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仲直り
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昔々あるところに、あるお嬢様が住んでいました。
お嬢様のご両親はすでに亡くなられ、身寄りは無かったのですが、大富豪だったので、何不自由無く、暮らしていました。
身の回りの世話は、ご両親の代から仕えている執事とその妻が担っていました。
特に大きな問題無く、過ごせているように見えましたが、お嬢様はたいへんな我がままでしたので、執事夫妻は振り回されていました。
お嬢様は酒豪で、チェーンスモーカー、大食漢、しかも取っ替え引っ替え、男性と恋をしていたので、いつ体調を壊してもおかしくありませんでした。
そうした暮らしを続けているうち、案の定、お嬢様は体の不調を訴え、自室に引きこもるようになりました。
執事夫妻はお嬢様を心配しましたが、暴飲暴食は止まらず、言うことを聞かないので、医者もさじを投げてしまいました。
しかし、執事夫妻は付きっきりで看病しました…と言うより、体調を崩したお嬢様が無理をし過ぎないよう、見張っている感じでした。
でも、お嬢様は不摂生をやめません。
調子がおかしくなったら寝て、少し元気になったら、ケーキ10人分を平らげるといった具合でした。
そんなある日、とうとうお嬢様は、ギブアップ!と叫び、ベッドに倒れ込んでしまいました。
執事夫妻は急いで医者を呼びに行きましたが、お嬢様は虫の息で、手の施しようがありませんでした。
お嬢様は、執事夫妻を呼び出し、頭を下げました。
「今まで我がままを聞いてくれて有難う。おかげで私は幸せに暮らせました。そこであなたたちに私の全財産を遺します。では、さようなら」
お嬢様は枕に顔をうずめて亡くなりました。
すると、執事夫妻は急に笑い出しました。
「ハハハ、馬鹿な女め。世の中、そんなに甘くないんだよ。なぁ、お前、そう思わないか?」
「そうね。あのじゃじゃ馬、いい気味よ」
執事夫妻はニヤニヤしながら、お嬢様から預かった鍵で金庫を開け、札束や株券を取り出しました。
そして、ワインで祝杯を上げる2人。
「乾杯!」
しかしどちらも飲もうとしません。
そして、お互いの顔を伺い合い、ハッとしました。
執事と妻はそれぞれお嬢様の財産を独り占めしようとして、お互い、ワインにうまく毒を混入させたものの、万一のことを考えて、相手が死ぬまでは飲まないようにしようと決めていたのでした。
欲に目がくらんでしまったことを反省した2人は同時に謝りました。
「済まない……心を入れ替えるよ」と執事。
「……私こそ、ごめんなさい」と妻。
仲直りした夫妻は、財産を等分に分け、抱き合いながら、踊り続けました。
「そんなうまくいくはずないだろ……」
私はある小説を読み終えた。
私は執事。
妻と結託して、主人を毒殺した。
そして、妻に莫大な主人の遺した財産を渡すものかと考えながら、妻との祝杯に入れる毒をズボンのポケットに忍ばせた。
「あいつは馬鹿だから、まさか毒入りとは思い付くまい」
案の定、執事の入れた毒により、妻は死んだ。
「そんな都合良くいくはずがないわよ……」
私はある小説を読み終えた。
私は執事の妻。
夫と共謀し、毒を使い、主人をあの世へと送った。
そして、夫に主人の財産を渡してなるものかと考え、夫の目を盗んで、毒薬を祝杯のグラスに入れた。
「あの人、まさか私が裏切るなんて思っていないはずよ」
やはり妻の計画通り、執事は毒をあおり、亡き者となった。
やがて2人はまばゆい光の中、目覚めた。
「あ、お前……」
「あ、あなた……」
お互いのしたことを悟り、しばらく黙っていた2人だったが、沈黙が破られたのは、毒殺した主人が現れたからだった。
夫妻を睨み付けている死んだ主人の姿に2人は怯えていると、主人は怒りをあらわにして、言った。
「……ここはお前らの来る場所では無い!……殺人を犯した者が天国へ来れる訳が無いんだ!……とっとと消え失せろ!」
2人は逃げ出したが、地獄に堕ちるのは怖かったので、何とかゾンビとなって生き返り、お互い、青白い顔を見つめながら、頭を下げた。
「悪かったな……仲良くやろうや」
「私の方こそ、何、考えてたのかしら……またよろしくね」
そして、体を揺らしながら、楽しそうにダンスを始めたのだった。
(*Prologueに投稿したものを大幅修正して、再投稿したものです)
お嬢様のご両親はすでに亡くなられ、身寄りは無かったのですが、大富豪だったので、何不自由無く、暮らしていました。
身の回りの世話は、ご両親の代から仕えている執事とその妻が担っていました。
特に大きな問題無く、過ごせているように見えましたが、お嬢様はたいへんな我がままでしたので、執事夫妻は振り回されていました。
お嬢様は酒豪で、チェーンスモーカー、大食漢、しかも取っ替え引っ替え、男性と恋をしていたので、いつ体調を壊してもおかしくありませんでした。
そうした暮らしを続けているうち、案の定、お嬢様は体の不調を訴え、自室に引きこもるようになりました。
執事夫妻はお嬢様を心配しましたが、暴飲暴食は止まらず、言うことを聞かないので、医者もさじを投げてしまいました。
しかし、執事夫妻は付きっきりで看病しました…と言うより、体調を崩したお嬢様が無理をし過ぎないよう、見張っている感じでした。
でも、お嬢様は不摂生をやめません。
調子がおかしくなったら寝て、少し元気になったら、ケーキ10人分を平らげるといった具合でした。
そんなある日、とうとうお嬢様は、ギブアップ!と叫び、ベッドに倒れ込んでしまいました。
執事夫妻は急いで医者を呼びに行きましたが、お嬢様は虫の息で、手の施しようがありませんでした。
お嬢様は、執事夫妻を呼び出し、頭を下げました。
「今まで我がままを聞いてくれて有難う。おかげで私は幸せに暮らせました。そこであなたたちに私の全財産を遺します。では、さようなら」
お嬢様は枕に顔をうずめて亡くなりました。
すると、執事夫妻は急に笑い出しました。
「ハハハ、馬鹿な女め。世の中、そんなに甘くないんだよ。なぁ、お前、そう思わないか?」
「そうね。あのじゃじゃ馬、いい気味よ」
執事夫妻はニヤニヤしながら、お嬢様から預かった鍵で金庫を開け、札束や株券を取り出しました。
そして、ワインで祝杯を上げる2人。
「乾杯!」
しかしどちらも飲もうとしません。
そして、お互いの顔を伺い合い、ハッとしました。
執事と妻はそれぞれお嬢様の財産を独り占めしようとして、お互い、ワインにうまく毒を混入させたものの、万一のことを考えて、相手が死ぬまでは飲まないようにしようと決めていたのでした。
欲に目がくらんでしまったことを反省した2人は同時に謝りました。
「済まない……心を入れ替えるよ」と執事。
「……私こそ、ごめんなさい」と妻。
仲直りした夫妻は、財産を等分に分け、抱き合いながら、踊り続けました。
「そんなうまくいくはずないだろ……」
私はある小説を読み終えた。
私は執事。
妻と結託して、主人を毒殺した。
そして、妻に莫大な主人の遺した財産を渡すものかと考えながら、妻との祝杯に入れる毒をズボンのポケットに忍ばせた。
「あいつは馬鹿だから、まさか毒入りとは思い付くまい」
案の定、執事の入れた毒により、妻は死んだ。
「そんな都合良くいくはずがないわよ……」
私はある小説を読み終えた。
私は執事の妻。
夫と共謀し、毒を使い、主人をあの世へと送った。
そして、夫に主人の財産を渡してなるものかと考え、夫の目を盗んで、毒薬を祝杯のグラスに入れた。
「あの人、まさか私が裏切るなんて思っていないはずよ」
やはり妻の計画通り、執事は毒をあおり、亡き者となった。
やがて2人はまばゆい光の中、目覚めた。
「あ、お前……」
「あ、あなた……」
お互いのしたことを悟り、しばらく黙っていた2人だったが、沈黙が破られたのは、毒殺した主人が現れたからだった。
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「……ここはお前らの来る場所では無い!……殺人を犯した者が天国へ来れる訳が無いんだ!……とっとと消え失せろ!」
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「悪かったな……仲良くやろうや」
「私の方こそ、何、考えてたのかしら……またよろしくね」
そして、体を揺らしながら、楽しそうにダンスを始めたのだった。
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