田中角栄氏に倣おう!

キタさん

文字の大きさ
上 下
18 / 18

超子、長男の力になる

しおりを挟む
「全くさ、あいつったら、僕のことばかり、文句言いやがるの…他の奴らが適当にやってたりしても黙っているくせにさ…ママ、どう思う?」

小学生ともなれば、周りとのコミュニケーションに神経を尖らせることもあるはずだが、サッカーを頑張っており、日焼けをしている長男の言葉は汚く感じられたので、自身のポニーテールの髪を軽く触ると、超子は慎重に言った。

「何があったか知らないけど、そんなにあなたに突っかかって来る子がいるのね…じゃあ、いっそのこと、その子と話してみたら?やっぱり実際に話してみないと分からないことってあるわよ」

長男は母親の言葉に対して、半ば呆れたように答えた。

「…言葉足らずでごめん…話して分かるくらいなら、とっくに話してるよ。僕の言うことなんか耳を貸さないんだよ。そのくせ、他の奴らには良い顔しちゃってさ、困っちゃうんだよなぁ…」

この後も同じ話を繰り返すと読んだ居間のソファに座っていた超子は、目の前のソファに腰掛けた長男が持っていたサッカーボールをこっちに投げてみてと言う動作をすると、長男は一瞬、首を傾げたが、すぐにボールが飛んで来た。

少し強い力のボールを受け止め、超子はボールを抱えながら、再び口を開いた。

「…つまりは会話が成り立ってないんでしょ?どちらがどうとかは言わないけど、会話を成り立たせないと話は進まないわよね…このサッカーボールにしても、ママが受け止めなければ、後ろの置物にぶつかっていたように、会話も受け止めないとうまくいかないわよね…よく言うキャッチボールみたいなものよ。お互いが受け止め合わずに一方的に投げてばかりいちゃ、メチャクチャになるだけで、何にもならない…サッカーだって同じよね。1人で蹴ってばかりいても、得点はなかなか入らないけど、仲間とチームワークを組むからこそ、上手く行くことは多いはず…でもね、ちょっと気になったんだけど、その男子生徒、あなたのサッカーのライバルとかじゃないの?だから、あなたに闘志を燃やしてるとかなのかな?」

すると長男はゲラゲラと笑い、唖然としている超子の顔をしっかりと見つめたが、直後、表情は真面目なものに戻っていた。

「…ママ、その子は女子なんだよ。ま、だから余計に気持ちが読めないんだけどね…」

そう言ってから、また困った顔になった長男を見つつ、超子は言葉を選びながら考えを表した。

「…そっか、じゃあ、女の私からの意見を言わせて貰うけどね、もしかしたら、その子、あなたに気があるんじゃないかしら?」

長男は、ハァ?と言う様相で超子の言ったことを噛み砕いていたが、やがてみるみるうちに顔が赤くなった。

「…そ、そんなことないよ。あいつはね、周りの皆んなが好きで、僕のことなんか眼中に無いのさ。だから、僕の言うことを聞かない…何度も同じことを言わせないでよ!」

超子には照れていることが一目瞭然であったが、教師と言う職業柄か、証拠も無いのに、自分は好かれているかも知れないとの実感がわかない長男の気持ちも手に取るように読めた。

超子は考えながら言った。

「よく好きな子にわざと冷たくする子がいる話を聞くけど、とにかくその子の気持ちが分からない限り、やっぱり話は進まないわよね。じゃあね、こうしてみてはどうかしら?」

あるアドバイスをすると、目を輝かしながら、超子の顔をしっかりと見据え、大きく頷く長男の姿がそこにあった。


「ママー!ママー!」

日曜日、長男は大声で叫びながら、スマホ片手に居間でテレビを観ていた超子のところにやって来た。

超子は驚きながらも、何か進展があったわねと期待した。

「…さっきさ、例の子からメールが来てね。僕と付き合ってもいいってさ」

そう言って、ガッツポーズを取った長男を見て、超子は良かったわね、今日はお赤飯かなとニコニコ笑いながら言うと、真っ赤な表情になって長男は断った。


超子の助言は見事、功を奏した。

それは、女の子にアレコレと聞くよりは、周りの人間の声を拾ってみるのはどう?と言うものだった。

長男はなるほどと思い、周囲のあらゆる男女に尋ねまくり、実は女の子が自分のことを好きだとの確信を持ったのだった。

「…あら、と言うことは、あなたもその子のことを好きだったのね?」

しかし、母親の言葉に返事をせず、スタスタと足早に自室に姿を消した長男を微笑ましく見つめる超子は、亡き夫とのことを思い出し、顔を赤らめたのだった。


「決断力は、情報力によって支えられる。単なる直感だけでは、見通しを誤る」との田中氏の言葉を基にして、書かせて頂きました。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

アイドルの染み

カルラ アンジェリ
大衆娯楽
アイドルの少女が寝起きドッキリでおねしょしてしまい、それが全国に中継されるというハプニングに見舞われる話

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

恥ずかしすぎる教室おねしょ

カルラ アンジェリ
大衆娯楽
女子中学生の松本彩花(まつもと あやか)は授業中に居眠りしておねしょしてしまう そのことに混乱した彼女とフォローする友人のストーリー

処理中です...