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30-1 ジウシードの気持ち
しおりを挟む「ジウシード、大丈夫か?」
しばらくの間、なにも言葉にせず、ひたすら俺を抱き締めたままだったジウシード。周りの皆も少し心配そうな顔をしていた。しばらくするとラウルが部屋へと戻って来たため、ようやくジウシードが顔を上げた。
「すまない……大丈夫だ」
それだけ言うと、ジウシードは力なく笑い、そしてラウルを見た。ラウルはその視線に気付いたようで、先程のことを報告してくる。
「アリア様は従者に引き渡し、王都にある別邸へと連れて行かせました。数時間もすれば目を覚まされるでしょう。従者には領地へ帰るよう指示を出しましたが……まあおそらくアリア様は従われないでしょうね」
ラウルはそう言いながら苦笑する。そんなラウルの言葉に母親に対する無礼などと怒るでもなく、ジウシードはただひたすら冷ややかな表情だった。
「…………」
「あの方が王都へおられる間は少し注意をしていたほうがよろしいかと」
「……分かっている」
ジウシードはそれだけ返事をすると、俺のほうへと向き直り、そして再びぎゅっと抱き付いた。明らかになにやら不安定な精神状態になっているような気がして、どう声を掛けたらいいのか分からず、ただ抱き締め返すしか出来なかった。
抱き締められながらジウシードの肩越しに、リョウと目が合い、そういえばと思い出す。
この後、二人で話したいって言われてたんだった。どうしよう……こんな状態のジウシードを一人にしておきたくないしな……。
そう思っていることに気付いたのか、リョウは苦笑しながら手をひらひらとさせた。そして口をパクパクとさせながら、言葉を伝える。「また今度な」そう言ったのが分かった。出来る弟は違うな。気配りの利く弟に感心しっぱなしだった。
お披露目の後、ジウシードが復活することはなく、歓談することも出来ず、そのまま解散となった。
ラウルから説明を受けたのは今後のこと。
今後、試練が一週間後に行われる。そのときまでは自由らしい。城内を散策しても良いし、王都へ出かけても良いとのことだった。しかし、必ず行き先を告げること。王都へ出かけるときは護衛を付けること。それが条件だった。
試練はある森の奥で行われるらしいのだが、どんな試練なのか、内容は全く分からない。『試練の洞窟』なるものがあるらしく、そのなかには古の魔導師たちが施した術が残されている。試練が行われるたびに内容が変わるらしいとかなんとか。
運命の相手と共にしか入ることが出来ない結界が張られているらしく、その洞窟には基本的には選定の儀を受ける領主と伴侶たちしか入ることが出来ないそうだ。誓約の証が鍵になっているのでは、と思われているそうだが、内容を漏らしてはいけないため、詳しいことは全く分からないらしい。
そのあと、晩餐が開かれ、三領主と伴侶たちでの会食となったが、その間もジウシードは無表情のままだった。ジェイクもウェジエも苦笑していたが、どうやら二人もジウシードの母親のことを知っているようで、ジウシードに詰め寄ることはなかった。
母親の話には触れず、他愛もない話を繰り返し、それなりに和やかな食事にはなったが、ジウシードはひたすら無言のままだった。
そんなジウシードが心配にもなったが、俺にはもうひとつ気になることが……。この料理。
目の前に並ぶ晩餐の料理が……なんというか……和食? と、思えるくらい、味がかなりの和テイストだった。
これは味噌か? こっちは豆腐か? これは醤油か? というような所謂大豆食品がやたらと並んでいるような……? いやぁ、やっぱ日本人には大豆だよな! って、いや、旨いんだけどさ! 異世界で大豆? 大豆じゃないのか? 似たような食品てだけかな。
そんなことを考えながら食べていると、おそらく俺が百面相にでもなっていたのだろう、リョウがプッと噴き出し、俺と目が合った。他の奴らには気付かれていないようだが、リョウはニヤッと笑い、料理に目配せしながら俺を見た。
やっぱリョウも同じように思ったのか? それともなにか知ってるのか? またしても口パクで「明日話そう」と。それに対して頷き、ジウシードをチラリと見た。
ジウシードは相変わらず無表情のまま黙々と食べ続けているだけだ。ほんと大丈夫かな……。
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