上 下
72 / 216
三人の精霊と悪魔教団の書・魔導武闘会編

アヴァロン王国到着

しおりを挟む

アヴァロン王国の城下町の人々は誰もが忙しそうに準備に追われている。

子供やお年寄りまで全員が一緒に飾り付けなどを手伝っている。

年に一度の西の大陸最大の祭典、魔法武道会がいよいよ明日開催されるのだ。

アヴァロンのみならず他国の人々も押し寄せ人々でごった返している。

商人にとっては一年に一番の稼ぎ時、中には一年分を一日で稼いでしまう人もいる位だ。

露店も競うようにあちらこちらに建てられている。

魔法武道会が開催される会場は、アヴァロン王国の端にあるコロッセオと呼ばれるすり鉢型のスタジアムだ。

最大収容人数、三万人ーー 会場は毎年超満員になってしまう。

入場は無料なのでもう既に長蛇の列を作り良い席を求めて並んでいる人々。

アヴァロン王国は今、魔法武道会開催を待ちわびているーー

★  ★  ★


「チョットお、そんなとこ触ったらだめよお」

「イヤん、シーサー様のエッチ」

「ねえ、私とも遊んでよお」

 城内の一室から洩れる卑猥な会話ーー

その扉を乾いたノックの音が響くーー

「ゴホンッ、国王様お伝えしたいことがございます。 宜しいでしょうか」

「駄目です。 お疲れ様でした」

 その言葉に困り果てた顔を浮かべる老人、タキシード姿から執事と思われる。

「明日の魔法武道会の打ち合わせやその後の円卓会議の議題や質疑応答の事前準備、各国に最終的なーー」

「ああーーもう、五月蝿いぞ! 後で行くから去れ」

扉の向こうから怒鳴り散らす声に執事の老人は大きくため息をついた。

執事は、毎度のことだと慣れていた。

シーサーは、会議や話し合いなどそういった事には一切参加しない。

しかし、いざ円卓会議などでは驚くような発言やまわりを納得させ、その場をまとめることができる。

スピーチ能力も堪能で事前に準備していたのかと思うほどだ。

「あっ、そういえば国王様、メイザース様よりアーサー様がまもなくアヴァロンにご到着になられるようです」

 そう言い残すと執事はドアの前を後にした。

「アーサー? 誰だ」

 首を傾げるシーサー。

「どうしちゃったのお? 珍しく難しい顔してシーサーらしくないぞお」

「そうよお、もっと遊んでよお」

 「そうだな! 朝までお前たち付き合えよ」

「イヤーん」



★  ★  ★

「ここがアヴァロン王国ーーーー」

「凄い人なの」

「魔法・・・武道大会? 」

 リサは街の至る所に貼ってある宣伝用のポスターに目をやった。

「アヴァロンは明日から始まる年に一度の祭典、魔法武道会の為に賑わっているのよ」

メーディアも何やら待ち遠しいような顔だ。

「この天才キルケー様には縁のない大会だがな。 何せ最初から円卓の魔導士だからね」

高笑いしのけ反るキルケー、街の人々の視線を一点に浴びている。

恥ずかしそうにする精霊たちとメイザースとメーディア。

「アーサーきゅんが元に戻れて良かったですねえ、精霊ちゃん達」

「優しいアーサーさまなの、大好きなの」

満遍の笑みを見せるエルザ、よほど嬉しいようで顔をずっと崩してアーサーから離れないでいる。

エルザだけでなくリサ、シルフィーもアーサーの服を掴んで離さないでいる。

「キルケー、傷は大丈夫なのか」

「何だかとりあえずみたいな言い方だなあ、見た目通りだよ。天才は傷の癒え方も他の人間とは違うのさ」

 再び高笑いしのけ反るキルケー。

みんな足早にその場を離れたーー

周りは本当にいろんな種族の人々がいる。

獣人族、精霊、妖精、亜人、巨人など様々な種族が入り混じっている。

「リザードマンやウルフマン初めて見た」

アーサーは、マジマジ物珍しそうに見つめている。

「亜人族、巨人族は一部の地域でしか活動をしていないので見た事がない人が居ても不思議じゃないのだよ」

「私もこういう機会でもなければなかなか交流はないぞ」

キルケーも周りをキョロキョロしながら面白そうな事はないかと捜すように歩いている。

「メイザース様、アヴァロン城より通信がきてますよ」

 メーディアの手に円球型の水晶があり何やら映像が映っているように見える。

それを覗きに好奇心旺盛なエルザが食い付いたーー

「凄いの、お爺さんが映ってるの」

水晶に顔を近づけるエルザ。

「ふぉふぉふぉ、これはまた可愛らしいお顔ですね」

水晶の老人が笑顔で微笑みかける。

「うわっ!! ーーしゃべったの」

「エルザちゃん、ダメよ。これは水晶の向こう側の人とおしゃべりする為の道具なのよ」

驚いてメーディアの背後に隠れたエルザ向かって説明すると、メイザースがやって来て水晶を受ける。

「どうも。 アヴァロン城にこのまま向かって宜しいのですか。 例のアーサーきゅんをお連れしたのだよ」

その後、水晶を手にしたメイザースはみんなから少し離れたところで何やら話をすると再び戻って来た。

「どうも円卓会議は魔法武道会後になりそうなのだよ。 せっかくなのだから魔法武道会を観て行こうなのだよ。アヴァロン城に部屋は用意してくれるそうなのだよ」

「シーサーの気紛れだな。 またどうせ女と遊ぶのが忙しいんだよ! 人を呼びつけておいてヤル気のない時は毎回こうだよ」

キルケーは舌打ちをしながら地面の石を蹴った。

「まあまあ、キルケーちゃん。 いつもの事じゃないか。 それよりもアーサーきゅんや精霊ちゃん達にコロッセオやアヴァロン城を案内してあげようじゃない」

メイザースは、捻くれるキルケーを宥めなだめながらみんなに呼びかけた。

「そうよキルケー。せっかくの機会なんだから楽しみましょうよ」

キルケーの背中をポンと優しく叩くメーディア。

「魔法武道会楽しみだね! アーサー様」

どんな催しなのかとはしゃぐリサ。

「そうだね。 楽しみだね」

アーサーは、もう直ぐそこに顔も覚えていない自分の父親がいることの方が気になっていたーー

会って何を話そうとか、どんな顔をすればいいのかなど悩んでいた。


一同は、コロッセオへと歩き出したーー


ーー 魔法武道会開催まで後一日 ーー
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

処理中です...