BL短編集

りゆき

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③十年越しの涙。そしてまた俺たちは歩き出す。

十年越しの涙。そして俺たちはまた歩き出す。7

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 それからというもの、琉人はあの子とよく一緒にいる姿を目撃する。朝もその子と登校しているらしく、俺が起こしに行くことはなくなった。二日ほどはそれでも気にして家まで迎えに行ってはみたが、琉人は俺になにを言うこともなく、さっさと登校していた。そのことに腹が立ち、三日目以降はもう迎えにも行かなかった。

 結局俺のことなんてもうどうでもよくなった訳か。俺が受け入れられないなら幼馴染としてももう付き合うつもりはない、ということか。なんだよそれ。自分勝手に告白してきて、俺を散々悩ませた挙句、なにも言わずにあの子と付き合うことにした訳か。
 ハッ、やってらんねー。あんな奴だと思わなかった。ムカつく。俺はお前のことが大事だからこそあんなに悩んだのに……。もういい。

 琉人は休憩時間、昼食、行き帰りと常にその子と一緒にいるようになったため、さすがにクラスメイトにも噂が広がった。そしてどうやら女子の間では、琉人とその子はお試しだが付き合っている、と広まり、本格的に付き合うのも時間の問題だろう、と言われていた。

「なあ、お前ら喧嘩でもしたの?」

 仲の良い友人が俺に琉人のことを聞いて来た。

「今まであんなベッタリだったのに、彼女が出来たくらいで会話すらなくなるって、どんだけデカい喧嘩したんだよ、お前ら」
「別に今までもベッタリじゃねーし」

 そもそも、順番が逆なんだよ! 琉人に彼女が出来たから喧嘩したんじゃなくて、喧嘩した後にあいつが勝手に付き合い出したんだよ!
 そう口に出そうになったが、じゃあ喧嘩の理由はなんなんだ、と聞かれても困るために、グッと言葉を飲み込んだ。

「いやいやいや、あれがベッタリじゃないならなにをベッタリと言うんだ、って感じだったぞ?」

 そう言いながら苦笑する友人。

「まあ、なにが原因か知らんが、早く仲直りしろよ? お前らが雰囲気悪いとなんか怖いんだよ」

 バシバシと背中を叩かれながら言われ、苦笑する。そんな雰囲気悪く見えるのか、俺ら。まあ今までずっと一緒だったのに、今は全くだもんな……。
 友人は笑いながら去って行った。チラリと琉人の姿を探すと、やはり廊下であの女子と話している。毎日そんなベッタリでよく飽きないものだ……って、俺と琉人も常に一緒だったのか……。そう思うと彼氏彼女なら常に一緒にいるのは当たり前……だよな……。なにやら胸がギシリと軋んだ。

 あれは喧嘩だったのか? 一方的に告白されてキレられて、挙句にその後は目すら合わせず、話そうともしない。さらには女と付き合い出した!? ふざけんな!! なんか腹立って来た!! なんで俺だけこんな振り回されなきゃならんのだ!!

 俺は……琉人に彼女が出来ようが、ずっと親友でいたかったのに……。告白されて悩んだのだって、ずっと一緒にいたかったからなのに……。



「お前いい加減にしろよ!!」

 琉人と口を利かなくなって一ヶ月程が過ぎた頃、学祭の準備も大詰めを迎え忙しくなり出し、俺のイライラはピークに達した。
 夜、琉人の家に押しかけ、二階の琉人の部屋へと突撃した。万が一彼女がいたらどうしよう、と一瞬躊躇はしたが、しかし、それよりも怒りに任せ、扉をバーンッと勢い良く開けた。琉人は目を見開き驚いた顔をしていた。ざまあみろ。

「お前、一体どういうつもりだよ!! 俺にあんなこと言っておいて、あっさり女子に乗り換えやがって!! しかも、その後からずっと無視しやがって!!」

 ズカズカとベッドに腰かけていた琉人の元まで歩み寄り、胸倉を掴み怒鳴った。琉人は驚いた顔をしていたが、すぐさま顔を逸らし目を伏せたかと思うと、静かな声で言った。

「どういうつもりもなにもない……俺は告白して振られただけだ……」

 その言葉にカチンときた。胸倉を掴む手にさらに力が入る。

「なにを勝手に決め付けてんだ!! 俺は確かにすぐに返事は出来なかったけど、でもなにも答えてもないのに、なんでお前が決め付けてんだよ!! 俺はお前とずっと……一生……幼馴染で、親友でいられると思ってたのに……口すら利かなくなりやがって」

 若干涙目になってしまった。恥ずっ。グスッと鼻が鳴る。琉人は再び驚いた顔で俺を見たかと思うと、琉人までもが泣きそうな顔になった。

「でも俺は蒼汰のこと、恋愛的に好きなんだよ」
「今のままじゃ駄目なのかよ!? いつか受け入れられるかもしれないのに離れることしか考えないのかよ!? お前は俺と離れても平気なのかよ!?」

 涙目のまま訴えた。もう恥ずかしいとかどうでも良いよ。琉人と離れ離れになるのは寂しいんだよ。辛いんだよ。苦しいんだよ。

「でも俺は……もうお前の傍でただの友達としてはいられない……。お前に誰か好きなひとでも出来ようものなら耐えられない……」

 涙で瞳を潤ませ琉人は苦しそうに言葉にした。

「そうかよ……お前が俺と一緒にいたいって気持ちはそんなもんなんだな。もういい。分かった。もう知らねーよ。お前が俺と友達でいられないってんなら、俺にとってもお前はもう友達じゃない。お前の告白ももう忘れるよ。じゃあな」

 胸倉を掴んでいた手をグイッと押し離した。俺はそのまま踵を返し、琉人の部屋を飛び出した。

「蒼汰!!」

 琉人の俺を呼ぶ声、それに俺を追って来る足音が聞こえたが、俺は琉人に追いつかれることなく家の扉を閉じた。
 玄関の外では琉人の叫ぶ声が聞こえたが、無視して自身の部屋へと駆け上がり、布団にくるまった。

 くそっ、くそっ、琉人なんかもう知るか。もうあんな奴忘れてやる。俺のこと、あんなに簡単に切り捨てられるくらいにしか思ってなかったってことだろ。

 悔しさで泣いた。俺にとって琉人は……いや、もう考えるのはやめだ……もういい。

 その日は母親に心配されながらも、ベッドから出て来ることは出来ず、ひたすら声を殺して泣いた……。


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