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【第1話】 龍神村の少女
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中学3年生の夏。
「ついたわよ。
一角君、ようこそ龍神村へ」
「ありがとう、おばさん」
母さんが病気でしばらく入院をすることになり、父を早くに無くした僕は子供の頃によく遊びに行っていたおばさんの家でしばらく居候することになった。
新幹線に車で移動して数時間、おばさんの家がある龍神村は良く言えば自然豊かな、悪く言えば田舎の地方にある。
「うーん!空気が美味しい」
「思っていたより早くついて良かったわね、後でお姉ちゃんにも連絡するのよ」
「わかってる、夕方には電話するよ」
休日にも関わらず、荷物にならないように学ラン姿で軽トラに乗り込んだ僕は、ようやく車の助手席から降り立った。両腕を上げて伸びをして、鼻から大きく息を吸い込む。腰に手を当てて身体を捻ると、ポキポキと空気の鳴る音がなった。
おばさんの家の周囲はおじさんの畑で、実りに実った収穫時期の稲穂が頭を垂れて秋風に揺られていた。街へ向かう道を除いて三方向を山に囲まれたこの場所では、快晴の空すらも僕が生まれ育った都市より高く広大だ。
「ほら、早く荷物を運んじゃいなさいよ」
「うん」
荷台に積んだ段ボールを持って、駐車の邪魔にならないように道の端による。バックで車庫に入っていくおばさんを見送ってから矢倉の標識がついた一軒家に入ると、丁度リビングからおばさんの娘で同い年の従兄妹の北斗が出てきた。
「北斗、久しぶり!」
「……」
不機嫌そうな表情と睨むような鋭い目つきは相変わらずだが、昔より背も髪も伸びている。
子供の頃から変わらないツインテールの髪型に、まだ暑いからか変なキャラクターが印刷されたTシャツにショートパンツのラフな姿で現れた北斗は、不愛想に僕を出迎えた。
これでも昔は僕を「いっくん」呼んで慕ってくれたものだ。一緒に川や山で遊んだ回数は数えきれないし、成長するにつれて交流は減ったものの喧嘩一つしたことない。
挨拶の返事がない、聞こえなかったのかな? 僕は彼女がほほ笑み返してくれることを期待して、満面の笑みを浮かべた。
「ねぇ、良かったら手伝ってくれない?まだ荷物…が…」
「…悪いけどパス」
「あ、そう…?」
思春期の女子中学生は気難しい。てっきり出迎えてくれたと思ったのに、北斗はすぐに視線を逸らして二階の自室に続く階段へ向かって言った。開けっ放しの扉の向こうでは、バックの警告音が聞こえる。
挨拶もそこそこに手伝ってほしいなんて言ったから、体力も意気地も無いと失望したのだろうか。だが部屋に戻る前に、せめて僕の部屋の場所くらい教えてほしい。
おじさんは日中は畑仕事で留守だろうから、この家にいるのは北斗だけだ。慌てて玄関の脇に段ボールを置いて、部屋の場所を尋ねる。
「あ、あのさ!僕の部屋って2階?…あ」
「それなら…は?」
階段の踊り場に足をかけた北斗を見上げると、肉付きの良い大殿部とショートパンツの間に視線が吸い込まれる。風が吹いてあと数センチ布がずれたら、その下の衣服が見えてしまいそうな…。
思わず声を上げて「しまった」と気付いた時にはもう遅い。北斗は射貫くような殺気を込めて、今度こそ間違いなく僕を睨んだ。僕は首をねじる勢いで曲げて目を伏せる。
「ごめん!」
「…次やったら許さないから」
「…はい」
今のは事故なのでは、と言いそうになって口を押さえる。何せ僕がこの村に来るのは数年ぶりのことで、北斗に会うのも数年ぶりになる。
これから数か月は同じ屋根の下で暮らし同じ中学校で暮らすのに、これ以上余計なことを言って関係を拗らせたくない。
「にしても、ちょっとは手伝ってくれてもいいのに…帰宅部にこの重さは応えるよ」
とはいえおばさんに持たせるわけにもいかないので、荷物は僕が全て責任を持って2階まで運んだ。幸い僕の部屋は扉が開けっぱなしになっていたので、すぐにわかった。
荷物を運び入れると、すぐに部屋の扉を閉じて休憩がてら1階に降りた。さすがに荷ほどきをするやる気は残っていない。
リビングの扉を開けると、キッチンでは北斗が冷蔵庫からペットボトルのスポーツドリンクを取り出したところだった。てっきり部屋に籠るものだと思っていたから、共用部分にいるのは意外だった。
ソファの上では、長時間の運転に疲れたおばさんが煎餅を摘まみながらお昼のニュース番組を見ている。おばさんは司会者の解説を聞きながら、新しい煎餅の袋を開けた。
「あら、もう運び終えたの?」
「うん、無理言って一人部屋まで貰っちゃってごめんね」
「何言ってんの、そんな遠慮なんてしなくていいのに。
おじさんのお古の部屋だけど、綺麗にしておいたから。好きに使っていいわよ」
「ありがとう、あと何か飲んでもいい?」
「好きに飲んでいいわよ、北斗。コップ出してあげて」
「えー…」
「あぁ、いいよ。僕、自分で出すからさ。確か、ここだよね?」
「あらそう?ごめんなさいね」
シンクの上の戸棚からコップを取って、北斗が冷蔵庫から出して机の上に置いたままのペットボトルを掴む。当の本人は食卓の椅子に足を乗せて、コップに口をつけながら体育座りでスマホをいじっていた。
明日からは登下校を同じくするわけだから、何とか今日中に彼女とは友好的な関係を築きたい。横目で北斗の表情を伺ってみるが、固く結んだへの字口では怒っているのか楽しんでいるのかすらわからなかった。
ところで、また見えそうになっている。僕は反対方向を向いて喉を潤した。
「ねぇ北斗」
「…何?」
「あのさ、僕この村に来るのは数年ぶりだからさ。
良ければ、村を案内してくれない?」
「……」
「ほら、学校とか川とか神社とか。
方向はわかるけど、まだ場所がうろ覚えなんだよね」
「…めんどくさ、外暑いじゃん」
「自転車でいいから!ちょっと巡るだけだからさ!
ついでに川で魚取りでもする?」
「…嫌だ」
確かに今日は残暑で気温が高いけれど、都会のヒートアイランド現象に比べたら何てことはない。それに、この村はぐるっと一周するだけなら半日もかからなかったはずだ。
おかしいな、数年前ならすぐにでも遊びに行こうと飛びついてきたのに。魚取りには飽きたのだろうか、それとも僕に水着姿を見せるのが嫌なのだろうか。
断られるとは思っていなかったので、リビングには沈黙が流れた。背中を向けたままの僕と、多分画面を凝視したままの北斗の会話に、おばさんが助け舟を出した。
「ちょっと北斗、いいじゃないの。
龍神様に挨拶しに行くがてら、ついて行ってあげなさいよ」
「じゃあ、お母さんが行けば?私は勉強もあるの」
「勉強って、あなたそう言ってゲームばかりしてるじゃない」
「うるさいなぁ…!」
しまった、どうやらおばさんが僕の味方をすればするほど北斗は僕に敵意を抱くようだ。
コップをシンクに置いて振り向いたら、キッと猫のような大きな瞳に上目遣いで睨まれた。たしか猫を初日から構い過ぎるとストレスになるって、猫好きの同級生に聞いたことがある。
「わかった!
やっぱり、僕一人で行ってくるよ!ね!」
「あらそう?大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!ちょっとそこまで行って帰るだけだし」
このままでは本当に北斗が自室に引きこもってしまいそうなので、代わりに僕が出ていくことにした。溌剌とした声を上げて、颯爽と玄関へ向かう。上り框に座り込み、運動靴と兼用しているスニーカーに足を通す。
靴先を何回か地面につけて踵を入れ込んでいると、気を使われたことに気が引けたのだろうか。パタパタと足音を響かせて、おばさんが後を追ってきた。
「ごめんなさいね、一角くん。
北斗も多感な時期だから」
「全然全然!クラスの女子もこんな感じだし」
「あら、それ嫌われてない?」
「まさか!僕は前の学校でも人気者だったよ」
当初の予定とは少し形が変わったけれど、村を見てみたかったのは本当だ。もちろん、クラスの人気者っていうのは嘘だけど。
でもだからこそ僕は誰かと一緒じゃないと外に出られないっていうタイプではないし、寧ろ一人行動が得意な方だ。
「一角」
「あっ、北斗。
なになに?やっぱり僕と一緒に…」
「それは嫌」
「えっ…」
玄関の扉に手をかけて出ていく寸前で、北斗がリビングからスマホを片手に出て来た。指の動きからして、何らかのゲームをしているのがわかる。
呼びかけといてノールックで階段へ向かう北斗は、階段に上る直前でポケットに入れていた左手を出して僕に何かを投げつけた。
「え、ナニコレ」
「…私の自転車の鍵。貸してあげる」
「あ、ありがとう。ねぇ、だったら北斗も一緒に」
バタン、と無情にも扉が閉まる音が上から降ってくる。おばさんがため息をついて、二度目の謝罪をした。
このツンデレ猫め、ちょっとデレたと思ったらこれだ。だが、完全に避けられているわけではないらしい。一筋の光明が見えた。
「じゃあ、いってきまーす」
「気を付けてねー!暗くなるまでに帰るのよー!」
「はーい!」
北斗のママチャリに跨って走り出すと、爽籟が頬を撫でつける。
雲一つない青い空、今日は雨も降らなさそうだ。
数百メートル先のお隣さんの庭から、柿の木が枝を伸ばしていた。枝先には小ぶりに実が生っていて、山吹色になっている。そろそろ食べごろだ。
「懐かしいな。昔はよく婆さんに黙って、北斗と盗み食いしたっけな」
ヒビの入ったブロック塀を左に曲がって橋を渡ると、川沿いに上流へと向かった。
標識も目印もないこの村では、子供の頃の僕も今の僕も、恐らく村の子供たちも皆山の位置を頼りにして現在位置を把握している。
おばさんの家は蛇腹山、村で一つだけの小学校と中学校は嵐山、そして神社は川の上流で大滝山の方角。それだけは子供のころから変わらない。唯一山がない川の下流は街へと続く道だ。
自然豊かとはいえ子供が遊ぶ場所なんてほとんどないところなので、貴重な遊び場があるその三ヶ所は鮮明に記憶していた。
「案外覚えているものだな、そうだ学校に行ってみるか」
どうせ明日行くのだから、下見だ。
嵐山の中腹にある中学校へ傾斜を上っていくと、銀杏の木が色変わりをしていた。カナリア色のベールを被るようにして立ち漕ぎをして自転車をこぐと、予想よりずっと早く学校前に辿り着いた。
あの頃は、夏休みの昼間の間だけ解放されていた校庭に走って遊びに行ったっけ。自転車で上るには急な坂を超えると、僕はへとへとになっていた。
「…何だ、誰もいないのか」
学校の門は施錠されていた。
校庭には人っ子一人おらず、あれだけ広く見えた空間が酷く狭く見えた。
校舎も生成り色に色あせていて、人の気配がしない。幼い子供とは純粋なもので、よく地元の子供たちの輪に入れてもらって一緒に遊んでもらった場所だ。
確か、北斗と僕ともう一人いつも遊ぶ女の子がいて…。
夏休みだけ遊べる村の子供たちには、良くしてもらった記憶がある。もしかしたら、彼らにまた会えるかもと思ったのだが。だがもし他に遊ぶ場所があるとすれば、
「あとは、神社くらいか」
あれだけ苦労して上った傾斜を下って、古い記憶を頼りにさらに上流へ行く。
僕を嘲笑うようにクマゼミが大合唱を奏でていた。ここまで人っ子一人すれ違っていない。ここのところ雨が降っていないのか水位の低い川で遊んでいる子供もおらず、ついに龍神様を祭る神社の境内まで来る。
狛犬の前で自転車を止めてスタンドを下ろすと、地面のあちこちに黄葉したマンサクやカラマツの葉が落ちていた。
階段を上ると瓦屋根の乗った木造の神社が姿を現す。やはり、人の影は見当たらない。
「…何か、全部小さく見えるなぁ」
威嚇するように口を開ける阿形をかつては怖く感じたものだけれど、今は可愛くすら思える。
石造りの鳥居を見上げると、門にかかった注連縄に付いた真新しい紙垂が一枚だけヒラヒラと揺れていた。肩を落としたが、せっかくだから参拝でもして帰るか。鳥居の前で一礼して、頭を低くして潜り抜ける。
顔を上げると、参道の真ん中に一人の女の子が立っていた。
「…ん?」
『いっくん』
参拝帰りのお客さんの道を塞いでしまったかと思い、慌てて端に避けて動きを止めた。
その声・姿かたちに見覚えがあった。柳のように流れる濡れ羽色の艶やかな長髪と、眉上に切りそろえた前髪と幼い顔立ち。いつ見てもロングスカートと長袖姿を着ている変な子だと思っていたけれど、中学生の今ならそれが緋色の袴と白衣の巫女装束だとわかる。
彼女の名前は確か、
「タツミ?」
「いっくん!」
コスモスの花みたいに明るい笑みで、タツミは笑う。僕と同じくらいだった背丈は、僕が成長してタツミを見下ろす方になったけれど、その笑みを見て確信した。
そうだ、北斗と僕ともう一人、いつも遊んでいたタツミだ。
思わず、僕はタツミを抱きしめていた。
「タツミー!」
「いっくん、久しぶりだね!」
「久しぶり!また会えて嬉しいよ!」
懐かしい、正直もう会えないものだと思っていた。タツミもつま先立ちになって僕の背中に手を回してくれて、僕はつかの間の感動の再開に浸った。この場所で過ごした記憶が、溢れるように鮮明に蘇っていく。
「…あっ、ごめん!」
けれど、胸元に温かな柔らかさを感じてすぐに離れる。北斗に馴れ馴れしくして嫌われかけたばかりだというのに、またやってしまった。
距離を置いても、残り香に金木犀の香りがする。でも、タツミは北斗みたいに僕を睨んだりしなかった。
「何で?
私もいっくんと会えて嬉しい!」
「え、」
「ねぇ、遊びに来たんでしょ?また一緒に秘密基地に行こうよ」
「…うん、うん!」
タツミは何も変わらなかった。
遊び好きでせっかちなところとか、何で遊ぶのか勝手に決めてしまう強引なところとか、僕の手を引っ張って走るところとか。この世の美醜の議論を吐いて捨てるような美しい顔で、ころころ表情を変えて笑う。
彼女は人口の少ないこの村の境内に一人立って、まるで僕を待ってくれていたかのようだった。
「こっちこっち!」
「待って…!階段、きっつい…!」
「ほら、がんばれっ!がんばれっ!」
「何でそんなにすいすい行けるの…!?」
秘密基地というのは、僕らが神社で遊ぶときにこっそり忍び込んでいた建物のことだ。
社の裏手には、石階段がある。いつ作られたのかわからない階段は手すりもなく、一段一段がひざ丈くらいまである。その先に幼い僕らの秘密基地がある。
だが、苔むした階段を覆い隠すように落ち葉が落ちていて、気を抜いたら転げ落ちそうだ。
「ぜぇ…ぜぇ…」
「いっくん~こっちだよ~」
自転車をこいだ後に、この急こう配は辛い。太腿部は痙攣し始め、断裂した筋繊維が痛い。
それをぴょんぴょんと軽々上っていくタツミに手を引いてもらってようやく頂上まで上ると、群生した女郎花が示し合わせたように、檸檬色の花弁を天に向かって伸ばしていた。
そこが、秘密基地の入口だ。
「はい、しゃがんでしゃがんで!」
「タツミ!押さないで…!
僕もうそんなに小さくないんだよ!?」
「早く早く!」
「いたいいたい!」
「早く早く!」
「いたたたた!」
四つん這いになって地面に手をつき、その茎の間を通って進む。
葉っぱが顔に当たったり小石が手のひらに刺さったり、踏んだり蹴ったりだ。
痛みを訴えたところで、タツミの小さな手は僕の尻を何度も叩いてくる。ぺちんぺちん、と僕の尻は軽快な音が鳴った。
やっとの思いで女郎花の花壇を抜けると、一本の道に出る。
「あいたた…」
「いっくん、何か大きくなったー?」
「…気づいた?僕、かなり大きくなったんだけど」
「気づかなかった!」
「えぇ!?傷つくなぁ」
「いっくんは、変わんないよー、だ!」
腰を伸ばして立ち上がると、タツミは生意気にケラケラ笑って建物の正門へ逃げて行った。
さらに敷地内に入る前に僕の方を見て、悪戯気な笑顔を浮かべる。無邪気で幼さの残る笑みは、タツミが僕をからかう時の笑い方だ。
僕らが秘密基地にしている建物の外壁は色あせることなく、向こう側には母屋の切妻屋根とよく晴れた空が見えた。背が伸びても塀の先には届きそうになく、外壁の上に乗った瓦は欠け一つ傷一つない。まるで厳重な城のようだ。
僕もタツミを追いかけるように、土塀沿いに裏門へ歩く。
「いっくーん!」
「あーもう、わかったわかった!」
「早く早く!」
塀の先は鋲が打ち込まれた重厚な門扉があり、侵入者を拒もうとする気概で満ち満ちていた。僕はこの扉が閉まっているのを見たことがないけれど、土塀と合わさればさぞかし強固な防護壁となるだろう。
僕の背丈の倍はある扉を眺めながら、閾を跨いだ。門の庇から出ると、視界の隅から何かが飛び出してきた。
「わぁっ!」
「うわああぁ!?」
「きゃっきゃっ」
「何だ、タツミか…」
「またひっかかった!ひっかかった!やーい!」
蚤の心臓を持つ僕は跳ね上がって驚いて、腰元に抱き着いてきたタツミに情けない声を上げた。数秒経ってようやく脅かされたことに気付くと、あまりの恥ずかしさに顔が熱くなる。
何が「きゃっきゃっ」だ、赤ん坊みたいな純粋無垢な声で笑いやがって。よほどおかしかったのか、タツミの形の良い唇の間から真珠のように小さな白い歯が覗いている。
腹を抱えて笑うタツミを見て思い出した。
夏休みで龍神村に訪れた年は、僕は毎年最初の日に同じ手で同じように引っ掛かっていた。そしてその度に、僕は両腕を上げて指をまさぐるように動かす。
さぁ、仕返しだ。
「やったな~、こいつめ!」
「きゃぁっ!あはは!」
「待て!逃がさんぞ!」
華奢な身体をとっ捕まえてくすぐる前に、タツミは僕から離れてするりと腕の間を抜けると、細道の奥へと逃げ出した。
当然、僕も玉砂利を踏みしめて追いかける。
中学生にもなって、僕らは本気で鬼ごっこを始めた。建物の横道を進み松の木を回って、裏口の引き戸の前で手がかする。相変わらず足が速いタツミを追って、庭に踏み込む。
あと少し、もう少しで手が届く。
「きゃー!」
「くすぐってや、る…ぞ…」
だが突如現れた絶景に、僕は目を奪われた。
競うように咲き乱れた花が敷き詰められたその和風庭園は、この世にある全ての色を詰め込んだようだった。
尾花に萩、桔梗、藤袴といった秋の七草はもちろん、秋桜までが花開いている。庭園の奥には平安時代の貴族が住むような神殿造りの建物があり、庭園の真ん中にはタツミがいた。
「…すごい」
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
作泉にかかった橋を歌いながら渡って、彼女は中島で手を叩く。
橋の足元には一重咲きのコスモスが、頭上には流れるように伸びた百日紅の桃色の花がスポットライトを当てるように開花している。
ここが極楽浄土だと言われたら、十人が十人とも信じる。一度見たら忘れられないその風景を、
「何で、今まで忘れてたんだろう」
「え?どうしたの?」
「あ、いや…何でもない」
クローバーの絨毯の上で胡坐座りをした僕の膝の上に座ったタツミが、頭を上げた。角度が少しでもずれたら、額 にキスをしてしまいそうだ。
クリクリとよく動く瞳が不安そうに見えて、僕は再び手元に集中した。シロツメクサの茎を内側にしまい込み、完成した花冠をタツミの頭の上に乗せる。
「はい、できたよ」
「やったー、ありがとー!」
「あばばば、どういたしまして」
タツミは嬉しそうに身体を揺らし、その振動で僕の身体まで揺れる。花びらの白さとのコントラストで、彼女の髪色がよく映える。
全体重を乗せられてもこんなに軽いなんて、ちゃんと食事を取っているのだろうか。
「大事にするね!」
「あはは、別にいいよ。こんなのすぐ作れるし。
それにしても、まだ花が咲いていて良かったよ」
シロツメクサは春から夏にかけて花が咲き、暑くなる前に枯れる。
タツミにねだられなかったら、探そうともしなかっただろう。たまたま咲いていて良かった。タツミは冠に優しく手を当てると、直前までの鬼ごっこで赤く染まった頬でかぶりを振った。
「ううん、絶対に大事する」
「…そっか、ありがとう。
さてと、じゃあ僕はそろそろお暇しようかな」
まだ日は高いが、暗くなる前に帰るっておばさんと約束したばかりだ。それに居候の身である以上、できるだけ穏便にお行儀よくいたい。
夕食の手伝いでもしようかと考えながら、体を起こして暗にタツミに降りるよう伝える。
「…あれ?」
立ち上がろうと胡坐を崩そうとした僕の膝に、紅葉のように小さなタツミの手が乗った。
不思議と、どれだけ力を入れてもそれ以上膝が上がらない。太腿がまた痙攣し始める。
僕はピクリとも動けなかった。ずっと淀みなく流れていた山颪が、ぴたりと止んだ。
「やだ」
「やだって…」
「まだ遊ぶもん」
口調は可愛らしいが、タツミの目は笑っていない。
といっても、ルールはルールだ。それに僕は行きのロードレースとここに来るまでの石段登山、それにタツミとの徒競走で疲れ切っている。
模範的な帰宅部員だったこの身体は、すぐにでもベッドで寝たいと訴えている。
それを伝えると、タツミは頓珍漢なことを言ってくる。
「じゃあ、ここに住めばいいじゃん」
「いや、そういう問題じゃなくて…」
「何で?何が?」
話しを聞かない奴め、これ以上は埒が明かない。
そういえば、タツミはいつもこうやって僕を引き留めてきたっけ。
僕は再び胡坐で座り込むと、両手を後ろについて空を見上げた。タツミは、僕が諦めたと思ったらしい。満足げに僕の胸に顔を擦りつけて、ゴロゴロと喉を鳴らしている。
「…そうは言っても、僕喉が渇いたんだよね」
「お水ならそこにあるよ」
「馬鹿、それは川の水だろ。
ばっちぃから飲んじゃ駄目なんだぞ」
「大丈夫だよ!」
「大丈夫じゃない…それに、僕はただの水じゃなくてアレが飲みたいんだよね」
「アレ?」
母屋へ走っていたタツミが戻ってくるまで、そう時間はかからなかった。
この建物は無人だが、いつも隅々まで手入れをされていて埃一つない。そして、家主の性格に反して家具や寝具はいつも同じ場所に整理整頓されている。
毎年のようにこの場所に来ていた僕は、この場所のどこに何があるか手に取るようにわかった。例えば、台所の戸棚の中にあるタツミの大好物とか。
「うんしょ…うんしょ…」
「持とうか?」
「いい!私がやるの!」
「はいはい、ありがとう」
花びらの螺鈿細工が装飾についた丸盆に2つのぐい吞みを乗せて、一滴も零さないように俯いてタツミが歩いてくる。一歩一歩踏みしめるように運ぶ盆の上にはもう一つ、徳利がある。
それでも盆の上には何回か零した跡もあったけど、見ないふりをして徳利と器を持ち上げる。そして、2つのぐい吞みに徳利の中身を並々と注いでいった。
とろみのある白濁した液体が、水音を立てて滑る。
「はい、これはタツミの分ね」
「うん!」
「はい、乾杯―!」
「乾杯―!」
酒器を合わせて景気良い音を立てて、一口で飲み干す。
甘ったるい味が口の中に広がって、身体が気持ちだけ温かくなる。だが、これは気のせいだろう。
徳利の中身は、ほとんどアルコール度数1%もない甘酒だ。ところが、釣られてぐい飲みをあおったタツミは既に上半身がふらついていた。
「おっと、」
「ふぁ…おいしぃ…」
倒れて頭を打ったりしように身体を支えて上から覗き込むと、タツミの器は空になっていた。
器を取り上げて盆の上に戻して、僕はそのままタツミが眠ってしまうのを待った。
子供のころから、タツミは酒に弱かった。僕に甘酒のことを教えてくれたときも、しばらく起きなかったくらいだ。
「…むにゃ、いっくん?」
「うん、何?」
「えへへ…良かった、いる…」
「心配しなくても、明日も来るよ」
「……」
「タツミ?」
「……」
「…よいしょっと、」
ガクン、と頭が下がって花冠が地面に落ちた。
眠りこけたタツミを背負い、建物の中にある寝室らしき和室まで運んだ。枕の横に花冠を置いて、気持ちよさそうな寝息を立てるタツミに布団をかける。
起こさないように足音を潜めて建物を出ると、僕はもと来た道を引き返した。
「タツミ、起きたら絶対怒るよなぁ。
ちゃんと、期限直しの方法を考えておかないと。
…あれ、こんなのあったっけ?」
申し訳なく思いながら、庭園を抜けて玉砂利の上を歩く。
門から庭園へ続く道の反対方向に、目立つ大きさの楕円形の石がいくつも並んでいた。
庭に行くのに夢中だったり遊びに熱中だったりで、今の今までは置石か何かだと思っていった。だが門に手をかけて目を凝らすと石はどれも地面に突き刺さる形で立っていて、薄っすらと文字が刻まれているように思える。
「ま、今度聞いてみるか」
行きはタツミに手を引かれて超えた閾を、帰りは反対側から一人で超えた。その途端。
「え…?
え…!?何で!?」
あれだけ明るかった空がブレーカーを落とされたみたいに真っ暗になった。空を見上げればそこにあったはずの太陽はなく、上限の月が煌々と夜空を照らしている。
気づいた時には、走り出していた。
「やばい…おばさんに怒られる!」
時計を見なくてもわかる。約束の時間はとっくに過ぎている。
女郎花の中を突っ切って、月明りを頼りに階段を駆け下りる。境内を走って自転車に飛び乗ると、ペダルを踏みしめた。
夏が終わって元気がないウシガエルの合唱を聞きながら、まだ生暖かい夜風を追い風にして走る。街灯の間は、暗闇で何も見えない。
空を見上げると山裾から先に天の川と満天の星空が広がっていて、稲穂の影が風で倒れないように頭を流される様子は大海原のようだ。
僕は夜中に外出している背徳感と見たこともない大自然の美しさに興奮していた。
「ははっ…すっげぇ綺麗!」
「ついたわよ。
一角君、ようこそ龍神村へ」
「ありがとう、おばさん」
母さんが病気でしばらく入院をすることになり、父を早くに無くした僕は子供の頃によく遊びに行っていたおばさんの家でしばらく居候することになった。
新幹線に車で移動して数時間、おばさんの家がある龍神村は良く言えば自然豊かな、悪く言えば田舎の地方にある。
「うーん!空気が美味しい」
「思っていたより早くついて良かったわね、後でお姉ちゃんにも連絡するのよ」
「わかってる、夕方には電話するよ」
休日にも関わらず、荷物にならないように学ラン姿で軽トラに乗り込んだ僕は、ようやく車の助手席から降り立った。両腕を上げて伸びをして、鼻から大きく息を吸い込む。腰に手を当てて身体を捻ると、ポキポキと空気の鳴る音がなった。
おばさんの家の周囲はおじさんの畑で、実りに実った収穫時期の稲穂が頭を垂れて秋風に揺られていた。街へ向かう道を除いて三方向を山に囲まれたこの場所では、快晴の空すらも僕が生まれ育った都市より高く広大だ。
「ほら、早く荷物を運んじゃいなさいよ」
「うん」
荷台に積んだ段ボールを持って、駐車の邪魔にならないように道の端による。バックで車庫に入っていくおばさんを見送ってから矢倉の標識がついた一軒家に入ると、丁度リビングからおばさんの娘で同い年の従兄妹の北斗が出てきた。
「北斗、久しぶり!」
「……」
不機嫌そうな表情と睨むような鋭い目つきは相変わらずだが、昔より背も髪も伸びている。
子供の頃から変わらないツインテールの髪型に、まだ暑いからか変なキャラクターが印刷されたTシャツにショートパンツのラフな姿で現れた北斗は、不愛想に僕を出迎えた。
これでも昔は僕を「いっくん」呼んで慕ってくれたものだ。一緒に川や山で遊んだ回数は数えきれないし、成長するにつれて交流は減ったものの喧嘩一つしたことない。
挨拶の返事がない、聞こえなかったのかな? 僕は彼女がほほ笑み返してくれることを期待して、満面の笑みを浮かべた。
「ねぇ、良かったら手伝ってくれない?まだ荷物…が…」
「…悪いけどパス」
「あ、そう…?」
思春期の女子中学生は気難しい。てっきり出迎えてくれたと思ったのに、北斗はすぐに視線を逸らして二階の自室に続く階段へ向かって言った。開けっ放しの扉の向こうでは、バックの警告音が聞こえる。
挨拶もそこそこに手伝ってほしいなんて言ったから、体力も意気地も無いと失望したのだろうか。だが部屋に戻る前に、せめて僕の部屋の場所くらい教えてほしい。
おじさんは日中は畑仕事で留守だろうから、この家にいるのは北斗だけだ。慌てて玄関の脇に段ボールを置いて、部屋の場所を尋ねる。
「あ、あのさ!僕の部屋って2階?…あ」
「それなら…は?」
階段の踊り場に足をかけた北斗を見上げると、肉付きの良い大殿部とショートパンツの間に視線が吸い込まれる。風が吹いてあと数センチ布がずれたら、その下の衣服が見えてしまいそうな…。
思わず声を上げて「しまった」と気付いた時にはもう遅い。北斗は射貫くような殺気を込めて、今度こそ間違いなく僕を睨んだ。僕は首をねじる勢いで曲げて目を伏せる。
「ごめん!」
「…次やったら許さないから」
「…はい」
今のは事故なのでは、と言いそうになって口を押さえる。何せ僕がこの村に来るのは数年ぶりのことで、北斗に会うのも数年ぶりになる。
これから数か月は同じ屋根の下で暮らし同じ中学校で暮らすのに、これ以上余計なことを言って関係を拗らせたくない。
「にしても、ちょっとは手伝ってくれてもいいのに…帰宅部にこの重さは応えるよ」
とはいえおばさんに持たせるわけにもいかないので、荷物は僕が全て責任を持って2階まで運んだ。幸い僕の部屋は扉が開けっぱなしになっていたので、すぐにわかった。
荷物を運び入れると、すぐに部屋の扉を閉じて休憩がてら1階に降りた。さすがに荷ほどきをするやる気は残っていない。
リビングの扉を開けると、キッチンでは北斗が冷蔵庫からペットボトルのスポーツドリンクを取り出したところだった。てっきり部屋に籠るものだと思っていたから、共用部分にいるのは意外だった。
ソファの上では、長時間の運転に疲れたおばさんが煎餅を摘まみながらお昼のニュース番組を見ている。おばさんは司会者の解説を聞きながら、新しい煎餅の袋を開けた。
「あら、もう運び終えたの?」
「うん、無理言って一人部屋まで貰っちゃってごめんね」
「何言ってんの、そんな遠慮なんてしなくていいのに。
おじさんのお古の部屋だけど、綺麗にしておいたから。好きに使っていいわよ」
「ありがとう、あと何か飲んでもいい?」
「好きに飲んでいいわよ、北斗。コップ出してあげて」
「えー…」
「あぁ、いいよ。僕、自分で出すからさ。確か、ここだよね?」
「あらそう?ごめんなさいね」
シンクの上の戸棚からコップを取って、北斗が冷蔵庫から出して机の上に置いたままのペットボトルを掴む。当の本人は食卓の椅子に足を乗せて、コップに口をつけながら体育座りでスマホをいじっていた。
明日からは登下校を同じくするわけだから、何とか今日中に彼女とは友好的な関係を築きたい。横目で北斗の表情を伺ってみるが、固く結んだへの字口では怒っているのか楽しんでいるのかすらわからなかった。
ところで、また見えそうになっている。僕は反対方向を向いて喉を潤した。
「ねぇ北斗」
「…何?」
「あのさ、僕この村に来るのは数年ぶりだからさ。
良ければ、村を案内してくれない?」
「……」
「ほら、学校とか川とか神社とか。
方向はわかるけど、まだ場所がうろ覚えなんだよね」
「…めんどくさ、外暑いじゃん」
「自転車でいいから!ちょっと巡るだけだからさ!
ついでに川で魚取りでもする?」
「…嫌だ」
確かに今日は残暑で気温が高いけれど、都会のヒートアイランド現象に比べたら何てことはない。それに、この村はぐるっと一周するだけなら半日もかからなかったはずだ。
おかしいな、数年前ならすぐにでも遊びに行こうと飛びついてきたのに。魚取りには飽きたのだろうか、それとも僕に水着姿を見せるのが嫌なのだろうか。
断られるとは思っていなかったので、リビングには沈黙が流れた。背中を向けたままの僕と、多分画面を凝視したままの北斗の会話に、おばさんが助け舟を出した。
「ちょっと北斗、いいじゃないの。
龍神様に挨拶しに行くがてら、ついて行ってあげなさいよ」
「じゃあ、お母さんが行けば?私は勉強もあるの」
「勉強って、あなたそう言ってゲームばかりしてるじゃない」
「うるさいなぁ…!」
しまった、どうやらおばさんが僕の味方をすればするほど北斗は僕に敵意を抱くようだ。
コップをシンクに置いて振り向いたら、キッと猫のような大きな瞳に上目遣いで睨まれた。たしか猫を初日から構い過ぎるとストレスになるって、猫好きの同級生に聞いたことがある。
「わかった!
やっぱり、僕一人で行ってくるよ!ね!」
「あらそう?大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!ちょっとそこまで行って帰るだけだし」
このままでは本当に北斗が自室に引きこもってしまいそうなので、代わりに僕が出ていくことにした。溌剌とした声を上げて、颯爽と玄関へ向かう。上り框に座り込み、運動靴と兼用しているスニーカーに足を通す。
靴先を何回か地面につけて踵を入れ込んでいると、気を使われたことに気が引けたのだろうか。パタパタと足音を響かせて、おばさんが後を追ってきた。
「ごめんなさいね、一角くん。
北斗も多感な時期だから」
「全然全然!クラスの女子もこんな感じだし」
「あら、それ嫌われてない?」
「まさか!僕は前の学校でも人気者だったよ」
当初の予定とは少し形が変わったけれど、村を見てみたかったのは本当だ。もちろん、クラスの人気者っていうのは嘘だけど。
でもだからこそ僕は誰かと一緒じゃないと外に出られないっていうタイプではないし、寧ろ一人行動が得意な方だ。
「一角」
「あっ、北斗。
なになに?やっぱり僕と一緒に…」
「それは嫌」
「えっ…」
玄関の扉に手をかけて出ていく寸前で、北斗がリビングからスマホを片手に出て来た。指の動きからして、何らかのゲームをしているのがわかる。
呼びかけといてノールックで階段へ向かう北斗は、階段に上る直前でポケットに入れていた左手を出して僕に何かを投げつけた。
「え、ナニコレ」
「…私の自転車の鍵。貸してあげる」
「あ、ありがとう。ねぇ、だったら北斗も一緒に」
バタン、と無情にも扉が閉まる音が上から降ってくる。おばさんがため息をついて、二度目の謝罪をした。
このツンデレ猫め、ちょっとデレたと思ったらこれだ。だが、完全に避けられているわけではないらしい。一筋の光明が見えた。
「じゃあ、いってきまーす」
「気を付けてねー!暗くなるまでに帰るのよー!」
「はーい!」
北斗のママチャリに跨って走り出すと、爽籟が頬を撫でつける。
雲一つない青い空、今日は雨も降らなさそうだ。
数百メートル先のお隣さんの庭から、柿の木が枝を伸ばしていた。枝先には小ぶりに実が生っていて、山吹色になっている。そろそろ食べごろだ。
「懐かしいな。昔はよく婆さんに黙って、北斗と盗み食いしたっけな」
ヒビの入ったブロック塀を左に曲がって橋を渡ると、川沿いに上流へと向かった。
標識も目印もないこの村では、子供の頃の僕も今の僕も、恐らく村の子供たちも皆山の位置を頼りにして現在位置を把握している。
おばさんの家は蛇腹山、村で一つだけの小学校と中学校は嵐山、そして神社は川の上流で大滝山の方角。それだけは子供のころから変わらない。唯一山がない川の下流は街へと続く道だ。
自然豊かとはいえ子供が遊ぶ場所なんてほとんどないところなので、貴重な遊び場があるその三ヶ所は鮮明に記憶していた。
「案外覚えているものだな、そうだ学校に行ってみるか」
どうせ明日行くのだから、下見だ。
嵐山の中腹にある中学校へ傾斜を上っていくと、銀杏の木が色変わりをしていた。カナリア色のベールを被るようにして立ち漕ぎをして自転車をこぐと、予想よりずっと早く学校前に辿り着いた。
あの頃は、夏休みの昼間の間だけ解放されていた校庭に走って遊びに行ったっけ。自転車で上るには急な坂を超えると、僕はへとへとになっていた。
「…何だ、誰もいないのか」
学校の門は施錠されていた。
校庭には人っ子一人おらず、あれだけ広く見えた空間が酷く狭く見えた。
校舎も生成り色に色あせていて、人の気配がしない。幼い子供とは純粋なもので、よく地元の子供たちの輪に入れてもらって一緒に遊んでもらった場所だ。
確か、北斗と僕ともう一人いつも遊ぶ女の子がいて…。
夏休みだけ遊べる村の子供たちには、良くしてもらった記憶がある。もしかしたら、彼らにまた会えるかもと思ったのだが。だがもし他に遊ぶ場所があるとすれば、
「あとは、神社くらいか」
あれだけ苦労して上った傾斜を下って、古い記憶を頼りにさらに上流へ行く。
僕を嘲笑うようにクマゼミが大合唱を奏でていた。ここまで人っ子一人すれ違っていない。ここのところ雨が降っていないのか水位の低い川で遊んでいる子供もおらず、ついに龍神様を祭る神社の境内まで来る。
狛犬の前で自転車を止めてスタンドを下ろすと、地面のあちこちに黄葉したマンサクやカラマツの葉が落ちていた。
階段を上ると瓦屋根の乗った木造の神社が姿を現す。やはり、人の影は見当たらない。
「…何か、全部小さく見えるなぁ」
威嚇するように口を開ける阿形をかつては怖く感じたものだけれど、今は可愛くすら思える。
石造りの鳥居を見上げると、門にかかった注連縄に付いた真新しい紙垂が一枚だけヒラヒラと揺れていた。肩を落としたが、せっかくだから参拝でもして帰るか。鳥居の前で一礼して、頭を低くして潜り抜ける。
顔を上げると、参道の真ん中に一人の女の子が立っていた。
「…ん?」
『いっくん』
参拝帰りのお客さんの道を塞いでしまったかと思い、慌てて端に避けて動きを止めた。
その声・姿かたちに見覚えがあった。柳のように流れる濡れ羽色の艶やかな長髪と、眉上に切りそろえた前髪と幼い顔立ち。いつ見てもロングスカートと長袖姿を着ている変な子だと思っていたけれど、中学生の今ならそれが緋色の袴と白衣の巫女装束だとわかる。
彼女の名前は確か、
「タツミ?」
「いっくん!」
コスモスの花みたいに明るい笑みで、タツミは笑う。僕と同じくらいだった背丈は、僕が成長してタツミを見下ろす方になったけれど、その笑みを見て確信した。
そうだ、北斗と僕ともう一人、いつも遊んでいたタツミだ。
思わず、僕はタツミを抱きしめていた。
「タツミー!」
「いっくん、久しぶりだね!」
「久しぶり!また会えて嬉しいよ!」
懐かしい、正直もう会えないものだと思っていた。タツミもつま先立ちになって僕の背中に手を回してくれて、僕はつかの間の感動の再開に浸った。この場所で過ごした記憶が、溢れるように鮮明に蘇っていく。
「…あっ、ごめん!」
けれど、胸元に温かな柔らかさを感じてすぐに離れる。北斗に馴れ馴れしくして嫌われかけたばかりだというのに、またやってしまった。
距離を置いても、残り香に金木犀の香りがする。でも、タツミは北斗みたいに僕を睨んだりしなかった。
「何で?
私もいっくんと会えて嬉しい!」
「え、」
「ねぇ、遊びに来たんでしょ?また一緒に秘密基地に行こうよ」
「…うん、うん!」
タツミは何も変わらなかった。
遊び好きでせっかちなところとか、何で遊ぶのか勝手に決めてしまう強引なところとか、僕の手を引っ張って走るところとか。この世の美醜の議論を吐いて捨てるような美しい顔で、ころころ表情を変えて笑う。
彼女は人口の少ないこの村の境内に一人立って、まるで僕を待ってくれていたかのようだった。
「こっちこっち!」
「待って…!階段、きっつい…!」
「ほら、がんばれっ!がんばれっ!」
「何でそんなにすいすい行けるの…!?」
秘密基地というのは、僕らが神社で遊ぶときにこっそり忍び込んでいた建物のことだ。
社の裏手には、石階段がある。いつ作られたのかわからない階段は手すりもなく、一段一段がひざ丈くらいまである。その先に幼い僕らの秘密基地がある。
だが、苔むした階段を覆い隠すように落ち葉が落ちていて、気を抜いたら転げ落ちそうだ。
「ぜぇ…ぜぇ…」
「いっくん~こっちだよ~」
自転車をこいだ後に、この急こう配は辛い。太腿部は痙攣し始め、断裂した筋繊維が痛い。
それをぴょんぴょんと軽々上っていくタツミに手を引いてもらってようやく頂上まで上ると、群生した女郎花が示し合わせたように、檸檬色の花弁を天に向かって伸ばしていた。
そこが、秘密基地の入口だ。
「はい、しゃがんでしゃがんで!」
「タツミ!押さないで…!
僕もうそんなに小さくないんだよ!?」
「早く早く!」
「いたいいたい!」
「早く早く!」
「いたたたた!」
四つん這いになって地面に手をつき、その茎の間を通って進む。
葉っぱが顔に当たったり小石が手のひらに刺さったり、踏んだり蹴ったりだ。
痛みを訴えたところで、タツミの小さな手は僕の尻を何度も叩いてくる。ぺちんぺちん、と僕の尻は軽快な音が鳴った。
やっとの思いで女郎花の花壇を抜けると、一本の道に出る。
「あいたた…」
「いっくん、何か大きくなったー?」
「…気づいた?僕、かなり大きくなったんだけど」
「気づかなかった!」
「えぇ!?傷つくなぁ」
「いっくんは、変わんないよー、だ!」
腰を伸ばして立ち上がると、タツミは生意気にケラケラ笑って建物の正門へ逃げて行った。
さらに敷地内に入る前に僕の方を見て、悪戯気な笑顔を浮かべる。無邪気で幼さの残る笑みは、タツミが僕をからかう時の笑い方だ。
僕らが秘密基地にしている建物の外壁は色あせることなく、向こう側には母屋の切妻屋根とよく晴れた空が見えた。背が伸びても塀の先には届きそうになく、外壁の上に乗った瓦は欠け一つ傷一つない。まるで厳重な城のようだ。
僕もタツミを追いかけるように、土塀沿いに裏門へ歩く。
「いっくーん!」
「あーもう、わかったわかった!」
「早く早く!」
塀の先は鋲が打ち込まれた重厚な門扉があり、侵入者を拒もうとする気概で満ち満ちていた。僕はこの扉が閉まっているのを見たことがないけれど、土塀と合わさればさぞかし強固な防護壁となるだろう。
僕の背丈の倍はある扉を眺めながら、閾を跨いだ。門の庇から出ると、視界の隅から何かが飛び出してきた。
「わぁっ!」
「うわああぁ!?」
「きゃっきゃっ」
「何だ、タツミか…」
「またひっかかった!ひっかかった!やーい!」
蚤の心臓を持つ僕は跳ね上がって驚いて、腰元に抱き着いてきたタツミに情けない声を上げた。数秒経ってようやく脅かされたことに気付くと、あまりの恥ずかしさに顔が熱くなる。
何が「きゃっきゃっ」だ、赤ん坊みたいな純粋無垢な声で笑いやがって。よほどおかしかったのか、タツミの形の良い唇の間から真珠のように小さな白い歯が覗いている。
腹を抱えて笑うタツミを見て思い出した。
夏休みで龍神村に訪れた年は、僕は毎年最初の日に同じ手で同じように引っ掛かっていた。そしてその度に、僕は両腕を上げて指をまさぐるように動かす。
さぁ、仕返しだ。
「やったな~、こいつめ!」
「きゃぁっ!あはは!」
「待て!逃がさんぞ!」
華奢な身体をとっ捕まえてくすぐる前に、タツミは僕から離れてするりと腕の間を抜けると、細道の奥へと逃げ出した。
当然、僕も玉砂利を踏みしめて追いかける。
中学生にもなって、僕らは本気で鬼ごっこを始めた。建物の横道を進み松の木を回って、裏口の引き戸の前で手がかする。相変わらず足が速いタツミを追って、庭に踏み込む。
あと少し、もう少しで手が届く。
「きゃー!」
「くすぐってや、る…ぞ…」
だが突如現れた絶景に、僕は目を奪われた。
競うように咲き乱れた花が敷き詰められたその和風庭園は、この世にある全ての色を詰め込んだようだった。
尾花に萩、桔梗、藤袴といった秋の七草はもちろん、秋桜までが花開いている。庭園の奥には平安時代の貴族が住むような神殿造りの建物があり、庭園の真ん中にはタツミがいた。
「…すごい」
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
作泉にかかった橋を歌いながら渡って、彼女は中島で手を叩く。
橋の足元には一重咲きのコスモスが、頭上には流れるように伸びた百日紅の桃色の花がスポットライトを当てるように開花している。
ここが極楽浄土だと言われたら、十人が十人とも信じる。一度見たら忘れられないその風景を、
「何で、今まで忘れてたんだろう」
「え?どうしたの?」
「あ、いや…何でもない」
クローバーの絨毯の上で胡坐座りをした僕の膝の上に座ったタツミが、頭を上げた。角度が少しでもずれたら、額 にキスをしてしまいそうだ。
クリクリとよく動く瞳が不安そうに見えて、僕は再び手元に集中した。シロツメクサの茎を内側にしまい込み、完成した花冠をタツミの頭の上に乗せる。
「はい、できたよ」
「やったー、ありがとー!」
「あばばば、どういたしまして」
タツミは嬉しそうに身体を揺らし、その振動で僕の身体まで揺れる。花びらの白さとのコントラストで、彼女の髪色がよく映える。
全体重を乗せられてもこんなに軽いなんて、ちゃんと食事を取っているのだろうか。
「大事にするね!」
「あはは、別にいいよ。こんなのすぐ作れるし。
それにしても、まだ花が咲いていて良かったよ」
シロツメクサは春から夏にかけて花が咲き、暑くなる前に枯れる。
タツミにねだられなかったら、探そうともしなかっただろう。たまたま咲いていて良かった。タツミは冠に優しく手を当てると、直前までの鬼ごっこで赤く染まった頬でかぶりを振った。
「ううん、絶対に大事する」
「…そっか、ありがとう。
さてと、じゃあ僕はそろそろお暇しようかな」
まだ日は高いが、暗くなる前に帰るっておばさんと約束したばかりだ。それに居候の身である以上、できるだけ穏便にお行儀よくいたい。
夕食の手伝いでもしようかと考えながら、体を起こして暗にタツミに降りるよう伝える。
「…あれ?」
立ち上がろうと胡坐を崩そうとした僕の膝に、紅葉のように小さなタツミの手が乗った。
不思議と、どれだけ力を入れてもそれ以上膝が上がらない。太腿がまた痙攣し始める。
僕はピクリとも動けなかった。ずっと淀みなく流れていた山颪が、ぴたりと止んだ。
「やだ」
「やだって…」
「まだ遊ぶもん」
口調は可愛らしいが、タツミの目は笑っていない。
といっても、ルールはルールだ。それに僕は行きのロードレースとここに来るまでの石段登山、それにタツミとの徒競走で疲れ切っている。
模範的な帰宅部員だったこの身体は、すぐにでもベッドで寝たいと訴えている。
それを伝えると、タツミは頓珍漢なことを言ってくる。
「じゃあ、ここに住めばいいじゃん」
「いや、そういう問題じゃなくて…」
「何で?何が?」
話しを聞かない奴め、これ以上は埒が明かない。
そういえば、タツミはいつもこうやって僕を引き留めてきたっけ。
僕は再び胡坐で座り込むと、両手を後ろについて空を見上げた。タツミは、僕が諦めたと思ったらしい。満足げに僕の胸に顔を擦りつけて、ゴロゴロと喉を鳴らしている。
「…そうは言っても、僕喉が渇いたんだよね」
「お水ならそこにあるよ」
「馬鹿、それは川の水だろ。
ばっちぃから飲んじゃ駄目なんだぞ」
「大丈夫だよ!」
「大丈夫じゃない…それに、僕はただの水じゃなくてアレが飲みたいんだよね」
「アレ?」
母屋へ走っていたタツミが戻ってくるまで、そう時間はかからなかった。
この建物は無人だが、いつも隅々まで手入れをされていて埃一つない。そして、家主の性格に反して家具や寝具はいつも同じ場所に整理整頓されている。
毎年のようにこの場所に来ていた僕は、この場所のどこに何があるか手に取るようにわかった。例えば、台所の戸棚の中にあるタツミの大好物とか。
「うんしょ…うんしょ…」
「持とうか?」
「いい!私がやるの!」
「はいはい、ありがとう」
花びらの螺鈿細工が装飾についた丸盆に2つのぐい吞みを乗せて、一滴も零さないように俯いてタツミが歩いてくる。一歩一歩踏みしめるように運ぶ盆の上にはもう一つ、徳利がある。
それでも盆の上には何回か零した跡もあったけど、見ないふりをして徳利と器を持ち上げる。そして、2つのぐい吞みに徳利の中身を並々と注いでいった。
とろみのある白濁した液体が、水音を立てて滑る。
「はい、これはタツミの分ね」
「うん!」
「はい、乾杯―!」
「乾杯―!」
酒器を合わせて景気良い音を立てて、一口で飲み干す。
甘ったるい味が口の中に広がって、身体が気持ちだけ温かくなる。だが、これは気のせいだろう。
徳利の中身は、ほとんどアルコール度数1%もない甘酒だ。ところが、釣られてぐい飲みをあおったタツミは既に上半身がふらついていた。
「おっと、」
「ふぁ…おいしぃ…」
倒れて頭を打ったりしように身体を支えて上から覗き込むと、タツミの器は空になっていた。
器を取り上げて盆の上に戻して、僕はそのままタツミが眠ってしまうのを待った。
子供のころから、タツミは酒に弱かった。僕に甘酒のことを教えてくれたときも、しばらく起きなかったくらいだ。
「…むにゃ、いっくん?」
「うん、何?」
「えへへ…良かった、いる…」
「心配しなくても、明日も来るよ」
「……」
「タツミ?」
「……」
「…よいしょっと、」
ガクン、と頭が下がって花冠が地面に落ちた。
眠りこけたタツミを背負い、建物の中にある寝室らしき和室まで運んだ。枕の横に花冠を置いて、気持ちよさそうな寝息を立てるタツミに布団をかける。
起こさないように足音を潜めて建物を出ると、僕はもと来た道を引き返した。
「タツミ、起きたら絶対怒るよなぁ。
ちゃんと、期限直しの方法を考えておかないと。
…あれ、こんなのあったっけ?」
申し訳なく思いながら、庭園を抜けて玉砂利の上を歩く。
門から庭園へ続く道の反対方向に、目立つ大きさの楕円形の石がいくつも並んでいた。
庭に行くのに夢中だったり遊びに熱中だったりで、今の今までは置石か何かだと思っていった。だが門に手をかけて目を凝らすと石はどれも地面に突き刺さる形で立っていて、薄っすらと文字が刻まれているように思える。
「ま、今度聞いてみるか」
行きはタツミに手を引かれて超えた閾を、帰りは反対側から一人で超えた。その途端。
「え…?
え…!?何で!?」
あれだけ明るかった空がブレーカーを落とされたみたいに真っ暗になった。空を見上げればそこにあったはずの太陽はなく、上限の月が煌々と夜空を照らしている。
気づいた時には、走り出していた。
「やばい…おばさんに怒られる!」
時計を見なくてもわかる。約束の時間はとっくに過ぎている。
女郎花の中を突っ切って、月明りを頼りに階段を駆け下りる。境内を走って自転車に飛び乗ると、ペダルを踏みしめた。
夏が終わって元気がないウシガエルの合唱を聞きながら、まだ生暖かい夜風を追い風にして走る。街灯の間は、暗闇で何も見えない。
空を見上げると山裾から先に天の川と満天の星空が広がっていて、稲穂の影が風で倒れないように頭を流される様子は大海原のようだ。
僕は夜中に外出している背徳感と見たこともない大自然の美しさに興奮していた。
「ははっ…すっげぇ綺麗!」
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