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28話
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ラディオスと別れたルークスは、プレゼントしてもらったペンを右手にぎゅっと握りしめて家路についた。カバンにしまってしまうのがどこか惜しいような気がしたのだ。
「ただいま帰りました」
「おかえりなさい」
「うわ!?びっくりした!」
いつものように誰もいないと思い込んで玄関で帰宅を告げると、思いがけず返事があったのでルークスは飛び跳ねる勢いで驚く。
「ルア?ずっとそこにいたのか?」
「いえ。そろそろお帰りになるかと思って」
ルアはいつもルークスが自室に戻るとしばらくして部屋にやってくる。出迎えの習慣がないこの家で玄関まで迎えに来るなんて稀だ。
ルアなりに心配してくれていたのだろうか。
ルークスは少しくすぐったい気持ちになった。
「もう夏も終わりになりましたから・・・寒くなかったですか?」
「大丈夫。ルアこそこのままここにいたら寒いだろ。部屋に行こう?」
「はい。・・・何を持ってるんです?」
「これか?・・・ふふ、大事なモノ」
幸せそうに頬を染めて微笑む。
手元のペンに目線を落としていたルークスは、その表情を見て愕然としたような顔をしたルアに気付かなかった。
「話したいことがいっぱいあるんだ。・・・聞いてくれる?ルア」
「もちろんです・・・ルークス様」
その夜。眠り込んでいたルークスはふと肌寒さに目を覚ました。
覚醒しきらないまま、ぼおっと天井を見つめていると、不思議と左手だけがぼんやり温かい事に気がつく。
半ば無意識にそちらに視線をやって、ルークスは目を見開いた。
そこには、床に膝をつきルークスの手を握りしめるルアがいた。
両手で包み込んだルークスの左手を祈りを捧げるように己の額にあてて目をつぶっている。
「ルア・・・」
動揺と寝起きのせいで掠れた声が出る。
ルアは、スローモーションのようにゆっくりと顔を上げた。
暗闇で僅かな光を反射して、その瞳の一部だけが妖しく光る。
ルークスは場違いにも思い出すのだ。ああ、この男は魔物なのだと。
「・・・ルークス。起こしてしまいましたか」
「ううん、大丈夫。・・・それより、どうした?」
身体を起こそうとするが、ルアに首を振って止められた。左手はいまだ握られたままだ。
ルークスは暗闇でルアの顔がよく見えないことがなんだか不安で、ぎゅっとその手を握り返した。
ぴくりと身体を跳ねさせたルアが、静かに口を開く。
「・・・勝手に手を借りて申し訳ありません」
「ううん、いいよ。ルアにならどうされたっていいんだ」
「・・・ッ」
「それより具合が悪いのか?いったいどうしたんだ」
「・・・願っていたのです」
「願って?」
オウム返しするルークスの言葉にこくりと頷く。
「俺だけのルークスでありますようにと」
「ルアだけの・・・?」
「あなたは俺だけのもので、俺はあなただけのもの・・・ルークスの全てを他の誰にも見せず、俺の全てを完全にルークスのものにして欲しい」
「、それは」
「愛しているのです、ルークス」
「ッ!!」
するりと握った手が解かれる。
立ち上がったルアは、硬直したルークスの頬にそっと指を滑らせた。
「応えなくていい、愛を返さなくていい。あなたの傍に居られるだけで幸せだ。それは確かです。けれど、大きくなりすぎた愛情が膨らみすぎた欲望が暴れ回って、苦しくて苦しくてたまらない」
「12年間焦がれてきました。ルークスの幸せを願ってきました。ずっとお傍にいたいのです。
それなのにあなたは俺から離れようとする。他の男の元に行こうとする。
いっそ閉じ込めてしまえば、傍にいてくれますか」
温かい雫が頬を伝い、ルークスはハッとした。
ルアが、泣いている。
その目からぽろり、ぽろりと雫をこぼし、静かに静かに泣いている。
「どうして?どうして?どうして俺から逃げる?俺と一緒にいてくれない?」
「ル、ア・・・」
「俺以外に笑いかけないで。話さないで。触らないで。俺以外のヒーローにならないで。そんな風に縛ってしまいたい。でも縛りたくない。
愛を返してもらわなくていい。でも俺以外を愛して欲しくない」
ルアの白髪がさらりと落ちて、ルークスと外界を隔てるようにその顔を囲う。
「こんな醜い俺ではルークスの傍にいられない」
はらはらと泣きながら零された言葉に、思わずルークスはルアの腕を強く握る。
うまく動かない口を無理やり開けて、絞り出すようにさけんだ。
「ぼ、くはルアの傍にいたい!いなくならないで!!」
「ルークス・・・」
ルアの顔が近付いてくる。
ルークスは反射的に目をつぶった。
「・・・ごめん」
唇に柔らかなものが触れて、何か温かいものが流れ込んでくる。
ルークスはそのまま意識を失った。
「ただいま帰りました」
「おかえりなさい」
「うわ!?びっくりした!」
いつものように誰もいないと思い込んで玄関で帰宅を告げると、思いがけず返事があったのでルークスは飛び跳ねる勢いで驚く。
「ルア?ずっとそこにいたのか?」
「いえ。そろそろお帰りになるかと思って」
ルアはいつもルークスが自室に戻るとしばらくして部屋にやってくる。出迎えの習慣がないこの家で玄関まで迎えに来るなんて稀だ。
ルアなりに心配してくれていたのだろうか。
ルークスは少しくすぐったい気持ちになった。
「もう夏も終わりになりましたから・・・寒くなかったですか?」
「大丈夫。ルアこそこのままここにいたら寒いだろ。部屋に行こう?」
「はい。・・・何を持ってるんです?」
「これか?・・・ふふ、大事なモノ」
幸せそうに頬を染めて微笑む。
手元のペンに目線を落としていたルークスは、その表情を見て愕然としたような顔をしたルアに気付かなかった。
「話したいことがいっぱいあるんだ。・・・聞いてくれる?ルア」
「もちろんです・・・ルークス様」
その夜。眠り込んでいたルークスはふと肌寒さに目を覚ました。
覚醒しきらないまま、ぼおっと天井を見つめていると、不思議と左手だけがぼんやり温かい事に気がつく。
半ば無意識にそちらに視線をやって、ルークスは目を見開いた。
そこには、床に膝をつきルークスの手を握りしめるルアがいた。
両手で包み込んだルークスの左手を祈りを捧げるように己の額にあてて目をつぶっている。
「ルア・・・」
動揺と寝起きのせいで掠れた声が出る。
ルアは、スローモーションのようにゆっくりと顔を上げた。
暗闇で僅かな光を反射して、その瞳の一部だけが妖しく光る。
ルークスは場違いにも思い出すのだ。ああ、この男は魔物なのだと。
「・・・ルークス。起こしてしまいましたか」
「ううん、大丈夫。・・・それより、どうした?」
身体を起こそうとするが、ルアに首を振って止められた。左手はいまだ握られたままだ。
ルークスは暗闇でルアの顔がよく見えないことがなんだか不安で、ぎゅっとその手を握り返した。
ぴくりと身体を跳ねさせたルアが、静かに口を開く。
「・・・勝手に手を借りて申し訳ありません」
「ううん、いいよ。ルアにならどうされたっていいんだ」
「・・・ッ」
「それより具合が悪いのか?いったいどうしたんだ」
「・・・願っていたのです」
「願って?」
オウム返しするルークスの言葉にこくりと頷く。
「俺だけのルークスでありますようにと」
「ルアだけの・・・?」
「あなたは俺だけのもので、俺はあなただけのもの・・・ルークスの全てを他の誰にも見せず、俺の全てを完全にルークスのものにして欲しい」
「、それは」
「愛しているのです、ルークス」
「ッ!!」
するりと握った手が解かれる。
立ち上がったルアは、硬直したルークスの頬にそっと指を滑らせた。
「応えなくていい、愛を返さなくていい。あなたの傍に居られるだけで幸せだ。それは確かです。けれど、大きくなりすぎた愛情が膨らみすぎた欲望が暴れ回って、苦しくて苦しくてたまらない」
「12年間焦がれてきました。ルークスの幸せを願ってきました。ずっとお傍にいたいのです。
それなのにあなたは俺から離れようとする。他の男の元に行こうとする。
いっそ閉じ込めてしまえば、傍にいてくれますか」
温かい雫が頬を伝い、ルークスはハッとした。
ルアが、泣いている。
その目からぽろり、ぽろりと雫をこぼし、静かに静かに泣いている。
「どうして?どうして?どうして俺から逃げる?俺と一緒にいてくれない?」
「ル、ア・・・」
「俺以外に笑いかけないで。話さないで。触らないで。俺以外のヒーローにならないで。そんな風に縛ってしまいたい。でも縛りたくない。
愛を返してもらわなくていい。でも俺以外を愛して欲しくない」
ルアの白髪がさらりと落ちて、ルークスと外界を隔てるようにその顔を囲う。
「こんな醜い俺ではルークスの傍にいられない」
はらはらと泣きながら零された言葉に、思わずルークスはルアの腕を強く握る。
うまく動かない口を無理やり開けて、絞り出すようにさけんだ。
「ぼ、くはルアの傍にいたい!いなくならないで!!」
「ルークス・・・」
ルアの顔が近付いてくる。
ルークスは反射的に目をつぶった。
「・・・ごめん」
唇に柔らかなものが触れて、何か温かいものが流れ込んでくる。
ルークスはそのまま意識を失った。
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