【完結】異世界転移で落ちて来たイケメンからいきなり嫁認定された件

りゆき

文字の大きさ
上 下
97 / 120

49-1 最後の試練

しおりを挟む
 ひき逃げ事故から三ヶ月。
 骨折やその他の怪我が無事完治した女は、大学の講義中に居眠りをしていた。

 事故以降、女は突然眠気に襲われ、ぼんやりとすることがある。
 詳しい検査もしてもらったが、何度調べてもらっても健康体で、原因はわからないと言われた。
 
「事故に遭った時に頭を打ったことが、なにか影響しているかもしれない。頭のことになるから、違和感を覚えたらすぐに病院に来るように」と女は医者から言われている。

 
 療養中は眠気を感じても、実際に眠ってしまうことはなかったが、今日は久しぶりの講義で、講義内容を理解できず、眠気に誘われるまま眠りに落ちていた。

 
 女は夢を見る。

 友人たちと大学構内を歩き、雑談をしている。
「来週の大型連休に旅行へ行こう」と、隣を歩く彼女が言う。
 何人か、こちらをチラチラと見てきた。
 こちらに気を使っているようだ。
「まだ本調子じゃないし、わたしは遠慮しとくね」
 そう友人たちに伝える。 
 
 
 体を揺すられ、女は目を覚ました。
 講義はすでに終わっており、教室から学生が続々と退出している。
 その中で眠り続ける女を、友人が心配し起こしてくれたようだ。
 少し眠ったおかげで女の意識は、はっきりとしているが、頭に締め付けられるような痛みを少し感じた。
 
 女を起こした友人が、心配そうな表情を浮かべた。

「大丈夫? 保険センターまで付き添おうか?」
「……少し眠かっただけだから大丈夫よ。起こしてくれて助かったわ。ありがとうね」
「それならいいけど……他のみんなは先に食堂に行って、席を取ってくれてるから、食べれそうなら一緒に行こう」

 さっき出たばっかりだから、すぐに追いつくだろうけど、と彼女は女の荷物をさり気なく持ち、女を先導した。
 友人の気遣いに感謝し、彼女と共に食堂に向かうと、教室を出てすぐに他の友人たち五人に追いついた。

 どうやら会話が盛り上がり、歩みが遅くなっているようだ。
 
「これじゃあ、先に行ってもらった意味がないじゃないの」
 
 女の荷物を持った彼女が、隣でぶつくさと小声で愚痴をこぼす。
 女はその愚痴が聞こえなかった振りをして、そのまま集団に合流した。

 七人になった集団で食堂へ向かう。
 女は集団の一番後ろを歩き、隣には荷物を持ってくれている彼女が歩いていた。

(夢で見た光景と似ている……似てるけど、少し違う?)

 夢で見た友人たちとは、何人か顔ぶれが違っていた。

(違っているけど、夢で見たのはみんな知り合いだったし、夢なんてそんなものね)

 痛みの引かない頭を、なでるように押さえる。
 すると、前を歩いている友人が振り向いた。

「来週のゴールデンウィークに、みんなで旅行とかどうかな?」

 さっきもこの話で盛り上がってたんだよ、と楽しげに話してきた。

 女の頭に強い痛みが走る。
 夢と現実の差異、似ているのに確かに違う。
 その世界のズレが、女の中で歪みになり、痛みに変わっていく。
 
 女は思わず顔をしかめた。
 その反応に友人たちに緊張が走る。
 一瞬、沈黙が空間を支配した。
 
 すぐに女は自身の失態に気づく。

「ごめんなさい、まだ本調子ではないみたいなの。みんなは楽しんできてね」 

 だから私達のことは気にしなくていいわと、つけ入る隙もなく言い切る。

 その後、気まずげな友人たちと一緒に昼食を済ませた。
 
 そして、頭の痛みを診てもらうため、午後の講義を自主休校にし、女は病院へ向かった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます

野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。 得た職は冒険者ギルドの職員だった。 金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。 マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。 夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。 以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

【完結】俺の声を聴け!

はいじ@書籍発売中
BL
「サトシ!オレ、こないだ受けた乙女ゲームのイーサ役に受かったみたいなんだ!」  その言葉に、俺は絶句した。 落選続きの声優志望の俺、仲本聡志。 今回落とされたのは乙女ゲーム「セブンスナイト4」の国王「イーサ」役だった。 どうやら、受かったのはともに声優を目指していた幼馴染、山吹金弥“らしい”  また選ばれなかった。 俺はやけ酒による泥酔の末、足を滑らせて橋から川に落ちてしまう。 そして、目覚めると、そこはオーディションで落とされた乙女ゲームの世界だった。 しかし、この世界は俺の知っている「セブンスナイト4」とは少し違う。 イーサは「国王」ではなく、王位継承権を剥奪されかけた「引きこもり王子」で、長い間引きこもり生活をしているらしい。 部屋から一切出てこないイーサ王子は、その姿も声も謎のまま。  イーサ、お前はどんな声をしているんだ?  金弥、お前は本当にイーサ役に受かったのか? そんな中、一般兵士として雇われた俺に課せられた仕事は、出世街道から外れたイーサ王子の部屋守だった。

処理中です...