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壊されたショーウィンドー
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とある日曜、とあるファミレスで、悦子は同じクラスの咲子と民夫に会っていたのだが、咲子も民夫も暗い表情を浮かべ、なかなか口を開かなかった。
昨日、ぜひ話したいことがあるので聞いて貰えないか?と咲子から電話を貰った悦子だったが、呼び出された側としては、押し黙った2人の様子にただならぬものを感じていた。
悦子はドリンクを飲みながら、あれこれと頭を巡らせていたが、やがて、咲子がゆっくりと切り出した。
「…実はね、悦子、富美子が起こした事件についてなんだけど…」
事件?…悦子には何のことか分からなかったが、富美子はいわゆるお嬢様で、やはり悦子らと同じクラスにいる同級生だった。
「…富美子が何かしたの?」
悦子はやんわりとした口調で喋ったので、咲子は少しホッとしたのか、何か決意したようなキリリとした顔になり、悦子をしっかりと見つめて、再び話し始めた。
「…うん、このことは悦子の胸にとどめておいて欲しいんだけどね、私と民夫が付き合っていることは皆んな知ってるから構わないものの、先週から富美子が学校を休んでいる理由は、私と民夫にある気がするんだ…」
すると、民夫は黙って頷き、咲子と同様、悦子の顔をじっと見つめた。
「…そうなんだ。咲ちゃんが言ったように、富美子が学校に来ない原因は僕らにある気がしてね…咲ちゃん、僕から話すね。実は富美子が休み始める前日、僕と咲ちゃんは隣駅前のデパートにいたんだ。ほら、富美子のお父さんが社長をしている…」
悦子は、あぁ、と言い、民夫は続けた。
「…で、僕らはデパートの中で、口紅を見たり、色んな品のショーケースを覗いていたんだけど、突然、窓、つまりショーウィンドーがバリンと割れる音がしたんだ。どうやら石か何かが投げ込まれたようだったんだけど、外に富美子が怖い顔をして立っているのが見えたんだ…でも、すぐに立ち去ったから、その後のことは知らないんだけど、店員や警備員らしき人たちが走って追いかけて行ったみたいだった…」
悦子はなるほどと言い、口を挟んだ。
「…それで、富美子は店員らに捕まったかも知れないけど、デパートの社長の娘だから、公にはならなかったという訳ね…でも、何故、あなたたちが原因になるの?」
今度は咲子が口を開いた。
「…前から薄々勘付いていたんだけど、富美子は民夫のことが好きみたいで、でも民夫は気が無いので、知らない振りをしていたのよ…富美子は民夫にストーカー行為はしなかったし、私たちは特に気にしていなかったんだけど、私も見た、窓を割った時のあの富美子の顔は怖かった…何だか人生に絶望したように感じたわ…」
悦子はピンと来た。
「…なるほど、つまり、富美子は仲良くしているあなたたちを見て、嫉妬し、石を投げ入れたと思った訳ね」
咲子と民夫は同時に頷いた。
悦子はドリンクを飲み干すと、2人に言った。
「…話はよく分かったわ。つまり、富美子が起こした行為について、調べて欲しいのね…あなたたちが怖く感じるのも無理無いし、私、引き受けるわ」
咲子と民夫はずっと不安そうにしていたが、悦子の返答に少し明るくなった。
「…悦子、有難う!」
咲子が悦子の手を握って言うと、民夫も礼を述べ、2人は嬉しそうに見つめ合った。
悦子はそんな2人の様子を見ながら、何か決心した表情をした。
数日後、悦子は咲子と民夫と再度ファミレスで落ち合った。
悦子は学校を休み続けている富美子と会って話したことや、富美子がショーウィンドーを壊した原因は咲子や民夫らには無いことを告げた。
安心した咲子と民夫だったが、もっと詳しく知りたそうにしている2人を尻目に、悦子は注文していた大好物のミルフィーユを美味しそうに頬張り、一気に半分くらい食べ終え、口の周りを拭くと、満足気な表情で咲子と民夫を見つめ、話し出した。
「…富美子が言うにはね、確かに民夫のことは好きだけど、咲子から奪うつもりなんてさらさら無いらしいから、心配はいらないわよ…ただね、気になるのは、富美子のメンタルなの…」
「…メンタル?」
咲子と民夫はほぼ同時に言うと、食い入るように悦子を見つめた。
「…そうなのよ…富美子はお嬢様と言われることに対して悩んでいて、自分自身に嫌気がさしているらしいの。だけど、事実、お父さんは社長さんだし、周りの目はお嬢様として見てしまう…そんなことをモヤモヤと思いながら、お父さんのデパートの前を通りかかった…富美子は立ち止まり、何気無く、ショーウィンドーから中を見たつもりが、中では無く、窓に映った自分自身の顔を見たのよ…」
咲子と民夫は顔を見合わせた。
悦子は一口ドリンクをすすると、続けた。
「…つまり、あなたたちを見たのでは無く、自分の顔を見たのよ…それで、お嬢様と言われる自分が余計に嫌になって、窓に映る自分目掛けて、石をぶつけたってことなの…改めて、お嬢様ともてはやされるのが辛かったのよ…可哀想な富美子…」
悦子はホロリとしたが、すぐに立て直すと、咲子らを見つめて言った。
「…富美子はかなり悩んでいる様子なんだけど、これから3人で彼女の家に行かない?」
咲子と民夫は再び顔を見合わせた後、悦子のほうを見て、強く頷いたので、悦子は満面の笑みを浮かべたのだった。
昨日、ぜひ話したいことがあるので聞いて貰えないか?と咲子から電話を貰った悦子だったが、呼び出された側としては、押し黙った2人の様子にただならぬものを感じていた。
悦子はドリンクを飲みながら、あれこれと頭を巡らせていたが、やがて、咲子がゆっくりと切り出した。
「…実はね、悦子、富美子が起こした事件についてなんだけど…」
事件?…悦子には何のことか分からなかったが、富美子はいわゆるお嬢様で、やはり悦子らと同じクラスにいる同級生だった。
「…富美子が何かしたの?」
悦子はやんわりとした口調で喋ったので、咲子は少しホッとしたのか、何か決意したようなキリリとした顔になり、悦子をしっかりと見つめて、再び話し始めた。
「…うん、このことは悦子の胸にとどめておいて欲しいんだけどね、私と民夫が付き合っていることは皆んな知ってるから構わないものの、先週から富美子が学校を休んでいる理由は、私と民夫にある気がするんだ…」
すると、民夫は黙って頷き、咲子と同様、悦子の顔をじっと見つめた。
「…そうなんだ。咲ちゃんが言ったように、富美子が学校に来ない原因は僕らにある気がしてね…咲ちゃん、僕から話すね。実は富美子が休み始める前日、僕と咲ちゃんは隣駅前のデパートにいたんだ。ほら、富美子のお父さんが社長をしている…」
悦子は、あぁ、と言い、民夫は続けた。
「…で、僕らはデパートの中で、口紅を見たり、色んな品のショーケースを覗いていたんだけど、突然、窓、つまりショーウィンドーがバリンと割れる音がしたんだ。どうやら石か何かが投げ込まれたようだったんだけど、外に富美子が怖い顔をして立っているのが見えたんだ…でも、すぐに立ち去ったから、その後のことは知らないんだけど、店員や警備員らしき人たちが走って追いかけて行ったみたいだった…」
悦子はなるほどと言い、口を挟んだ。
「…それで、富美子は店員らに捕まったかも知れないけど、デパートの社長の娘だから、公にはならなかったという訳ね…でも、何故、あなたたちが原因になるの?」
今度は咲子が口を開いた。
「…前から薄々勘付いていたんだけど、富美子は民夫のことが好きみたいで、でも民夫は気が無いので、知らない振りをしていたのよ…富美子は民夫にストーカー行為はしなかったし、私たちは特に気にしていなかったんだけど、私も見た、窓を割った時のあの富美子の顔は怖かった…何だか人生に絶望したように感じたわ…」
悦子はピンと来た。
「…なるほど、つまり、富美子は仲良くしているあなたたちを見て、嫉妬し、石を投げ入れたと思った訳ね」
咲子と民夫は同時に頷いた。
悦子はドリンクを飲み干すと、2人に言った。
「…話はよく分かったわ。つまり、富美子が起こした行為について、調べて欲しいのね…あなたたちが怖く感じるのも無理無いし、私、引き受けるわ」
咲子と民夫はずっと不安そうにしていたが、悦子の返答に少し明るくなった。
「…悦子、有難う!」
咲子が悦子の手を握って言うと、民夫も礼を述べ、2人は嬉しそうに見つめ合った。
悦子はそんな2人の様子を見ながら、何か決心した表情をした。
数日後、悦子は咲子と民夫と再度ファミレスで落ち合った。
悦子は学校を休み続けている富美子と会って話したことや、富美子がショーウィンドーを壊した原因は咲子や民夫らには無いことを告げた。
安心した咲子と民夫だったが、もっと詳しく知りたそうにしている2人を尻目に、悦子は注文していた大好物のミルフィーユを美味しそうに頬張り、一気に半分くらい食べ終え、口の周りを拭くと、満足気な表情で咲子と民夫を見つめ、話し出した。
「…富美子が言うにはね、確かに民夫のことは好きだけど、咲子から奪うつもりなんてさらさら無いらしいから、心配はいらないわよ…ただね、気になるのは、富美子のメンタルなの…」
「…メンタル?」
咲子と民夫はほぼ同時に言うと、食い入るように悦子を見つめた。
「…そうなのよ…富美子はお嬢様と言われることに対して悩んでいて、自分自身に嫌気がさしているらしいの。だけど、事実、お父さんは社長さんだし、周りの目はお嬢様として見てしまう…そんなことをモヤモヤと思いながら、お父さんのデパートの前を通りかかった…富美子は立ち止まり、何気無く、ショーウィンドーから中を見たつもりが、中では無く、窓に映った自分自身の顔を見たのよ…」
咲子と民夫は顔を見合わせた。
悦子は一口ドリンクをすすると、続けた。
「…つまり、あなたたちを見たのでは無く、自分の顔を見たのよ…それで、お嬢様と言われる自分が余計に嫌になって、窓に映る自分目掛けて、石をぶつけたってことなの…改めて、お嬢様ともてはやされるのが辛かったのよ…可哀想な富美子…」
悦子はホロリとしたが、すぐに立て直すと、咲子らを見つめて言った。
「…富美子はかなり悩んでいる様子なんだけど、これから3人で彼女の家に行かない?」
咲子と民夫は再び顔を見合わせた後、悦子のほうを見て、強く頷いたので、悦子は満面の笑みを浮かべたのだった。
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