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三人の精霊とバルティカ戦線の書

アルカナ・ナイツ

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バルティカの壁、要塞内部の兵士控え室。
静まり返りほとんどの兵士が体力を消耗し寝ている。聞こえるのは外の魔物の声と魔法による爆発音のみである。

「あっ、今邪悪な魔力が消えたーー」

「邪悪な魔力? 最前線だから魔物は沢山いるからな」

「そうじゃないわ。とんでもなく巨大で邪悪な魔力よ。それを更に巨大な魔力が倒したわ」

「ーーって、事はこちら側にそんな凄い兵士がいるってことか?」

バッツとミモザの会話を聞いていた兵士が口を挟む。

「その通り、円卓の魔道士のロビンとライラだよ」

「円卓の魔道士・・・」

バッツが眉間にシワを寄せた。

「さっきの邪悪な魔力の正体は?」

ミモザが兵士に尋ねる。

「ああ、セントラルコントロールの話では邪竜バジリスクって情報がきてるよ」

「竜?」

「そうだ。 ここは竜の住処であるエドナ山脈の真ん前で度々、竜と交戦しているんだ。しかし、これほどの有名な竜が出現したのは初めてだ」

「バッツ・・・」

ミモザがバッツに視線を送る。

「そういう事か。レーベンハートさんがここへ俺を送り込んだ意味が分かったぜ」

「ここに居ればいずれ現れるかもな」

黙っていたウィリアムスが口を挟む。

「珍しくやる気が出たんじゃねえか?ウィリー」

「当然だろ。何のために今まで能力を磨きバンディッツに所属して実践経験を積んできたと思ってるんだ」

「まさか、バルティカ戦線に竜が出現してるなんて知らなかった」

眼鏡をかけた普段無口な少年が口を開いた。

「ああ、おそらくレーベンハートさんは知っていたが今日まで隠していたんじゃないか?こちらの事情は知ってるからな」

「バッツは知っていたらすぐにでもここに乗り込んで来ただろうからね」

ミモザが悪戯っぽくバッツを茶化す。

「まあな!確実に来ただろうな」

バッツもそれに乗っかり笑う。ーーが、

「ーーだけど、犬死だろうな。今なら分かるよ。己の弱さも相手の強さとかさ」

「ーーで、どーなのよ。今なら竜にも勝てるの?」

「当たり前だろ? 俺たち六人いれば例え竜だろーが負けねーよ!!」

六人は互いに顔を見合わせて頷く。

「俺たち【アルカナ・ナイツ】は無敵だ!」

六人は円陣を組み天に向け人差し指を掲げた。

「・・・ダサくない? このポーズ」

「ーーーー」


☆ 


アルカナ・ナイツと名付けた少年少女騎士団。六人の男女で構成されている。メンバー全員が反帝国軍バンディッツに所属している。リーダーのバッツを中心とした特異能力者の集まりだ。最年長はバッツとウィリアムスが十八歳。ミモザと眼鏡をかけた無口な少年のアスベルが十七歳。リリーが十六歳で最年少の十四歳がフルール。大人しくみんなの後を後ろから付いてくる女の子。

このメンバーは全員同じ国出身の幼なじみである。その為、チームワークや結束力は堅い。更にそれ以上に堅い絆で結ばれていた。

「ミモザ、まだ竜は出現してないのか?」

「ええ、まだ巨大な魔力を感じないわ」

「出現したら教えてくれよ」

「任せてよ」

ミモザの特異能力は、【空間把握能力】に長けている。ある一定範囲内のどこに誰がいるのかを正確に判断することができ、更に魔力値を把握出来るのだ。戦場では最強の観測者なのだ。

「そー言えばバッツ、さっきの円卓の魔道士の一人は俺らと同い年位らしいぜ」

ウィリアムスが椅子に寝転びながら話す。

「あ?マジかよ。どんな奴なんだ?」

その時ーー休憩室の扉が開いた。全員の視線が扉に集まる。

「バッツ、多分彼よ。魔力の雰囲気が一緒よ」

ミモザが小声でバッツの耳元で囁く。

「あのチビが円卓の魔道士?」

「ば、馬鹿!! 声がデカイわよ」

ロビンの耳にバッツとミモザの喋り声が届く。

「あん? 誰がチビだって? 見慣れない餓鬼どもが」

ロビンがバッツに鋭い眼光を利かす。

「お前も餓鬼だろーがよ!」

「っんだと! 」

二人は歩み寄り睨み合う。

「ちょっ、ちょっと辞めなさいよ」

ミモザはあたふたしながら二人を何とか止めようと仲裁に入る。

「ウィリー何とか言ってよ」

ウィリアムスは知らん顔しているが口がピクピク動いていかにも笑い出しそうだった。

それを見ていたリリー、アスベル、フルールは訳が分からず不思議な顔をしていた。

相変わらず二人は顔を近づけ睨み合いをしている。

「もー、辞めなさいよバッツ」

バッツの服を引っ張るミモザ。さすがに可哀想になりウィリアムスが声をかけた。

「バッツ、ロビンそれくらいにしてやれよ!ミモザが困ってるぜ」

バッツ、ロビンは笑顔になり大笑いした。

「援軍呼んだら餓鬼が来たって騒いでたから誰が来たのかと思ったらお前かよ!」

「スゲー魔道士がいるって聞いたから誰かと思ったらお前かよ!」

二人はハイタッチしながらそのまま硬く手を握った。

「久しぶりだなバッツ」

「ああ、久しぶりだなロビン」

二人は万遍の笑みを浮かべた。

「え? え? どーゆー事」

ミモザは何が何だか訳が分からないでいた。




「ここはどこなの?」

バルティカが一望出来る高台の上に小さな茶色に輝く精霊が隣にいる狐目の男に尋ねた。

「北の国、バルティカ共和国だよ」

「凄い数の魔物の群れだね。これじゃ人間は勝てないんじゃない?ヴィルが手伝うの?」

「まさか、私が手伝う義理は無いしバルティカと帝国は敵対国にあるんだ。手助けしたら反逆罪で私は捕まってしまうよ」

ヴィルは苦笑いを浮かべて肩を窄めて見せた。

「ーーなら、何でこんな場所に? 少し肌寒いね」

ミリアは小さくなり肩を震わせた。精霊は寒さに弱いと言われているので最北端にあるバルティカは寒冷地なので無理もない。

「ミリア、こっちへ」

ヴィルはマントをひるがえし自分の懐にミリアを招き入れる。

「ありがとうヴィル。暖かいよ」

ミリアの笑顔を見つめヴィルはその言葉に細い目を更に細めた。

ヴィルとミリアが戦場での戦いを見ていると後ろで気配を感じた。ーー振り返るヴィル。

そこには、一人の女性が無表情で立っていた。見た目はごく普通の成人女性だがヴィルとミリア二人にはいくつか違和感を感じた。

「いつからどうやってそこに居た?私が気配を感知できないとは・・・」

「ヴィル・・・この人普通の人間とは少し違うよ」

二人は相手に聞こえないよう小声で話す。

「違う?どう違うのだ」

「何て言うか・・・人間の形をしているけど中身は違うみたいな感じ」

「ーー中身は?」

ミリアに尋ねた時、女性はゆっくりとヴィルとミリアに近づいてきた。

ヴィルは相手の出方次第では戦闘も覚悟しようと思っていたがヴィルとミリアを無視して戦場を見つめていた。

「こんなくだらない争いがいつまで続くのかしら」

女性は独り言をまるでヴィルとミリアに聞いてほしいかのように言い放った。

「あなたは本当に人間?」

ヴィルの懐からミリアが飛び出し女性に尋ねた。

女性は、少し驚いた表情を見せたがヴィルとミリアの顔を眺めた後また戦場を見つめながら口を開いた。

「あなた達には嘘偽りは通じなさそうね。私は人間ではなく竜よ」

ヴィルはその言葉に口元を緩める。ミリアはその反応を見逃さなかった。

「竜ですか・・・何で人間の姿を?」

「話せば長くなるのですが、人間に恋をしてしまい竜を辞めたのです」

女性は、空を見上げ、

「主人は私の正体を知った上で愛し結婚してくれました。本当に幸せな日々でした」

「じゃあ何でここに?」

「この戦争を止めに決めにきました」

「どうやって止めんだ?」

女性は振り返ると全身が光に包まれ笑顔を浮かべた。ーーすると、

体の大きさはそのままだが白い竜の姿に形を変えた。

その姿は、美しく見ている者を惹き付ける神秘的なオーラを秘めていた。


「私の名はエキドナ、神竜です」


ーー     神竜再び  ーー
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