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譲り合い
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私が一浪の末、大学受験に合格した時のことだ。
電車で志望校の発表を見に行き、自分の名前を確認し、有頂天になった私は予備校でお世話になったチューター(学習アドバイザー)に報告に行こうと再び電車に乗った。
車内にはそこそこ乗客が乗っていたが、何とか座れ、私の横にはサラリーマンらしき中年男性が2人おり、話していた。
あぁ、努力が報われた…私はずっとウキウキしていた。
今なら空を飛べるかも知れない。
きっと電車より速く走れるに違いない。
何て幸せ者なのだ…何度も繰り返し見たが、確かに私の名前はあった。
実を言うと、私は夏休みくらいまで遊び呆けていたが、このままではいけないと奮い立ち、友人と会うことはもとより、テレビを観ることも全く無く、勉強に取り組んだ。
得意科目だった国語の現代文や政治経済にも手を付けたが、苦手だった国語の古文や英語も克服しなければならず、さてどうしたものかと悩んだ。
そして、英語は長文読解に取り掛かるのは遅いと考え、英文法に絞ろうと決め、予備校の講師が教えてくれたものをノートに記しては、何度も繰り返し書いて覚えていき、古文も文法中心に学んでいった。
やがて、頭に入ってくると、覚えるのが楽しくなり、勉強が苦で無くなってきた。
これは良い傾向だと思い、また、予備校の模試もまずまずの成績をとれるようになってくると、さらにおもしろく感じた。
チューターと相談するうちに、当初、無謀だと思っていた学校が視野に入ってきて、私は俄然張り切った。
年を越すと、ラストスパートとなり、気合いを入れ、最終的なチューターとのやり取りでも、ぜひ入学したい学校を選択することができた。
いざ出陣だ!
私は頑張って、第一志望校も含め、5校、受けた。
とにかく勉強した分を出し切ったと思う。
しかし、結果は惨憺たるものだった。
発表を見に行くと、名前が無い…無い、無い…無い!
立て続けに4校落ちたので、第一志望であった5校目も無理なのでは…と思い、夜間の部や専門学校も受けた。
そして、5回目の発表当日、私はほとんど期待せずに見に行った。
ん?あった!
嘘でしょ!
私は目を疑ったが、間違いなく私の名前を読み取れた。
嬉しくなり、私は飛び上がった。
…ときて、お話は初めに戻る。
私はチューターに報告に向かうため、電車に乗り、心の中は浮かれ放題だった。
そんな中、気付くと目の前に女性の姿があった。
席は埋まっており、さり気なく見上げると、妊婦さんだった。
おっ、これは譲らないと…そう思い、立ち上がった瞬間、隣に座っていたサラリーマンのかたがたもほぼ同時に席を立った。
思わず顔を見合わせた。
私は軽く笑うと、妊婦さんにどうぞ!と促した。
しかし、負けじとサラリーマン諸氏も譲らない…あ、席じゃなくて、席を譲ることを譲ろうとしなかった。
だが、そこは私の若い力を全面に出した。
しかも電車から飛び降りても平気みたいな心持ちだったので、全力を出し切った。
さすがにサラリーマンの面々は私の迫力に圧倒されたのか、私に一任させてくれた。
私は心置きなく席を譲ると、妊婦さんもサラリーマンのお2人も笑みを浮かべていた。
いやー、譲り合いとはこういうことも言うのだなと思い、私はより嬉しくなっただけで無く、私が不合格だった大学の分は合格した人たちに譲ったのだなどと図々しいことさえ頭に浮かんだ。
だから、気付くと誤った方向の電車に乗ってしまっていたことすらも心踊るものとなっていた。
電車で志望校の発表を見に行き、自分の名前を確認し、有頂天になった私は予備校でお世話になったチューター(学習アドバイザー)に報告に行こうと再び電車に乗った。
車内にはそこそこ乗客が乗っていたが、何とか座れ、私の横にはサラリーマンらしき中年男性が2人おり、話していた。
あぁ、努力が報われた…私はずっとウキウキしていた。
今なら空を飛べるかも知れない。
きっと電車より速く走れるに違いない。
何て幸せ者なのだ…何度も繰り返し見たが、確かに私の名前はあった。
実を言うと、私は夏休みくらいまで遊び呆けていたが、このままではいけないと奮い立ち、友人と会うことはもとより、テレビを観ることも全く無く、勉強に取り組んだ。
得意科目だった国語の現代文や政治経済にも手を付けたが、苦手だった国語の古文や英語も克服しなければならず、さてどうしたものかと悩んだ。
そして、英語は長文読解に取り掛かるのは遅いと考え、英文法に絞ろうと決め、予備校の講師が教えてくれたものをノートに記しては、何度も繰り返し書いて覚えていき、古文も文法中心に学んでいった。
やがて、頭に入ってくると、覚えるのが楽しくなり、勉強が苦で無くなってきた。
これは良い傾向だと思い、また、予備校の模試もまずまずの成績をとれるようになってくると、さらにおもしろく感じた。
チューターと相談するうちに、当初、無謀だと思っていた学校が視野に入ってきて、私は俄然張り切った。
年を越すと、ラストスパートとなり、気合いを入れ、最終的なチューターとのやり取りでも、ぜひ入学したい学校を選択することができた。
いざ出陣だ!
私は頑張って、第一志望校も含め、5校、受けた。
とにかく勉強した分を出し切ったと思う。
しかし、結果は惨憺たるものだった。
発表を見に行くと、名前が無い…無い、無い…無い!
立て続けに4校落ちたので、第一志望であった5校目も無理なのでは…と思い、夜間の部や専門学校も受けた。
そして、5回目の発表当日、私はほとんど期待せずに見に行った。
ん?あった!
嘘でしょ!
私は目を疑ったが、間違いなく私の名前を読み取れた。
嬉しくなり、私は飛び上がった。
…ときて、お話は初めに戻る。
私はチューターに報告に向かうため、電車に乗り、心の中は浮かれ放題だった。
そんな中、気付くと目の前に女性の姿があった。
席は埋まっており、さり気なく見上げると、妊婦さんだった。
おっ、これは譲らないと…そう思い、立ち上がった瞬間、隣に座っていたサラリーマンのかたがたもほぼ同時に席を立った。
思わず顔を見合わせた。
私は軽く笑うと、妊婦さんにどうぞ!と促した。
しかし、負けじとサラリーマン諸氏も譲らない…あ、席じゃなくて、席を譲ることを譲ろうとしなかった。
だが、そこは私の若い力を全面に出した。
しかも電車から飛び降りても平気みたいな心持ちだったので、全力を出し切った。
さすがにサラリーマンの面々は私の迫力に圧倒されたのか、私に一任させてくれた。
私は心置きなく席を譲ると、妊婦さんもサラリーマンのお2人も笑みを浮かべていた。
いやー、譲り合いとはこういうことも言うのだなと思い、私はより嬉しくなっただけで無く、私が不合格だった大学の分は合格した人たちに譲ったのだなどと図々しいことさえ頭に浮かんだ。
だから、気付くと誤った方向の電車に乗ってしまっていたことすらも心踊るものとなっていた。
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