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第1話 はぁ!?聖女!?
しおりを挟む「聖女召喚に成功したぞ!!」
は!? ここはどこだ?
見知らぬ大広間に見知らぬ人々。
着ている服装も見慣れぬ服装ばかり。様々な髪色に瞳の色。明らかに日本人ではないと分かる人々。
そんな人々が声高らかに叫ぶ言葉。
せいじょ? せ、い、じょ? ん?
ワァァァ!! と歓声が上がっていたかと思えば、その歓声は徐々に怪訝な表情と声へと変わった。
「…………せ、い、じょ?」
俺の台詞だ。
聖女ってなんだよ!
俺はオトコだー!!
唖然とした俺と唖然とした人々。その大広間には冷たい沈黙の時が流れた……。
「一体どういうことなんだ!! こいつは明らかに男じゃないか!!」
「そ、そう言われましても私どもも一体どういうことなのか……」
うーむ、明らかにこいつは王子か? という派手な出で立ちの若造……おっと、失礼。少年? 青年? 金髪碧眼でイケメンだが、明らかにこちらを侮蔑の目で睨む態度はいけ好かないな。しかも人を指差すな。
茫然としたままこいつらのやり取りを眺めるが、明らかにここは日本じゃない。色とりどりの髪色で日本人じゃないことは分かるがここはどこなんだ。
弱々しく王子っぽい奴にへこへこしている男は冷や汗を流しながら説明をしている。まあ説明といっても本人すら分からない、といった感じだが。
それを少し遠巻きに眺める人間たちは、こちらに目線だけよこしながらコソコソと小声で何か話してやがる。
「聖女様……い、いえ、えっと……あ、あの……えー……こちらへどうぞ……」
俺をどう呼ぶか迷ったみたいだが……諦めやがったな。
冷や汗をハンカチで拭いながら顔面蒼白の男が聖女と呼ぶことを諦め大広間の外へと促した。
周りの怪訝な目やコソコソと俺のことを話しているのだろう人々の間をすり抜け、連れて行かれた部屋はとても豪華な部屋だった。
通ってきた通路もひたすら長く広い廊下。明らかに普通の家ではないだろう。なにもかもが日本とは違った。
部屋へと通された俺は促されるままに長椅子に座り、目の前にはこの国の宰相とやらが座った。そしてさっき顔面蒼白となっていた男がその横に座る。まだ顔面蒼白だな。
さらにその後ろには黒髪青目の超絶美形の仏頂面の男と、なにやらローブのような服を来た銀髪青目のこれまた超絶美形の爽やかそうな男が立っていた。ここにいる奴ら、顔面偏差値がやたら高いな。宰相ですらインテリイケオジの雰囲気だ。
そこで宰相とその顔面蒼白男から、ひとしきり説明をされる。
「私はシナード・ログダスバだ。気軽にシナードと呼んでくれて構わない。今回の聖女召喚の儀式での半分ほどの責任者だ」
半分てなんだそりゃ。そう思ったことがバレたのか、シナード宰相はフッと笑い話を続けた。
「本来今回の聖女召喚の儀式は先程君に話しかけていた第一王子であるクリストフ殿下が責任者でね。彼の指揮のもと聖女召喚を行ったわけだが……あとは任せたと言われてしまってねぇ。まさか男が召喚されるとは、私も予想しなかったよ」
さっき俺をこいつ呼ばわりした奴はやっぱり王子だった訳だ。そいつが職務放棄した訳だな。なんつー無責任な奴。
いやぁ、参った、みたいに言っているが、顔はそんな大変そうには見えない。どちらかと言えば楽しそう。クックッと笑ってやがる。この宰相よりも隣のやつのほうが余程死にそうな顔だ。顔面蒼白男は相変わらず冷や汗を拭いながら説明を始めた。
この国はアルストラ王国。アルストラでは現在瘴気に悩まされている。
元々瘴気はある森から発生していて、その森の瘴気が近年急激に増え出し、魔物や魔獣が狂暴化、さらに瘴気は毒となる。このままいくと国全体を覆ってしまい死者が出る。
それを食い止めるために聖女を求めた。聖女とは古来から瘴気を浄化する力を持ち、国に危機が訪れるとどこからともなく現れると言われていた。
しかしいくら待っても聖女が現れない。まだその時期ではないのか、とも言われたが、瘴気の森はもう限界まで近付いているようだった。だから過去の文献に基づいて聖女召喚の儀式を行った。
と、ここまでが俺が来る前までの状況らしい。
はい! だからと言って「あぁ、そうですか」だけでは済まされない!!
いやいやいや、なんなのよ、これ。
今流行りの異世界転移!? まあ百歩譲ってそれは良いにしても、なんで『聖女』やねん!
意味分からんわ! 聖女って普通女だろうが! なんで男の俺が召喚されてんだよ!
しかもこいつらあからさまにガッカリした顔しやがって! いや、シナード宰相だけはなぜか楽しそうだが……。
それにしても拉致した挙句、お前じゃない、とか横暴にも程があるだろうが! 間違えたのはお前らだろうが!!
怒りで爆発しそうになるのを必死に抑える。いや、抑える必要はないとは思うのだが、目の前に座る宰相の横の顔面蒼白男が死にそうな顔になってるもんだからさ。
宰相の横の男は今回の聖女召喚のために魔力を送る担当をしていた魔導師というやつらしい。言われるがままに聖女召喚の儀式に駆り出され、さらには失敗なのか男が召喚され、自分も訳が分からないだろうに、状況説明のためにだけに連れて来られたっぽい下っ端の平社員みたいな奴なんだよな。
まるで自分のようで、どうにも同情してしまい強く言えない。
宰相は比較的にこやかには話しているが、内心何を考えてんのか分からんな。腹黒そうだ。目が合うとニコリとするのだが、目の奥が笑っていない気がする……。
「とりあえず君の名前を教えてもらえるかな」
「……久我彰吾です。名が彰吾」
「ふむ、ショーゴ殿。ではショーゴ殿の魔力鑑定を行わせてもらっても良いかな」
「魔力鑑定?」
「それは私からご説明致しましょう」
背後の銀髪イケメンが回り込み俺の横に立った。
「私は魔導師団団長のルース・オレニスと申します。貴方が聖女様かどうかの判別のためにも、貴方の魔力を調べさせてもらいたいのです」
聖女じゃねーし。男だし。しかしここでごねたところで何が変わるでもなし、魔力鑑定とやらを了承した。
銀髪イケメンのルース団長はにこやかに俺の目の前で跪くと俺の手を取った。いきなり銀髪イケメンに手を握られビクッとしてしまう。
「あぁ、失礼しました。しばらく手を握りますね」
そうにこりと笑ったルース団長は目を瞑り集中しだした。するとルース団長の髪がゆらゆらと揺れたかと思うとなにやらぞわぞわと不思議な感覚が。なんだか居心地の悪い感じがし、早く終わらないかとそわそわする。
我慢の限界を迎えそうだ、と思ったとき、ルース団長はふぅと息を吐き、目を開けた。
「なにか分かったか?」
シナード宰相はルース団長に声を掛けた。ルース団長は俺の手を離すと立ち上がる。
「そうですね、結論から言うと魔力はあるようです。しかし……」
「しかし?」
「我々の魔力とは確かに違うようではあるのですが、それが聖女の魔力なのかまでは分かりません。ですので、聖女と断定は出来ませんね」
「ふむ。それは我々が聖女の魔力を知らないからか? それともショーゴ殿の魔力が今までの聖女と違うからなのか?」
「うーん、そのどちらも、ですかね」
「どちらも……」
「我々は聖女自身と会ったことがありません。前回聖女が現れたのももう百年以上は前かと思います。聖女の魔力がどんなものなのかは文献でしか残っていない。だから我々は想像するしかないのですよ。
ショーゴ殿の魔力はなにか違う気がする。しかし、それが聖女だからなのか、ただ異世界人だからなのか、そこはなんとも言いようがありませんね。実際聖女の浄化や結界が見られたら判明しますが」
「ふむ」
宰相は顎に手を当て俺を見た。いや、俺にそんな力あるのかなんて知りませんから。魔力を持ってるって言われても使い方なんて知らないし。
「まあそれは今後様子を見ていくしかないな……とりあえずの報告として、『聖女』と認定しても良いかどうかの判断は?」
ルース団長は迷いもなくにこりと答えた。
「聖女ではないですね」
部屋には沈黙が流れた……。
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