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2章
2話
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「ここが、みゆう様のお部屋です」
石丸が案内したのは、扉を出てすぐにある1階のお部屋です。
石丸に促されて、みゆうちゃんが木札を穴に差し込むと、遠くの方からかちゃん…と音がしました。鍵が開いたようです。
からからから…優しい音をたててゆっくりと石丸が引き戸を引くと、真っ先にぱっと明るい壁紙が目に入ります。
思わずみゆうちゃんは「わあ!」と歓声をあげました。
「おにいさん、みゆうがみどりいろがすきなこと、しってたの?」
「ええ、もちろん。存じ上げておりますとも」
「すごーい!かべが、ぜ~んぶみどりいろ!」
ぱたぱたと可愛らしい足音をたてて玄関に駆け込んだものの、部屋にあがっていいものかと躊躇する可愛いお客様に、石丸はこくりと頷いて見せました。
みゆうちゃんはパアっと顔を輝かせて、いそいそとピンクの兎さんの絵が付いた靴を脱ぎ、それをちゃあんと揃えてから、お部屋に駆けていきました。
石丸も、からからと戸を閉めて彼女の後を追いかけます。
「こちらは新緑の間になります」
丸っこいフォルムの机に抱きついて顔をほころばせていたみゆうちゃんは、石丸が部屋の入り口からそう声をかけると、くりくりした目を石丸に向けました。
「しんりょくのま?」
「お部屋の名前です」
「わ~!かっこいい!でもおへやはかわいいね」
「気に入っていただけたようで何よりです」
新緑の間は、四面すべて夏のイチョウの葉々を彷彿とさせる淡い緑の壁紙で覆われています。
机、タンス、電話台、すべてが角の丸い可愛らしいフォルムで統一されていて、少しカラフルさは足りないような気もしますがまるで子供部屋のようです。
もちろん、窓からは新緑に色づいた大きなイチョウの木を見ることができます。残念ながらみゆうちゃんはあまり興味がないようですが。
「みゆう様」
「なあに」
「そこの襖を開けてみてください」
「ふすま?これ?」
「はい、それでございます」
「あけるの?」
「はい」
壁と同じ色の大きな襖。みゆうちゃんはちょいと背伸びをして、「よいしょ、よいしょ」とそれをあけました。
「……わあっ!!!」
そこに、ずらりと並んでいたのは大中小様々なぬいぐるみたち。
ウサギもいればクマもいて、何かはよく分からない軟体動物のようなものだっています。
所狭しと奥にも手前にも並ぶそのぬいぐるみたちにみゆうちゃんは嬉しそうに手を伸ばしました。
石丸に貰った踏み台を使って押し入れに乗り上げ、あれもこれも、と小さな腕に抱え込んでいきます。
「喜んでいただけましたか?」
「うん!!みゆう、よろこんでるよ!」
ぽろり、ぽろりと何体かぬいぐるみを落としながら、満面の笑みのみゆうちゃんが押し入れから顔を出します。
石丸は何も言わずかっくりと頷きました。
しばらくして。
「あっ!」
押し入れに籠っていたみゆうちゃんが高い声をあげました。
入り口のところで石のようにピシッと経ったままだった石丸は、カクカクと歩いて押し入れを覗き込みます。
「どうかなさいましたか」
みゆうちゃんは、ぬいぐるみの山に両手をつっこんでなにやら探しているようです。
「ここになら、ルルちゃんみたいなこ、いるかなあ」
「ルルちゃん?」
みゆうちゃんがツインテールを揺らしてパッと顔をあげます。
「ルルちゃんはね、みゆうのおともだちなんだけど、ピンクのクマさんなの」
「ぬいぐるみですか」
「そうよ!おにいさんすごいね!」
「ありがとうございます」
「でね、ルルちゃんはみゆうのおともだちだけど、ぱぱのおともだちでもあるのよ。いつもよるにね、ルルちゃんにむかっておはなししてるし、ごはんのときはルルちゃんのせきもつくってくれるの」
「ぬいぐるみの席まで準備するのですね」
「そう!すぷーんをおいてね、こっぷをおいてね、ルルちゃんをいすにすわらせるの」
ほら、こんなふうに!と言ってみゆうちゃんはホテルに入ってきたときから抱えていたすすけたクマのぬいぐるみを、押し入れの中板の端に座らせました。
そうしてその子の頭を優しく撫でます。
「このこ、ルルちゃんそっくりなのよ。いろはぜ~んぜんちがうけど」
「ルルちゃん様はどこに行ってしまわれたのですか」
「わかんないの。でもね、ルルちゃんがいなくなっちゃったから、ぱぱがさみしくって、まいにちないてるの」
「なるほど」
「だからわたしは、ぱぱのためにルルちゃんをさがしにきたのよ!!ぱぱのためにね!」
途端にみゆうちゃんは使命感に満ちた顔つきになって、押し入れの2段目からクマを抱えてぴょんと飛び降りました。
「おにいさんなら、ルルちゃんさがしてくれる?」
石丸が案内したのは、扉を出てすぐにある1階のお部屋です。
石丸に促されて、みゆうちゃんが木札を穴に差し込むと、遠くの方からかちゃん…と音がしました。鍵が開いたようです。
からからから…優しい音をたててゆっくりと石丸が引き戸を引くと、真っ先にぱっと明るい壁紙が目に入ります。
思わずみゆうちゃんは「わあ!」と歓声をあげました。
「おにいさん、みゆうがみどりいろがすきなこと、しってたの?」
「ええ、もちろん。存じ上げておりますとも」
「すごーい!かべが、ぜ~んぶみどりいろ!」
ぱたぱたと可愛らしい足音をたてて玄関に駆け込んだものの、部屋にあがっていいものかと躊躇する可愛いお客様に、石丸はこくりと頷いて見せました。
みゆうちゃんはパアっと顔を輝かせて、いそいそとピンクの兎さんの絵が付いた靴を脱ぎ、それをちゃあんと揃えてから、お部屋に駆けていきました。
石丸も、からからと戸を閉めて彼女の後を追いかけます。
「こちらは新緑の間になります」
丸っこいフォルムの机に抱きついて顔をほころばせていたみゆうちゃんは、石丸が部屋の入り口からそう声をかけると、くりくりした目を石丸に向けました。
「しんりょくのま?」
「お部屋の名前です」
「わ~!かっこいい!でもおへやはかわいいね」
「気に入っていただけたようで何よりです」
新緑の間は、四面すべて夏のイチョウの葉々を彷彿とさせる淡い緑の壁紙で覆われています。
机、タンス、電話台、すべてが角の丸い可愛らしいフォルムで統一されていて、少しカラフルさは足りないような気もしますがまるで子供部屋のようです。
もちろん、窓からは新緑に色づいた大きなイチョウの木を見ることができます。残念ながらみゆうちゃんはあまり興味がないようですが。
「みゆう様」
「なあに」
「そこの襖を開けてみてください」
「ふすま?これ?」
「はい、それでございます」
「あけるの?」
「はい」
壁と同じ色の大きな襖。みゆうちゃんはちょいと背伸びをして、「よいしょ、よいしょ」とそれをあけました。
「……わあっ!!!」
そこに、ずらりと並んでいたのは大中小様々なぬいぐるみたち。
ウサギもいればクマもいて、何かはよく分からない軟体動物のようなものだっています。
所狭しと奥にも手前にも並ぶそのぬいぐるみたちにみゆうちゃんは嬉しそうに手を伸ばしました。
石丸に貰った踏み台を使って押し入れに乗り上げ、あれもこれも、と小さな腕に抱え込んでいきます。
「喜んでいただけましたか?」
「うん!!みゆう、よろこんでるよ!」
ぽろり、ぽろりと何体かぬいぐるみを落としながら、満面の笑みのみゆうちゃんが押し入れから顔を出します。
石丸は何も言わずかっくりと頷きました。
しばらくして。
「あっ!」
押し入れに籠っていたみゆうちゃんが高い声をあげました。
入り口のところで石のようにピシッと経ったままだった石丸は、カクカクと歩いて押し入れを覗き込みます。
「どうかなさいましたか」
みゆうちゃんは、ぬいぐるみの山に両手をつっこんでなにやら探しているようです。
「ここになら、ルルちゃんみたいなこ、いるかなあ」
「ルルちゃん?」
みゆうちゃんがツインテールを揺らしてパッと顔をあげます。
「ルルちゃんはね、みゆうのおともだちなんだけど、ピンクのクマさんなの」
「ぬいぐるみですか」
「そうよ!おにいさんすごいね!」
「ありがとうございます」
「でね、ルルちゃんはみゆうのおともだちだけど、ぱぱのおともだちでもあるのよ。いつもよるにね、ルルちゃんにむかっておはなししてるし、ごはんのときはルルちゃんのせきもつくってくれるの」
「ぬいぐるみの席まで準備するのですね」
「そう!すぷーんをおいてね、こっぷをおいてね、ルルちゃんをいすにすわらせるの」
ほら、こんなふうに!と言ってみゆうちゃんはホテルに入ってきたときから抱えていたすすけたクマのぬいぐるみを、押し入れの中板の端に座らせました。
そうしてその子の頭を優しく撫でます。
「このこ、ルルちゃんそっくりなのよ。いろはぜ~んぜんちがうけど」
「ルルちゃん様はどこに行ってしまわれたのですか」
「わかんないの。でもね、ルルちゃんがいなくなっちゃったから、ぱぱがさみしくって、まいにちないてるの」
「なるほど」
「だからわたしは、ぱぱのためにルルちゃんをさがしにきたのよ!!ぱぱのためにね!」
途端にみゆうちゃんは使命感に満ちた顔つきになって、押し入れの2段目からクマを抱えてぴょんと飛び降りました。
「おにいさんなら、ルルちゃんさがしてくれる?」
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