上 下
13 / 19

壊されたショーウィンドー

しおりを挟む
とある日曜、とあるファミレスで、悦子は同じクラスの咲子と民夫に会っていたのだが、咲子も民夫も暗い表情を浮かべ、なかなか口を開かなかった。

昨日、ぜひ話したいことがあるので聞いて貰えないか?と咲子から電話を貰った悦子だったが、呼び出された側としては、押し黙った2人の様子にただならぬものを感じていた。

悦子はドリンクを飲みながら、あれこれと頭を巡らせていたが、やがて、咲子がゆっくりと切り出した。

「…実はね、悦子、富美子が起こした事件についてなんだけど…」

事件?…悦子には何のことか分からなかったが、富美子はいわゆるお嬢様で、やはり悦子らと同じクラスにいる同級生だった。

「…富美子が何かしたの?」

悦子はやんわりとした口調で喋ったので、咲子は少しホッとしたのか、何か決意したようなキリリとした顔になり、悦子をしっかりと見つめて、再び話し始めた。

「…うん、このことは悦子の胸にとどめておいて欲しいんだけどね、私と民夫が付き合っていることは皆んな知ってるから構わないものの、先週から富美子が学校を休んでいる理由は、私と民夫にある気がするんだ…」

すると、民夫は黙って頷き、咲子と同様、悦子の顔をじっと見つめた。

「…そうなんだ。咲ちゃんが言ったように、富美子が学校に来ない原因は僕らにある気がしてね…咲ちゃん、僕から話すね。実は富美子が休み始める前日、僕と咲ちゃんは隣駅前のデパートにいたんだ。ほら、富美子のお父さんが社長をしている…」

悦子は、あぁ、と言い、民夫は続けた。

「…で、僕らはデパートの中で、口紅を見たり、色んな品のショーケースを覗いていたんだけど、突然、窓、つまりショーウィンドーがバリンと割れる音がしたんだ。どうやら石か何かが投げ込まれたようだったんだけど、外に富美子が怖い顔をして立っているのが見えたんだ…でも、すぐに立ち去ったから、その後のことは知らないんだけど、店員や警備員らしき人たちが走って追いかけて行ったみたいだった…」

悦子はなるほどと言い、口を挟んだ。

「…それで、富美子は店員らに捕まったかも知れないけど、デパートの社長の娘だから、公にはならなかったという訳ね…でも、何故、あなたたちが原因になるの?」

今度は咲子が口を開いた。

「…前から薄々勘付いていたんだけど、富美子は民夫のことが好きみたいで、でも民夫は気が無いので、知らない振りをしていたのよ…富美子は民夫にストーカー行為はしなかったし、私たちは特に気にしていなかったんだけど、私も見た、窓を割った時のあの富美子の顔は怖かった…何だか人生に絶望したように感じたわ…」

悦子はピンと来た。

「…なるほど、つまり、富美子は仲良くしているあなたたちを見て、嫉妬し、石を投げ入れたと思った訳ね」

咲子と民夫は同時に頷いた。

悦子はドリンクを飲み干すと、2人に言った。

「…話はよく分かったわ。つまり、富美子が起こした行為について、調べて欲しいのね…あなたたちが怖く感じるのも無理無いし、私、引き受けるわ」

咲子と民夫はずっと不安そうにしていたが、悦子の返答に少し明るくなった。

「…悦子、有難う!」

咲子が悦子の手を握って言うと、民夫も礼を述べ、2人は嬉しそうに見つめ合った。

悦子はそんな2人の様子を見ながら、何か決心した表情をした。


数日後、悦子は咲子と民夫と再度ファミレスで落ち合った。

悦子は学校を休み続けている富美子と会って話したことや、富美子がショーウィンドーを壊した原因は咲子や民夫らには無いことを告げた。

安心した咲子と民夫だったが、もっと詳しく知りたそうにしている2人を尻目に、悦子は注文していた大好物のミルフィーユを美味しそうに頬張り、一気に半分くらい食べ終え、口の周りを拭くと、満足気な表情で咲子と民夫を見つめ、話し出した。

「…富美子が言うにはね、確かに民夫のことは好きだけど、咲子から奪うつもりなんてさらさら無いらしいから、心配はいらないわよ…ただね、気になるのは、富美子のメンタルなの…」

「…メンタル?」

咲子と民夫はほぼ同時に言うと、食い入るように悦子を見つめた。

「…そうなのよ…富美子はお嬢様と言われることに対して悩んでいて、自分自身に嫌気がさしているらしいの。だけど、事実、お父さんは社長さんだし、周りの目はお嬢様として見てしまう…そんなことをモヤモヤと思いながら、お父さんのデパートの前を通りかかった…富美子は立ち止まり、何気無く、ショーウィンドーから中を見たつもりが、中では無く、窓に映った自分自身の顔を見たのよ…」

咲子と民夫は顔を見合わせた。

悦子は一口ドリンクをすすると、続けた。

「…つまり、あなたたちを見たのでは無く、自分の顔を見たのよ…それで、お嬢様と言われる自分が余計に嫌になって、窓に映る自分目掛けて、石をぶつけたってことなの…改めて、お嬢様ともてはやされるのが辛かったのよ…可哀想な富美子…」

悦子はホロリとしたが、すぐに立て直すと、咲子らを見つめて言った。

「…富美子はかなり悩んでいる様子なんだけど、これから3人で彼女の家に行かない?」

咲子と民夫は再び顔を見合わせた後、悦子のほうを見て、強く頷いたので、悦子は満面の笑みを浮かべたのだった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

推理の果てに咲く恋

葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽が、日々の退屈な学校生活の中で唯一の楽しみである推理小説に没頭する様子を描く。ある日、彼の鋭い観察眼が、学校内で起こった些細な出来事に異変を感じ取る。

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

神暴き

黒幕横丁
ミステリー
――この祭りは、全員死ぬまで終われない。 神託を受けた”狩り手”が一日毎に一人の生贄を神に捧げる奇祭『神暴き』。そんな狂気の祭りへと招かれた弐沙(つぐさ)と怜。閉じ込められた廃村の中で、彼らはこの奇祭の真の姿を目撃することとなる……。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...