ショートショートホラーミステリー小説集

キタさん

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私は見た……

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私は女子高生、千里(ちさと)。

両親は、先が読める人になって欲しいと願い、千里眼とかけて千里としたらしい。

「行って来まーす!」

私はいつものようにお母さんに挨拶を残すと、軽やかに自転車をスタートさせ、学校に向かった。

そして、延々と続く菜の花畑の横道を走っていると、急に頭に何かがよぎった…それは、まるで雷光が突き抜けた感触と言ってもいいくらい、鋭いものだった。

(誰かが殺される)

人が死ぬ光景を見た訳では無かったが、脳裏を貫いた謎の稲妻から受けた間違いようの無い、確たる思いだった。

気付くと、いつの間にか私は自転車を停め、菜の花を手に握っていた。

じっと花を見つめると、まるで何か私に訴えかけているように感じたが、さすがに花の心は読めなかったので、そっと畑に戻し、急いで自転車とともにその場を後にした。



学校では親友の楓(かえで)が私を待っていた。

「千里、今日はいつもより少し遅かったわね……何だか不思議そうな顔もしてるし……」

私の中を駆け抜けたおかしな感覚は何だったのか分からないままたどり着いたので、私の表情はクエスチョンを発していたのだろう。

私は楓に一部始終を話すと、何だったのかしらねと彼女もいぶかしがったが、チャイムが鳴り、一時限目が始まると、次第に忘れ去られた。

だが、さらに奇怪な出来事が私を襲うこととなった。

その日の夕方、帰宅した私の頭にまた何かが浮かんだ。

若い女性がいる……その女性は誰かに首を絞められており、その苦悶の顔から察するに、もうすぐ死ぬのではないかと思われた……ん、どこかで見た人物だ……アッ!

私の頭にはっきりと現れたのは、楓だった。

楓が何者かに殺される……断定していいが、未遂では無く、必ず殺されるのだ。

私は楓に電話を掛けたが通じない。

思い出した……今夜、彼女の両親は親戚の所へ出掛けるらしく、彼女は1人で夜を過ごすはずだ……となると、誰かが押し入り、彼女を殺すのだろうか?しかし、何故だ、何故、彼女を殺そうとするのか?

私は分からぬまま、再び電話で呼び出したが、やはり応答は無い。

アッ!私はまた思い出した……今夜、彼女のもとには確か大学生の男性家庭教師が来るはずだ……じゃあ、その人物が彼女を……そうだ、彼女は気が散って勉強に集中出来ないと良くないからと言って、電話はマナーモードにしてあるとも話していた……すでにマナーモードに設定してあるため、私からの着信に気付かないのかも知れない……。

私は我を忘れて、自転車に飛び乗り、彼女の自宅に向かった。

そして着くと、玄関前に自転車を放置し、反射的にチャイムを鳴らさずにドアのぶに手をのばすと、開いたので、黙って入り、彼女の部屋へ直行した。

やはり無言でドアを開けると、勉強机に向かっていた彼女が私を見て、驚いた。

「ち、千里、どうしたの?……何かあったの?」

私は楓の顔をじっと見つめて、叫ぶように言った。

「私の言うことを信じて欲しいの……あなた、今日、誰かに殺されるわ」

楓も私をまじまじと直視していたが、少し経つと、フフフと吹き出した。

「やだ、千里、バレちゃったんだ」

「エッ、それ、どういう意味?」

楓は椅子から降りて、腕組みをしていたが、やがて、押し入れを開けると、そこにはぐったりとなった男性が丸まった姿で押し込められていた。

私は飛び上がりそうになったが、楓は至って冷静だった。

「実はね、千里も知っている通り、この人、私の家庭教師なんだけど、私のこと、好きになっちゃって、両親もいないし、大丈夫だと思ったんでしょうね、いきなりベッドに押し倒されて、上に乗ってきて、無理矢理キスされて……そうしたら、いきなり首を絞めてきたのよ……私、びっくりして、やめてって叫んだけど、彼の力にはかなわなかった……どうやら、本当に殺すつもりは無く、首を絞めた女性の苦しい表情を見て、興奮するタイプだったようなんだけど、とにかく私、痛いし、死ぬかと思ったので、思い切り突き飛ばしたら、頭を机の角にぶつけて、そのまま、意識を失くしちゃったの……て言うか、死んじゃったんだけどね……それで、私、とりあえず死体を隠してから、正当防衛を主張しようかとか、色々と考えていたところに……」

「……私が入って来たのね」

楓は頷いた。

しかしながら、彼女は度胸が座っている……すぐ近くで人が死んでいるというのに、いやはや恐れ入った。

私は大きな勘違いをしていた……殺されたのは楓では無く、家庭教師だったのだ。

ん?でも何かおかしい……頭をひねって、思案している楓にトイレを貸してと言って私は部屋を出て、トイレにこもり、脳をフル回転させていたが、やがてハッとした。

確かに楓は家庭教師に首を絞められていたが、彼女の口から意外な言葉が漏れていたことに気付いたのだ。

(もっと強く絞めて!)

つまり、家庭教師が首を絞めて興奮したというのは偽りで、楓のほうが首を絞められると感じる人間だったと分かった……となると、家庭教師に襲われたというのも嘘で、楓のほうから誘ったのかも知れない。

私はトイレを飛び出すと、また光景が浮かんだ。

今度は家庭教師では無い、別の誰かに楓が首を絞められている……私は意識を戻すと、一目散に楓の部屋に向かった。

すると、ドアを開けるや否や、いきなり楓が飛びかかってきた。

そして、私の首を絞め出した……私は思った、さっき頭に浮かんだのは、楓では無く、私が首を絞められていたものだったと、しかも、楓に……。

楓が家庭教師に首を絞めさせて欲情したこと、また、もしかして、楓が家庭教師をベッドに誘ったのではないかと私が察したことに楓は勘付いたのか、それとも、私の首を絞めて、再び興奮したかったのか、理由は分からなかったが、不気味に笑いながら、力強く首を絞める彼女に圧倒され、泣き叫ぶことも出来ず、次第に私の意識は遠のいていった……。



私は死んだ……どうやら、楓は帰宅した両親に頼み込み、私と家庭教師の死体をどこかに埋めたらしいが、やがて発見されたものの、誰の仕業かは分からぬままだった……そして楓は白々しく私の葬儀に出席し、まぶたを腫らしながら、絶叫していた……いゃあ、改めて名演技には恐れ入る。

しかし、改めて、楓が家庭教師に首を絞められて興奮したと私が気付いたことを楓は知り、私を殺したのだとしたら、もしかして、彼女も私と同じような予知能力があったのだろうか?……だから、落ち着いて、私を殺したことも含めて対処出来たのか?

彼女が死んで、もし会えることになったら、ぜひ聞いてみたいところだ。

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