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第13話 自覚

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「もう一度瘴気の森へ行ってもらえないだろうか」

 ライルはガタッと音を立て勢い良く立ち上がった。

「ライル、落ち着いて」

 そう促すとライルは目の前でそう口にした男を睨みながらも大人しく座った。

 そう、俺たちの目の前でもう一度瘴気の森へ行けと言ったのはシナード宰相だ。宰相から呼び出され、浄化魔法の進捗を報告していたところにあの発言だった。

「やはりあの瘴気をなんとかするには浄化魔法しかないだろう。しかも我々の浄化魔法ではおそらく役には立たない。ショーゴ殿の浄化魔法が必要だ。前回のようにまた倒れてしまうかもしれない、ということは分かっている。しかし、ショーゴ殿の浄化魔法でどうにもならないのなら、他に方法を考える必要がある。だからまず、ショーゴ殿の浄化魔法を試して欲しい」

 シナード宰相は真剣な顔で訴える。

「そもそもショーゴは聖女ではないと判断されたはずだ! ショーゴが行く義務はない!」

 ライルは怒りを露わにする。

「もちろんそうだね。ショーゴ殿は聖女ではない。だからこれは『お願い』だ。行くにしろ行かないにしろショーゴ殿の自由だよ」

 そう言ってにこりと笑ったシナード宰相。しかし、目の奥は笑っていない気がする……。俺が断らないことを分かって言っているんだろうな……。ライルはめちゃくちゃ不機嫌そうな顔だし、これ、行くって言ったらめちゃくちゃ怒るんだろうなぁ……。

 チラリとライルを見ると物凄い顔で睨まれた。「行くな」と心の声が聞こえそうだ……ハハ……。

「ライル、ごめん。俺、もう一度あの森に行くよ」

「!! おい!!」

 ライルは驚愕の顔になり、俺の肩を掴んだ。

「そうか、行ってくれるか」

 シナード宰相は満足そうな顔だ。

「きっと俺の浄化魔法ならなんとかなるから」

 そう言ってライルに向かって笑った。ライルは俺の肩を掴みながら悲痛な顔をする。心配をしてくれているのは分かる。
 でもきっとあの瘴気は俺がなんとかすべきなんだ。おそらくあれを封印なり浄化なりする力が俺にはあるはず。そう確信めいたものがある。

 あのとき瘴気を取り込んでしまった。しかしその取り込んだことが俺に瘴気の正体を掴ませた。あれはあの宝石に取り込まれている多くの悪意だ。あのときには分からなかったが、しばらくして落ち着いてくるとあの倒れていたときのことを思い出した。

 瘴気を取り込んだとき、酷い悪夢を見ていた。あらゆる悪意を夢に見た。様々なところからあの宝石に集まって来ているのだ。それが宝石に淀み瘴気となりそれがまた放出される。それがずっと繰り返されているんだ。

 あのとき温かく優しいものに救われた。あれはライルの魔力だったんだ。ライルの俺を助けようという想いの魔力。あのおかげで俺は戻ってこられた。

「ライルが傍にいてくれたら、きっと大丈夫だから」

 ライルの魔力をあてにしている訳じゃない。ライルが傍にいてくれることが俺の力になるんだ。

「あれを浄化するには俺のなかに取り込めばいい。あの宝石を取り込み、それと同時に場の浄化を……」

「そんなことさせられるわけがないだろう!!」

 俺が言い終わるのを待たずに、ライルは今までに見たことがないほど大声で怒鳴った。

 分かってはいたがライルは酷く怒った。心配をしてくれているのが分かり、嬉しくなってしまうズルい俺がいた。ライルの気持ちは確認していない。しかし泣き出しそうなほどの悲痛な顔でライルは怒る。その姿に愛おしさがわく。心配をされて喜ぶ自分がいる。


 あぁ、俺はライルが好きなんだ……。


 俺はライルが好きだ。そう認めてしまうと、勝手に心はすっきりしてしまうもので、ライルが俺のことをどう思っているかなんて、もう関係ない。俺は俺の想いを貫くだけだ。

「俺がもし倒れたら、また魔力を送ってよ」

「!!」

 酷い奴だな、俺は。俺が倒れたらライルは酷く心配し悲しむことは分かっているのに、それを頼むなんて。

「間違いなんかじゃなかったんだよ。俺のこの力はきっと『聖女』の力。だから俺がやらないと」

「ショーゴ……」

「だからライルに頼みたい」

 他の誰かなんて嫌だ。ライルが良い。ライルに魔力を送ってもらいたい。そんな俺の我儘。

「…………分かった」

 ライルは悲痛な顔をしていたが、俺の決心を認めてくれたのか、最後は了承してくれた……。



 二度目の瘴気の森へ。今回は俺が浄化に集中出来るように、ライルが俺のサポートに集中出来るように、ということで、魔導騎士団同行の許可が下りた。

 基本的にはライルが俺の護衛。レオン率いる魔導騎士団が道中の魔物や魔獣退治ということらしい。
 ダウバまでは特に何事もなく到着し、各々宿へと分散していくのだが、魔導騎士団の連中の視線が痛い……。
 道中、俺がライルにがっしり抱き寄せられながら馬に二人乗りしているところを、恐る恐るチラ見されていることには気付いてた……。居た堪れない。

「え、お前、ショーゴと同じ部屋に泊まるのか?」

 レオンが驚いた声で聞いてきた。それに釣られて他の団員たちの視線も刺さる。

「当たり前だ。護衛だからな」

「そ、そうか……」

 レオンはチラリと俺を見た。「良いのか?」という心の声が聞こえる。ハハハ……顔が引き攣りそうになるが堪えろ俺!
 ライルを好きだと自覚したのだから問題なし! ん? いや、逆か? 好きな相手と同じ部屋って……!! ぼふっと顔が熱くなった。

「ショーゴ?」

 ライルが心配そうに覗き込む。レオンはなにかを察したのか苦笑していた。い、いやいや、ただ寝るためだからな! 明日には浄化しに行くんだしな! こんなこと考えている場合じゃないだろ!

「あー、まあとりあえず解散だな。明日のためにも早く休もう」

 レオンは苦笑したままそう号令をかけた。それを聞いた団員たちは各々割り振られた部屋へと消えていく。ちらちらとこちらを見ていたことは気にしない。うん。


 割り振られた部屋へと入るとライルはおもむろに背後から俺を抱き締めた。

「ライル?」

 抱き締められながら、ライルは俺の肩にこてんと頭を置いた。

「行くな……そう言いたい……しかしお前は行くのだろうな」

「ライル……うん。ごめん」

「謝らなくて良い。それがお前なのだろう……」

 ぎゅうっと抱き締めたライルは顔を上げ、俺の顎に手を添えたかと思うと後ろを向かせ、唇を合わせた。
 くちゅっと軽く唇を合わせ、少し隙間を開けると「魔力を送る」と囁き、再び熱い舌と共に唇を深く合わせた。ライルの唾液が俺の口内に流れ込み、温かいものが喉を潤す。それと共に魔力も流れ込み、ライルが内部に入り込んできたような、そんな錯覚すら覚えた。
 満たされるような、護られているような、そんな温かさ。

 その日のキスは深く、しかしとても優しいものだった……。
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