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39-2 馬鹿を好きな馬鹿
しおりを挟む「なんでだよ!! お前が俺を避けていたくせに!! それがどれだけ辛かったと思ってんだ!! お前なんか大嫌いだ!!」
泣いた。声を上げて泣いた。今までずっと我慢していたものを吐き出すかのように、ジウシードの背中を殴った。しかし、いくら拳を叩きつけようとも、ジウシードはびくともしなかった。
「離せよ!! 離せ!! お前なんか大嫌いだ!! 離せ!!」
「アキラ!! アキラ!! すまない……お前に嫌われても仕方ない……でも……お前が俺を嫌いでも……俺はお前を愛している……」
「!? 嘘だ!!」
「嘘じゃない……愛してる……愛しているんだ……」
ぎゅうっと苦しいほどに抱き締められる。触れる身体から響く声。震える身体。それが本心であることが伝わる……伝わるのだが……でも……まだ信じられない思いもある……。
「じゃ、じゃあなんで避けてたんだよ……」
もう抵抗する気持ちはなかった。ただ抱き締められているだけ……しかし、いまだ半信半疑であることに変わりはなく、ジウシードの本心を聞きたかった。
「ちゃんと話して。話してくれないと分からない。お前がなにを考えていたのかを教えてくれないと俺には分からないから怖い……」
「あぁ……すまない……」
震える身体のまま、ジウシードは腕の力を緩め身体を離した。俯いたままのジウシードの表情ははっきりとは見ることが出来なかったが、泣きそうな顔になっているような気がした。
そしてベッドに並んで座り、ジウシードは膝の上で拳を握り締め話し出す。
「今回、お前が襲われたことに対して、ちゃんと謝罪をしたい……母がしたことは許されることじゃない……本当に申し訳なかった……」
「……うん」
「母がしたことは許せない……許せないのだが、それは俺のせいでもある……」
「? ジウシードのせいじゃないだろ?」
キョトンとしていると、ジウシードは俯きながら首を横に振った。
「いや、俺のせいだ……俺が母を放置していたから……あの人の俺に対する執着を知っていたのに、お披露目のときに現れて、それだけで済むはずがないことを分かっていたのに……そのまま放置してしまった……だから俺のせいだ」
「…………」
「俺のせいでアキラはあんな目に遭い、下手をすると死んでいたかもしれない……傷付けられた挙句に殺されていたかもしれないなんて……」
ジウシードはそう言いながら両手を握り締め震えていた。顔はますます俯き、握り締める両手に額を付け、完全に項垂れてしまった。
「俺の伴侶なんかにならなければ、アキラは今も日本で平和に暮らしていたはず……命の危機なんかに晒されることもなく生きていけたはず……俺の伴侶なんかにならければ……なにもかも俺のせいだ……俺がアキラの人生を狂わせた……」
「ジウシード……」
「お前に申し訳なく思いながら、しかし、それをお前に悟られるのが怖かった……「お前のせいで人生がめちゃくちゃになった」と、お前自身にそう言われるのが怖かった……結局俺は自分がそう言われるのが怖くて逃げていたんだ……情けない……すまない……お前に嫌われるのが怖くて逃げた挙句、結局嫌われているのだからな……本当に俺は馬鹿だ……」
顔を伏せたまま、ジウシードは自嘲気味に笑った。
「ジウシード……」
「…………」
「こっち見ろ」
なるべく冷静に、と思い声を掛けたら、どうやらかなり低い声が出ていたようだ。ジウシードはビクリとし、項垂れていた顔をそろりと上げた。
デカい身体のくせに、その顔はまるで怯えた仔犬のようで、思わず笑いそうになってしまった。あぁ、やっぱり俺は……ジウシードが好きだよ……
「ほんと馬鹿だよな」
睨むように言うと、ジウシードは明らかに目が泳ぎ、涙目になり出した。その姿が可笑しくて、可愛くて……でも……ジウシードを恨んでいたと思われていたことが悔しくて……憎くて……。
こんな馬鹿を好きな俺も、相当馬鹿なんだろうな、と笑った。
「お前は馬鹿だ」
「うっ……あぁ、その通りだ……」
「俺の人生を思い切り狂わせた」
「あぁ」
ジウシードは泣きそうな……いや、泣いてるな。今にも零れ落ちそうなほど、目に涙を溜めながら必死に耐えている。
「俺は自分一人でそうやって考え込んで決め付けるお前が大嫌いだ」
「ア、アキラ……」
ジウシードの綺麗な金色の瞳から、ボロリと大粒の涙が零れ落ちた。そして一度零れ落ちた涙は、まるでダムが決壊するかのように、ダバダバと次から次へと涙を落とす。
「アキラ……アキラ……許してくれ……」
あまりの泣きっぷりに笑いそうになってしまうが、必死に耐える。俺の想いもしっかりと伝えたい。
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