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18話
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「え、ルア?なんでここに?着いてきたのか?いやでもいまここに白い…」
『やっぱりお前だったのか、ルア』
「え!?知り合いなのか!?ネブラ!?」
白い魔物はルアで、ルアが白い魔物で、ネブラがルアを知ってて、ルアがネブラで…???
ルークスの頭は今にも煙を吐いて故障しそうだった。
ルアが魔物?そんなこと『前』でも聞いたことがない。
「大丈夫ですか…?ルークス様。こんなものと一緒にいたから嫌な影響を受けてしまったのでしょうか…」
『そのタイミングでこっちを見るのは一体どういう意味だ?オイ』
眉尻を下げて心配そうにルークスの顔を覗き込むルア。
それはいたっていつも通りの彼で、ルークスはますます混乱する。
ごくりと唾をのんで恐るおそるといった様子で口を開いた。
「その…ルアは魔物、だったのか?」
「はい」
「ネブラとも知り合い?なのか?」
「いえ、知りません。このようなもの」
『オイ!テメエ!!』
ネブラがふわふわと浮いたままルアの後ろ髪を引っ張るが、本人は素知らぬふりだ。
ルークスはその珍妙な光景を呆気に取られて見つめるばかりだった。
「……ルークス様」
「え?あ、なに?ルア」
「お嫌でしたか?俺が魔物であるということ」
ルアは静かに地に膝をつき、じっと真顔でルークスを見上げた。
ネブラも髪を引くのをやめて、静かに2人を見守っている。
ルークスはしばらくぱちぱちとまばたきを繰り返していたが、やがてくすぐったそうに笑って、ルアと視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「嫌なわけないだろ。びっくりしただけさ。どんなルアも僕が大好きなルアだよ」
そう言ってルアの頭をぎゅっと抱きしめる。
ルアはあっけに取られてたような顔をしてされるがままになっていたが、トクトクトク…と規則的にリズムをとるルークスの鼓動を聞いて、ふと力を抜いた。そうしてルークスの顔を見上げると、ほっとしたような顔で柔らかく笑ったのだ。
ルークスはそれを見てまた恥ずかしげに笑っていたが、ふと首を傾げた。
「そう言えば屋敷の皆にもルアはきちんと見えてたよな?」
「はい。気合で可能です」
『気合でそんな桁外れの芸当出来てたまるか』
ケッ、と今まで黙っていたネブラが吐き捨てる。
驚いたルークスは彼に向き直った。
それにルアが不満そうな顔をしてルークスを抱えなおす。
「そうなの?」
『そうさ。普通俺達が見えない人間相手に見えるようにするには膨大な力が必要なのサ。大体の奴には一瞬でも不可能だ』
「それは…魔力、ってやつ?」
「そうですね。感覚的でよく分かりませんがこれが魔力と呼ばれるものなのかもしれません」
「じゃあ、ルアはいつも膨大な力を使ってるってことで…。いつも疲れてたってこと!?」
ルークスは悲鳴のような声で叫んだ。
ルアにそんな思いをさせているなんて知りもしなかった。やはり自分は最低最悪の主だと半泣きでルアを見つめた。
「ぶふっ」
「おい!なんで笑う!?」
「いえ、すいません。ふふ、俺を心配してくれるルークス様が可愛らしくて、つい。俺はもうすっかり慣れてしまったのでいちいちへとへとになったりしませんよ」
『こいつの場合は力が無尽蔵に近いしな』
横からネブラが茶々を入れる。
手を頭の後ろで組んで、ふわふわと浮きながら遠くを見るようにして話しだした。
『この森で白なんて珍しい毛皮を持つのはこいつだけでさ。珍しくてちょっかいを出す奴も多かったらしいんだが…。ある日突然修行に打ち込み始めてな。めきめきと力をつけていってよ。俺はこの頃に知り合ったのサ』
「へえ!」
「ルークス、そんな奴の話に耳など傾けなくていいんですよ」
『オイ。…面白いように強くなっていくこいつの側にいるのは楽しかったんだが、数年前にパッと姿を消しちまったんだ。どこかでおっ死んだと思ってたんだが…』
ネブラはちら、とルアに視線をよこす。
ルアはプイと顔を逸らした。答える気はない、という意思表示のようだ。
だがネブラの話を聞いて考え込んでいたルークスがハッと叫んだ。
「数年前って屋敷に来たときか!」
『屋敷ィ?』
「4年前、僕の屋敷に乗り込んできたんだ。それで僕の従者になってくれて…」
『従者!?そんなンやってんのか!?…ん?まてよ、従者?』
ネブラは震える指でルアを指さした。
そしてルークスに言うのだ。
『もしかしてコイツが、かっこよくて、優しくて、お前が好きだっていう従者…?』
「ちょっ!!おおい!!おまっ!」
『ありえねえ…。お前騙されてるよ…』
とんでもない暴露をされてしまったルークスは慌てて不届きものの口を塞ごうと手を伸ばすが、宙を浮かぶネブラには届かない。
ネブラは芝居がかった仕草で額に手をあて、大げさに嘆く。
『だって俺が知ってるコイツは、冷酷、む』
「もう黙れ」
『んー!!!!!』
ルアが一言低く発すると、ネブラの口元が淡く光った。すると彼のおしゃべりはぱったりと止み、んーんー!と口をつぐんだままボコスカルアの肩を叩いている。
「な、なに?」
「軽い口封じの術です。軽いのですぐ解けます」
『んん~!!!』
「そろそろ帰りましょう。明日が辛くなりますよ」
「う、うん」
先ほどのネブラの暴露は聞こえていなかったようだとルークスは内心ほっとする。どれもこれも事実だが、今回は本人に伝える気はないのだから。
まだ術が解けないらしいネブラを無視して帰ろうか、とふとルークスは大岩の方に目を向けた。
「あ!!!」
「え?」
『ン?』
「洞窟の中!子供が残ってるかもしれない!それにオルテンシアも!」
ハッとネブラも目を見開く。
3人は慌てて洞窟への方へと駆けだした。
『やっぱりお前だったのか、ルア』
「え!?知り合いなのか!?ネブラ!?」
白い魔物はルアで、ルアが白い魔物で、ネブラがルアを知ってて、ルアがネブラで…???
ルークスの頭は今にも煙を吐いて故障しそうだった。
ルアが魔物?そんなこと『前』でも聞いたことがない。
「大丈夫ですか…?ルークス様。こんなものと一緒にいたから嫌な影響を受けてしまったのでしょうか…」
『そのタイミングでこっちを見るのは一体どういう意味だ?オイ』
眉尻を下げて心配そうにルークスの顔を覗き込むルア。
それはいたっていつも通りの彼で、ルークスはますます混乱する。
ごくりと唾をのんで恐るおそるといった様子で口を開いた。
「その…ルアは魔物、だったのか?」
「はい」
「ネブラとも知り合い?なのか?」
「いえ、知りません。このようなもの」
『オイ!テメエ!!』
ネブラがふわふわと浮いたままルアの後ろ髪を引っ張るが、本人は素知らぬふりだ。
ルークスはその珍妙な光景を呆気に取られて見つめるばかりだった。
「……ルークス様」
「え?あ、なに?ルア」
「お嫌でしたか?俺が魔物であるということ」
ルアは静かに地に膝をつき、じっと真顔でルークスを見上げた。
ネブラも髪を引くのをやめて、静かに2人を見守っている。
ルークスはしばらくぱちぱちとまばたきを繰り返していたが、やがてくすぐったそうに笑って、ルアと視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「嫌なわけないだろ。びっくりしただけさ。どんなルアも僕が大好きなルアだよ」
そう言ってルアの頭をぎゅっと抱きしめる。
ルアはあっけに取られてたような顔をしてされるがままになっていたが、トクトクトク…と規則的にリズムをとるルークスの鼓動を聞いて、ふと力を抜いた。そうしてルークスの顔を見上げると、ほっとしたような顔で柔らかく笑ったのだ。
ルークスはそれを見てまた恥ずかしげに笑っていたが、ふと首を傾げた。
「そう言えば屋敷の皆にもルアはきちんと見えてたよな?」
「はい。気合で可能です」
『気合でそんな桁外れの芸当出来てたまるか』
ケッ、と今まで黙っていたネブラが吐き捨てる。
驚いたルークスは彼に向き直った。
それにルアが不満そうな顔をしてルークスを抱えなおす。
「そうなの?」
『そうさ。普通俺達が見えない人間相手に見えるようにするには膨大な力が必要なのサ。大体の奴には一瞬でも不可能だ』
「それは…魔力、ってやつ?」
「そうですね。感覚的でよく分かりませんがこれが魔力と呼ばれるものなのかもしれません」
「じゃあ、ルアはいつも膨大な力を使ってるってことで…。いつも疲れてたってこと!?」
ルークスは悲鳴のような声で叫んだ。
ルアにそんな思いをさせているなんて知りもしなかった。やはり自分は最低最悪の主だと半泣きでルアを見つめた。
「ぶふっ」
「おい!なんで笑う!?」
「いえ、すいません。ふふ、俺を心配してくれるルークス様が可愛らしくて、つい。俺はもうすっかり慣れてしまったのでいちいちへとへとになったりしませんよ」
『こいつの場合は力が無尽蔵に近いしな』
横からネブラが茶々を入れる。
手を頭の後ろで組んで、ふわふわと浮きながら遠くを見るようにして話しだした。
『この森で白なんて珍しい毛皮を持つのはこいつだけでさ。珍しくてちょっかいを出す奴も多かったらしいんだが…。ある日突然修行に打ち込み始めてな。めきめきと力をつけていってよ。俺はこの頃に知り合ったのサ』
「へえ!」
「ルークス、そんな奴の話に耳など傾けなくていいんですよ」
『オイ。…面白いように強くなっていくこいつの側にいるのは楽しかったんだが、数年前にパッと姿を消しちまったんだ。どこかでおっ死んだと思ってたんだが…』
ネブラはちら、とルアに視線をよこす。
ルアはプイと顔を逸らした。答える気はない、という意思表示のようだ。
だがネブラの話を聞いて考え込んでいたルークスがハッと叫んだ。
「数年前って屋敷に来たときか!」
『屋敷ィ?』
「4年前、僕の屋敷に乗り込んできたんだ。それで僕の従者になってくれて…」
『従者!?そんなンやってんのか!?…ん?まてよ、従者?』
ネブラは震える指でルアを指さした。
そしてルークスに言うのだ。
『もしかしてコイツが、かっこよくて、優しくて、お前が好きだっていう従者…?』
「ちょっ!!おおい!!おまっ!」
『ありえねえ…。お前騙されてるよ…』
とんでもない暴露をされてしまったルークスは慌てて不届きものの口を塞ごうと手を伸ばすが、宙を浮かぶネブラには届かない。
ネブラは芝居がかった仕草で額に手をあて、大げさに嘆く。
『だって俺が知ってるコイツは、冷酷、む』
「もう黙れ」
『んー!!!!!』
ルアが一言低く発すると、ネブラの口元が淡く光った。すると彼のおしゃべりはぱったりと止み、んーんー!と口をつぐんだままボコスカルアの肩を叩いている。
「な、なに?」
「軽い口封じの術です。軽いのですぐ解けます」
『んん~!!!』
「そろそろ帰りましょう。明日が辛くなりますよ」
「う、うん」
先ほどのネブラの暴露は聞こえていなかったようだとルークスは内心ほっとする。どれもこれも事実だが、今回は本人に伝える気はないのだから。
まだ術が解けないらしいネブラを無視して帰ろうか、とふとルークスは大岩の方に目を向けた。
「あ!!!」
「え?」
『ン?』
「洞窟の中!子供が残ってるかもしれない!それにオルテンシアも!」
ハッとネブラも目を見開く。
3人は慌てて洞窟への方へと駆けだした。
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