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【第7話】北虎の過去
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バックスとフォワードでは、根本的に役割が違う。
身体の大きさと筋肉を生かして敵を食い止め陣地を押し進めるフォワードと、スピードとステップを駆使して敵の間を抜け得点するバックス。役割の違いからチーム内でもフォワードとバックスが揉めることは少なくない。
「うぅう…!」
(フォワードは裏方仕事、トライをするバックスより目立たないのは仕方ない。
でも、中にはいるんだ。こいつのためなら、体張ってボールを取ってやれるってプレイヤーが)
「っ!」
一鷹はボールを入れるタイミングを探ってから、ボールを投げ入れた。
ベンチの球磨と鬼山が目を凝らす。
「球磨、今のって」
「あぁ、やはり7人制のスクラムは何と言うか、華がないな。
もっとこう、がっしりとチーム全員で押し合う感じが欲しいというか、物足りないというか」
「それはいいから、それより見た?」
「一鷹が焦って投げたことか?」
「いや、赤チームがうちの選手の猛攻を耐えている」
それでも徐々に、ゆっくりと赤チームは青チームに力負けしていく。
単純な話で、1年生に2年生に押し勝てるような力はない。しかし、その状況でどれだけ力を出せるかで戦局は大きく変わる。
例えば相手との力量差を思い知れば、戦意は喪失し身体は強張っていく。
緊張した身体はプレーの質を落とし、結果が悪くなればさらに身体は動かなくなって、そこからは負のスパイクルにはまるだけだ。
鰐口はスクラムを解いた後、1年生がどれだけ戦意を喪失するかを想像して笑みを浮かべていた。
「ぎゃはっ…」
(と、思ってたんだがな)
「ぐるるる…」
狒々島の決死の唸り声が聞こえる。
力負けしているのは、スクラムを組んでいる本人が一番よくわかっているはず。
だが力量差を思い知っても尚、寧ろなお狒々島の力は増していくばかりだった。
鹿威の脚の間からボールが出る。それを拾おうと駆け出す一鷹。大狼がそれに気づいた。
「させるかよ年下風情が!」
「言うて一つしか変わらんでしょうが!」
一鷹がボールを投げて駆け出す同時に、大狼はそれを妨害するため自分の身体を前に押し入れた。
ボールを掴む余裕さえ与えない。だが一鷹もその程度では怯まない。
「ぬぉあ!?」
「下剋上じゃい!」
ボールは拾わない。半身だけを大狼の前へ出すと、そのままボールを蹴り飛ばした。
無闇に蹴り飛ばしたボールは、とても素人に受け止められるものではない。
一鷹はスピードと勢いの代わりに、方向だけは決めていた。これを受け止められるのは、一人しかいない。
「頼みましたよ!猿曳先輩!」
「先輩をこき使うんじゃないよ、小鳥ちゃん!」
ボールの落下地点ジャストに、猿曳が走って駆け付ける。そのままバウンドなしで受け止め、ゴールラインへ走る。
しかし、赤チームはゴールから大きく後退する。青チームが無理に追わなかったのも、そのためである。
猿曳に受け止めさせてから止めた方が、有利だと判断したのだ。青チームの沙流がやってくる。
「はぁ~、しんどぉ」
口では面倒くさがっているが、倒すには厄介な相手だ。何より、猿曳はトライを決めることができない。
「瓜坊!」
猿曳のパスを受け取った瓜坊は、自分のトイメンと目を合わせた。
「…猪爪先輩」
「今度は油断しねぇぞ、瓜坊」
前半は不意打ちという形で抜いたが、今回はそうもいかない。猪爪は後半戦が始まってから瓜坊を注視し警戒し観察し、動きを追っていた。一秒たりとも瓜坊を視界から外したことはない。
瓜坊は猪爪の向かって左側に豹堂がいて、右側は沙流がいなくなって出来た空きスペースがあることを確認した。
ただし、右後方からは沙流が迫ってきている。悠長にギャロップステップを踏む余裕はない。
切り返しを警戒した猪爪に対して、瓜坊は斜めに豹堂と猪爪の間へ走り出す。
身長165センチ、体重60キロの瓜坊と、身長177センチ、体重70キロの猪爪。
鰐口と狒々島以上に存在する物理的な差。遠くでそれを見ていた狒々島は、瓜坊と自分を重ねて唾をのむ。
だが、瓜坊は全身の毛を逆立ててニコリと笑った。
「光栄です!」
(ラグビーを本気でやってる人が、僕の事を相手にしてくれている!
こんなチャンス滅多にない。この高校に入学して、本当に良かった!)
前半の試合、瓜坊はずっと無視をされていた。フィジカルも技術も取るに足りない選手だと思われていたからだ。
それが今はどうか。猪爪は、本気で瓜坊に向き合っている。
猪爪は瓜坊の一挙手一投足に意識を向ける。
あえてスペースがない豹堂の方へゆっくりと向かっていく瓜坊。しかし、必ずどこかで切り返すはずだ。
大股で走り寄ってきた瓜坊の身体がふわりと浮かび上がった。着地したと思った瞬間、一気に脚の回転数が上がった。
(こいつ!?俺が切り返しを意識しているのをわかって、この土壇場で攪乱してきやがった!)
「っ!けど今度は釣られねぇぞ!」
瓜坊が切り返す前に進路を身体で塞ぐ。今度は釣られる前に仕留めに行く。鬼山が痛そうな顔をする。
「あのバカ…」
「捕まえたっ、あっ!?」
瓜坊は、そこで全ての勢いを殺して大きく飛び退いた。左右の切り返しではなく、前後の切り返し。
だが、気づいたところで猪爪の身体はもう重心が左についてしまっている。
目の前で瓜坊が斜めに空地へ走り抜ける。猪爪が絶叫した。
「くっそおぉお!」
鬼山が小さく唸る。
「やるね」
「俺は何が起きたか、さっぱりなんだが…なぜ猪爪は止められないんだ?一度は見破っただろう」
「見破ってはいたけど、切り返しを警戒するあまりスピードを落とし過ぎたね」
「それが?」
「優柔不断って奴だよ。タックルするにはスピードと距離が足りず、切り返すには重心も身体の向きもが相手に向きすぎていた。
車で言えばわかるかな?
向かい合った相手の車より早く右に曲がって道を塞いだつもりが、反対側の道を空けてしまったわけだ。
そこを突かれて追いかけるとなると、バックするにも右に切り替えるにも遅すぎる」
「……」
「まぁ、こればっかりは体験した選手じゃないと彼の凄さがわからないだろうね」
「……監督、」
「何だ」
「俺達、まだ未成年だから運転はできないんだが」
「あぁ、そうか」
「まるで運転したことがあるような言い方を…
あっ、まさか無免許運転を!?」
「いやいや、違う違う」
「あぁ、そうだよな。
良かっ…」
「私有地だから、運転したのは」
「え?」
「だから犯罪じゃないよ。
そんなことより、豹堂が動いた」
瓜坊が猪爪を抜くのは、悔しくも豹堂の想定していた。猫のようにしなやかな身体で瓜坊の足元に絡みつくと、両足を捕らえて自ら地面に転がる。タックルでは倒れなかった瓜坊だが、それ以上進むことができない。
そこに沙流が背後からタックルをして止めを刺す。
「瓜坊!パスだ!」
「チビ!よこせ!」
両側から猿曳と北虎が駆け付けて叫んだ。瓜坊は咄嗟に真横にパスをした。その方向にいたのは、北虎だった。
だが、ボールに伸ばした手が触れた瞬間。
「よっ、しっ!?」
北虎の予想を超えてボールは暴れ、後方へ落ちた。言葉にならない悲鳴が上がる。瓜坊が目を見張った。
「くっそ!」
すぐに手を伸ばすが、先に猪爪が奪い取った。
「待てゴラァ!」
「待つかよ、ばぁか!」
言葉を覚えたての幼児のような言い合いをしながら、猪爪が上がる。
そこに猿曳がタックルを仕掛け、ボールが沙流へ渡る。一鷹が止めにかかるが、さらに大狼がボールを受け取った。
北虎は、ついにボールが自分の手の届かない場所へ行ったことを悟った。
ベンチでは、球磨がほっとしたように息を吐いた。
「ようやく調子が出て来たな」
「全く、遅いくらいだよ」
「うらぁ!逆転じゃぁ!」
大狼のトライにより、後半最初の得点を青チームが取った。瓜坊が汗を体操着で拭って北虎に声をかける。
「北虎、どんまい」
「そうだぞ、子猫ちゃん…おっと」
(何つう気迫…こりゃ猛虎なんて言われて、人が寄り付かなくなるわけだよ)
誰も北虎にそれ以上話しかけることはなかった。般若のように顔を歪めて人でも殺しかねない勢いだ。
そんな顔になるくらい、ミスをした自分を責めているのか、取りづらいパスを放った瓜坊を憎んでいるのか、あるいは点差で負けたチーム全体への怒りか、予想が付かない。
「…ぶっ殺してやる」
「…子猫ちゃん」
(何か不穏なこと言ってるなぁ。
全く、地元の中学の後輩が来るっていうから楽しみにしてたのに。本当にとんだ問題児だよ)
『北虎、お前はもう来るな』
北虎の頭の中では、思い出したくない記憶が渦巻いていた。
中学校のサッカー部で、監督に呼び出されて部屋に入った瞬間に言われた言葉だ。監督は書類から目を離さず、挨拶でもするように言った。
見えない場所から、チームメイトの笑い声が聞こえる。
「ふざけんな…俺が誰よりも速かっただろうがっ」
北虎の暴力性は、先天的なものではない。
自分が周囲より足が速いと気づいた北虎がサッカー部に入ったのは、自然な流れだった。生まれ持った才能もあり小学校ではエースとして活躍し、中学校でも当然のようにサッカー部に入る。
監督は地域では名の知れた人物で、北虎の脚を見込んで1年生の時からレギュラー入りをさせた。
1年生唯一のレギュラー、練習もそれ以外の同学年とは異なってくる。それがチームメイトとの最初の溝を生んだ。
「なぁ、北虎って何でそんな脚速いの?」
「はぁ?知らん」
「知らんって、ほら何かしてるんじゃないの?」
「別に。特別なことはしてない」
「…そうかよ」
そして、サッカー以外に興味を示さない不器用な性格が災いした。3年生が卒業して部員が入れ変わると、さらに雲息が怪しくなる。
話しかけても誰も答えず、誰も話しかけようとしない。
「なぁ、次の練習って」
「……」
「なぁ、おい」
腫物扱いをされているのは、本人も自覚していた。しかし、それを解決する器用さも手段も持ち合わせていなかった。
そしてある寒い冬の日、北虎の✕デーがやってくる。練習を終えた北虎がロッカーに戻ると、そこにあるはずの財布が消えていた。
頭の中で張りつめていた糸が一本、プツンと千切れる音がした。
沙流が蹴り出したボールを、猪爪が受け取る。
猪爪は受け取ったボールをすぐに沙流に戻した。沙流はそれを数秒で斎条へと渡す。パスのペースを上げて相手を攪乱をしているのだ。
だが、やっとチャンスが巡ってきた斎条は調子に乗る。
「止めてみやがれ、一年坊主ども!」
「ふっ!」
「どぐはっ!?」
鹿威が斎条を止めにかかる。すぐに狒々島も加勢した。無様な悲鳴が響く。
「斎条てめぇ、捕まってんじゃねぇよ!」
斎条から鰐口にボールが移動する。猿曳が鰐口を止めようとする前に、ボールが沙流へ渡る。
同時に、赤チームの包囲網から沙流が抜ける。
「ははっ、何だ余裕じゃん」
単純な高速パスと連携、だが赤チームはそれを真似できない。走り去っていく沙流を一鷹と瓜坊が追いかける。
(すぐそこにいるのに、追いつけない!)
「ぐぅ!」
14-28で青チームとの差が開く。
コンバージョンキックが決まるのを見て、球磨は手元のボードに目を落とした。沙流が鰐口と狒々島の間にボールを蹴り落としても、目線を上げることはなかった。鬼山がボードを見下ろす。
「……もう試合は見ないの?」
「あぁ、必要ない。赤チームに勝機はないからな」
切って捨てるように、バッサリと言い切る球磨。
「狒々島が鰐口を止められないこと、北虎のパス技術が拙いことがバレたんだ。
青チームは得点をする定理がわかったも同然だ」
一人辺りの陣地を広く取ってロングパスでボールを回しながら、鰐口を中心に陣地を進める。
そして、赤チームが二人で止めにかかったところで空いたスペースをバックスの誰かが抜き去る。
先ほど同じ要領で、大狼がトライを決めた。それを見て球磨は意志を固くする。
「監督、俺は誰を取るか決めたぞ」
「予想はつくけど、誰?」
「象蔵と鹿威だ」
「あの中で最も背の高い二人か」
「今の獅子神高校ラグビー部に必要なのは、俺達2年についてこられる人材だ。
パスが未熟な素人もフィジカルで劣る経験者もいらない。
象蔵は経験も身体も申し分ないし、鹿威は経験で劣るが天性の運動神経と身長がある」
「狒々島は?」
「狒々島は及第点といったところだな。
次の学年を育てるためには必要な人材だが、とてもスタメンには…」
「ふぅん、次の学年を育てるため…ねぇ?」
「不満か?」
「いや、別に球磨の判断が間違っているとは思わないけどさ。
自分がそうだったのに、もう忘れちゃったのかと思って」
「…俺がそうだったのに?何のことだ」
「勝利に飢えた未熟な素人のことだよ。
猿曳なんかは、そういう人間の伸びしろの恐ろしさをよく知ってると思うけど。
少なくとも赤チームの選手たちは、まだ諦めてないみたいだよ」
息を切らしながら自分の立ち位置に戻り、ボールとトイメンの動きを追う。後半になっても、瓜坊と北虎は点を取ることを考えていた。
相手がどれだけ得点をしても、やることは変わらない。ただひたすらその時を、チャンスを待ち続ける。
そんな1年生の熱にあてられて、ボールを手の中で回転させる沙流に猪爪が話しかける。
「おい、沙流」
「……」
「おいって」
「…何?さっさと次のプレーに行きたいんだけど」
沙流がため息と共に振り返ると、目の座った猪爪が立っていた。
それを見て舌打ちをしたのは、キックの前のルーティンを邪魔されたからではない。
猪爪が余計なことを言い出そうとしているのがわかったからだ。
「次、瓜坊と俺の間にボールを落としてくれ」
「はぁ?やだよ、お前あの小っちゃいのにボール渡す気だろ」
後半の動きはハーフタイムに散々話し合っている。
それを差し置いて沙流に話しかけたということは、チームの意向に反した意見を言うつもりなのがわかりきっている。
沙流のポジションは、スタンドオフ。
仲間から離れた場所に立ち、戦局を見極めてゲームメイクする司令塔の役割だ。そして、試合を始めるキックを任されている。
(そうでなくても、猪爪が執着してんのはわかるっての)
「ちょっと抜かれたからって、むきになんなよ」
「ちょっとじゃねぇ、2回だ。しかも、俺はまだあいつを止められてない。
鰐口だって狒々島との間に落とすよう言ってただろ、何で俺はダメなんだ」
「それはチームの勝利に繋がる戦略的意見だったからだ。
わざわざ確率の低い賭けに出る必要はない。この話は、それで終わりだ」
背を向けて話を断ち切ろうとする沙流に、猪爪は話を続ける。
「…じゃあ、お前はあの1年生がこの入部テストで受かると思うか?」
「……」
「あいつが入部しなかったら、俺はラグビー部でもない人間に抜かれて終わることになる」
「……」
無視してボールを回転させる沙流に、猪爪は訴えかける。
「頼むよ、チャンスをくれ」
返事はなかった。
身体の大きさと筋肉を生かして敵を食い止め陣地を押し進めるフォワードと、スピードとステップを駆使して敵の間を抜け得点するバックス。役割の違いからチーム内でもフォワードとバックスが揉めることは少なくない。
「うぅう…!」
(フォワードは裏方仕事、トライをするバックスより目立たないのは仕方ない。
でも、中にはいるんだ。こいつのためなら、体張ってボールを取ってやれるってプレイヤーが)
「っ!」
一鷹はボールを入れるタイミングを探ってから、ボールを投げ入れた。
ベンチの球磨と鬼山が目を凝らす。
「球磨、今のって」
「あぁ、やはり7人制のスクラムは何と言うか、華がないな。
もっとこう、がっしりとチーム全員で押し合う感じが欲しいというか、物足りないというか」
「それはいいから、それより見た?」
「一鷹が焦って投げたことか?」
「いや、赤チームがうちの選手の猛攻を耐えている」
それでも徐々に、ゆっくりと赤チームは青チームに力負けしていく。
単純な話で、1年生に2年生に押し勝てるような力はない。しかし、その状況でどれだけ力を出せるかで戦局は大きく変わる。
例えば相手との力量差を思い知れば、戦意は喪失し身体は強張っていく。
緊張した身体はプレーの質を落とし、結果が悪くなればさらに身体は動かなくなって、そこからは負のスパイクルにはまるだけだ。
鰐口はスクラムを解いた後、1年生がどれだけ戦意を喪失するかを想像して笑みを浮かべていた。
「ぎゃはっ…」
(と、思ってたんだがな)
「ぐるるる…」
狒々島の決死の唸り声が聞こえる。
力負けしているのは、スクラムを組んでいる本人が一番よくわかっているはず。
だが力量差を思い知っても尚、寧ろなお狒々島の力は増していくばかりだった。
鹿威の脚の間からボールが出る。それを拾おうと駆け出す一鷹。大狼がそれに気づいた。
「させるかよ年下風情が!」
「言うて一つしか変わらんでしょうが!」
一鷹がボールを投げて駆け出す同時に、大狼はそれを妨害するため自分の身体を前に押し入れた。
ボールを掴む余裕さえ与えない。だが一鷹もその程度では怯まない。
「ぬぉあ!?」
「下剋上じゃい!」
ボールは拾わない。半身だけを大狼の前へ出すと、そのままボールを蹴り飛ばした。
無闇に蹴り飛ばしたボールは、とても素人に受け止められるものではない。
一鷹はスピードと勢いの代わりに、方向だけは決めていた。これを受け止められるのは、一人しかいない。
「頼みましたよ!猿曳先輩!」
「先輩をこき使うんじゃないよ、小鳥ちゃん!」
ボールの落下地点ジャストに、猿曳が走って駆け付ける。そのままバウンドなしで受け止め、ゴールラインへ走る。
しかし、赤チームはゴールから大きく後退する。青チームが無理に追わなかったのも、そのためである。
猿曳に受け止めさせてから止めた方が、有利だと判断したのだ。青チームの沙流がやってくる。
「はぁ~、しんどぉ」
口では面倒くさがっているが、倒すには厄介な相手だ。何より、猿曳はトライを決めることができない。
「瓜坊!」
猿曳のパスを受け取った瓜坊は、自分のトイメンと目を合わせた。
「…猪爪先輩」
「今度は油断しねぇぞ、瓜坊」
前半は不意打ちという形で抜いたが、今回はそうもいかない。猪爪は後半戦が始まってから瓜坊を注視し警戒し観察し、動きを追っていた。一秒たりとも瓜坊を視界から外したことはない。
瓜坊は猪爪の向かって左側に豹堂がいて、右側は沙流がいなくなって出来た空きスペースがあることを確認した。
ただし、右後方からは沙流が迫ってきている。悠長にギャロップステップを踏む余裕はない。
切り返しを警戒した猪爪に対して、瓜坊は斜めに豹堂と猪爪の間へ走り出す。
身長165センチ、体重60キロの瓜坊と、身長177センチ、体重70キロの猪爪。
鰐口と狒々島以上に存在する物理的な差。遠くでそれを見ていた狒々島は、瓜坊と自分を重ねて唾をのむ。
だが、瓜坊は全身の毛を逆立ててニコリと笑った。
「光栄です!」
(ラグビーを本気でやってる人が、僕の事を相手にしてくれている!
こんなチャンス滅多にない。この高校に入学して、本当に良かった!)
前半の試合、瓜坊はずっと無視をされていた。フィジカルも技術も取るに足りない選手だと思われていたからだ。
それが今はどうか。猪爪は、本気で瓜坊に向き合っている。
猪爪は瓜坊の一挙手一投足に意識を向ける。
あえてスペースがない豹堂の方へゆっくりと向かっていく瓜坊。しかし、必ずどこかで切り返すはずだ。
大股で走り寄ってきた瓜坊の身体がふわりと浮かび上がった。着地したと思った瞬間、一気に脚の回転数が上がった。
(こいつ!?俺が切り返しを意識しているのをわかって、この土壇場で攪乱してきやがった!)
「っ!けど今度は釣られねぇぞ!」
瓜坊が切り返す前に進路を身体で塞ぐ。今度は釣られる前に仕留めに行く。鬼山が痛そうな顔をする。
「あのバカ…」
「捕まえたっ、あっ!?」
瓜坊は、そこで全ての勢いを殺して大きく飛び退いた。左右の切り返しではなく、前後の切り返し。
だが、気づいたところで猪爪の身体はもう重心が左についてしまっている。
目の前で瓜坊が斜めに空地へ走り抜ける。猪爪が絶叫した。
「くっそおぉお!」
鬼山が小さく唸る。
「やるね」
「俺は何が起きたか、さっぱりなんだが…なぜ猪爪は止められないんだ?一度は見破っただろう」
「見破ってはいたけど、切り返しを警戒するあまりスピードを落とし過ぎたね」
「それが?」
「優柔不断って奴だよ。タックルするにはスピードと距離が足りず、切り返すには重心も身体の向きもが相手に向きすぎていた。
車で言えばわかるかな?
向かい合った相手の車より早く右に曲がって道を塞いだつもりが、反対側の道を空けてしまったわけだ。
そこを突かれて追いかけるとなると、バックするにも右に切り替えるにも遅すぎる」
「……」
「まぁ、こればっかりは体験した選手じゃないと彼の凄さがわからないだろうね」
「……監督、」
「何だ」
「俺達、まだ未成年だから運転はできないんだが」
「あぁ、そうか」
「まるで運転したことがあるような言い方を…
あっ、まさか無免許運転を!?」
「いやいや、違う違う」
「あぁ、そうだよな。
良かっ…」
「私有地だから、運転したのは」
「え?」
「だから犯罪じゃないよ。
そんなことより、豹堂が動いた」
瓜坊が猪爪を抜くのは、悔しくも豹堂の想定していた。猫のようにしなやかな身体で瓜坊の足元に絡みつくと、両足を捕らえて自ら地面に転がる。タックルでは倒れなかった瓜坊だが、それ以上進むことができない。
そこに沙流が背後からタックルをして止めを刺す。
「瓜坊!パスだ!」
「チビ!よこせ!」
両側から猿曳と北虎が駆け付けて叫んだ。瓜坊は咄嗟に真横にパスをした。その方向にいたのは、北虎だった。
だが、ボールに伸ばした手が触れた瞬間。
「よっ、しっ!?」
北虎の予想を超えてボールは暴れ、後方へ落ちた。言葉にならない悲鳴が上がる。瓜坊が目を見張った。
「くっそ!」
すぐに手を伸ばすが、先に猪爪が奪い取った。
「待てゴラァ!」
「待つかよ、ばぁか!」
言葉を覚えたての幼児のような言い合いをしながら、猪爪が上がる。
そこに猿曳がタックルを仕掛け、ボールが沙流へ渡る。一鷹が止めにかかるが、さらに大狼がボールを受け取った。
北虎は、ついにボールが自分の手の届かない場所へ行ったことを悟った。
ベンチでは、球磨がほっとしたように息を吐いた。
「ようやく調子が出て来たな」
「全く、遅いくらいだよ」
「うらぁ!逆転じゃぁ!」
大狼のトライにより、後半最初の得点を青チームが取った。瓜坊が汗を体操着で拭って北虎に声をかける。
「北虎、どんまい」
「そうだぞ、子猫ちゃん…おっと」
(何つう気迫…こりゃ猛虎なんて言われて、人が寄り付かなくなるわけだよ)
誰も北虎にそれ以上話しかけることはなかった。般若のように顔を歪めて人でも殺しかねない勢いだ。
そんな顔になるくらい、ミスをした自分を責めているのか、取りづらいパスを放った瓜坊を憎んでいるのか、あるいは点差で負けたチーム全体への怒りか、予想が付かない。
「…ぶっ殺してやる」
「…子猫ちゃん」
(何か不穏なこと言ってるなぁ。
全く、地元の中学の後輩が来るっていうから楽しみにしてたのに。本当にとんだ問題児だよ)
『北虎、お前はもう来るな』
北虎の頭の中では、思い出したくない記憶が渦巻いていた。
中学校のサッカー部で、監督に呼び出されて部屋に入った瞬間に言われた言葉だ。監督は書類から目を離さず、挨拶でもするように言った。
見えない場所から、チームメイトの笑い声が聞こえる。
「ふざけんな…俺が誰よりも速かっただろうがっ」
北虎の暴力性は、先天的なものではない。
自分が周囲より足が速いと気づいた北虎がサッカー部に入ったのは、自然な流れだった。生まれ持った才能もあり小学校ではエースとして活躍し、中学校でも当然のようにサッカー部に入る。
監督は地域では名の知れた人物で、北虎の脚を見込んで1年生の時からレギュラー入りをさせた。
1年生唯一のレギュラー、練習もそれ以外の同学年とは異なってくる。それがチームメイトとの最初の溝を生んだ。
「なぁ、北虎って何でそんな脚速いの?」
「はぁ?知らん」
「知らんって、ほら何かしてるんじゃないの?」
「別に。特別なことはしてない」
「…そうかよ」
そして、サッカー以外に興味を示さない不器用な性格が災いした。3年生が卒業して部員が入れ変わると、さらに雲息が怪しくなる。
話しかけても誰も答えず、誰も話しかけようとしない。
「なぁ、次の練習って」
「……」
「なぁ、おい」
腫物扱いをされているのは、本人も自覚していた。しかし、それを解決する器用さも手段も持ち合わせていなかった。
そしてある寒い冬の日、北虎の✕デーがやってくる。練習を終えた北虎がロッカーに戻ると、そこにあるはずの財布が消えていた。
頭の中で張りつめていた糸が一本、プツンと千切れる音がした。
沙流が蹴り出したボールを、猪爪が受け取る。
猪爪は受け取ったボールをすぐに沙流に戻した。沙流はそれを数秒で斎条へと渡す。パスのペースを上げて相手を攪乱をしているのだ。
だが、やっとチャンスが巡ってきた斎条は調子に乗る。
「止めてみやがれ、一年坊主ども!」
「ふっ!」
「どぐはっ!?」
鹿威が斎条を止めにかかる。すぐに狒々島も加勢した。無様な悲鳴が響く。
「斎条てめぇ、捕まってんじゃねぇよ!」
斎条から鰐口にボールが移動する。猿曳が鰐口を止めようとする前に、ボールが沙流へ渡る。
同時に、赤チームの包囲網から沙流が抜ける。
「ははっ、何だ余裕じゃん」
単純な高速パスと連携、だが赤チームはそれを真似できない。走り去っていく沙流を一鷹と瓜坊が追いかける。
(すぐそこにいるのに、追いつけない!)
「ぐぅ!」
14-28で青チームとの差が開く。
コンバージョンキックが決まるのを見て、球磨は手元のボードに目を落とした。沙流が鰐口と狒々島の間にボールを蹴り落としても、目線を上げることはなかった。鬼山がボードを見下ろす。
「……もう試合は見ないの?」
「あぁ、必要ない。赤チームに勝機はないからな」
切って捨てるように、バッサリと言い切る球磨。
「狒々島が鰐口を止められないこと、北虎のパス技術が拙いことがバレたんだ。
青チームは得点をする定理がわかったも同然だ」
一人辺りの陣地を広く取ってロングパスでボールを回しながら、鰐口を中心に陣地を進める。
そして、赤チームが二人で止めにかかったところで空いたスペースをバックスの誰かが抜き去る。
先ほど同じ要領で、大狼がトライを決めた。それを見て球磨は意志を固くする。
「監督、俺は誰を取るか決めたぞ」
「予想はつくけど、誰?」
「象蔵と鹿威だ」
「あの中で最も背の高い二人か」
「今の獅子神高校ラグビー部に必要なのは、俺達2年についてこられる人材だ。
パスが未熟な素人もフィジカルで劣る経験者もいらない。
象蔵は経験も身体も申し分ないし、鹿威は経験で劣るが天性の運動神経と身長がある」
「狒々島は?」
「狒々島は及第点といったところだな。
次の学年を育てるためには必要な人材だが、とてもスタメンには…」
「ふぅん、次の学年を育てるため…ねぇ?」
「不満か?」
「いや、別に球磨の判断が間違っているとは思わないけどさ。
自分がそうだったのに、もう忘れちゃったのかと思って」
「…俺がそうだったのに?何のことだ」
「勝利に飢えた未熟な素人のことだよ。
猿曳なんかは、そういう人間の伸びしろの恐ろしさをよく知ってると思うけど。
少なくとも赤チームの選手たちは、まだ諦めてないみたいだよ」
息を切らしながら自分の立ち位置に戻り、ボールとトイメンの動きを追う。後半になっても、瓜坊と北虎は点を取ることを考えていた。
相手がどれだけ得点をしても、やることは変わらない。ただひたすらその時を、チャンスを待ち続ける。
そんな1年生の熱にあてられて、ボールを手の中で回転させる沙流に猪爪が話しかける。
「おい、沙流」
「……」
「おいって」
「…何?さっさと次のプレーに行きたいんだけど」
沙流がため息と共に振り返ると、目の座った猪爪が立っていた。
それを見て舌打ちをしたのは、キックの前のルーティンを邪魔されたからではない。
猪爪が余計なことを言い出そうとしているのがわかったからだ。
「次、瓜坊と俺の間にボールを落としてくれ」
「はぁ?やだよ、お前あの小っちゃいのにボール渡す気だろ」
後半の動きはハーフタイムに散々話し合っている。
それを差し置いて沙流に話しかけたということは、チームの意向に反した意見を言うつもりなのがわかりきっている。
沙流のポジションは、スタンドオフ。
仲間から離れた場所に立ち、戦局を見極めてゲームメイクする司令塔の役割だ。そして、試合を始めるキックを任されている。
(そうでなくても、猪爪が執着してんのはわかるっての)
「ちょっと抜かれたからって、むきになんなよ」
「ちょっとじゃねぇ、2回だ。しかも、俺はまだあいつを止められてない。
鰐口だって狒々島との間に落とすよう言ってただろ、何で俺はダメなんだ」
「それはチームの勝利に繋がる戦略的意見だったからだ。
わざわざ確率の低い賭けに出る必要はない。この話は、それで終わりだ」
背を向けて話を断ち切ろうとする沙流に、猪爪は話を続ける。
「…じゃあ、お前はあの1年生がこの入部テストで受かると思うか?」
「……」
「あいつが入部しなかったら、俺はラグビー部でもない人間に抜かれて終わることになる」
「……」
無視してボールを回転させる沙流に、猪爪は訴えかける。
「頼むよ、チャンスをくれ」
返事はなかった。
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