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お姉ちゃんはもう泣かない
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「…大丈夫?」
「うん、お姉ちゃん…だけど、泣いちゃ駄目だよ。あいつの思うツボだから」
お姉ちゃんは力無く頷いた…まん丸く大きい目のお姉ちゃんは笑うと愛くるしい垂れ目になり、特に彼氏といる時は絶品だ…ところが、そのお姉ちゃんを見つけた変態がいて、その変態はまず彼氏に近付いた。
彼氏がよく通う洒落たバーがたまたま従業員を募集していたので、バーテンダーの心得があった変態は採用され、お客の彼氏と打ち解け始めると、言葉巧みにお姉ちゃんのことを聞き出した。
お姉ちゃんは会社からの帰り道、変態にさらわれ、この暗いバーの地下室に閉じ込められたのだ…私も一緒に。
お姉ちゃんと買い物に行く予定だったので、お姉ちゃんの通う道を知っていた私は迎えに向かうと、変態がお姉ちゃんを軽バンに乗せようとしていて、走って近付いた私もお姉ちゃん同様、スタンガンによって気を失った。
だが、私は気絶する寸前、反射的に携帯から彼氏に電話を掛けていた。
私がお姉ちゃんともども車に押し込められた時に彼氏は電話に出て、変態はお姉ちゃんと私に気を取られていたため、彼氏が何度も電話越しに声を発していたことに気付かなかったようで、機転が利く彼氏は私に何かあったのだと思い、それからはつながったままの携帯の向こうから黙ってこちらの動きに注視していた。
ちなみに私の携帯は胸ポケットに入っていたが、変態はお姉ちゃんの体ばかり眺めていたので、私には注意を払わず、また、誘拐現場は周りに人家の無い場所だったので、好都合だったようだ。
変態は用意周到にお姉ちゃんをさらう計画を立てたので私の出現は想定外だったらしいが、セーラー服を着ていた高校生の私には興味を示さず、もっと年上の女性が好みのようだった。
また、変態はバーに私たちが連れて行かれたと彼氏が察したことに気付かなかった。
実はバー近くの道路脇で、いつも外人がギターを弾きながら歌っていたのを彼氏は知っていたので、携帯から聴こえて来た特徴のある外人の声でピンと来たようだった。
さて、私たちはバーに連れ込まれたのだが、ロープで体を巻かれたお姉ちゃんと私は目を覚まし、叫ぼうとしたが、口には猿ぐつわをされていた。
変態は、店長は最近体調が優れず、店を休んでいることや、数人のホステスには店長が治るまでは店を閉めると言ってあり、店長も了解していると自分から話した。
それから、私が何故変態と言っているのかだが、美人の涙でうまいカクテルを作るために誘拐したと知ったからだった…だから、変態はお姉ちゃんの体には興味は無く、目を見つめていたのだと分かった。
綺麗な目からは綺麗な涙が出るはずだ…変態は変態らしい持論を展開していたが、やがて、お姉ちゃんに、さぁ、泣け!と言って来た。
しかし、ここで泣いたら、涙を搾り取られ、殺されるかも知れない…。
すると、ガタンと音がした…変態は焦って音の方を振り返ると、油断して鍵を掛けていなかったドアを開けて、彼氏が駆け込んで来た。
大丈夫か?…彼氏はそう叫んで、無謀にも変態に飛びかかった…そして、すぐスタンガンのいけにえになり、倒れた。
変態は、1人で来るなんて、いい度胸だと言って、彼氏の体もロープで巻き、しかも柱に縛り付けた…男だから用心したのだろう。
変態は再びお姉ちゃんの方を向き、泣け!とわめき散らしたが、お姉ちゃんも泣いたら殺されると思ったのか、何とかこらえていた。
変態は今日は諦めたのか、綺麗で無くなるから顔や体に傷は付けないが、泣くまで帰さないぞと言って、出て行った…ご丁寧に変なところで律儀なのか、私や彼氏にも暴力を振るわなかった。
やがて彼氏は目を覚まし、お姉ちゃんと私に一部始終を話した訳だが、変態は一緒にしていてはまずいと思ったのか、その後、彼氏を別室に移した。
そして、お姉ちゃんが泣かずに数日経ち、猿ぐつわは解かれたが、疲労困憊していたため私とともに叫べないお姉ちゃんが力無く言ったのが、冒頭の言葉だ。
…しかし、泣かないお姉ちゃんに変態は非情にも最後の切り札を見せつけた…それは切断した彼氏の首だった。
お姉ちゃんはとうとう泣いた…力強く泣きわめいた後、彼氏を亡くした憎しみによる火事場の馬鹿力でロープをほどき、変態に突入し、押し倒した。
お姉ちゃんは私のロープを解き、そして…
「おい、変態!起きろ、こら!泣け!」
お姉ちゃんの罵声に圧倒され、変態が泣き出した直後、お姉ちゃんは変態が持っていたナイフを奪い、変態の目玉をえぐり出すと、泣き笑いながら足で踏みつぶした…私はゾッとしながらも、もらい泣きした。
そしてお姉ちゃんは愛おしそうに、彼氏の目もくり出して、食べてしまった…お姉ちゃんの頭がおかしくなったのも頷けた。
今、お姉ちゃんは精神病院にいるが、涙は一滴もこぼしていない…私はそんなお姉ちゃんを見て、人知れず泣いた。
(*Prologueに投稿したものです)
「うん、お姉ちゃん…だけど、泣いちゃ駄目だよ。あいつの思うツボだから」
お姉ちゃんは力無く頷いた…まん丸く大きい目のお姉ちゃんは笑うと愛くるしい垂れ目になり、特に彼氏といる時は絶品だ…ところが、そのお姉ちゃんを見つけた変態がいて、その変態はまず彼氏に近付いた。
彼氏がよく通う洒落たバーがたまたま従業員を募集していたので、バーテンダーの心得があった変態は採用され、お客の彼氏と打ち解け始めると、言葉巧みにお姉ちゃんのことを聞き出した。
お姉ちゃんは会社からの帰り道、変態にさらわれ、この暗いバーの地下室に閉じ込められたのだ…私も一緒に。
お姉ちゃんと買い物に行く予定だったので、お姉ちゃんの通う道を知っていた私は迎えに向かうと、変態がお姉ちゃんを軽バンに乗せようとしていて、走って近付いた私もお姉ちゃん同様、スタンガンによって気を失った。
だが、私は気絶する寸前、反射的に携帯から彼氏に電話を掛けていた。
私がお姉ちゃんともども車に押し込められた時に彼氏は電話に出て、変態はお姉ちゃんと私に気を取られていたため、彼氏が何度も電話越しに声を発していたことに気付かなかったようで、機転が利く彼氏は私に何かあったのだと思い、それからはつながったままの携帯の向こうから黙ってこちらの動きに注視していた。
ちなみに私の携帯は胸ポケットに入っていたが、変態はお姉ちゃんの体ばかり眺めていたので、私には注意を払わず、また、誘拐現場は周りに人家の無い場所だったので、好都合だったようだ。
変態は用意周到にお姉ちゃんをさらう計画を立てたので私の出現は想定外だったらしいが、セーラー服を着ていた高校生の私には興味を示さず、もっと年上の女性が好みのようだった。
また、変態はバーに私たちが連れて行かれたと彼氏が察したことに気付かなかった。
実はバー近くの道路脇で、いつも外人がギターを弾きながら歌っていたのを彼氏は知っていたので、携帯から聴こえて来た特徴のある外人の声でピンと来たようだった。
さて、私たちはバーに連れ込まれたのだが、ロープで体を巻かれたお姉ちゃんと私は目を覚まし、叫ぼうとしたが、口には猿ぐつわをされていた。
変態は、店長は最近体調が優れず、店を休んでいることや、数人のホステスには店長が治るまでは店を閉めると言ってあり、店長も了解していると自分から話した。
それから、私が何故変態と言っているのかだが、美人の涙でうまいカクテルを作るために誘拐したと知ったからだった…だから、変態はお姉ちゃんの体には興味は無く、目を見つめていたのだと分かった。
綺麗な目からは綺麗な涙が出るはずだ…変態は変態らしい持論を展開していたが、やがて、お姉ちゃんに、さぁ、泣け!と言って来た。
しかし、ここで泣いたら、涙を搾り取られ、殺されるかも知れない…。
すると、ガタンと音がした…変態は焦って音の方を振り返ると、油断して鍵を掛けていなかったドアを開けて、彼氏が駆け込んで来た。
大丈夫か?…彼氏はそう叫んで、無謀にも変態に飛びかかった…そして、すぐスタンガンのいけにえになり、倒れた。
変態は、1人で来るなんて、いい度胸だと言って、彼氏の体もロープで巻き、しかも柱に縛り付けた…男だから用心したのだろう。
変態は再びお姉ちゃんの方を向き、泣け!とわめき散らしたが、お姉ちゃんも泣いたら殺されると思ったのか、何とかこらえていた。
変態は今日は諦めたのか、綺麗で無くなるから顔や体に傷は付けないが、泣くまで帰さないぞと言って、出て行った…ご丁寧に変なところで律儀なのか、私や彼氏にも暴力を振るわなかった。
やがて彼氏は目を覚まし、お姉ちゃんと私に一部始終を話した訳だが、変態は一緒にしていてはまずいと思ったのか、その後、彼氏を別室に移した。
そして、お姉ちゃんが泣かずに数日経ち、猿ぐつわは解かれたが、疲労困憊していたため私とともに叫べないお姉ちゃんが力無く言ったのが、冒頭の言葉だ。
…しかし、泣かないお姉ちゃんに変態は非情にも最後の切り札を見せつけた…それは切断した彼氏の首だった。
お姉ちゃんはとうとう泣いた…力強く泣きわめいた後、彼氏を亡くした憎しみによる火事場の馬鹿力でロープをほどき、変態に突入し、押し倒した。
お姉ちゃんは私のロープを解き、そして…
「おい、変態!起きろ、こら!泣け!」
お姉ちゃんの罵声に圧倒され、変態が泣き出した直後、お姉ちゃんは変態が持っていたナイフを奪い、変態の目玉をえぐり出すと、泣き笑いながら足で踏みつぶした…私はゾッとしながらも、もらい泣きした。
そしてお姉ちゃんは愛おしそうに、彼氏の目もくり出して、食べてしまった…お姉ちゃんの頭がおかしくなったのも頷けた。
今、お姉ちゃんは精神病院にいるが、涙は一滴もこぼしていない…私はそんなお姉ちゃんを見て、人知れず泣いた。
(*Prologueに投稿したものです)
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