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いじめっ子撃退作戦

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悦子はどうしたらいいものか分からず、迷っていた。

「戸隠(とがくし)君は明らかにいじめを受けているが、証拠が無い。仮に証拠があったとして、もし先生にちくったら、さらにいじめはエスカレートするだろうし、彼も望んでいないと思う。でもこのままでいいはずが無い……」

悦子は相談に乗ろうとして、戸隠三郎の下駄箱の靴の中に置き手紙をしようと考えたが、例えば、「17時に校舎の裏で待っています。悦子より」と書いたとしても、いじめっ子からの呼び出しだと勘違いして、無視されるかも知れない。それでは意味が無いと思い、やめることにした。

それなら、見守ろうと決意し、出来得る範囲内で、戸隠三郎(以降、戸隠)を尾けることにした。

そんなある日の帰り、戸隠が自宅へと向かっていた途中、いわゆる番長の山室(やまむろ)が現れた。

2人はどこかへと歩き出し、いよいよ来たかと悦子は思った。

キョロキョロしているので、周りを警戒しているようだ。

どこかでしばくのでは、と悦子は考え、何かあったら警察に連絡しようと、携帯電話をしっかりと握りしめながら、あとを尾けた。

しばらくすると、川が見えてきた。

どうやら、河原に行くようだ。

川には橋が掛かっていて、戸隠と山室はその下に向かって歩いて行った。

悦子も2人に悟られないように気を付けつつ、ゆっくりと足を進めた。

やがて、2人の姿が橋の陰に消えたので、悦子は急いだ。

そして、悦子は橋のたもとの壁に隠れつつ、そっと橋の下に目をやると、いまにも戸隠が山室を殴ろうとする寸前だった。

「やめて!」

反射的に悦子は飛び出した。

すると、戸隠と山室は驚きながらも呆気に取られた様子だったので、顔を紅潮させた悦子は、ん?と思った。

山室が戸隠を、では無く、戸隠が山室に手を上げようとしていたことも不自然に感じた。

いじめを受けているのは戸隠の方だから、普通なら逆ではないか。

ただ、いじめに耐え切れなくなった戸隠が山室に殴りかかろうとしても、おかしくは無かった。

「山室君、戸隠君をいじめちゃ駄目よ!」

悦子に怒鳴られた山室は困惑した顔になり、何か言おうとしたが、先に戸隠が口を開いた。

「……違うよ。山室君は僕がいじめられてるので、力を貸してくれてるんだ。それで、殴られそうになった時の護身術とかを教えて貰ってるんだよ」

「エッ、そうだったの……」

悦子は安心感と脱力感が同時に込み上げてくるのを覚えた。


その後、3人は河原に座り、話し始めた。

「じゃあ、山室君の方から戸隠君に声を掛けてあげたのね」

「そうだよ。戸隠には頭が上がらなくてさ」

「その話は恥ずかしいから、もういいよ」

「エッ、何何。教えてよ」

探偵の血が騒ぎ出したのか、悦子は身を乗り出して、戸隠と山室の顔をかわるがわる見た。

山室は言った。

「俺さ、中学の時に転校してきて、いじめられ始めてさ。そしたら、戸隠が心配してくれて、ある時、いじめる奴らに殴りかかってくれて……戸隠はボコボコにされても、引かなかったんだ」

戸隠は恥ずかしそうに口を開いた。

「山ちゃん、もういいよ。その話は……」

だが、構わずに山室はさらに続けた。

「それで、今の高校に戸隠と進学したんだけど、今度は戸隠がいじめられるようになってさ。情けない話なんだけど、俺にはいつの間にかなっていた番長のメンツがあるばかりに何も出来なくて……俺自身は手出ししたことは無いけど、俺の取り巻きが戸隠に手を出すようになってからも、表立って戸隠の力になれなかった。だけど、戸隠には恩もあるし、空手をかじってる俺は、戸隠に色々役に立ちそうなことを教えてたんだ」

「そうだったの……」

悦子は2人の顔をじっと見ると、感極まり、うるうると涙をこぼしそうになりながら、言った。

「私に考えがあるわ」


数日後、悦子は戸隠をいじめている数人を校舎裏に呼び出して、話し始めた。

「最近、暇で暇でしょうがなかったから、色んな人たちのことを調べてみたのよ。それでね、誰とは言わないけど、この中に、まだ寝小便をしてる子もいれば、親に隠れて、ゲーム課金しまくってる子もいるよね。その情報をファイルにして、ある場所に隠してあってね。もし私に何かあれば、表に出ることになってるのよ。さぁ、どうする?あんたたち、いじめっ子でしょ?いじめっ子をいじめるなんて、何て気持ちいいものなのかしら!ばらされたくなかったら、私の言うことを聞くことね!」

そこへ戸隠が不意に現れた。

「悦子さん、何してるの?ちょっと聞こえたんだけど、君のしてることは明らかに脅迫行為だよね?探偵気取りも程々にしなよ。先生に言ってもいいかな?」

「戸隠君、それだけはやめて!」

悦子は慌てて立ち去った。

"寸劇"は成功し、いじめ軍団は戸隠に感謝して、その後、いじめは止んだ。

ちなみに、いじめっ子の情報は山室から聞いた。

山室の取り巻きだから簡単に手に入ったのだ。


校舎に戻りながら、悦子は得意気につぶやき、1人、くすくす笑っていた。

「……私が探偵という看板を背負ってるから、まさか取り巻きたちは山室君から情報を聞いたとは思っていないはずよね。こんな時、私の肩書きが役に立つとは思わなかった。だから、今回、私はなーんにもしていません」


*Prologueに投稿したものを加筆など修正し、再投稿したものです。
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