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56最終話-1 いつかまた…

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 ジウシードは毎夜、月が輝く庭園を眺めていた。月を見上げ、アキラを想う。

「今日は満月ですね。本来なら今日魔法陣を開くことが可能だったかもしれないのに」

 フェシスが悔しそうに言葉にする。転移のための魔法陣を開く方法は月の魔力を使うことだった。それが判明したというのに、肝心の魔石が消失していた。
 ジウシードたちは散々魔石を探すも見付からず、他に転移する方法がないのかと必死に探した。転移の魔石を創ることが出来ないのか、と研究も重ねた。フェシスが必死になって色々と調べたが、しかしやはり今すぐそんな方法が見付かるはずもなかった。

 ジウシードは悔しそうに月を見上げる。ジェイクは「くそっ」と小さく呟き項垂れた。ウェジエとフェシスはそんなふたりを見詰めるが、どうしようも出来ない歯痒さを感じ、拳を握り締めるのだった。

 そのとき月がキラキラとなにやら煌めく。

「?」

 ジウシードは見間違いかと目を凝らす。しかし、月からはキラキラとまるで砂でも零れ落ちるかのように光る欠片が降ってくる。それは庭園の広場へと降り注ぎ、次第に光り輝く魔法陣を浮かび上がらせた。

 金色に光り輝く魔法陣は大きく光りを放つと、そこに人影を浮き上がらせた。キラキラと金色の光で包まれていた人影は、次第にその人物をはっきりとさせていく。

「アキラ!!」
「リョウ!!」

 ジウシードとジェイクは目を見開き、そして、金色の光と共に姿を現した人影がアキラとリョウであることに気付いた。



 ◇◇



 金色の光に包まれ、目の前が真っ白になったかと思うと、俺たちを呼ぶ声が聞こえた。それは懐かしく、愛おしい声。ずっと会いたかった声。

 次第に目の前の視界が戻って来ると、キラキラと煌めいていた光が消えていく。そして俺たちの前には……

「ジウシード!!」
「ジェイク!!」

 俺たちの姿を見付けたジウシードとジェイクは俺たちの元まで駆け寄って来た。そして、ジウシードに思い切り抱き締められる。

「アキラ……アキラ……良かった……無事で良かった……再び会えて良かった……」

 苦しいほどに抱き締められる。しかし、その力強い腕は震えていた。俺の首筋に顔を埋め、泣きそうな、消え入りそうなそんな震える声。それが酷く切なくさせる。

「ジウシード、心配かけてごめん。俺ももう一度会えて良かった」

 震えるジウシードの背中に腕を伸ばし、力の限り抱き締め返す。チラリと見えたジウシードの向こう側にはリョウとジェイクの姿も見えた。

 ジェイクはリョウを睨みながらも若干涙ぐみ、そっと手を取っていた。リョウはそんなジェイクに笑いながらも、優しい目を向けている。そして首元に手を伸ばし抱き締めていた。そんなリョウの姿は初めて見る。ジェイクは目を見開き、あわあわと顔を赤くしていた。ハハ。

「アキラ、リョウ、ふたりとも無事で良かった」

 ウェジエが嬉しそうな顔で歩み寄って来た。顔を赤くしたジェイクは焦ったように、慌ててリョウを引き剥がしている。そんな姿に思わず笑ってしまう。

「おふたりともどうやってこちらの世界に……」

 フェシスも喜んでくれているのだろうが、それよりも「一体どうやって」といった顔。俺はジウシードから身体を離し、リョウと共に皆へと説明した。

 俺たちは日本へと転移させられ、そして俺たちの母親がこのアルヴェスタの人間であったということを知り、そしてその転移の魔法陣を開くための魔石を母親が持ち出してしまっていたということを皆に伝える。

 皆が俺の手にある魔石を覗き込んだ。

「これが例の魔石……まさかアキラとリョウの母上が持ち出していたとは……」

 ウェジエが驚きの声を上げた。

「まさかアキラが俺たちと同じアルヴェスタの人間だったなんて……やはり運命だな」

 ジウシードがそう呟き、肩を抱き寄せながら、うっとりとした目で俺を見た。そんな姿を皆はシラーッと見ているが、もう慣れたものだとばかりに話を続けた。ハハハ……。

「アキラとリョウがアルヴェスタの人間の血を継いでいたおかげで魔力を籠めることが出来た、という訳ですね。もしただの日本人だった場合、それは叶わなかったわけですし。確かに運命かもしれませんね」

 思ってもみない言葉がフェシスから飛び出し、皆が驚きフェシスを見た。まさかフェシスの口から「運命」なんて言葉が出るとは。フェシスは運命なんて曖昧なものは信じていないのかと思っていた。

「なんですか? 私も運命くらいは信じますよ。ウェジエと私も運命の相手なんですからね。私がウェジエに一番近しい人間でなおかつ運命の相手でなければ、貴方方の再会だって遠退いていたのかもしれませんよ? 私が転移させられたのがウェジエの近くだったから、すぐさまアキラたちが日本へ転移したことが分かったのですから」

 スンとした顔でフェシスが言い切り、唖然としていると、ウェジエは嬉しそうにフェシスの肩を抱き寄せた。

「ハハ、フェシスがそんな風に思ってくれていたなんて……俺だけが運命の相手と思っているんだと思ってた」

 満面の笑みでウェジエはフェシスのこめかみに口付けた。さらりと行われた行為に俺たちは違和感なくそれを受け入れていたのだが……

「「「「あ……」」」」

 フェシスの顔が見る見るうちに真っ赤になった……。

「ウェ、ウェジエ!! ひ、ひと前でなんてことをしているんだ!?」
「え?」

 フェシスは顔を真っ赤にさせウェジエに怒鳴る。しかも、いつもは俺たちの前では敬語で話しているのに……言葉遣いが崩れた……。こんな慌てふためくフェシスは初めて見たな……ハハハ。

「え、いや、だって! フェシスがなんか嬉しいこと言ってるし! なんか可愛いし!」
「か、か、可愛いとか意味分からないことを!!」
「え、いや、その……こめかみにキスしたくらいでそんな……ジウシードのほうがもっと凄いことしてるじゃないか!!」

 おいぃ!! 飛び火した!!

「ちょっ、ちょっとこっちを巻き込むなよ!!」

 慌てて俺も叫ぶが、ジウシードはニヤッとした。

「そうだな、こめかみにキスするくらいなんてことはない」

 そう言いながらチュッと俺のこめかみに!!

「なっ! ちょっ!! 今はそんな話じゃないだろ!!」
「それは俺もジェイクにしたらいいのか?」

 なぜかニヤッとリョウまでノリノリに。

「はぁ!? 馬鹿か!?」

 目を見開き焦り出すジェイクが顔を赤くさせ、じりっと後退った。
 な、なんだこれ……。皆が訳が分からないテンションでわちゃわちゃになっていた。しかし、なんだかそれが嬉しくもあり、楽しくて、最後にはなんだか笑いが止まらなくなったのだった。



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