田中角栄氏に倣おう!

キタさん

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超子、長男の力になる

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「全くさ、あいつったら、僕のことばかり、文句言いやがるの…他の奴らが適当にやってたりしても黙っているくせにさ…ママ、どう思う?」

小学生ともなれば、周りとのコミュニケーションに神経を尖らせることもあるはずだが、サッカーを頑張っており、日焼けをしている長男の言葉は汚く感じられたので、自身のポニーテールの髪を軽く触ると、超子は慎重に言った。

「何があったか知らないけど、そんなにあなたに突っかかって来る子がいるのね…じゃあ、いっそのこと、その子と話してみたら?やっぱり実際に話してみないと分からないことってあるわよ」

長男は母親の言葉に対して、半ば呆れたように答えた。

「…言葉足らずでごめん…話して分かるくらいなら、とっくに話してるよ。僕の言うことなんか耳を貸さないんだよ。そのくせ、他の奴らには良い顔しちゃってさ、困っちゃうんだよなぁ…」

この後も同じ話を繰り返すと読んだ居間のソファに座っていた超子は、目の前のソファに腰掛けた長男が持っていたサッカーボールをこっちに投げてみてと言う動作をすると、長男は一瞬、首を傾げたが、すぐにボールが飛んで来た。

少し強い力のボールを受け止め、超子はボールを抱えながら、再び口を開いた。

「…つまりは会話が成り立ってないんでしょ?どちらがどうとかは言わないけど、会話を成り立たせないと話は進まないわよね…このサッカーボールにしても、ママが受け止めなければ、後ろの置物にぶつかっていたように、会話も受け止めないとうまくいかないわよね…よく言うキャッチボールみたいなものよ。お互いが受け止め合わずに一方的に投げてばかりいちゃ、メチャクチャになるだけで、何にもならない…サッカーだって同じよね。1人で蹴ってばかりいても、得点はなかなか入らないけど、仲間とチームワークを組むからこそ、上手く行くことは多いはず…でもね、ちょっと気になったんだけど、その男子生徒、あなたのサッカーのライバルとかじゃないの?だから、あなたに闘志を燃やしてるとかなのかな?」

すると長男はゲラゲラと笑い、唖然としている超子の顔をしっかりと見つめたが、直後、表情は真面目なものに戻っていた。

「…ママ、その子は女子なんだよ。ま、だから余計に気持ちが読めないんだけどね…」

そう言ってから、また困った顔になった長男を見つつ、超子は言葉を選びながら考えを表した。

「…そっか、じゃあ、女の私からの意見を言わせて貰うけどね、もしかしたら、その子、あなたに気があるんじゃないかしら?」

長男は、ハァ?と言う様相で超子の言ったことを噛み砕いていたが、やがてみるみるうちに顔が赤くなった。

「…そ、そんなことないよ。あいつはね、周りの皆んなが好きで、僕のことなんか眼中に無いのさ。だから、僕の言うことを聞かない…何度も同じことを言わせないでよ!」

超子には照れていることが一目瞭然であったが、教師と言う職業柄か、証拠も無いのに、自分は好かれているかも知れないとの実感がわかない長男の気持ちも手に取るように読めた。

超子は考えながら言った。

「よく好きな子にわざと冷たくする子がいる話を聞くけど、とにかくその子の気持ちが分からない限り、やっぱり話は進まないわよね。じゃあね、こうしてみてはどうかしら?」

あるアドバイスをすると、目を輝かしながら、超子の顔をしっかりと見据え、大きく頷く長男の姿がそこにあった。


「ママー!ママー!」

日曜日、長男は大声で叫びながら、スマホ片手に居間でテレビを観ていた超子のところにやって来た。

超子は驚きながらも、何か進展があったわねと期待した。

「…さっきさ、例の子からメールが来てね。僕と付き合ってもいいってさ」

そう言って、ガッツポーズを取った長男を見て、超子は良かったわね、今日はお赤飯かなとニコニコ笑いながら言うと、真っ赤な表情になって長男は断った。


超子の助言は見事、功を奏した。

それは、女の子にアレコレと聞くよりは、周りの人間の声を拾ってみるのはどう?と言うものだった。

長男はなるほどと思い、周囲のあらゆる男女に尋ねまくり、実は女の子が自分のことを好きだとの確信を持ったのだった。

「…あら、と言うことは、あなたもその子のことを好きだったのね?」

しかし、母親の言葉に返事をせず、スタスタと足早に自室に姿を消した長男を微笑ましく見つめる超子は、亡き夫とのことを思い出し、顔を赤らめたのだった。


「決断力は、情報力によって支えられる。単なる直感だけでは、見通しを誤る」との田中氏の言葉を基にして、書かせて頂きました。
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