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【第5.5話】レベル測定会―レインー
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「レイン?」
「どうかしたのかー?」
チャンスだ。
身内が傍にいて、声を上げればすぐ来られる場所にいる。
安心して正面を向くと、彼はちらりと視線を逸らしてから小さく笑った。
いたずらをした子供のようなチャーミングな笑顔だ。
ひょっとして、僕はからかわれたのだろうか。
「おや、怖がらせてしまいましたか。
これでも真面目に誘ってるんですけどね」
「……こういうの、冒険者組合は認めているんですか?」
「嫌なら断っていただいてもいいですよ」
答えになっていない。
でも良くないのは確かだ。
差し出された金貨と整理券を交互に見つめる。
もうすぐ冒険者組合の職員がやってきて、開始を告げるだろう。
そうだ、こんなことをしている場合じゃない。
突然こんなことを言われたから驚いてしまったが、僕はレベル測定会に来たんだ。
恐れることはない、一言「結構です」と言ってしまえば、それで終わりだ。
大きく息を吸い込んで、心の準備を整える。
「すみまs」
「では、金貨2枚で」
気づけば、手の中に三桁の数字が印字された紙と金貨があった。
やってしまった、金につられてしまった。
地面に膝をついて項垂れる僕と、当然の結果だというように堂々と歩き去る黒髪の青年。
自分の欲深さを悔いていると、地面に二つの影が指した。
半月型の猫耳とくせっけの長い髪が独特のシルエットとなって、思わず笑みが零れる。
顔を上げて、体育座りのポーズのまま言葉を選ぶ。きっと怒られるだろう。
先輩に来てもらっておいて勝手に出場時間を遅らせるなんて、と失望されるかもしれない。
考え込んでいたら、クラウドさんがわざとらしくため息をついた。
「ご、ごめんなさい」
「お前、抜かしの片棒かついだろ」
「え、ぬかし…?」
「先に順番取っといて、金で売ることだよ。
全く、ちょっと目を離したらコレだ」
「最近の若者はこれだからなー」
「ちょ、ちょっと待ってください!
先輩たち、あの、俺のこと怒らない…んすか?」
尻すぼみになりながらも勇気を出して言うと、二人は同時に顔を見合わせた。
「いや、別に珍しくはねぇよな?」
「うん、ダンジョン攻略でもよく抜かしてるね」
「そうなんですか…?」
「なんだ知らなかったのか」
「はい、てっきりとんだ犯罪を犯してしまったのかと…」
「黙認されてるってだけで、公認ではねぇよ」
「そ、そうなんですね…
何だ、知らないのは僕だけだったんですね…」
身体中から力が抜けていく。
心地よいとはいえないが、安心感に身を浸す。
両手を上げて伸びをすると、クラウドさんの見下すような視線が降ってきた。
ちょっとドキっとしてしまうのは、彼女の顔立ちがいいせいだろうか。
尻尾をブンブンと左右に振りながら、サニーさんが熱心に説明をしてくれた。
「レインさぁ、一歩間違えれば大惨事になるとこだったんだよ?」
「ふぁ?」
「あの冒険者、相当レベルの高い装具を身に付けていた。
それだけの資金を稼ぐ力があるというとは、無理矢理お前から整理券を奪うこともできたってわけだ」
「いや、いやいや!
そんなわけないでしょう!?
だって、僕の持ってる番号ってそこまで順番が早いわけじゃないですし!」
「レイン、お前は相手に整理券番号を一度だって見せたのか?」
「そりゃ、もちろん見せて……」
見せていない。
そういえば、彼は準備運動をしている僕のもとに一直線にやってきた。
もし僕が抜かしをする相手を探すなら、まずは地道に声を掛けていくだろう。
だって、誰がどの整理券番号を持っているかなんて、組合の職員でもない限りわからないのだから。
ただし、冒険者組合は参加者の個人情報に細心の注意を払っているときく。
測定会の成績には、参加者の順位が関わってくる。
だから、名の知れた強い冒険者がいる・もしくはいないとわかると公正なレベル測定ができなくなるのだ。
だから、
「なんで、僕に声をかけたんだろう…?」
「一応、予測はつくけどね」
僕の背中に胸を寄せて体重を預けてのしかかるサニーさん。
生活環境は大して変わらないはずなのに、どこからかいい匂いがする。
首に回された腕は細くしなやかで、背後に当たる感触は温かく柔らかい。鼓動が速くなっていく。
経験がないので確証は持てないが、これってもしかして。
「あぁ、レインは緊張症だからな。
わかりやすくナイーブになって身体を動かしていりゃ、誰だってもうすぐ出番が来るだろうとわかるさ。
始めたばかりのアップほど激しい動きではないし、開始時間が近いことも見抜ける」
「あとはこの初心者用の装備!
初参加の冒険者なら、できるだけ人が少ない朝一番の測定会に参加する可能性が高いよね。
人が多いとそれだけ緊張するし、分母が多くなると成績も上がりにくいから」
「で、でもそんな人僕以外にもたくさんいるじゃないですか!」
「あとお前、相手の目をしばらく見つめてただろう」
「はぁ、まぁ気になって」
距離が離れていてもわかるくらい、彼は品の良い歩き姿だったのだ。
きっと体幹がいいのだろう、重い装備を身に付けて歩いているのに、全く重心がぶれなかった。
僕の恋愛対象は女の子だけれど、気づけば彼に見惚れていたのかもしれない。
背中が気になってムズムズしていると、なぜかサニーさんの腕が僕の気道を締めていく。
苦しい。
「馬鹿野郎。
喧嘩っ早い冒険者はそれだけで殴りかかってくるんだぞ。
自分から警戒心がないと、言ってるようなもんだろうが!」
「レインは都会のお坊ちゃんだからなぁー」
「あ、それはその、僕が悪かったと思います」
「あとは、私たちが傍にいなかったから一人だと思われたんだろ」
「これは私たちの落ち度だよ。ごめんにゃん」
サニーさんが僕から離れ、ぺろっと紅い舌を出した。
カワイイ、全然許せてしまう。
さらにぽんぽんと頭を跳ねるように撫でられ、クラウドさんからはバンバンと背中を叩かれ、同時にげしげしと足を蹴られる。
「ちょっ、子供扱いしないでください…!」
たまらず首を振りバックステップで下がると、小石に躓いて僕はひっくり帰った。
途端に、2人は腹を抱えて笑い出す。
地面に大の字で寝転ぶ僕の姿は、さぞおかし不格好だろう。
だがついさっき迷惑をかけたせいで、全く言い返せない。
「……」
「はははっ!すごい膨れてる!フグみたいだ!」
「あははっ!そう拗ねないでよ~、かわいいなぁ」
周囲の目が痛い。
美女に囲まれて「かわいい」と言われるのは、なかなか複雑な気持ちだ。
特にまだまだ人の目が気になる年頃の僕は、かなり恥ずかしい。
荷物を持って移動しようとすると、ようやく笑い声が静かになった。
「はは、わかったわかった!
もう笑わねぇから、な?へへ」
「ごほんっ、よし。
もう大丈夫!ごふっ!」
「……笑ってるじゃないですか」
「いいや!全く笑っていないぞ」
「そうだよ!ほら、せっかくだし次の回は見学にしよう?」
「それは名案だ。
一度競技の様子を見ておくといい」
「……それは、行きますけど」
まだ時々ふき出して笑いをこらえる二人を後ろに、協議会の会場へ歩く。
場所はそう遠くない場所にあり、受付を行った場所からは少し離れた山の麓に当たる。
すでに野次馬や付き添いが観戦しようと集まっており人だかりができていた。
第一種目は体力錬成、3000m走だ。
「もう始まってるようだな、レイン?見えるか?」
「見たいのは山々ですけど…!人の背中しか見えませんよ…!」
何とか競技の様子を一目見ようと飛び跳ねていると、クラウドさんが「やれやれ」と首をふった。
そして、サニーさんが人の頭の上を指さす。
「違う違う、見るのはあっちだよ」
「あっち?あの木のことですか?」
「あぁ、一本杉だ」
大木が山の頂上に立っている。
ぽつんと立ち尽くすように生えたその木はどっしりとした幹の先で、風に葉葉を揺らしていた。
風になびく様まで目視できるのは、一本杉まで続く道のりが閑散としているからだ。
植物という植物の一切が根を下ろさず、明るい土色の地肌が露わになっている。
一目見てわかる、体力錬成のゴールだ。
人の隙間から見えたそのスタート地点には、石灰で引かれた白線とその前に一列になった参加者がいた。
確かに、僕と同じ初心者装備の人が多いように思う。
ただ、その中でひときわ目につく冒険者がいた。
澄み切った水面に近い薄い青色の髪と、俗にタイガー・アイといわれる金色の瞳。
「あの人、どこかで……」
記憶に引っ掛かるものがあってその横顔を見つめていると、振り返った彼と目が合った気がした。
慌てて目を逸らした直後、スタートのピストルが鳴り響いた。
すぐに視線を戻すと、既に彼は走り出していた。昔森で一度見かけた、狼みたいだった。
長い脚が曲がって力強く地面を掴んだと思ったら、一気にトップスピードに乗っている。
誰に教えられたわけでもないだろうに、それしか有り得ないような美しい走りをして遠ざかっていく。
「はやっ…」
他の参加者を置き去りにして、飛んでるみたいに彼は走りあがっていく。
思わず斜面であることを忘れそうになる。
というか
「あれを見て何を参考にしろと…」
観客の様子を伺うと、誰もが同じように彼の走りを見つめていた。
隣にいた二人も、珍しいものを見たという顔をしている。
何か知っているなら教えてほしい。
説明を欲している視線を察したのか、クラウドさんが顎に手をやりながらポツリとこぼした。
「そうか。
あいつが、神速のロロンか」
「神速?
バフの一種ですか?」
「バフっちゃ、バフだけど…」
バフとは、身体能力や魔法能力を向上さえる魔法のことだ。
速度向上のバフは比較的習得が簡単だった気がする。
バフはあまり持続時間が長くないのが欠点だが、疾走前に魔法使いにかけてもらってもゴールまでは持つだろう。
「固有魔法は、魔法使いが何年も学んで覚えるような魔法を生まれたときから使えるヤツだけに使う言葉なの」
「まさしく、天賦の才能ってやつだ」
「ははぁ、なるほど。
だからあんなに速いんですね」
ようやく腑に落ちた。
彼は当然のように一着でゴールして、ゴール地点で審査員に何かを言っているようだった。
まだ多くの参加者は道の中腹あたりを走っている。
「いや、この種目は魔法も魔法具も使用禁止だよ」
「え、じゃあアレは素の身体能力ですか!?」
「だろうな」
足の速さが全てとはいわないが、冒険に欠かせない要素であるのは確かだ。
嫉妬のような感情を抱いていると、ロロンという名の彼は斜面から降りてきて仲間と話しているようだった。
喧嘩をしているのか大きな声で何かを怒鳴り、ジロジロと不躾な視線を向ける観客を躊躇なく睨む姿を見てはっとする。
以前、居酒屋でまさしく喧嘩をしていた冒険者だ。
綺麗な女性と一緒にいたことと、店員を殴り飛ばしてケガをさせたことのインパクトは大きかった。
だが、彼の前でひるむことなく喋っている相手を見てさらに驚いた。
「思い出した!あの時殴られていた店員だ…!」
「あぁ、そういえば前にレインが言ってたやつか。
ん?だとしたら、あいつら何で親しげなんだ…?」
「さぁ…?どういう関係なんだろうね…?」
第二種目・第三種目を取っても、予想通りロロンさんの身体能力は群を抜いていた。
実務錬成のスモールデビル30体討伐は、支給品の安い小刀でモンスターと戦闘をする。
モンスターのレベルは低いが、高レベルの冒険者の技術を間近で見れるチャンスだ。
今度は最前列をとって食い入るように見つめる。
だが、またしても決着は速かった。
「うそだろ…」
電光石火の早業で接近し、ナイフを振ったと思ったら面白いようにスモールデビルが倒れていく。
不確定要素の多い戦闘中に、的確に急所を見つけて敵の動きを制しながら刺す。
ステップでかく乱したと思ったら間合いに入っていて、隣のモンスターをけん制しながら足技も積極的に使っていく。
軽々と行っているのが信じられないくらい何次元も上の戦闘技術だ。
そして基礎錬成の腹筋・腕立て・握力で、僕はさらにその身体能力を思い知った。
思えば、予兆は競技前からあった。
「ん?」
「……」
「きた~!きゃあ~!」
最後に行われる基礎錬成は、実務錬成で身に付けていた防具やアクセサリーの類を外すように言われる。
参加者の一人が防具を脱ぎ始めたのを皮切りに、次々に脱衣していく人たち。
だが男性冒険者の多くは、さらに上半身の服まで脱いでいく。あちこちから、女性の黄色い悲鳴が上がった。
サニーさんも「キャッキャッ」言いながら、僕の背後で嬉しそうにしている。
クラウドさんはといえば、顔を覆い隠すように両手の前に挙げている。
恥ずかしいのかな?と思いきや、指の隙間からがっつり凝視していた。
「な、何で急に参加者が半裸になっているんです?」
「慣習だ。
なぜかレベル測定会では多くの男性が半裸になって競技を行うんだ」
「それどういう理屈なんですか!?」
「一説によると、かつて男だけのギルドが測定会に参加した際、悪ノリで行ったのが始まりらしい」
「あぁ…やりそう……」
「あとは、好きな人にアピールするためっていう説もあるんだよ!」
「あぁ…やりそう……」
同じ男として、どこか理解できてしまうのが悲しい。
特に、肉体を鍛えていたら誰かに見てもらいたいというのは自然な感情だ。会場にはロロンさんもいた。
かなり不満げな顔をしながらも、彼もまた渋々といた様子で上半身の服を脱ぐ。
すると、鍛えられた筋肉が露わになった。
仕事道具の腕はさることながら肩、胸、そして6つに割れた腹筋まで、見事に仕上がっている。
サニーさんが興奮のあまり僕の背中を再びバンバンと叩き始める。痛い痛い。
「すごっ…!あの人すごい身体してるよ…!」
「……本当だな」
指の隙間からクラウドさんも賛同する。
なぜか悔しくなってきた。
測定器がミシミと音を立てるような握力も、助走なしで僕の身長を超す距離を飛ぶ脚力も、最後まで疲れる様子を見せずに終わらせた腹筋も、僕にはない。
しかもそれをこれから先輩たちに見られるというのが、たまらなく落ち込む。
測定会の結果は一覧となって張り出されるのだが、当然ロロンさんの名前が一番上にあった。
掲示板を見上げて
「あんなに凄い人がまだまだ沢山いるんだな…」
「おいおい、気合負けしているのか?
あれはあれ、それはそれ、お前はお前なんだから、ちゃんと自信持っていけよ」
「はい……あ、ちょっとお手洗い行ってきます」
「はーい、私たちは先に行ってるね」
「はい!」
足早に先輩たちから離れて、用を済ませてほっとする。
両手を念入りに洗い、興奮冷めやらぬ頬を叩いて気合を入れる。
落ち着け、今日のレベル測定会は様子見だ。
Aランクギルドに所属しているという彼の技術をまねても、空回りするだけだ。
昂っていた気持ちを静めて、外に踏み出した。
「ったく、何で俺がレベル42なんだ。おかしいだろうが」
「いやいや、どう見ても妥当な結果でしょう…おや、先ほどはどうも」
「あ?誰だコイツ」
「うっ!?」
お手洗いを出た最初の角を曲がったところに、僕の心を揺さぶった張本人が立っていた。
神速のロロン、それから怪しげな笑みを浮かべる店員さん。
そのまま通り過ぎればいいのに、思いもしない展開に両の足は止まってしまう。
挨拶程度に声をかけたはずの店員さんは、にこやかに話しかけてきた。
「お陰様で無事時間に間に合いました」
「あ、あぁ…いえ、こちらこそ、ありがとうございました」
軽く会釈をしあうが、あまり良くない取引をした自覚がある手前目を合わせられなかった。
結果として、話しが終わるのを大人しく待つ神速のロロンさんが視界に入る。
あれだけ動いたのに、何事もなかったように涼しい顔をしている。すらりと伸びた四肢を見て、やっぱりリーチが長いと有利なんだろうなと思う。
これだけ身体能力に恵まれていたら、天狗になって酒の席で暴れるのもわかる気がする。
妬ましく思う気持ちを抱える反面、こんな彼でもどこかで努力もしていることもわかっていた。
僕はどれだけ頑張ったら、彼と同じ土俵に立てるだろうか。物思いにふけながら彼の顔を見つめていると、じろりと睨まれた。
やばい、一気に全身の毛が逆立つ。
相手の目を見つめるのは挑発行為だと、ついさっき教わったばかりなのに。
「…何見てんだてめぇ」
「ごごごめんなさい!」
脊髄反射で頭を下げると、店員さんが助けに入った。
「まぁまぁ、彼が順番を代わってくれたんですよ」
「あ?そうなのか?」
「え?えぇ、まぁ…」
「そうか、ありがとうな」
あ、この人も感謝を述べることがあるのか。
恐怖が心なしか和らいで顔を上げると、つんっと顔を逸らしてぶっきらぼうに礼をいうロロンさんの顔が目に入る。
彼にも人間らしい心があるのだなぁと感心して、同時に同じ人間だからこそ思ってしまう。
「あの、どうしてそんなに強いんですか?」
「はぁ?」
「あ…」
口走ってから、冷え切った両手で口を押えた。
極度の緊張から解放された勢いで、思ったことを口にしていた。
しかも、よりによって単純かつあまり考えていなさそうな質問を。
どう言い訳しようか必死に脳を回転させていると、その前にロロンさんが口を開いた。
「…強くねぇよ。
ただ、強いて言うなら俺は師匠から鍛えられただけだ」
「ししょう?」
まさか答えてもらえるとは思わず、そのまま復唱する僕。
頭をかきながら、ロロンさんは言葉を選んで喋っているようだった。
しかし、それがまるで天啓のような気がして僕は聴覚に集中する。
「風の女神の一人で……フリーグスって人、いや女神だ」
「あ、あの、その方って、もし、もし僕も……」
強くなれるかもしれない。
その一世一代のチャンスが今、目の前にある気がしてならない。
「あの人は基本的に『来るもの拒まず去る者追わず』の精神だから、鍛えてぇなら行くと言い。
ただ、死ぬほど辛いけどな」
「あ、ありがとうございます!」
「へぇ、ロロンさん案外優しいんですね」
「うるせぇ、ただの礼だ。
お前こそ、何か言ってやらねぇのかよ。コウガ」
「僕ですか?うーん、そうですね」
軽口をたたき合う二人に、僕は自分までもが大人になったような感覚がした。
からかうようにニヤついていたコウガと呼ばれた店員さんは、ふと僕の全身を上から下まで流し見た。
「魔法の適正はロロンさんよりありますよ」
「は?」
「え、本当ですか!?」
「身体能力は低めですけどね。
敵の力量を間違えたりしなければ、十分やっていけると思いますよ」
「おい、コウガ。
こっちを見ろ、おい」
「そ、そうなんですね…」
やけに具体的なアドバイスだったが、どこか説得力がある。
深く心に留めていると、店員さんが「そろそろ出場時間では?」といい僕は慌ててお礼をいって駆けだした。
背後から、ロロンさんの
「全力で行けよ」
という言葉が聞こえてきた。
再び僕の胸が高鳴り始めていた。
「どうかしたのかー?」
チャンスだ。
身内が傍にいて、声を上げればすぐ来られる場所にいる。
安心して正面を向くと、彼はちらりと視線を逸らしてから小さく笑った。
いたずらをした子供のようなチャーミングな笑顔だ。
ひょっとして、僕はからかわれたのだろうか。
「おや、怖がらせてしまいましたか。
これでも真面目に誘ってるんですけどね」
「……こういうの、冒険者組合は認めているんですか?」
「嫌なら断っていただいてもいいですよ」
答えになっていない。
でも良くないのは確かだ。
差し出された金貨と整理券を交互に見つめる。
もうすぐ冒険者組合の職員がやってきて、開始を告げるだろう。
そうだ、こんなことをしている場合じゃない。
突然こんなことを言われたから驚いてしまったが、僕はレベル測定会に来たんだ。
恐れることはない、一言「結構です」と言ってしまえば、それで終わりだ。
大きく息を吸い込んで、心の準備を整える。
「すみまs」
「では、金貨2枚で」
気づけば、手の中に三桁の数字が印字された紙と金貨があった。
やってしまった、金につられてしまった。
地面に膝をついて項垂れる僕と、当然の結果だというように堂々と歩き去る黒髪の青年。
自分の欲深さを悔いていると、地面に二つの影が指した。
半月型の猫耳とくせっけの長い髪が独特のシルエットとなって、思わず笑みが零れる。
顔を上げて、体育座りのポーズのまま言葉を選ぶ。きっと怒られるだろう。
先輩に来てもらっておいて勝手に出場時間を遅らせるなんて、と失望されるかもしれない。
考え込んでいたら、クラウドさんがわざとらしくため息をついた。
「ご、ごめんなさい」
「お前、抜かしの片棒かついだろ」
「え、ぬかし…?」
「先に順番取っといて、金で売ることだよ。
全く、ちょっと目を離したらコレだ」
「最近の若者はこれだからなー」
「ちょ、ちょっと待ってください!
先輩たち、あの、俺のこと怒らない…んすか?」
尻すぼみになりながらも勇気を出して言うと、二人は同時に顔を見合わせた。
「いや、別に珍しくはねぇよな?」
「うん、ダンジョン攻略でもよく抜かしてるね」
「そうなんですか…?」
「なんだ知らなかったのか」
「はい、てっきりとんだ犯罪を犯してしまったのかと…」
「黙認されてるってだけで、公認ではねぇよ」
「そ、そうなんですね…
何だ、知らないのは僕だけだったんですね…」
身体中から力が抜けていく。
心地よいとはいえないが、安心感に身を浸す。
両手を上げて伸びをすると、クラウドさんの見下すような視線が降ってきた。
ちょっとドキっとしてしまうのは、彼女の顔立ちがいいせいだろうか。
尻尾をブンブンと左右に振りながら、サニーさんが熱心に説明をしてくれた。
「レインさぁ、一歩間違えれば大惨事になるとこだったんだよ?」
「ふぁ?」
「あの冒険者、相当レベルの高い装具を身に付けていた。
それだけの資金を稼ぐ力があるというとは、無理矢理お前から整理券を奪うこともできたってわけだ」
「いや、いやいや!
そんなわけないでしょう!?
だって、僕の持ってる番号ってそこまで順番が早いわけじゃないですし!」
「レイン、お前は相手に整理券番号を一度だって見せたのか?」
「そりゃ、もちろん見せて……」
見せていない。
そういえば、彼は準備運動をしている僕のもとに一直線にやってきた。
もし僕が抜かしをする相手を探すなら、まずは地道に声を掛けていくだろう。
だって、誰がどの整理券番号を持っているかなんて、組合の職員でもない限りわからないのだから。
ただし、冒険者組合は参加者の個人情報に細心の注意を払っているときく。
測定会の成績には、参加者の順位が関わってくる。
だから、名の知れた強い冒険者がいる・もしくはいないとわかると公正なレベル測定ができなくなるのだ。
だから、
「なんで、僕に声をかけたんだろう…?」
「一応、予測はつくけどね」
僕の背中に胸を寄せて体重を預けてのしかかるサニーさん。
生活環境は大して変わらないはずなのに、どこからかいい匂いがする。
首に回された腕は細くしなやかで、背後に当たる感触は温かく柔らかい。鼓動が速くなっていく。
経験がないので確証は持てないが、これってもしかして。
「あぁ、レインは緊張症だからな。
わかりやすくナイーブになって身体を動かしていりゃ、誰だってもうすぐ出番が来るだろうとわかるさ。
始めたばかりのアップほど激しい動きではないし、開始時間が近いことも見抜ける」
「あとはこの初心者用の装備!
初参加の冒険者なら、できるだけ人が少ない朝一番の測定会に参加する可能性が高いよね。
人が多いとそれだけ緊張するし、分母が多くなると成績も上がりにくいから」
「で、でもそんな人僕以外にもたくさんいるじゃないですか!」
「あとお前、相手の目をしばらく見つめてただろう」
「はぁ、まぁ気になって」
距離が離れていてもわかるくらい、彼は品の良い歩き姿だったのだ。
きっと体幹がいいのだろう、重い装備を身に付けて歩いているのに、全く重心がぶれなかった。
僕の恋愛対象は女の子だけれど、気づけば彼に見惚れていたのかもしれない。
背中が気になってムズムズしていると、なぜかサニーさんの腕が僕の気道を締めていく。
苦しい。
「馬鹿野郎。
喧嘩っ早い冒険者はそれだけで殴りかかってくるんだぞ。
自分から警戒心がないと、言ってるようなもんだろうが!」
「レインは都会のお坊ちゃんだからなぁー」
「あ、それはその、僕が悪かったと思います」
「あとは、私たちが傍にいなかったから一人だと思われたんだろ」
「これは私たちの落ち度だよ。ごめんにゃん」
サニーさんが僕から離れ、ぺろっと紅い舌を出した。
カワイイ、全然許せてしまう。
さらにぽんぽんと頭を跳ねるように撫でられ、クラウドさんからはバンバンと背中を叩かれ、同時にげしげしと足を蹴られる。
「ちょっ、子供扱いしないでください…!」
たまらず首を振りバックステップで下がると、小石に躓いて僕はひっくり帰った。
途端に、2人は腹を抱えて笑い出す。
地面に大の字で寝転ぶ僕の姿は、さぞおかし不格好だろう。
だがついさっき迷惑をかけたせいで、全く言い返せない。
「……」
「はははっ!すごい膨れてる!フグみたいだ!」
「あははっ!そう拗ねないでよ~、かわいいなぁ」
周囲の目が痛い。
美女に囲まれて「かわいい」と言われるのは、なかなか複雑な気持ちだ。
特にまだまだ人の目が気になる年頃の僕は、かなり恥ずかしい。
荷物を持って移動しようとすると、ようやく笑い声が静かになった。
「はは、わかったわかった!
もう笑わねぇから、な?へへ」
「ごほんっ、よし。
もう大丈夫!ごふっ!」
「……笑ってるじゃないですか」
「いいや!全く笑っていないぞ」
「そうだよ!ほら、せっかくだし次の回は見学にしよう?」
「それは名案だ。
一度競技の様子を見ておくといい」
「……それは、行きますけど」
まだ時々ふき出して笑いをこらえる二人を後ろに、協議会の会場へ歩く。
場所はそう遠くない場所にあり、受付を行った場所からは少し離れた山の麓に当たる。
すでに野次馬や付き添いが観戦しようと集まっており人だかりができていた。
第一種目は体力錬成、3000m走だ。
「もう始まってるようだな、レイン?見えるか?」
「見たいのは山々ですけど…!人の背中しか見えませんよ…!」
何とか競技の様子を一目見ようと飛び跳ねていると、クラウドさんが「やれやれ」と首をふった。
そして、サニーさんが人の頭の上を指さす。
「違う違う、見るのはあっちだよ」
「あっち?あの木のことですか?」
「あぁ、一本杉だ」
大木が山の頂上に立っている。
ぽつんと立ち尽くすように生えたその木はどっしりとした幹の先で、風に葉葉を揺らしていた。
風になびく様まで目視できるのは、一本杉まで続く道のりが閑散としているからだ。
植物という植物の一切が根を下ろさず、明るい土色の地肌が露わになっている。
一目見てわかる、体力錬成のゴールだ。
人の隙間から見えたそのスタート地点には、石灰で引かれた白線とその前に一列になった参加者がいた。
確かに、僕と同じ初心者装備の人が多いように思う。
ただ、その中でひときわ目につく冒険者がいた。
澄み切った水面に近い薄い青色の髪と、俗にタイガー・アイといわれる金色の瞳。
「あの人、どこかで……」
記憶に引っ掛かるものがあってその横顔を見つめていると、振り返った彼と目が合った気がした。
慌てて目を逸らした直後、スタートのピストルが鳴り響いた。
すぐに視線を戻すと、既に彼は走り出していた。昔森で一度見かけた、狼みたいだった。
長い脚が曲がって力強く地面を掴んだと思ったら、一気にトップスピードに乗っている。
誰に教えられたわけでもないだろうに、それしか有り得ないような美しい走りをして遠ざかっていく。
「はやっ…」
他の参加者を置き去りにして、飛んでるみたいに彼は走りあがっていく。
思わず斜面であることを忘れそうになる。
というか
「あれを見て何を参考にしろと…」
観客の様子を伺うと、誰もが同じように彼の走りを見つめていた。
隣にいた二人も、珍しいものを見たという顔をしている。
何か知っているなら教えてほしい。
説明を欲している視線を察したのか、クラウドさんが顎に手をやりながらポツリとこぼした。
「そうか。
あいつが、神速のロロンか」
「神速?
バフの一種ですか?」
「バフっちゃ、バフだけど…」
バフとは、身体能力や魔法能力を向上さえる魔法のことだ。
速度向上のバフは比較的習得が簡単だった気がする。
バフはあまり持続時間が長くないのが欠点だが、疾走前に魔法使いにかけてもらってもゴールまでは持つだろう。
「固有魔法は、魔法使いが何年も学んで覚えるような魔法を生まれたときから使えるヤツだけに使う言葉なの」
「まさしく、天賦の才能ってやつだ」
「ははぁ、なるほど。
だからあんなに速いんですね」
ようやく腑に落ちた。
彼は当然のように一着でゴールして、ゴール地点で審査員に何かを言っているようだった。
まだ多くの参加者は道の中腹あたりを走っている。
「いや、この種目は魔法も魔法具も使用禁止だよ」
「え、じゃあアレは素の身体能力ですか!?」
「だろうな」
足の速さが全てとはいわないが、冒険に欠かせない要素であるのは確かだ。
嫉妬のような感情を抱いていると、ロロンという名の彼は斜面から降りてきて仲間と話しているようだった。
喧嘩をしているのか大きな声で何かを怒鳴り、ジロジロと不躾な視線を向ける観客を躊躇なく睨む姿を見てはっとする。
以前、居酒屋でまさしく喧嘩をしていた冒険者だ。
綺麗な女性と一緒にいたことと、店員を殴り飛ばしてケガをさせたことのインパクトは大きかった。
だが、彼の前でひるむことなく喋っている相手を見てさらに驚いた。
「思い出した!あの時殴られていた店員だ…!」
「あぁ、そういえば前にレインが言ってたやつか。
ん?だとしたら、あいつら何で親しげなんだ…?」
「さぁ…?どういう関係なんだろうね…?」
第二種目・第三種目を取っても、予想通りロロンさんの身体能力は群を抜いていた。
実務錬成のスモールデビル30体討伐は、支給品の安い小刀でモンスターと戦闘をする。
モンスターのレベルは低いが、高レベルの冒険者の技術を間近で見れるチャンスだ。
今度は最前列をとって食い入るように見つめる。
だが、またしても決着は速かった。
「うそだろ…」
電光石火の早業で接近し、ナイフを振ったと思ったら面白いようにスモールデビルが倒れていく。
不確定要素の多い戦闘中に、的確に急所を見つけて敵の動きを制しながら刺す。
ステップでかく乱したと思ったら間合いに入っていて、隣のモンスターをけん制しながら足技も積極的に使っていく。
軽々と行っているのが信じられないくらい何次元も上の戦闘技術だ。
そして基礎錬成の腹筋・腕立て・握力で、僕はさらにその身体能力を思い知った。
思えば、予兆は競技前からあった。
「ん?」
「……」
「きた~!きゃあ~!」
最後に行われる基礎錬成は、実務錬成で身に付けていた防具やアクセサリーの類を外すように言われる。
参加者の一人が防具を脱ぎ始めたのを皮切りに、次々に脱衣していく人たち。
だが男性冒険者の多くは、さらに上半身の服まで脱いでいく。あちこちから、女性の黄色い悲鳴が上がった。
サニーさんも「キャッキャッ」言いながら、僕の背後で嬉しそうにしている。
クラウドさんはといえば、顔を覆い隠すように両手の前に挙げている。
恥ずかしいのかな?と思いきや、指の隙間からがっつり凝視していた。
「な、何で急に参加者が半裸になっているんです?」
「慣習だ。
なぜかレベル測定会では多くの男性が半裸になって競技を行うんだ」
「それどういう理屈なんですか!?」
「一説によると、かつて男だけのギルドが測定会に参加した際、悪ノリで行ったのが始まりらしい」
「あぁ…やりそう……」
「あとは、好きな人にアピールするためっていう説もあるんだよ!」
「あぁ…やりそう……」
同じ男として、どこか理解できてしまうのが悲しい。
特に、肉体を鍛えていたら誰かに見てもらいたいというのは自然な感情だ。会場にはロロンさんもいた。
かなり不満げな顔をしながらも、彼もまた渋々といた様子で上半身の服を脱ぐ。
すると、鍛えられた筋肉が露わになった。
仕事道具の腕はさることながら肩、胸、そして6つに割れた腹筋まで、見事に仕上がっている。
サニーさんが興奮のあまり僕の背中を再びバンバンと叩き始める。痛い痛い。
「すごっ…!あの人すごい身体してるよ…!」
「……本当だな」
指の隙間からクラウドさんも賛同する。
なぜか悔しくなってきた。
測定器がミシミと音を立てるような握力も、助走なしで僕の身長を超す距離を飛ぶ脚力も、最後まで疲れる様子を見せずに終わらせた腹筋も、僕にはない。
しかもそれをこれから先輩たちに見られるというのが、たまらなく落ち込む。
測定会の結果は一覧となって張り出されるのだが、当然ロロンさんの名前が一番上にあった。
掲示板を見上げて
「あんなに凄い人がまだまだ沢山いるんだな…」
「おいおい、気合負けしているのか?
あれはあれ、それはそれ、お前はお前なんだから、ちゃんと自信持っていけよ」
「はい……あ、ちょっとお手洗い行ってきます」
「はーい、私たちは先に行ってるね」
「はい!」
足早に先輩たちから離れて、用を済ませてほっとする。
両手を念入りに洗い、興奮冷めやらぬ頬を叩いて気合を入れる。
落ち着け、今日のレベル測定会は様子見だ。
Aランクギルドに所属しているという彼の技術をまねても、空回りするだけだ。
昂っていた気持ちを静めて、外に踏み出した。
「ったく、何で俺がレベル42なんだ。おかしいだろうが」
「いやいや、どう見ても妥当な結果でしょう…おや、先ほどはどうも」
「あ?誰だコイツ」
「うっ!?」
お手洗いを出た最初の角を曲がったところに、僕の心を揺さぶった張本人が立っていた。
神速のロロン、それから怪しげな笑みを浮かべる店員さん。
そのまま通り過ぎればいいのに、思いもしない展開に両の足は止まってしまう。
挨拶程度に声をかけたはずの店員さんは、にこやかに話しかけてきた。
「お陰様で無事時間に間に合いました」
「あ、あぁ…いえ、こちらこそ、ありがとうございました」
軽く会釈をしあうが、あまり良くない取引をした自覚がある手前目を合わせられなかった。
結果として、話しが終わるのを大人しく待つ神速のロロンさんが視界に入る。
あれだけ動いたのに、何事もなかったように涼しい顔をしている。すらりと伸びた四肢を見て、やっぱりリーチが長いと有利なんだろうなと思う。
これだけ身体能力に恵まれていたら、天狗になって酒の席で暴れるのもわかる気がする。
妬ましく思う気持ちを抱える反面、こんな彼でもどこかで努力もしていることもわかっていた。
僕はどれだけ頑張ったら、彼と同じ土俵に立てるだろうか。物思いにふけながら彼の顔を見つめていると、じろりと睨まれた。
やばい、一気に全身の毛が逆立つ。
相手の目を見つめるのは挑発行為だと、ついさっき教わったばかりなのに。
「…何見てんだてめぇ」
「ごごごめんなさい!」
脊髄反射で頭を下げると、店員さんが助けに入った。
「まぁまぁ、彼が順番を代わってくれたんですよ」
「あ?そうなのか?」
「え?えぇ、まぁ…」
「そうか、ありがとうな」
あ、この人も感謝を述べることがあるのか。
恐怖が心なしか和らいで顔を上げると、つんっと顔を逸らしてぶっきらぼうに礼をいうロロンさんの顔が目に入る。
彼にも人間らしい心があるのだなぁと感心して、同時に同じ人間だからこそ思ってしまう。
「あの、どうしてそんなに強いんですか?」
「はぁ?」
「あ…」
口走ってから、冷え切った両手で口を押えた。
極度の緊張から解放された勢いで、思ったことを口にしていた。
しかも、よりによって単純かつあまり考えていなさそうな質問を。
どう言い訳しようか必死に脳を回転させていると、その前にロロンさんが口を開いた。
「…強くねぇよ。
ただ、強いて言うなら俺は師匠から鍛えられただけだ」
「ししょう?」
まさか答えてもらえるとは思わず、そのまま復唱する僕。
頭をかきながら、ロロンさんは言葉を選んで喋っているようだった。
しかし、それがまるで天啓のような気がして僕は聴覚に集中する。
「風の女神の一人で……フリーグスって人、いや女神だ」
「あ、あの、その方って、もし、もし僕も……」
強くなれるかもしれない。
その一世一代のチャンスが今、目の前にある気がしてならない。
「あの人は基本的に『来るもの拒まず去る者追わず』の精神だから、鍛えてぇなら行くと言い。
ただ、死ぬほど辛いけどな」
「あ、ありがとうございます!」
「へぇ、ロロンさん案外優しいんですね」
「うるせぇ、ただの礼だ。
お前こそ、何か言ってやらねぇのかよ。コウガ」
「僕ですか?うーん、そうですね」
軽口をたたき合う二人に、僕は自分までもが大人になったような感覚がした。
からかうようにニヤついていたコウガと呼ばれた店員さんは、ふと僕の全身を上から下まで流し見た。
「魔法の適正はロロンさんよりありますよ」
「は?」
「え、本当ですか!?」
「身体能力は低めですけどね。
敵の力量を間違えたりしなければ、十分やっていけると思いますよ」
「おい、コウガ。
こっちを見ろ、おい」
「そ、そうなんですね…」
やけに具体的なアドバイスだったが、どこか説得力がある。
深く心に留めていると、店員さんが「そろそろ出場時間では?」といい僕は慌ててお礼をいって駆けだした。
背後から、ロロンさんの
「全力で行けよ」
という言葉が聞こえてきた。
再び僕の胸が高鳴り始めていた。
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