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ちょっと良い話
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私には女子高以来からの親友がいる。
彼女は私の自宅から電車で2時間半ほど離れた場所に住んでいるので、なかなかすぐには会えなかったが、お互い、駅から徒歩3分程の所に住まいがあり、移動には便利だった。
彼女も私も1人暮らしであったが、やはり2人とも両親が亡くなっており、親から受け継いだ持ち家に住んでいた。
今日は、彼女の最寄駅から歩いて数分のファミレスで、払っている固定資産税がいくらだとか、最近の恋愛事情とか、最近観た映画の内容など、尽きることの無い会話を楽しんでいた。
そんな中、彼女がポツリと言った。
「…私、最近、仕事でミスしちゃってさ、普通なら上司から大目玉を喰らうところだったんだけど、その上司がね、言ったのよ…「昨日、女房に頼まれた買い物を忘れて帰ったところ、何も言われなかったので、謝ったら、「いつも買って来てくれて、有難う…あなたが忘れたのは初めてよね。人って、当たり前になってしまうと、感謝の気持ちを忘れそうになりがちだけど、今日はあなたが買い忘れてくれたおかげで私は忘れかけていた感謝の気持ちを思い起こしたの…どうも有難う」って、言葉が返ってきたんだ」って。それで、「よくよく考えてみたら、いつもはそつなく仕事をこなす君が珍しくミスしたので、今までが当然と思っていたのは間違いだった、許して欲しい」なんて、謝られたのよ。私、びっくりしちゃってさ…でも、そう言えば、私も死んだ両親に感謝していなかったなって考えさせられてね。帰って、仏壇にお線香をあげて、お父さん、旅行に連れて行ってくれて、有難う、お母さん、いつも美味しいお弁当、作ってくれたよね、有難ねって伝えたら、胸がスッとして、心が洗われた気がしたわ。やっぱり感謝の気持ちって大切なんだなって、身に染みたのよ。それでさ…」
彼女は私をじっと見た。
「…あなたにも色々と相談に乗って貰ったりして、本当、助かってるわ。いつも有難う!」
私は急に他人行儀になった彼女に少し拍子抜けしたが、じわじわと彼女の言葉が心に染み渡ってきた。
そうか、確かに普段から慣れていることだと有難いと思わないかも知れない…しかし、それではいけない、決して当たり前のことでは無いのだから…目からうろことはこのことだと思った。
私は大きく頷いた。
「…親しき仲にも礼儀ありと言うし、私もあなたには助けられてるよ…どうも有難う!これからもよろしくね!」
彼女はニッコリと笑い、私もつられて微笑んだ。
感謝の相乗効果とはこのことだなと私は思い、忘れちゃいけないなと強く感じた。
やがて、そろそろ帰ろうかとなり、彼女は駅まで送ってくれて、私は改札口で手を振ると、またねーと元気良く声を掛けてくれた。
私は楽しい余韻に浸りながら、電車を待っていると、ヤンキーっぽいお父さんを先頭にした家族連れが近くにやって来た。
何だか怖そうだなと思っていると、電車がホームに滑り込んで来た。
車内はそこそこ混んでいて、そそくさと乗り込むと、先のお父さんはベビーカーを押しながら、入って来た。
そして、私の横に陣取った一行はベビーカーを囲んで、赤ちゃんを時折見つめながら、楽しげに会話していた。
そんな中、私の乗り換え駅に着いたので、扉に向かおうとすると、服屋で買ったジーンズを入れておいた紙袋を床に落としてしまい、急いで拾おうとしたところ、ヤンキーお父さんが素早く手に取り、差し出してくれた。
「…どうも有難うございます!」
頭を下げ、お礼を言うと、お父さんは笑顔で首を振り、「…いえいえ、汚れなくて良かったですね」と優しい声で応えてくれた。
私は恥ずかしくなった。
ヤンキーに見えたお父さんはむしろ紳士に思える程の丁寧で穏やかな人物だった。
人は見かけによらぬものと言うが、失礼ながら、そうだと感じた。
ん、では、私は他の人から見ると、どのように映っているのだろうか?…親友に聞いてみたくなった。
私は軽やかな足取りで電車を降り、鼻歌を歌いつつ、ホームを歩いて行った。
彼女は私の自宅から電車で2時間半ほど離れた場所に住んでいるので、なかなかすぐには会えなかったが、お互い、駅から徒歩3分程の所に住まいがあり、移動には便利だった。
彼女も私も1人暮らしであったが、やはり2人とも両親が亡くなっており、親から受け継いだ持ち家に住んでいた。
今日は、彼女の最寄駅から歩いて数分のファミレスで、払っている固定資産税がいくらだとか、最近の恋愛事情とか、最近観た映画の内容など、尽きることの無い会話を楽しんでいた。
そんな中、彼女がポツリと言った。
「…私、最近、仕事でミスしちゃってさ、普通なら上司から大目玉を喰らうところだったんだけど、その上司がね、言ったのよ…「昨日、女房に頼まれた買い物を忘れて帰ったところ、何も言われなかったので、謝ったら、「いつも買って来てくれて、有難う…あなたが忘れたのは初めてよね。人って、当たり前になってしまうと、感謝の気持ちを忘れそうになりがちだけど、今日はあなたが買い忘れてくれたおかげで私は忘れかけていた感謝の気持ちを思い起こしたの…どうも有難う」って、言葉が返ってきたんだ」って。それで、「よくよく考えてみたら、いつもはそつなく仕事をこなす君が珍しくミスしたので、今までが当然と思っていたのは間違いだった、許して欲しい」なんて、謝られたのよ。私、びっくりしちゃってさ…でも、そう言えば、私も死んだ両親に感謝していなかったなって考えさせられてね。帰って、仏壇にお線香をあげて、お父さん、旅行に連れて行ってくれて、有難う、お母さん、いつも美味しいお弁当、作ってくれたよね、有難ねって伝えたら、胸がスッとして、心が洗われた気がしたわ。やっぱり感謝の気持ちって大切なんだなって、身に染みたのよ。それでさ…」
彼女は私をじっと見た。
「…あなたにも色々と相談に乗って貰ったりして、本当、助かってるわ。いつも有難う!」
私は急に他人行儀になった彼女に少し拍子抜けしたが、じわじわと彼女の言葉が心に染み渡ってきた。
そうか、確かに普段から慣れていることだと有難いと思わないかも知れない…しかし、それではいけない、決して当たり前のことでは無いのだから…目からうろことはこのことだと思った。
私は大きく頷いた。
「…親しき仲にも礼儀ありと言うし、私もあなたには助けられてるよ…どうも有難う!これからもよろしくね!」
彼女はニッコリと笑い、私もつられて微笑んだ。
感謝の相乗効果とはこのことだなと私は思い、忘れちゃいけないなと強く感じた。
やがて、そろそろ帰ろうかとなり、彼女は駅まで送ってくれて、私は改札口で手を振ると、またねーと元気良く声を掛けてくれた。
私は楽しい余韻に浸りながら、電車を待っていると、ヤンキーっぽいお父さんを先頭にした家族連れが近くにやって来た。
何だか怖そうだなと思っていると、電車がホームに滑り込んで来た。
車内はそこそこ混んでいて、そそくさと乗り込むと、先のお父さんはベビーカーを押しながら、入って来た。
そして、私の横に陣取った一行はベビーカーを囲んで、赤ちゃんを時折見つめながら、楽しげに会話していた。
そんな中、私の乗り換え駅に着いたので、扉に向かおうとすると、服屋で買ったジーンズを入れておいた紙袋を床に落としてしまい、急いで拾おうとしたところ、ヤンキーお父さんが素早く手に取り、差し出してくれた。
「…どうも有難うございます!」
頭を下げ、お礼を言うと、お父さんは笑顔で首を振り、「…いえいえ、汚れなくて良かったですね」と優しい声で応えてくれた。
私は恥ずかしくなった。
ヤンキーに見えたお父さんはむしろ紳士に思える程の丁寧で穏やかな人物だった。
人は見かけによらぬものと言うが、失礼ながら、そうだと感じた。
ん、では、私は他の人から見ると、どのように映っているのだろうか?…親友に聞いてみたくなった。
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