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十一話 レイアはドジっ子だった

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俺はギルド長に連れられて、ギルド長室に来ていた。

「王女様、リョウタ殿をお連れしました」

聞いて分かる通り、レイアは俺だけを呼んだらしい。
なので、エリスはお留守番だ。

「どうぞ、お入りください」

中から、少し懐かしい声が聞こえた。もちろんレイアの声だ。

俺は失礼します、と言って部屋の中へ入る。ギルド長は中に入らないらしく、外で待機するそうだ。

中に入ると、レイアが椅子から立ち上がり、ぺこりと一礼する。

「お久しぶりです、リョウタさん」

「久しぶり、レイア」

再開の挨拶を終えて、俺は小さくため息をつく。

「どうかしましたか?ため息なんてついて」

「レイアが冒険者ギルドに来たからだよ」

俺がそう言うと、レイアがあからさまに表情を変えた。

「わたくし、冒険者ギルドに来てはいけませんでしたか!?すみません」

レイアは、頭をペコペコ下げた。
だが、そういう意味で言った訳では無いんだけどな。

「いや、来てもいいんだけど...」

「けど?」

「目立たないようにしてほしい」

「あ、なるほど!」

レイアは手をぽんと合わせて、納得した素振りを見せた。
わかってくれて何よりだ。

さて、そんなことよりも本題に移ろう。

「レイアは何をしに来たんだ?」

「実はですね...特に用事はないんですよ」

「え?」

予想外の返事に思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

俺はさっき出した声を誤魔化すかのように、コホンと咳をする。

「本当に何も無いのか?」

「はい、ただ様子を見に来ただけです」

本当に何がしたいんだ?レイアは決して暇ではないだろうに。

「まあ、見に来ただけの方が俺からしたら嬉しいけど...」

俺はレイアに聞こえないようにそう呟いた。
これは、面倒事を持ってこられるより全然いいという意味だ。

そう言えば、レイアは見に来たと言っていたが、これからどうするのだろうか。

「レイア、この後はもう帰るのか?」

「いえ、リョウタさんの依頼を受けているところを見る予定です」

「え?」

聞き間違えだろうか、俺が依頼を受けているところを見ると聞こえた気がした。

「もう1回言ってくれないか?」

「リョウタさんの依頼について行きます」

聞き間違えじゃなかったのか...。
と言うか、王女がギルドの依頼についてきて大丈夫なのだろうか?

「依頼に付いてくるって危険じゃないのか?」

一番の心配はこれだ。王女に傷が付いてしまったら、何があるかわからない。はっきり言ってしまうのなら、処罰を受けなければならないかもしれない。

だが、レイアはついてくる気満々なのか、王女なのに剣を携えたり、防具を着始めている。

レイアの服装が、城にいた時と違ってとても軽そうだったのは、俺についてくる為だったのか...。
俺はまたしてもため息をつく。

すると、レイアは準備を終えたのか、俺のほうに視線を移してきた。

「一緒に行っていいですよね?」

正直、今更聞かれたところで断れない。もう準備終わってるし。
たぶん、レイアはわかっていて聞いてきている。仕方が無いか。

「分かった、一緒に行こう。その代わり、パーティーメンバーも一緒だがいいか?」

「もうパーティー登録したんですか。全然構いませんよ」

「それともう一つ、護衛はちゃんといるよな?」

俺の質問を聞いたレイアは首を傾げた。俺はそこで嫌な予感がした。
まさか、レイアがドジっ子なわけが無い。それに予感は予感だ。

俺は予感で終わることに希望を持ちながら、レイアをじっと見る。
すると、レイアは俺から視線をずらしながらこう言った。

「忘れてました、てへっ!」

「忘れてましたじゃねぇわ!」

俺のツッコミの声はかなり大きかったのか、ギルド長が扉をかなり勢いよく開けて入ってきた。

「な、何事ですか!王女様、大丈夫ですか!?」

レイアはギルド長の焦り具合に若干引きつつも、冷静に大丈夫です、と返事を返していた。

その返事を聞いたギルド長は安堵の息をつき、深呼吸を始めた。
心を落ち着かせるためだろう。

何度か深呼吸した後、普段のギルド長顔に戻った。

「それで、何かありましたでしょうか?」

「いえ、大丈夫ですよ」

「そうですか。お話は終えましたでしょうか?」

「はい、終わりましたよね?」

レイアは、俺をじっと見つめて、はい以外言わせないようにしてきている。王女様意外と汚いな。

「終わりました...」

「そうですか。王女様、この後はどういうご予定で...」

「この後は、リョウタさんについて行く予定です」

「そうですか」

そう言ってギルド長は部屋を出ていった。ここギルド長の部屋なんだけどな。

「さて、俺達もそろそろ外に出るか」

「そうですね。でも、どうやって出ましょう?」

「どうやってとは?」

「ギルドの人達に見られたら目立ちますよ?」

ああ、なるほど。ちゃんと考えてくれてるんだな。まあ、エリスに頼んで人避けをしてもらうか。

「取り敢えず、一旦外に出ますね。
無事にギルドから出れるように準備するんで」

「はい。ありがとうございます」

レイアはニコッと笑って、頭をぺこりと下げた。

笑顔を見せれば誤魔化せる訳では無いぞ、とツッコもうとしたが、レイアの笑顔なら、大体のことがなんとかなりそうなのでやめておいた。


そして俺は、本当に面倒なことになったな、と大きくため息をつくのであった───。
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