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四十六話 扉の前にいたのはお世話係だった

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俺は瑞希に魔力感知スキルについて教えてもらったあと、城の1室に案内されそこで睡眠をとることになった。国王様にも許可をもらっているので、遠慮なく城に泊まることにしたのだ。

エリスはと言うと、城に泊まるなんて無理!と言って飛び出していった。俺からしてみれば、泊まっていいと言われているのだから泊まればいいのにと思うが、この世界のものにとって城で寝るなんてそう易々とできるものではないのだろう。まあ普通に考えてできないよな。そんなことを考えているうちに俺は眠りについた。



朝起きると約1ヶ月ぶりに見た天井があった。俺はそう言えば城で寝たんだな、と独り言を呟きながら上半身を起こす。
すると俺の視界の中にメイド服を着た1人の女性ーーー瑞希が扉の前でたっている姿が入ってきた。

「え、瑞希!?ーーーガタッ!」

俺は本当に瑞希かどうか確認するために前のめりになりつつ手を前に着くとバランスを崩れて、ベットから落ちてしまった。
すると瑞希がゆっくりと近づいてきて、とても可愛い笑顔を浮かべながらこう言った。

「大丈夫ですか?涼太様」

大丈夫だけど大丈夫じゃないです!
痛み的には大丈夫だけど、瑞希の可愛さが尋常じゃない!破壊力ありすぎだろ!
可愛すぎだろ!マジ天使!
と、俺は顔には出さないものの内心かなり興奮していた。キモすぎるぐらいに...。

あ、興奮しすぎて忘れていたけど、瑞希に大丈夫って言ってなかったな。今も俺を心配して大丈夫?と聞いてきている。ほんと優しいな瑞希は。

「全然大丈夫だよ」

「それなら良かった」

瑞希は安心したようにホッと息を漏らした。そんな瑞希に俺は手を出す。瑞希だから分かってくれるが、これは起こしてという意味である。瑞希は仕方ないなぁ、と言ってなれたように起こしてくれる。
普通は男女逆な気がするが気にしないで欲しい。出来るだけ瑞希と手を繋ぐ機会を増やしたいだけなんだ。
この気持ち、男なら分かってくれるはずだ。分かってくれるよな?

言い訳は後でするとして、今は瑞希の格好を目に焼き付けよう。今しか見れない瑞希のメイド姿。可愛すぎるメイド姿。これは夢なのではと思わせるほどの幸せ感。

俺は上から下まで舐めまわすように見る。
すると、さすがの瑞希でもそれは嫌だったのか体に手を回しながら口を開いた。

「涼太、ちょっとキモイかも...」

キ、キモイ...瑞希にキモイと言われた。まあ、今のは自分でもキモイと思った。素直に謝っておこう。

「ごめん、可愛すぎて」

思わず本音が出てしまったが、瑞希はいつも可愛いと言われているし、俺の可愛いという言葉なんて気にもとめないだろう。

「か、かわいい...」

瑞希は顔を伏せてかわいい、という言葉を何度か言っていた。すこし小さい声だったから本当に可愛いと言っていたかはわからないが、俺の言葉にちょっとでも価値があったのなら嬉しいな。

そういえば、今更すぎるぐらい今更なのだが、瑞希はなんでこんな格好をしているのだろうか。なにか理由があったりするのかな。

「瑞希はなんでそんな格好をしてるんだ?」

「涼太に見せたいな、と思って」

「そ、そうか」

なんと!俺に見せる為に着てくれたというのか!なんという幸せ!嬉しすぎる!
と、俺が少し喜んでいると瑞希は俺のちょっとした表情の変化に気づいたのか、俺の心を読み取ったのか、少し嬉しそうに口を開いた。

「喜んでくれてよかった」

「うん、すごい嬉しいよ」

そう言って照れ隠しのために笑うが、瑞希は顔を少し赤く染めてありがとう、と呟いた。
なんだこのリア充感は、今なら瑞希に告白したらOKされる気がする。まあOKなんかされる訳ないんだけど。


その後は、何故か俺達は全く喋らなかった。俺は瑞希のメイド服姿を脳に保存するために、ひたすら瑞希を見つめ続けていたからだが、瑞希はずっと顔を真っ赤にしたまま少し俯いているのだ。
もしかしたら俺がじっと見ているから恥ずかしいのかもしれないが、今回ばかりは俺もやめるわけにはいかないのだ。さっきもキモイとは言われたがそれでも見たいのだ。

そんな沈黙が15分程続いた。流石にずっと瑞希を見ているのはダメだな、と思っい瑞希に話しかけようとしたところで丁度扉をノックされた。
タイミング良いのか悪いのか...。
そんなことを考えながら扉のむこう側にはい、と言うと聞いたことのない女性の声が聞こえてきた。

「朝食の用意が完了しました」

俺はその声を聞き、わかりましたと返事をして、急いで服を着替え始める。なぜ急いでいるかと言うと、朝食の時も国王様達がみんな揃った状態でご飯を食べるからだ。
なので俺は国王様を待たせないために、急いで着替えているのだ。
そしてシャツをぬいだところで部屋の中にいた瑞希が叫び始めた。

「私いるから!まだ着替えないで!」

俺は着替える手を止めて瑞希の方を見る。
瑞希は顔を両手で覆っている。だが、目の部分だけ隠していない。俺は瑞希を訝しげな目で見ながら、瑞希に退出するように促す。

すると瑞希は1度顔から手をのかし、俺の体を見たあと笑顔で出ていった。
瑞希は俺の体が弱々しそうでおかしくて笑ったのだろうか...もしそうなら俺は死んでしまう。俺は出来るだけその事を考えないようにしながら、急いで服を着替えて部屋から出る。

するとそこにはメイド服を着た、銀色の髪の女性が立っていた。身長は俺より少し低く、細めの体型をしている。そして胸はペタンコだがあると分かるぐらいにはある。

「あの、どちら様でしょうか?」

「初めましてリョウタ様、私はエーレンと申します。リョウタ様がミズキ様の護衛兼アドバイス役を担う間、私がリョウタ様のお世話をさせていただきます。宜しくお願いします」

「え?」

「どうかなさいましたか?」

いや、どうかなさいましたか?じゃないでしょ。俺は瑞希の護衛兼アドバイス役なだけであり、国にお世話係を付けられるような立場の人間ではない。

「なんでお世話係が付くの?」

するとエーレンさんは悲しそうな顔をしながら上目遣いで俺に返事になっていない返事を返してくる。

「必要ないですか?」

「いや、そう言う意味ではなくて、俺みたいな城を出ていった奴なんかになんでお世話係が付くのかな?って思って」

「そういうことでしたか」

エーレンは悲しくそうだった表情を消し、
安心したような顔になった。そして俺に何故俺にお世話係がつくのかを説明してくれる。

「リョウタ様にお世話係が付くのはお詫びのようなものだそうです。こちらの世界に勝手に呼んでおいて、何もしてあげられず、さらにはお金もほとんど渡せず城を出て行かれたので、この機会にリョウタ様のお役に少しでもたてるようにと、私が派遣されたのです」

「お金は俺が1週間分でいいって言ったんだけど」

「それはそうですが、どちらにせよ私達はリョウタ様に何も出来ていませんので」

俺はそっか、と言って考える。
正直いってお世話係が居てくれると色々と助かる。俺は面倒な事が嫌いなので任せることが出来る。
そして、俺は勝手に呼ばれた上に何もしてもらっていない。いや、勉強を教えてもらったな。

そんなことは置いておいて、俺が何もしてもらっていないのは自分で城を出て行くと言ったからだ。自ら何もしてもらわないことを選んだのだ。だから俺にお世話係がつくことに何か申し訳なさを感じている。

俺がお世話係をしてもらうか、してもらわないかで悩んでいるとエーレンが上目遣いで最後の一押しと言わんばかりの一言を発した。

「私がお世話係では嫌ですか?」

俺はすぐにそれを否定する。俺は瑞希一筋だからと言って、ほかの人が可愛くないとは思わない。可愛いものは可愛いのだ。そしてその可愛い人に上目遣いで聞かれてしまっては俺達男共が勝てるわけがないのだ。

俺はエーレンに少しの間だけどよろしく、と言うとエーレンは瑞希一筋の俺でさえ心が惹かれてしまうような笑顔で

「宜しくお願いします、リョウタ様!」

と言ってきた。俺はこれ以上エーレンの笑顔を見てしまったら、一筋ではなくなってしまう!という危険を感じて、適当に自己紹介をしてから忘れていたことを聞く。

「エーレン、瑞希はどこに行ったの?」

「瑞希様でしたら、そちらにいますよ」

そう言ってエーレンは曲がり角に指を向ける。するとそこからいつもの服装の瑞希が出てきた。だが1つだけいつもと違うことがあった。瑞希がお怒りモードなのだ。

俺は何かしただろうか、と平均的な頭をフル回転させるが全く思いつかない。俺はどうしたものかと悩んだ結果、取り敢えず謝ることにした。

「瑞希さん、すいません」

「何がすいませんなの?」

瑞希が怖い形相で俺に聞いてくる。その時点で俺的にはかなり厳しい状況なのに、俺自身何がすみませんなのか分かっていない。俺は小さく呻きながら、エーレンの方を見てみる。すると彼女は笑顔で微笑んでくれた。やっぱり可愛いは正義だな。少し心が落ち着いたよ。まあ...

「瑞希が1番可愛いけどな」

思わず声に出してしまった。普段は絶対に口に出さない。俺はそれほどまでにこの状況に焦っているのだ。俺はさっきの言葉が聞こえていないか瑞希の方を見て確認する。

すると瑞希はさっきまでの表情をとは裏腹に、顔を真っ赤にして嬉しそうにしていた。俺がエーレンの方に顔を向けている間に何があったのだろうか。

そんなことよりも、俺はこの状況から助かることが出来てとても喜んでいる。俺は内心でよかったー、と思いながら瑞希の方に近寄って声をかける。

「瑞希」

「は、ひゃい!」

何故か瑞希がかんだ。だが俺は気にせずに話を始める。

「もうそろそろ夕食食べに行かないと、国王様達が待ってるから急ぐぞ」

俺はそう言って食堂に向かう。瑞希は何故かまた怒りそうになっているが、逃げるが勝ちという言葉があるので俺は食堂に逃げることにした。その際エーレンの手をにぎり、一緒に連れていく。

手を引っ張った時エーレンはきゃ!?と言っていたが、俺が急いでいるためエーレンをお姫様抱っこすると、エーレンはその後一切言葉を発しなくなった。
そうして、急いで食堂に行くと国王様達が席に座り俺と瑞希を待っていた。俺は速度を落として食堂の中に入る。

「すみません、遅れました」

「リョウタ殿か、ミズキ殿はーーー」

国王様が俺の方に振り向きながら喋っていたが俺の方に完全に向いた途端、喋るのをやめた。俺は何かあったのだろうか、と思い質問しようとしたが、その前にエーレンによって答えを告げられた。

「リョウタ様...下ろしてくださいませんか?国王様の前でこの状態は凄く恥ずかしいのですが」

あ、忘れてたわ。急ぎすぎててすっかり頭から飛んでた。俺はエーレンに謝りながら、ゆっくりと下ろす。そして国王様の方を向き謝る。

国王様は何があったのだろう?というような顔をしながら、気にしなくてもいいと言ってくる。俺は昨日の夕食で座った席のところに行き、席に座る。そしてしばらくして瑞希が遅れてやってくる。瑞希は、国王様達にはいつもの笑顔で遅れてすみません、と言っているが俺と視線があった瞬間、キッと睨んでくる。

そして瑞希が俺の隣に歩いてきて、席に座る。瑞希が俺の隣の席に座ったことにより、全員が揃ったので、朝食を食べ始める。

朝食を食べる前に俺は瑞希がなぜ怒っているのか分からないので、取り敢えず全力土下座をしておく。
すると瑞希はしぶしぶながら許してくれた。流石瑞希は優しい。

許してもらったところで、俺は朝食を食べ始める。そして、俺と瑞希は朝食を食べながら今日の予定について話し始める。

「なあ瑞希、今日はどのくらいダンジョンに潜るんだ?」

「んー、昨日と同じだけ進むなら30階層だから、それを目標に頑張ろうかな」

「そっか」

俺はその他細かいことはエリスがいる時でいいかと思い、今は食べることに集中する。しばらくすると、国王様が一番はじめに朝食を食べ終えて食堂を出ようとしていたので、呼び止める。

「国王様」

「なんだ?」

「色々と気を使っていただいてありがとうございます」

俺がそう言うと、国王様は申し訳なさそうな表情になった。

「勝手に呼んだのに、してやれることが少なくてすまない」

俺は慌てて充分です、と言う。国王様はそう言ってくれると有難い、とだけ言って部屋を出ていった。いい国王様だ。

その後、王女様が朝食を食べ終えて、食堂を出ていく。残った俺達はゆっくりと朝食を食べる。
食べ終えてから、俺は瑞希と一旦別れる。瑞希は着替えたりするらしい。俺はというと、エリスを呼びに行くのだ。

俺が食堂を出るとエーレンが待っていた。
何故エーレンは外にいるかというと、国王様が中にいたからだそうだ。
国王様と一緒の部屋に入るなど恐れ多い、みたいな感じらしい。

俺にはよくわからないが、この世界では常識なのだろう。俺はエーレンを見て質問したいことがあったのを思い出す。

「エーレンは俺達のダンジョン探索についてくるの?」

「はい」

エーレンが短くそう答える。でも、正直いって危ないと思う。俺はかなりステータスが高いので3人(瑞希、エーレン、エリス)を守るぐらいなら簡単だが、万が一ということがある。俺はエーレンに危険じゃないか?と言うと、エーレンが

「危険だろうと、私はお世話係ですので」

と少し顔を赤くして言ってくる。今日あったばかりの人間にそこまでしてくれるのは嬉しいが、危ない気もする。
俺はエーレンの将来を心配しながら、じゃあよろしくねとダンジョンについてきてもらえるように頼む。
するとエーレンは笑顔ではい、と返事をしてくれる。やっぱり可愛いは正義だと思う。

そんな会話を交わしたあと、俺とエーレンはエリスの泊まっている宿屋へと向かう。場所は昨日しっかりと聞いているので迷う心配はない。城からかなり近い場所にあるので、すぐに着くだろう。

宿屋に着いた俺達はエリスの部屋に行き、ノックして、声をかける。するとエリスが着替えた状態で出てきた。準備万端のようだ。エリスと合流できた俺は1度城に戻る。城に戻ると馬車が用意されていた。
馬車には既に瑞希が乗っており、早くーと叫んでいた。


そして俺達は馬車に乗って再びダンジョンに向かうのだった───。
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