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お互い様の指輪
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「あ、ごめんね!」
おっちょこちょいの彼女は今日もグラスを割った。
「いいよ、それよりケガはない?」
「うん、大丈夫…有難う!」
ん?
僕は割れたグラスを拾い、苦笑いした。
これ、よりによって、亡くなった高名なグラス職人が作ったものじゃないか…少しストレスを感じた。
「あ、ごめん!」
おっちょこちょいの彼は今日もお皿を割った。
「ううん、いいのよ…ケガはない?」
「おかげ様で大丈夫だよ…有難う!」
あら!
私は割れたお皿を拾い、ため息をついた。
これは、名工房の亡き職人さんの作品だわ…少しムカついた。
その後も2人はお互いの大切な物を壊しまくった。
その度ごとにお互い様の気持ちで許し合った。
何て美しい夫婦愛なんだろう…きっと、周りの人たちはそう思っただろう。
だが、2人は限界に近付いていた。
「あ、ごめんなさ…」
「あ、ごめ…」
2人はお互い、覚悟を決めていた。
次に何か壊したら…許さない!
彼は包丁で、彼女はナイフで相手を一突きした。
2人は折り重なるように倒れ、真っ赤な血が床に流れた。
彼らはそれぞれたまたま外した結婚指輪を落としたのだが、全く壊れてはいなかった。
まさに、やり直しの利かないフライングを犯してしまったのだ。
しかし、仲の良い夫婦が抱き合うようにして倒れているように見えてならなかった。
「この指輪、綺麗だね」
突然急逝した亡き有名指輪職人が作ったとされるきらびやかな指輪だ。
今日も若いカップルが見惚れている。
そして、宝石店の店主は言う。
「この指輪は、ギスギスした人間社会には最適な品でございます。相手を思いやるお互い様の気持ちを忘れてはいけないと、かの亡き世界屈指の職人〇〇が精魂込めて作った物で、結婚にふさわしい逸品です。死が2人を別つまでと言いますが、最後の最後まで添い遂げるためにも、ぜひこの指輪をはめてみて頂きたいのです。ただ、絶対に指輪を外してはいけません。理由は…あ、お買い上げ頂けるのですか、誠に有難うございます…改めて、指輪は決してお外しにならないよう、切に願っております」
指輪を外してはいけない理由を聞かないとは、熱々だな…ま、あれだけお互い、愛し合っているなら、今回は何も起こらない…ことを祈るとしよう。
店主は大きなため息をつき、代金をしまったが、少しニヤついた。
そして、不思議そうに考えていたが、やがて力強く頷いた。
「…あの指輪がいつも私の元に戻って来るのは代金を払わずに作った職人を殺めてしまったからだろうか?だとすると、私に対する怨念によるものかも知れないな…」
(*Prologueに投稿したものです)
おっちょこちょいの彼女は今日もグラスを割った。
「いいよ、それよりケガはない?」
「うん、大丈夫…有難う!」
ん?
僕は割れたグラスを拾い、苦笑いした。
これ、よりによって、亡くなった高名なグラス職人が作ったものじゃないか…少しストレスを感じた。
「あ、ごめん!」
おっちょこちょいの彼は今日もお皿を割った。
「ううん、いいのよ…ケガはない?」
「おかげ様で大丈夫だよ…有難う!」
あら!
私は割れたお皿を拾い、ため息をついた。
これは、名工房の亡き職人さんの作品だわ…少しムカついた。
その後も2人はお互いの大切な物を壊しまくった。
その度ごとにお互い様の気持ちで許し合った。
何て美しい夫婦愛なんだろう…きっと、周りの人たちはそう思っただろう。
だが、2人は限界に近付いていた。
「あ、ごめんなさ…」
「あ、ごめ…」
2人はお互い、覚悟を決めていた。
次に何か壊したら…許さない!
彼は包丁で、彼女はナイフで相手を一突きした。
2人は折り重なるように倒れ、真っ赤な血が床に流れた。
彼らはそれぞれたまたま外した結婚指輪を落としたのだが、全く壊れてはいなかった。
まさに、やり直しの利かないフライングを犯してしまったのだ。
しかし、仲の良い夫婦が抱き合うようにして倒れているように見えてならなかった。
「この指輪、綺麗だね」
突然急逝した亡き有名指輪職人が作ったとされるきらびやかな指輪だ。
今日も若いカップルが見惚れている。
そして、宝石店の店主は言う。
「この指輪は、ギスギスした人間社会には最適な品でございます。相手を思いやるお互い様の気持ちを忘れてはいけないと、かの亡き世界屈指の職人〇〇が精魂込めて作った物で、結婚にふさわしい逸品です。死が2人を別つまでと言いますが、最後の最後まで添い遂げるためにも、ぜひこの指輪をはめてみて頂きたいのです。ただ、絶対に指輪を外してはいけません。理由は…あ、お買い上げ頂けるのですか、誠に有難うございます…改めて、指輪は決してお外しにならないよう、切に願っております」
指輪を外してはいけない理由を聞かないとは、熱々だな…ま、あれだけお互い、愛し合っているなら、今回は何も起こらない…ことを祈るとしよう。
店主は大きなため息をつき、代金をしまったが、少しニヤついた。
そして、不思議そうに考えていたが、やがて力強く頷いた。
「…あの指輪がいつも私の元に戻って来るのは代金を払わずに作った職人を殺めてしまったからだろうか?だとすると、私に対する怨念によるものかも知れないな…」
(*Prologueに投稿したものです)
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