勇者から逃亡した魔王は、北海道の片田舎から人生をやり直す

栗金団(くりきんとん)

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【第23話】少年の告白と、魔王軍の行軍

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まだ日が高いうちに祈生家を出たにもかかわらず、マトンが帰宅をしたのは日没後のことだった。
玄関の扉を開くと、エプロン姿の禅が出迎えた。
「ただいまー」
「おかえりマトン、随分と長く出かけてたね。嵐山くんとは話せた?」
「嵐山のせいで遅くなった。私がいない間に子猫は大きくなったか?」
「うーん、さすがにこの短時間で大きくはならないよ」
「いいや、昨日より体重が十グラム増えているんだ。すぐにタロウぐらい大きくなる」
「それは種族的に難しいんじゃない……?
そうだ、マトンに見せたいものがあるんだ。いいかな?」
「私に見せたいもの?何だ?おすそ分けか?」
「食べ物じゃないけど……ほら、ここに印があるでしょう?」
キッチンではおばあちゃんが夕食の仕上げをしている。豚肉が焼ける良い匂いがした。
禅が指差して見せたのは、居間の柱についた切り傷だった。
傷はマトンの腰の高さから頭の上まで一定の間隔で続いている。その上にはサインペンで書き込みがあった。
「……ゼン、ジュッサイ?」
「そう、これは僕が十歳のときの身長だよ。その次が十一歳のとき」
「おぉ!ということは!?」
「ここにあるのは、僕の身長を記録したものだよ」
「おぉ、おぉ、おぉ!なるほどな、身長とは一定にのびているわけではないのか!
どういう規則で成長するのだ?この辺りでは大きくのびているが、何があったんだ?」
「成長曲線っていうのがあって、睡眠時間とかでも変わるんだ。
詳しいことは忘れちゃったけど、あとで保健体育の教科書を貸そうか?読む?」
「読む読む!」
マトンは印と印の間を指の長さで測ったり、指の腹でなぞったりする。
禅はマトンが喜びはしゃぐ様子を、珍しく浮かない表情で見下ろしていた。
予想通り、すぐにマトンは禅の印の横にあるもう一つの傷と文字に気づく。
「むぅ?何だ?隣にも印があるぞ。
こっちは、小さいな……ハッサイ、ムギ?」
「……それはね、妹の身長だよ」
「妹?妹がいるのか?」
「うん。僕にはね、麦っていう妹がいたんだ」
「そうだったのか、妹は今どこにいるんだ?会ってみたい」
「もういないよ、いるとしたら……天国かな」
天国。知識はあるが、誰との会話でも一度も出たことはない言葉だった。
そのことに気を取られて、マトンは禅の表情と言葉数が乏しいことに気がつかなかった。
「天国……生前に善い行いをした人間が、死んだ後に行く場所か?それとも比喩か?」
「比喩じゃないよ。去年の夏、僕の両親と妹は交通事故で亡くなったんだ」
「交通事故?車に乗っているときに死んだのか?」
「そう。おばあちゃんと、お父さんとお母さんに僕と麦。家は五人家族だったんだ。
マトンは僕にとってもう家族だから、もっと早く伝えたかったんだけど。
ようやく心の準備ができた」
「……心の準備とは何だ?」
「あ、そっち?えっと、伝えるための心持ち?覚悟を決める感じ?
やっぱり、一年経っても家族の死は中々話せないと言うか、受け入れられなくて……」
「受け入れるって?例えば?」
「例えば?
えぇっと、例えばさ、朝起きたとき、一階に下りたらキッチンにお母さんとお父さんがいて、麦が椅子に座ってテレビを見ているような気がするんだ」
「死んだ人間がまだ生きているような気がするということか?」
「うっ、そう……かもしれない。
頭ではわかっているんだけど、もしかしたら三人はまだ生きているんじゃ……とか……」
「禅?……わっ、何で泣いてるんだ?」
禅の目から水滴が浮いては出て、また浮いては出て、ついには流れ落ちていく。
蛇口を捻ったように緩んだ涙腺から溢れ出した涙に、マトンは目を丸くする。
いくら観察しても記憶を探っても、禅が泣き出すような痛みも恐怖もこの場にはない。
目に見える原因が存在しない。思い当たる節が無い。
だから、マトンにとっては禅が突然泣き出したように思えた。
「あれ……あれ、あれ?おかしいな。僕、こんなつもりじゃ……」
「なっ、何でっ、そんな急に泣いて……」
「あぁ、もうこんなはずじゃなかったのに……!」
「あ、どこか痛いのか?お腹が空いたのか?」
「もうやだぁ!うぅ~~!」
「む、むぅ……に、肉、いや魚でも食べるか?猫、猫の肉球触るか?」
「うわぁ~~ん!」
「むぅ!?」
禅は顔を隠してしゃがみ込むと、感情的に泣き出す。
禅が取り乱す姿を見るのは初めてだった。
禅はいつも穏やかに笑っていて、どんな質問にも答えてくれる存在だった。それが今や会話も成り立たない。
ただし、観察しなくてもわかることがある。これは悲しみによる涙だ。
禅の泣き声を聞いて祖母が火を止める。
よたよたと歩いて来た祖母は、まずおろおろと禅の周りをまわるマトンの頭に、拳骨を食らわせた。
「……っ!?」
間抜けな音が響く。
痛みはないが唖然とするマトン。動揺していたことに加えて、殺意や悪意がないので反応できなかった。
怒られたのではなく𠮟られた。殴られた頭に両手を置いて抗議する。
「な、何をするっ!?」
「こらぁ、マトン。おめぇが禅を泣かしたんかぁ?」
「わ、私!?私のせいなのか!?」
「禅が優しいからって、調子乗って悪さしたなぁ?」
「調子に乗ったわけではない!私はただ質問をしただけで……」
「無自覚にいじめたんなら、一層質が悪い。反省しなさい」
「そんなことは……でも、言われてみれば他に原因が……私のせいなのか……?」
「ひぐっ、ひっく、うぁ~~!」
「おめぇもいつまでベソかいてんだぁ。いつになったら泣き虫を卒業すんだぁ?」
「だって、だってっ、思い出しちゃったんだもん……!」
禅は祖母に背中を摩られながら、慰めに来たタロウを抱きしめる。
涙とタロウの涎で、禅の顔はぐちゃぐちゃだ。自分で自分をコントロールできないのか、呼吸もめちゃくちゃだ。
けれどパニックになったときとは違い、少しずつ回復していく。
ようやく会話できるくらいに落ち着いた禅を見て、マトンは静かに息を吐き出す。
「……私のせいなのか、タロウ」
「わふっ、キューン、キューン」
マトンはその日、大きな教訓を得た。
死んだ人間のことはもう聞かない方がいい、禅が泣き出すから。

「……あれ?そもそも、何で禅が泣くとだめなんだ?」
月明かりも入り込まない蔵の中、マトンは畳の上に座り込んでいた。
脇には、読み終えた保健体育の教科書がある。
偵察に派遣した部下の報告を待ちながら、暇つぶしに自分の思考の矛盾を探る。
そろそろ敵が一堂に会する定例会が始まるはずだ。
「禅が悲しくて泣いているとわかったとき、私は不快感を覚えた。
そういえば、禅が不安を感じているとき、自分のことのように不安を感じた。
子猫が生まれて禅が喜んでいたときは、同じように嬉しくなったな。
これは共感というやつか?不思議と禅以外には感じないな」
生きている人間に質問をしないことには、この世界について学ぶことができない。
観察をして心の内を推測できても、答え合わせがいる。やはり活字の情報だけでは不十分だ。
だから誰が泣こうが、質問はするべきなのに。
思考を断ち切るように、眷属が己を呼ぶ声が頭に響く。
「……首切り馬か、何だ」
「敵の拠点である廃工場、第二海浜倉庫、鉤先アミューズセンターに到着。
廃工場を除いて、それぞれで虻蜂連合会の会合が始まりました」
「蛭田の情報通りだな」
「いつでも突入する準備はできております。どうぞご命令を」
「……少し待て」
「承知しました」
マトンは時々自分の行動に疑問を抱くことがある。
自分を殺そうとした相手ですら赦してしまう禅の思考に、共感できる日が来るのかと。
そもそも、魔族が人間の思考を理解することができるのかと。
元の世界では考えもしなかったことだ。
千年間、マトンはずっと本能の赴くままに行動していた。
あの日、最後の勇者に殺されかけるまでは。
『あの人たちが報われる世界であって欲しいんです』
「あの人たちが報われる世界、禅が報われる世界とは何だ」
嵐山がそれまでの生き方と異なる行動を取ったのは、そうすることで利益があるからだ。
それも大嫌いな自分ではなく、他者の利益になると確信したからだ。
嵐山が善意で行動することで得られるものとは何か。恐らく、目に見える金や権力、強さとは別のものだ。
あれはまるで、世界の理そのものが変えられるような口ぶりだった。
「よし、始めろ。計画通り、虻蜂連合会は解体する」

第二海浜倉庫。海沿いに一列になって並ぶ倉庫の影から、二人の人物の応酬が聞こえる。
「合図じゃな、妖精王」
「はぁ……だからぁ!ボク、何度も言ってますよね?その呼び方はやめてくださいって。
せっかく魔王様から頂いた新しい名前があるのに、いつになったら学習するんですか?」
「がははっ、そうじゃったな!これは失敬!ランプ殿。
拙者たち、共に勇者に大敗を喫した不覚人。ここは一つ協力をして雪辱を果たそうぞ」
「はい、サーロインさん。頑張って、魔王様に認めて頂きましょう!」
「うむ!ところで、あの扉は押戸か?引き戸か?」
「わかんないです。ひょっとして、上に押し上げるのでは?」
「なるほど、さすが妖精王……ではなく、ランプ殿。助かった」
「いえいえ、礼には及びません。では、ボクは裏口から奴らを狩ってきます」
「うむ、任せた。
しかし押し上げて開けるとは、ちんちんくりんな扉じゃあ!
拙者には人間の考えることはわからん!」
街灯の下に足を踏み入れ、優に2メートルを超す大男の姿が明らかになる。
通夜でしか見ないような黒無地に光沢のないブラックスーツと革靴。腕に嵌めた黒い数珠が歩くたびにジャラジャラと音を立てている。
耳まで裂けた大口で文句を言いながらも、剃刀の刃のように鋭い瞳には闘志が宿っている。
男は目当ての倉庫の前まで来ると、屋根に近い高さまである車両用搬入口のシャッターに手を掛ける。
そして同志に言われた通り引き上げる。当然、開錠されているはずもない。
下りた閂が音を立てて反抗する。しかし、男はそれでもなお上へ押し上げていく。
スラットがミシミシと徐々に徐々に歪んでいく。レールの両側から固定されていた留め具が変形する。
やがて金属が折れ飛ぶ音がして、シャッターは勢いよく開いた。
正面から堂々と強行突破をしてきた侵入者に、会合に参加していた幹部たちがどよめく。
「なんじゃ、滑りが悪いな。ホコリでも溜まっていたか?」
「うぉっ!?」
「何だ!?てめぇこの野郎!」
「カチコミか!?」
「さてと、今回は一人も逃せんのじゃったな。『鬼門結界(ヴァインケルン)』」
「おいゴラ、てめぇどこの組織のもんだ!
こんなことをして許されると思ってんのか!」
「がははっ!威勢が良いのがいるのぉ、楽しめそうじゃ!」
「虻蜂連合会に手を出したらどうなるのか、わかってんのか!?」
「『植物の種を芽吹かせる魔法(ヲールルカズラ)』」
「お前の組織も親兄弟もただじゃ済まなっ!?
いってぇ……くっそ、誰だよ。
引っかけたな……あ?植物?」
無謀にも最初に鬼に吠えた男は何かに右足を取られて、地面に額をぶつける。
倒れたまま振り返って、男は目を疑う。右足に、どこからかのびて来た植物のツルが絡みついていた。
ツルは脛と太腿の肉に食い込みながら、さらに微細な根を張っている。
「は?おい、待てよ……待て、待て待て!」
男が状況を飲み込むよりも早く、ツルが足に巻き付いたまま動き出す。
男はツルに身体を引きずられていく。咄嗟に全身に力を入れるが止まらない。
小学校の運動会、大綱引きで負けたときのことを思い出す。自分の意思とは関係なく圧倒的な力に引きずられる。
男は身体が進む先、ツルの根に目をやったことを後悔する。
倉庫の裏口では巨大な食虫植物が口を開いて男を待ちわびていた。
このまま行けばどうなるのか、容易に想像がつく。
「うわああぁぁ!止まれ!止まれって!ああぁぁ!?」
植物の横に年端も行かない少年が立っている。
どこぞの全寮制私立小学校の制服に身を包み、柔らかく丸みを帯びた膝を露出させながらサスペンダーベルトで手遊びをしている。
その顔は、不気味なほど整っていた。神々しさすら感じる場違いな存在と目が合う。
「た、助けて……」
「はははっ、変な顔!」
少年は一瞬だけ視線を下げると、真っ赤な舌を出して嘲笑する。
男の背後では爆発音と共に人間が紙風船のように宙を舞い、上空からも地面からも絶叫が響いていた。
血が雨のように降り注ぎ、濡れた床ではまともに走ることもできない。
しかし一歩倉庫を出れば、夜の倉庫街は魚が海面を跳ねたことがわかるほどに静まり返っていた。

鉤先アミューズセンター。
かつて複合型商業施設として賑わっていた百貨店は、しかし数キロ先に立てられたショッピングセンターとの競争に敗北し、今や一階は全て空きテナントとなっていた。
客を迎える店員もおらず、まだ営業中の店があるとはいえ、警備員を雇う金もない。
旧型のエレベータは部品を調達できず故障中のまま、建物と同じ巨大な置物と化している。
唯一ゲームセンターが入っている最上階の八階までは、蛍光灯が灯る薄暗い非常階段で行かなければならない。
お年寄りや幼い子供連れは、それだけで利用を避けるだろう。
そこに、鼻歌を歌いながら手を繋いで階段を上がっていく二人の女子高生がいた。
一人は雪のように白い肌に金髪、一人は健康的な浅黒い肌に銀髪。二人とも髪を巻いて、化粧をして、確実に校則違反の長さに改造されたお揃いのミニスカートを履いて、胸元を大きくはだけさせている。
第三ボタンまで開かれたシャツの間からは、たわわに実った乳房が押しめきあう様子とそれを支える下着のレースが覗いている。
「ふん、ふんふん、ところで吸血鬼……じゃない。ネックたん、その恰好はどしたのっ?」
「さぁ、この国から見て異国の人間のものらしいですよ」
金髪の方が、階段の何段か下にいる男に話しかける。
ミリタリーパンツに迷彩柄のジャケットを羽織った男が顔を上げる。その位置からはすぐ上の二人のスカートの中身もしっかり見えているはずだが、この場にいる誰もそのことを気にする様子はない。
だが説明通り、男の彫の深い顔立ちや分厚い骨格は地元の人間には珍しいものだった。
「王は人間に擬態せよと命じられましたが、吾輩たちはまだ人間に対する理解が浅い、
疑いをかけられたとき、言葉も外見も違う異国の人間であれば、文化の違いということで通せると思いましてね。
それで、貴殿の方は……どっちが牡丹でどっちが紅葉ですか?」
同じ顔の双子が同じ速度、同じ動きでお互いをお互いに指差して交互に話す。
「こっちの黒ギャルが牡丹でっ」
「こっちの白ギャルが紅葉だよっ」
「……黒?白?ギャル?」
「さすがネックたん、頭いーね」
「まぁ、ウチらは一心同体だから。どっちで呼ばれてもいーんだけどさっ」
「ウチらのご主人様に頂いた名前だから、ちゃんと覚えてよね?」
「さっきから気になっていたのですが、その、ネックたんというのは何ですか?」
「それなー、この子たちの喋り方みたいよ?
記憶を覗いたとき、仲間と他人では名前の後の呼び方?敬称?を変えてたんだよねっ」
「首切り馬たんの『千変万来(ランタナポッド)』とは少し違うけど、ウチらはウチらのやり方で人間に擬態してみたんだ。どうかな?どうかな?ネックたん」
「どう、と言われても。人間の造形など、どれも同じに見えます」
「「わかる~~!ウチらもそう思う!ウケるよね~~」」
「ウチら?ウケる?それも後で説明をお願いします。
……で、どうしますか?囲まれているようですが」
階段を上がりきって、フロアを進んですぐのことだった。
双子の女子高校生とミリタリースタイルの男は四方八方から殺気を向けられていた。
潜みも隠れもせず、それどころか喋りながらやってきたのだから当然の結末である。
取り囲む若者たちは侵入者を警戒しており、既に何人かは刃物を抜いている。
「女子高生と外人……?」
「気を付けろ、外人の方はかなりタッパがあるぞ。軍人か?」
「おい、見張りはどうした?」
「どうせサボって煙草でも吸ってんだろ?あいつら、後でシメてやる」
「痴女だ……すっげぇ、ほぼ裸じゃねぇか」
「何でこの暑い中、ジャケットなんて着てんだ?頭おかしいだろ、こいつら……ん?」
若者たちの中で夜目が利き、なおかつ視力が高い一人だけが異変に気づく。
侵入者が来た方向、階段の一番上で誰かが倒れている。倒れ方からして、意識がないのは明らかだ。
「……なぁ、誰か倒れていないか?」
「ウチらはさっきの奴らでお腹いっぱいだからいいや。ネックたん、どうぞどうぞ」
「そうですか?では遠慮なく。『眷属を召喚する魔法(ンベルガ)』
子供たち、食事の時間ですよ」
侵入者たちは呑気にお喋りを続ける。彼らにとって、この状況は危険や緊張とは全くの反対の意味を持つ。
文字通りの美味しい状況だ。
わざわざ、食事の方から出向いてくれたのだから。
「こいつら、何か変だっ!うわっ!?」
異変を知らせたときには時すでに遅く、異国の男の手から闇が放たれる。
無数の黒い比翼と黒板を引っ搔いたような鳴き声が向かってくる。それが人間大の蝙蝠だと気づいたときには、押し倒されて皮膚に牙を突き立てられていた。
「うわうわうわっ、やめろ!やめろ!」
「ぎゃあっ!?噛むな!痛い痛い!」
「来るな!来るなよ!こっちに来るなぁ!あっちに行け!」
阿鼻叫喚と化す最上階で、銀髪で黒ギャルの牡丹は呑気に欠伸をする。
「ところでさ、首切り馬たんは何してるのかな?
廃工場は警察とかいうのに引き渡されたんだし、もう捨てられた拠点なんでしょ?
行く意味なくない?」
「えぇ、そのようですね。ただ、彼女の考えそうなことならわかりますよ」
「はにゃ?牡丹、全然わかんない」
「あの子は吾輩たちと違って低級魔族ですが、魔王様に大変な恩義があると聞いたことがあります。
故に魔王様の敵の、こいつらの拠点というだけで憎いはずです」
「あ~~そゆことね?それはウチらも同感だわ」
「はい。ですから、それはもう原型がわからなくなるまで焼き尽くすでしょうね」

猛火に包まれた廃工場のトタン屋根が焼け落ちる。
吹き上げた火に押し負けた柱が転がる音が聞こえても、首切り馬は青い火炎を放射し続ける片手を下ろさない。
「『火を起こす魔法(フルガール)』。
んふっ、魔王様に歯向かう無礼者の火種は全て潰さなくては」
周囲に人がいないことは確認済みだ。
警察も既に現場検証を終えて引き上げている。こんな時間に報道陣がいるはずもない。
数キロ先の民家が黒煙と焦げ臭い匂いに気づいて通報したときには、既に鎮火は困難になっていた。
火に照らされた首切り馬の顔は、主人には決して見せられない笑みを浮かべている。
「あはっ、私は本当に運がいい。
魔王様は必ずやこの世界においても頂点に君臨される。
魔王様が世界を支配される様子を、この目で、この特等席で見られる!
うふふ、ふふふ、あはははっ!」
深夜の静まり返った森に、女の笑い声が幾重にもこだまする。
乾いた木材に残った最後の水分が爆ぜて、また一つ柱が倒れていく。さらに勢いづいて燃え盛る炎。
ついに廃工場が全焼するまで火は収まらなかった。
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