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54-2 想いと覚悟

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 苦笑していた表情から今度は真剣な目をこちらに向け聞かれる。そう、俺たちの今後。俺は出来ることならアルヴェスタへと戻り、ジウシードと共に生きたい。一生傍にいると誓った想いはそう簡単になくなるものでもない。
 日本にいると懐かしくもあり、このまま日本で過ごしたいという気持ちももちろんある。しかし、ジウシードと離れて生きていく、という考えはもう俺にはなかった。

「俺はアルヴェスタに戻りたい。一生共に生きていきたい相手を見付けたから」

 迷いはなかった。真っ直ぐに原田さんの目を見詰め、そう宣言した。原田さんは少し目を見開き驚いた顔をしたかと思うと、フッと微笑んだ。

「なんかお前変わったな」
「え?」

 変わった? 俺が? キョトンとしていると、原田さんはハハッと笑った。

「以前のお前はいつも自信なさげだっただろ。いつも「俺なんか」みたいな後ろ向きな発言が口癖みたいな奴だったのに。ハハ。そのお相手さんのおかげか? 今のお前は愛されている自信からか、昔のお前の弱さは全く感じないよ」

 そう言いニヤッと笑った原田さん。「愛されている自信」とか言われてカァァッと顔が熱くなるのを感じた。しかし、恥ずかしくはあるが、それを否定することはない。俺はジウシードに愛してもらえて、アルヴェスタで出逢った皆のおかげで、そしてリョウのおかげで、少しは強くなれたんじゃないかと思うし、強くなりたい、変わっていきたいと思えた。

「良い出逢いがあって良かったな」
「うん……ありがとう」

 原田さんはまるで父親のように、優し気な目を向け微笑んでくれる。それが嬉しくもあり、こんな歳になってまでも心配をかけていたのかという気恥ずかしさもあった。しかし、ふわふわとしたなんだか幸せな気分にもなるのだった。

「で、リョウはどうするんだ?」

 原田さんは俺から視線をリョウへと移し、再び真面目な顔で聞いた。

 俺自身もリョウの答えが気になり、チラリとリョウへと目を向ける。
 リョウがジェイクを好きだったのは分かる。リョウは嫌いな人間にあれほど構う奴じゃない。好きでもない奴、無関心であったり、嫌いな奴は徹底的に無視をするリョウだ。

 小さい頃、男子が好きな女子に意地悪をする、そんなレベルと一緒にするとリョウに怒られそうだが、しかし、端から見ていると、明らかにジェイクをからかって反応を楽しんでいたよな。今まで何人も彼女がいたことはあっただろうが、リョウが女の子にそんなことをしているのを見たことはない。ひたすら丁寧に優しく紳士的な態度だった。まあふたりきりのときはどうなのか知らないが。しかし、だからこそ王子様的に思われてモテていたのだろう。

 でも、ジェイクには……あれはリョウの素だと思う。取り繕っていないリョウの本当の姿。男同士だからだということもあるかもしれないが、王子様である必要もない本来の素の姿を見せることの出来る相手。
 それだけでも、明らかにリョウはジェイクのことを特別に想っているのだろう、ということは分かる。しかし、今、日本へと帰って来て、わざわざまた異世界に戻りたいのか、と思うのかは分からなかった。そこまでの愛をジェイクに感じているのだろうか。

 隣に並んで座るリョウを伺い見る。リョウは少しの間、俯き考え込んでいるようだった。しかし、顔を上げ、真っ直ぐに原田さんを見詰めた。

「俺も方法が見付かるなら戻るよ。あいつには俺が必要だろうから」

 そう言ったリョウの表情は愛おしい者を思い浮かべるように柔らかいものだった。その言葉に原田さんは目を見開き笑う。

「ハハ。お前らしいな」

 クククッと笑いを堪え切れないといった様子の原田さん。そんな原田さんの姿に若干ムスッとしたリョウだが、俺も笑いが漏れそうになり睨まれた。な、なんで俺だけ。

 だってさ、その発言、「自分が傍にいてやらないと」と思うほど、ジェイクが大事だからってことだろ。そんなの「ジェイクを愛してる」って言っているようなもんだろ。そう思うとツンデレな態度のリョウの姿が可笑しくて笑いを止められるはずもなかった。アハハ。


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