね、もう話してもいいかな。
審査は私とキャプテンの球磨、青チームと、赤チームの猿曳で行います。
やり方は単純明快。自分がチームに欲しいと思った選手に投票して、二人以上に欲しいと思われたら合格!
審査基準は、今のチームを強くできる見込みがあるかどうかです。だからフィジカルはもちろんとして、協調性・主体性も重要になります」
「はっ!二人以上か、そんなん余裕で…」
「ただし、投票数以上の人数から反対があった場合は不合格にします」
「……」
「とにかく、今日はよく休んで疲れを取ること。結果は一週間以内に知らせます」
ボールは一角と斎条の間に落ちようとしていた。
ベンチで球磨が息を吐いて、ようやく力を抜いた。何かあったら止めに入ろうとしていたのであろうが、ここからではグラウンドの細かい様子や会話まではわからない。
「何やら、瓜坊が北虎と話していたようだな」
「球磨は気にしすぎだよ、そうそう簡単に殴り合いなんてないって。私達の代じゃあるまいし」
「…鰐口と野干なら、流血沙汰だ」
「ははは、入部したての時のことかな?それとも、全国大会直前のときのことかな?」
「あれは酷かったな、だが一番は先月の…あ」
「先月?何それ、私は知らないけど」
「……」
「キャプテン、後で話をしようか」
「……はい」
「そうこうしているうちに、試合が始まっちゃったじゃないか。
まぁ、別にノリに乗った青チームが優勢なのは変わらないけれど…」
鬼山と球磨が黙り込む。この日初めてのことだった。
鹿威が飛んだ。一角と斎条が取るよりも速く高く、仲間の狒々島の左肩に右手を乗せて真っすぐ上に飛ぶ。誰ともなく、
「…たっか」
と零す。
数分前、作戦を提案したのは鹿威の方だった。
「狒々島さ、相談があるんだけど」
「相談?」
「次のキック、沙流先輩は多分こっちに蹴ってくると思うんだ」
「それって、俺が…鰐口先輩に狙われてるから?」
「それもあると思うけど、本来沙流先輩は安全志向タイプだと思うんだ。
さっきのは猪爪先輩に頼まれて瓜坊に渡したからで、沙流先輩の意志じゃないと思う。
ほら、一瞬だけど瓜坊が猪爪先輩を抜いただろ?」
「うん」
「瓜坊と北虎は、先輩たちを抜いてトライをできる力がある。
沙流先輩からしたら、そんな奴らにボールを渡して前半みたいに流れに乗られるのは防ぎたいはずなんだ。
だから、来るとしたら俺たちの方。
でも、象蔵は前半で一角先輩と斎条先輩をぶっ飛ばしている。猿曳先輩に渡ったら瓜坊たちに繋がる。
つまり、次は赤チームの中でも俺と狒々島の間らへんに来るはず」
「……なるほど」
(同じフォワードの鹿威が、現状でも出来ることを模索している。怖がっている場合じゃないぞ、俺)
圧倒的な力を持つ先輩たちに怯えていた狒々島の思考が、クリアになっていく。
「それで、どうするの?何が策があるんでしょ?」
「あぁ、バックスがボールに触れない状況を打破したい。
こっからは、俺たちの仕事だ」
「…フォワードがボールを取って、バックスに繋ぐってことか」
「そのために、背中を貸してくれ。
大丈夫、この中だったら俺が一番高いところに手が届く」
「はは…頼りになるよ」
(まさか、文字通り背中を貸すとは思わなかったけど)
地面に着く前に、ボールを敵から奪う。単純な理屈だが、それを妨害する者はいない。
狒々島ですら、鹿威にこれだけの跳躍力があることを知らなかった。
地面に着くまで一角と斎条がタックルしてくることはない。鹿威は上空から周囲をぐるっと観察すると、取ったボールを後方へ回した。
「一鷹!」
「おうよ!」
一鷹がボールを持って前進する。鹿威はそれをサポートするために追う。
鬼山が指をパチンと鳴らした。
「そうか、瓜坊と鹿威は同じ中学だったっけ」
「それがどうしたのか?」
「瓜坊が何故あれほどのステップを身に着けられたのか、疑問だったんだ。
出身中学にはラグビー部がないようだし、ラグビーチームにも所属していない。
でも、答えはすぐそこにあったんだ。鹿威だよ」
「鹿威のあのリーチに対応するためのステップということか。
確かに、手足の長さや身長の有利はそう簡単に覆せない。
だが、ステップなら『相手にタックルもされない、スピードも力も関係ない』と」
「んふふ、お互いが強力な味方でもあると同時に敵でもある。まさにライバルと言うやつだね」
一鷹が斎条に捕まり、そこに狒々島が助けに入った。鹿威が一鷹からボールを受け取って猿曳に繋ぐと、猿曳の前には沙流と大狼が出る。猿曳の前には複数の選択肢あった。
(二人を抜くか、止められるまで前進するか、どうしようかな。
でも、万が一二人を抜いてしまうと俺がトライする流れになる。かといって、手を抜くと後輩たちの戦意を削ぐ…おまけに)
「全く、アピールが激しいなぁ。うちのウリボウと子猫ちゃんは」
猿曳の後方からは、「俺に渡せ」「僕にください」という無言の催促が矢のように飛んでくる。
一人は鬼気とした表情で、一人は餌を待つ忠犬のような表情で。
考えている間に、大狼が止めに向かう。
「ったく、監督も酷い人だ。
ほぉらお前ら!お望み通りボールだぞ!」
「っ!」
受け取ったのは、瓜坊だ。猪爪の顔がパッと明るくなる。
「来たな瓜坊!今度こそ…!?」
瓜坊は鹿威が作ったチャンスを受け取ると、一目散に斜めへ走り出した。
弧を描くように走る理由は明らかだ。正面には猪爪がいる。猪爪を避けて豹堂の元へ行くつもりだ。しかしそれを見て、猪爪の口から
「はぁ?」
嫌悪が漏れ出る。
大狼が猿曳にタックルした状態のまま、ビクッと反応する。感情を素直に表現する猪爪だが、怒りを露にするのは珍しい。それも、期待の裏返しからか今の瓜坊のプレーには心底失望したようだった。
せっかくのタイマンのチャンス、もう一度熱い戦いをする機会を逃げられたのだから。
「見損なったぜ…お前」
猪爪は、瓜坊を先回りするようにグラウンドを横切って追いかける。後ろからでもタックルを決めることは出来る。豹堂がプレッシャーを与えている間に、瓜坊へ飛び掛かった。
ラインの外へと押し出すタックル、豹堂がこぼれ球を拾ってもボールが外に出ても構わない。とにかく全力でタックルして、この鬱憤を晴らすことしか頭になかった。
「うぐぅ!」
タックルを食らった瓜坊のうめき声と共に、猪爪はボールがラインの内側へ投げられるのを見た。これなら、豹堂が拾ってくれると思いながら。
それがパスだとは、考えもしなかった。
「ふふっ」
「何笑ってやがる…?」
猪爪はそこで、瓜坊が何故ここまで走ってきたのかという疑問が浮かぶ。
ひょっとして瓜坊が避けたのは猪爪ではなく、後ろにいた沙流ではないかと。
青チームは各自が守るべき陣地を決めてカバーし合うスタンスだ。
もしあのままステップで猪爪を抜いても、瓜坊は沙流か豹堂にタックルされる可能性があった。ましてや猪爪を完全に抜くことができなければ、また服の裾だけでも猪爪は瓜坊を止める。
猿曳はトライができないので、パスをするなら北虎だ。それは前回と同じ流れであり、青チームが予想しやすい選択肢だった。
(またこの違和感だ、瓜坊が同じ轍を踏むとは思えない)
だがもしも、パスをしたとき猪爪も沙流も目の前にいなかったら?
北虎の相手が一人だけだったら?
猛虎の俊足に勝てる者はいない。
「北虎…!」
だから、瓜坊は豹堂の陣地へ走って沙流の手が届かない場所へ来た。そして、怒り狂った猪爪をラインの外側まで連れ出した。
全ては、北虎のコースを作るために。
「よく見てろって、そういうことかよチビ!」
(こんな乱暴なオフザボール、本当に取らせる気があんのかよ!)
北虎は瓜坊と互い違いになる形で、ボールに手を伸ばす。
回転がかかって不規則な動きをする速いボールだ。取ると言った手前落とすわけにはいかない。
だが、北虎の手が触れた瞬間にボールが弾かれる。さらに運悪く、ボールは前に飛び出た。
沙流の口角が上がり竜崎が笛を持つ。
「ノックオンだ、へたくそめ」
「ぐっ!」
『次は本気で投げる。
北虎、必ず取ってくれるんだよね?』
ボールが前に落ちる、今から手を伸ばしても間に合わない。
故に北虎は、
「俺を!舐めるんじゃっ!ねぇよ!」
ボールをさらに前へ蹴飛ばした。
「…え?」
沙流以外の青チームも、赤チームですら忘れていた。一鷹が自慢げに微笑む。
「さすが、元サッカー部のエース」
ラグビーでボールを前に進める手段は2つ。ボールを持って走るか、足で蹴るか。
そして、キックをするためにボールを前に落とすのは反則行為ではない。
「ちっ、素人のくせに運だけはいいやつだ…!」
沙流と豹堂、猪爪が急いで追う。
一度足を止めた沙流や瓜坊の機転で抜かれた豹堂を置いて、北虎はボールをさらに前へ前へ蹴り出して追う。ほぼ最高速度を維持して進む猛虎に追いつける者はいない。
その姿はラグビーというより、サッカーをしているかのようだった。
ゴールライン、最後に両手でボールを地面につける。北虎の脚がようやく止まった。
「やった!やったぁ!」
「っし…おい見たかチビィ!」
「うん、ちゃんと見てたよ!ナイス北虎!」
「え?お、おう…」
瓜坊は、能力を誇示してこようとする北虎に自ら駆け寄った。狂暴な北虎に近寄る物好きは他にいない。自分から近寄った北虎すらそれは予期していなかったようで、素っ頓狂な声が出る。
勇敢なウリボウは怖いもの知らずにも、両手を上げてハイタッチを求める。
「ははは!いぇーい!」
「はしゃぐな!ハイタッチなんかするかボケェ!」
「ね?ね?今度はちゃんと本気で投げたでしょ?」
「あぁ!?だから何だ!」
「次も全力で投げるよ、期待してるからね」
背中に乗ろうとする瓜坊を、腕を振るって振り落とす北虎。落とされた瓜坊は、兎のように跳ねながら北虎にまとわりつく。
怖がるでも尊敬するでもなく、不思議な距離感と感覚に北虎は首を傾げた。
鹿威と狒々島は、またいつ二人の雰囲気が悪くなるかもしれないと、ヒヤヒヤしながらやり取りを眺めていた。
依然として北虎の口は悪いが、瓜坊に悪意を持っているわけではなさそうだ。
つっけんどんな態度は、初めて見る生物に戸惑う猫に近いものがある。
「あの北虎がペースを乱されている…瓜坊のコミュ力は凄いな」
「瓜坊の純粋さに、どう接したら良いかわからないんだろ」
「でも、バックスってあぁいうさっぱりした性格の人多いよね。
勝ち負けの拘りが強くて、なおかつテンションが高いというか」
「あぁ、言われてみれば。フォワードより社交的だよね」
「……あ、うん。そういうこと」
狒々島は、後半一度も発言していない象蔵に目をやる。相変わらず、空を見上げてボーっとしている。
これはあくまで入部テスト。入部するかもわからない相手とそこまで交流を深める必要がないというのも、至極当然の感情だ。
ただでさえ象蔵はスポーツ推薦者で、入部は確約されているようなものだ。一方で、瓜坊や鹿威はそうではない。
「さぁ、もう一戦だ」
残り時間は少ない。一鷹がコンバージョンキックを入れる。
鬼山はこの試合が最後のプレーになると考え、顔を上げてふいに小さく笑いをこらえる。
「…もう誰を取るか決めたんじゃないの?」
「そのつもりだったが、試合を見ないと選手に失礼だと思ってな」
「ふふん、失礼か」
「あぁ、7人制ラグビーはただでさえ試合展開が速い。
後半の最終局番になれば、体力もほとんど残っていない。頭も回らない。
1年生がほぼ気力で勝負しているのに、試合に出ていない俺がそれを見ないわけにはいかないと思ってな」
「いいねぇ、キャプテンらしいことを言うようになったじゃないか。
さぁ、これ以上乗ってきた赤チームとこれ以上得点させる気はない青チーム。
最後に得点するのは誰かな?」
狒々島から猿曳にパスが回る。だが、瓜坊を警戒した沙流と猪爪がウィング方向へのパス経路を塞ぎにかかる。
猿曳はできるだけ前進してから、後方の一鷹にボールを回した。
「小鳥ちゃん!」
「…一鷹です」
(相変わらずやりにくいな、この人は。というか、昔からそうだ)
一鷹と北虎、猿曳は同じ中学校出身だ。そして、一鷹は猿曳のラグビー部の後輩でもある。
一鷹はこの先輩の軽薄で意志が曖昧なところが苦手だった。スクラムハーフの猿曳は相手がフォワードでもバックスでも当たり前のように話しかけ、要望を出し、相手を操ってしまう。今もそうだ。
「いつまで自分の武器を隠す気?さっさといつものやってよ」
「…言われなくても」
(こうやって、良いように使われるから嫌なんだ。本当、苦手だなぁ)
ボールを手から離す。だがパスではない。ボールは真下にゆっくりと落ちていき、地面に触れて跳ねる。
利き脚を後ろに下げるように持ち上げる。
一鷹がやろうとしていることを理解した沙流が、叫んだ。
「誰かそいつを止めろ!」
「もう遅いっすよ」
一鷹がボールを蹴り飛ばした。
ボールは一鷹の正面に立つラグビーゴールへと吸い込まれていく。そのままポールの間と間を抜けて芝生に落ちた。
トライでもコンバージョンキックでもない、ラグビーのもう一つの得点方法。
直接ゴールをするドロップゴールだ。
「…ふぅ、」
そこで、試合終了のホイッスルが鳴り響く。
「ありがとうございました!」
24対42で青チームが勝利する。
試合が終わっても、赤チームと青チームの顔はお互いに暗かった。
猿曳について走り出しそうとした狒々島は、瓜坊を見てぎょっとする。瓜坊が両手で涙を拭いながら、目を真っ赤に腫らしていたからだ。
「…ぐすっ」
「え!?瓜坊泣いてるの!?」
「泣いでないっ!」
「どんだけ負けず嫌いなんだお前は…」
「笑うなよぉ!鹿威ぃ!」
「ほらほら、一年坊主ども!さっさとダウンに行くよ!」
ダウンが終わると、鬼山が赤チームを集めて前に出た。
1年生の顔を一人一人見れば、泣いている者もいれば疲れが顔に出ている者、余裕そうな者と様々だ。
個々の性格とプレイスタイルがありありと出た今回の試合結果に、鬼山は満足げに笑った。
「とりあえず、入部テストお疲れ様でした。
予想以上に高レベルの試合が見ることが出来、嬉しく思います」
「……」
「ラグビーは試合が終わればノーサイド、つまり試合結果に関わらず敵味方共に交流をするんですが。
我々はこれから審査があるので、先輩たちとの交流は後日入部テストの合格者で別の機会を用意します。
合否は後日直接伝えに…」
「なぁ、審査ってのはどうやんだ?まさか、ここまでやって決まってないわけないよな」
鬼山の話を遮った北虎を、竜崎が蛇のように睨みつけた。しかし、質問の内容までは非常識ではない。他にも何人かがソワソワと身体を動かしており、説明を聞きたがっているようだ。
「…そうだね、もう話してもいいかな。
審査は私とキャプテンの球磨、青チームと、赤チームの猿曳で行います。
やり方は単純明快。自分がチームに欲しいと思った選手に投票して、二人以上に欲しいと思われたら合格!
審査基準は、今のチームを強くできる見込みがあるかどうかです。だからフィジカルはもちろんとして、協調性・主体性も重要になります」
「はっ!二人以上か、そんなん余裕で…」
「ただし、投票数以上の人数から反対があった場合は不合格にします」
「……」
「とにかく、今日はよく休んで疲れを取ること。結果は一週間以内に知らせます」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
彗星と遭う
皆川大輔
青春
【✨青春カテゴリ最高4位✨】
中学野球世界大会で〝世界一〟という称号を手にした。
その時、投手だった空野彗は中学生ながら152キロを記録し、怪物と呼ばれた。
その時、捕手だった武山一星は全試合でマスクを被ってリードを、打っては四番とマルチの才能を発揮し、天才と呼ばれた。
突出した実力を持っていながら世界一という実績をも手に入れた二人は、瞬く間にお茶の間を賑わせる存在となった。
もちろん、新しいスターを常に欲している強豪校がその卵たる二人を放っておく訳もなく。
二人の元には、多数の高校からオファーが届いた――しかし二人が選んだのは、地元埼玉の県立高校、彩星高校だった。
部員数は70名弱だが、その実は三年連続一回戦負けの弱小校一歩手前な崖っぷち中堅高校。
怪物は、ある困難を乗り越えるためにその高校へ。
天才は、ある理由で野球を諦めるためにその高校へ入学した。
各々の別の意思を持って選んだ高校で、本来会うはずのなかった運命が交差する。
衝突もしながら協力もし、共に高校野球の頂へ挑む二人。
圧倒的な実績と衝撃的な結果で、二人は〝彗星バッテリー〟と呼ばれるようになり、高校野球だけではなく野球界を賑わせることとなる。
彗星――怪しげな尾と共に現れるそれは、ある人には願いを叶える吉兆となり、ある人には夢を奪う凶兆となる。
この物語は、そんな彗星と呼ばれた二人の少年と、人を惑わす光と遭ってしまった人達の物語。
☆
第一部表紙絵制作者様→紫苑*Shion様《https://pixiv.net/users/43889070》
第二部表紙絵制作者様→和輝こころ様《https://twitter.com/honeybanana1》
第三部表紙絵制作者様→NYAZU様《https://skima.jp/profile?id=156412》
登場人物集です→https://jiechuandazhu.webnode.jp/%e5%bd%97%e6%98%9f%e3%81%a8%e9%81%ad%e3%81%86%e3%80%90%e7%99%bb%e5%a0%b4%e4%ba%ba%e7%89%a9%e3%80%91/
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる