上 下
14 / 30

第14話 浄化 ※後半ライル視点

しおりを挟む
 ディーナリアスは、国王陛下の元に行っている。
 私室には、ジョゼフィーネとサビナの2人。
 
「こ、国王陛下、だ、大丈夫、かな?」
 
 ディーナリアスがいない時、ジョゼフィーネはテーブルセット側のイスに座る。
 日本風かどうかはさておき、小さめの、ワッフルに似たお菓子と紅茶がテーブルには、置かれていた。
 けれど、今は手を伸ばす気になれずにいる。
 
「殿下が仰られておりましたが、危篤の報せがあれば王宮内が乱れます。今はそこまで病状は悪化されておられないと思われます」
「そ、そう……」
 
 少しだけ、ホッとした。
 ジョゼフィーネには、身内らしい身内がいない、と言える。
 実母は他界しているし、父や姉とは「身内」的なつきあいをしてきていない。
 むしろ、今ではディーナリアスやサビナのほうが距離感は近くなっていた。
 
「サ、ザヒナの……旦……こ、婚姻してる、人に、会ったよ?」
「パッとしない人でしたでしょう?」
「え、え……そ、そんなことない、と思う、けど……」
「近衛騎士隊長などやっておりますけれど、言い寄ってくる女性の1人もいないのですから、パッとしないのですよ」
 
 ジョゼフィーネは、ちょっぴり笑ってしまいそうになる。
 サビナのこれは、明らかに「ツンデレ」だ。
 ディーナリアスはわからなかったらしいが、ジョゼフィーネからすれば明らか。
 
 女性の1人も言い寄って来ないことに、サビナは安心している。
 オーウェンに言い寄る女性がいたらどうしようと、気にかけている証拠だ。
 いつも喧嘩をしていたというのも、素直になれなかったせいだろう。
 
 オーウェンのことを話題に出したので思い出す。
 ディーナリアスから「今は2人の子を育てている」と聞いていた。
 自分の侍女になったせいで、サビナは子供と一緒にいる時間が減っている。
 幸せな家庭を崩してしまってはいないかと、心配になった。
 
「こ、子育ては……?」
 
 ジョゼフィーネの心情が、顔に出ていたらしい。
 サビナが、にっこりと微笑んでくれる。
 
「元々、エヴァンが近衛騎士隊長をしているものですから、私たちは、王宮内の別宅で暮らしております。彼はともかく、私は転移ができますし、それほど離れているわけではありませんわ」
「さ、寂しく、ない、かな?」
「2人とも、今年で9歳になりました。親にベッタリする歳は過ぎましたね」
「ふ、2人、とも??」
「ええ、双子でしたの」
 
 ジョゼフィーネは引きこもりでやってきたし、人とのつきあいも避けてきた。
 さりとて、サビナの子供は、ちょっと見てみたい気がする。
 双子なんて見たことはなかったし、サビナとオーウェンの子供ならば、可愛いのではないかと思えた。
 
「落ち着かれましたら、殿下と2人で、いらっしゃいませんか?」
「い、いいの?」
「我が家は狭く、子供もうるさくしておりますが、それでも、よろしければ」
 
 こくこくと、うなずく。
 今までのジョゼフィーネからすると、考えられないことだが、彼女に、その自覚はなかった。
 ジョゼフィーネは、自分から「外」に出ようとしているのだ。
 
「た、楽しみ……ふ、双子、似てる……?」
「男の子なのですが、見分けがつきにくいほど、似ております。妃殿下は、双子をご覧になったことはございませんか?」
「な、ないよ。そんなに、似てるんだ」
「エヴァンは、時々、からかわれていますね」
 
 ということは、サビナは、ちゃんと見分けられているのだろう。
 やはり母親なんだなぁと思う。
 今世での母親が生きていたら、どんなふうだったかを考えた。
 とはいえ、生まれた時には、すでにいなかったので、わからない。
 
 ジョゼフィーネの母は、当時、26歳。
 子供を産むのに命の危険が伴う年齢と言われている。
 前世の記憶では、それほどの危険などない歳だと思われるが、この世界では違うのだ。
 いろいろ照らし合わせれば、体質自体が違うとわかる。
 
「わ、私……ちゃんとした、お母さんになれる自信、ないな……」
「私も、ちゃんとした母になれているかは、未だにわかりません」
「え……? そ、そうなの?」
「親になったのは、初めてですもの。なにが正しいか、判断がつきかねます」
 
 サビナが、ちょっぴりいたずらっぽい笑みを浮かべた。
 
「妃殿下は、殿下との、お子を成すことを考えておいでなのですね」
「えっ? あ、あの……そ、そういう……」
 
 言われて、気づく。
 自分の子供ということは、彼との子供であるということなのだ。
 かあっと、頬が熱くなる。
 具体的に考えていたわけではないが、恥ずかしくなった。
 
「ですが、当面、殿下には黙っておかれたほうがよろしいかと」
「よ、喜ばない、から?」
「いいえ、逆です。喜び過ぎて、ぶっ倒れます。あんな図体で倒れられても、面倒ですからね」
 
 ジョゼフィーネは、まばたき数回。
 サビナが笑ったので、つられてジョゼフィーネも笑う。
 気持ちが楽になり、お菓子に手を伸ばした時だ。
 扉の叩かれる音がした。
 
 サビナの表情が、わずかに硬くなっている。
 それを察して、ジョゼフィーネも緊張につつまれた。
 立ち上がり、サビナは身構えている。
 が、ジョゼフィーネのそばから離れようとはしなかった。
 
「急ぎの用件でなければ、のちほど出直してくださいませ」
 
 扉の向こうが静かになる。
 それでも、サビナは動かない。
 目に険しさが漂っていた。
 その意味が、すぐにわかる。
 
 室内に、パッと3人の魔術師が現れたのだ。
 いずれもローブ姿だったので、魔術師で間違いない。
 動いたのはサビナが先だった。
 3人の足元から火柱が上がる。
 
 驚いて、ジョゼフィーネも立ち上がった。
 サビナに任せるのがいいのだろう、とは思う。
 ジョゼフィーネは魔術も使えないし、なにもできないのだ。
 
 火柱につつまれても、3人の魔術師は平気らしい。
 炎が消され、なにもなかったかのように魔術師が近づいてくる。
 3人から同時に、何かが飛んできた。
 手を振ったサビナの前で、氷の矢や黒い球、石のようなものが動きを止める。
 
 ジョゼフィーネには前世の記憶があったため、それが「属性」だとわかった。
 サビナは炎を使っていたので、そちら系統なのかもしれない。
 だとすると、水や氷系統は、苦手とする属性となるはずだ。
 その上、3人には炎に対する耐性がある。
 サビナのほうが不利に思えたのだけれども。
 
 ぶわっ!!
 
 強い風が3人に向かって吹き上げた。
 ローブに裂け目が入るのが、見てとれる。
 そこから血が滲んでいるのに気づいたのか、3人がサビナと距離を取った。
 その下がった先に、針のようなものが大量に飛んで行く。
 
(サ、ザビナ、すごい……強い……)
 
 3人が、一斉に飛んで逃げた。
 さりとて、けきれず、体に多くの針が突き刺さっている。
 さらに、3人の体から血が流れ出していた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~

結城星乃
BL
【執着年下攻め🐲×逃げる年上受け🦊】  愚者の森に住む銀狐の一族には、ある掟がある。 ──群れの長となる者は必ず真竜を娶って子を成し、真竜の加護を得ること──  長となる証である紋様を持って生まれてきた皓(こう)は、成竜となった番(つがい)の真竜と、婚儀の相談の為に顔合わせをすることになった。  番の真竜とは、幼竜の時に幾度か会っている。丸い目が綺羅綺羅していて、とても愛らしい白竜だった。この子が将来自分のお嫁さんになるんだと、胸が高鳴ったことを思い出す。  どんな美人になっているんだろう。  だが相談の場に現れたのは、冷たい灰銀の目した、自分よりも体格の良い雄竜で……。  ──あ、これ、俺が……抱かれる方だ。  ──あんな体格いいやつのあれ、挿入したら絶対壊れる!  ──ごめんみんな、俺逃げる!  逃げる銀狐の行く末は……。  そして逃げる銀狐に竜は……。  白竜×銀狐の和風系異世界ファンタジー。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...